明るい光のさす方へ

長編でーす

一筋の光がお前の行く道を示すように

「死んでしまったお魚の目をしてた」
いつも光はいう。
私は今日も光に聞く。
「誰が?」
私はもう、なれてしまったので持参のお弁当を食べながら光の話を聞いていた。
このやり取りは一体何度目だろう。
光の話は毎回同じだった、
死んでしまったお姉さんの話だ。
普段、無口な光はこの話をするときだけ自分から話始める。
「お姉ちゃん。私、お姉ちゃんと年が15歳も離れてて何も分からなかったから。
まだ子供だった。子供って残酷よね。私、言ってしまったの。
『お姉ちゃんの目、死んだお魚の目みたいな目だね』って
お姉ちゃんの目は生気が無くてどんよりしていたの]
光は、泣く。
「私が殺したのかも知れない。
私がお姉ちゃんを傷つけて追い込んだのかも知れない」
泣きじゃくる。
「お姉ちゃん、下を向いて笑ってた。寂しそうに。私には分かるの。
お姉ちゃんが傷つくことを言ったって。
だめな事を言ってしまったって分かったの!」
「光、それは違うよ。自殺だった…って身内は辛いわよね、
それは良く分かる。でも、光は何歳だったの?9歳?10歳?
そんな年で責任背負ったらだめだよ」
「でも、お姉ちゃん、死んじゃった。
そのあとすぐ次の日にお父さんまで自殺で死んでしまったから、
私『生き残り』『不吉な子』になっちゃった」
「ひとり生き残った『不吉な子?』」
「そう。お母さんは私を生んですぐに死んだって聞いてるし、
私が一人生き残ってるのは本当だから」
ずっと、この言葉に囚われている。
光は家族の亡霊とともに今も生きている。
酔うとこの話をしながら泣く、私の親友、光。
「もーう、すぐ泣く!光は。仕方ないわねえ」
ハンカチで涙を拭いてあげる。
まだ、子供みたいだ、可愛い妹のような存在の光。
天涯孤独な光。
今では重いものを背負っている光に対してどう接するのが一番いいか、
考えるのが私の日課のようになってしまった。
保護者のように。
「なんでこんな風になってしまったのだろう。まるで、呪われた家みたい」
最後は涙になる。
「知りたいの」
光が言った。
「お姉ちゃんが死んじゃった原因を。
晴香だったら、知りたいと思わない?
誰がお姉ちゃんを追い詰めたのか?
私、きっと、真実を知ってみせるわ…どんなことをしても」
「光さあ、無理せずにゆっくり行こうよ」
「覚えているのは、私を育ててくれたのがお父さんじゃなくて、
お姉ちゃんだったこと。
私はずっとお姉ちゃんと一緒だった」
光が言った。
「晴香、絶望で人は死ぬって知ってた?」
「知らなかったけど…そうかもね」
「お姉ちゃんが死んだとき、叔母さんが言ったの。
「『光ちゃん、絶望で人って死ぬからね』
って。だから、言葉には気を付けなさいって。
その言葉の意味、今なら分かる気がするの」
私は時間が気になって時計に目をやった。
腕時計は11:45をさしている。
「こんな時間だわ、大変大変、仕事にもどらないと」
私たち二人はOLの顔に戻り、
急いで午後からの仕事の準備を始めなくてはならなかった。

私は光の紹介で光の従兄弟の都希とつきあっていた。
10歳で保護者の父と姉を一度になくした光は、
都希のご両親に育ててもらったという。
従兄弟同士の二人はとても仲がよく、
時々、私が妬いてしまうほどだった。
「光ちゃんは繊細だからよろしく頼むよ!晴香!」
二人は大人になった今でも、お互い、
『光ちゃん』『都希くん』と呼び合っている。
微笑ましい間柄だ。
「私だってそれなりに、繊細なんですけど。忘れてない?」
軽く、都希を睨む。
私も都希も、いつもいつも、光、光だ。
光が最優先だった。
淡く儚げな光と、肝っ玉かあちゃんキャラの私。
「ナイスコンビ」
と、都希に言われる。
私たちもお互い「いい相方」だと思っていた。

「晴香、光ちゃんに最近、何か言われたか?」
その日、私たちは会社帰りに待ち合わせして、
おいしいと評判のラーメンを食べに行っていた。
光抜きでのデートは3カ月ぶりだった。
私は大好物のこってりチャーシューを食べながら、
「え?なにを言われたの?」
と聞いた。
「瞳さんについて、光のお姉さんについて過去を調べることだよ」
「まだ、言われてないわ。都希、手伝うの?」
「そこは、迷ってる」
ラーメンをすすりながら都希は言った。
「瞳さんを自殺にまで追い込んだのはなんだったか。うちの親は多分知ってる。
でも、絶対に口は割らない」
「親類も?」
「そう。」
「『口割らない』からなあ。変のところで硬いのね」
「硬いって言うか『来栖一族の恥さらし』だと誰かが言ってた記憶がある。
俺もあんまり瞳姉さんの記憶ないからなあ。
俺、子供だったし、15歳も離れてるし、年に1回会うか会わないかで」
ラーメンのスープを一滴残らず飲んだ後、都希はため息をついた。
「俺さあ、知らない方が幸せってこと…あると思うんだけど。晴香はどう思う?」
「まったくの同感」
同じことを今思っている。
「瞳さんの事…深く、
『知らない方が幸せ』」
何とかしてこの言葉を光に言いたかった。
理解して欲しかった。
でも、光のあの『異様な熱意』の前では言えないでいた。
「ただ、光ちゃんのお父さんが死んだときのことは覚えてる」
都希は最近、ぼんやりとだが記憶が戻りつつあるという。
「お父さん? 自殺した?」
「晴香も知ってると思うけど、瞳さんが死んだ翌日、
正式には数時間後、お父さんが死んだんだよ。
だから、葬式も一緒にやったんだけど。
葬式さ、お父さんのためには誰も泣いてなかった。
うち、親戚多いんだ。だから子供の頃から親戚の葬式にはよく行ってたけど。
…誰も彼もが無表情というか、無関係と言うか、面倒くさそうな顔してるっていうか、
もっと言うと光ちゃんのお父さんが死んだことを喜んでるように見えたよ、
あんな葬式は初めてだった」
「そんなことがあったの」
「瞳さんの為にだけ皆、泣いて手を合わせていたよ。あの差はすごい違和感だった。
俺は、怖くて怖くて早く帰りたかったんだ」
「そうなの」
「それくらいの記憶しかない。ごめんな」
「仕方ないわよ。子供のときの記憶って曖昧よね。」
「晴香。これから、光ちゃんを呼び出して、3人で呑まないか?明日は休みだし、
まだ6時だ、帰りはタクシーで送るし、まだまだいけるだろ?」
「そうね、連絡してみるわ」
私は鞄からスマートフォンを取り出し光に連絡をしようとした。
メールが来ていた、光からだ。
「こんばんは。光です。都希にも頼んだんだけど晴香も、
お姉ちゃんのこと調べるの手伝ってくれないかな?」
光からメッセージが来ていて、
「とりあえず相談に乗るわ。
ちょうど今、都希と一緒にいるから、これから呑もうよ。でてきなよ」
と返事を返した。
「こんな返信でよかったのかしら?」
と、都希に画面を見せる。
「いいと思うよ」
「それにしても、甘えたよね、光って」
「そして俺たちは、なんでこうも光には甘いんだ?」
「わからない」
二人でため息をついた。
そう、私たちは『NOと言えない日本人』だった。
光はそれから30分ほどでやってきた。
「晴香、都希くん、お待たせ」
緑色のオーラを引き連れて、
一人ふわふわした感じでいつも光は歩いている。
ベージュのコートを脱ぎながら、
「いつも思うけど、私の存在、邪魔じゃない?」
と、笑う。
「いや、かえって3人の方が落ち着くよ。な?晴香?」
「何よ、それ」
「晴香が怖いから、俺一人だと、緊張するんだよ」
「酷―い!」
「あははは」
と楽しそうに光は笑っている。
「邪魔だったら呼ばないから!」
私は言った。
今は、光は明るい。
1秒ごとに、くるくると、気分が変わる、それが光の魅力でもあった。
カシューナッツをつまみ、都希は生ビール、
私と光はグレープフルーツジュースを使った強めのカクテルを飲みながら、
自然に、瞳さんの話になった。
それまで、笑顔だったが、皆、笑ったらいけない気がして黙り込む。
瞳さんについて一番話したいのは光のはずなのに、また、
「お姉ちゃん、お姉ちゃん。ごめんなさい、ごめんなさい」
としくしく泣き始めてしまった。
こういうときは、とりあえず、光の気が済むまで見守る。
それが私と都希の暗黙の了解になっていた。
私はハンカチで光の涙を拭う。
「大丈夫、大丈夫、私たちがついてるからね。光は一人じゃないよ」
「何でも協力するから。俺と晴香が、な、光ちゃん」
都希が思わず言ってしまった。
都希も『あ』っていう顔をしている。
引き受けてしまった!
「晴香、都希くん、ありがとう」
なんで、いつもいつも、私たちは光に甘いんだろう。
また二人で同じ船に乗ってしまった。
私と都希は目を合わせてお互いにしか分からない、ため息を心の中でついた。

数日後の、日曜日。
「役に立つか立たないか分からないが情報がある」
と言って都希に呼び出されて、都希の部屋で光と3人集まった。
瞳は言葉も手紙も遺書も残さずに住んでいたマンションの屋上から飛び降りた。
きちんと靴を揃えて。
ショックのあまり瞳さんが死んだ前後の出来事を光は記憶がないという。
都希も断片的に、うっすらとしか記憶がないみたいだ。
「一つ、覚えていることがあるんだ。と言うか昨日思い出した」
都希が重い口を開いた。
「親父達が話していたことを覚えている。
でも、子供が軽く聞いたり話したりしたらいけないような気がして怖くて、
今まで誰にも言えなかった。光ちゃん、今、言ってもいいかな」
「大丈夫」
「光ちゃんには、カナリしんどい話かも知れないけど」
私は光を見た。
大丈夫そうだ。
「飛び降りたとき、瞳さん、妊娠してたって聞いた」
「お姉ちゃんが、妊娠」
「なんとなくは覚えてるんだ。
親父達が瞳さんじゃない別の誰かに対して怒っていたこと、
それは子供には聞くことも許されない場の雰囲気と話題だったことも。
うちのお母さんが泣いていた事も。ぽつぽつしか情報なくてごめん」
光は
「赤ちゃんの父親は誰なの」
小さな声で言った
「そこまで分からない。ごめんね、光ちゃん」
「妊娠が自殺の動機ってこと?」
「そう、なのかな?」
「もっと、深い感じがしない? 闇はまだまだ深く暗い、そんな気がする。
自殺当時、瞳さんは25歳、立派な大人だわ。
例え結婚できないとしても、未婚の母と言う選択肢もあったはず。
それに10歳の光を置いて死ぬかしら。そうは思わない?」
「この話題だけは母さんや父さんには聞けないし。うちでは禁句だ」
「私も遺品が入っている箱の中を片っ端から捜して見たの。
何かヒントがあるはずだと思って、
お姉ちゃんが読んでた小説に何か挟まっていないか、
1頁、1頁捜して見たけど本からは何も出て来なかった」
「手がかりなしかあ」
「スケジュール帳を見つけたわ」
「スケジュール帳!そんな物があったの!すごいじゃない!」
「光!すごいよ!ヒントが隠されてそうだ!」
「お姉ちゃんは19XX年からなくなる直前までのスケジュール帳をずっと保管していて、
全頁見たわ。でも、分かったのは一つだけ。
私が生まれてから6歳まで施設で育ったって事だけだった。
『19XX年2月24日10時、光をH野市の施設に引き取りに行く』
ってそこだけ赤ペンで書いてあった。」
「施設?光が?記憶はあるの?」
「それが、ぜんぜんないの」
「私が小学校の1年生に上がった時の写真が1枚だけ挟んであって、その写真がこれ」
桜の木の下で、柔らかい黄色のスーツを着た瞳さんと光が写っている。
「二人とも無表情でしょう。固いっていうか」
「2人とも笑ってないって不自然じゃない?」
こう、思うのは私だけだろうか?
どこかぎこちない、年の離れた姉妹。
光は瞳さんのスケジュール帳も持って来ていた。
「私は小学校に上がるのをきっかけに施設から引き取られたみたいね」
「他には?何もなかった?話を聞けそうな古い友達とか。鍵とか。
怪しい電話番号とか。古い携帯とか、アドレス帳とか」
「そういえば、鍵つきの小さい箱があったわ。お姉ちゃんの物かな?」
「ちょっとまってて」
光が部屋を出て行った。
私と都希の目があった。
「何か、悪い事をしてる気がする」
だんだんどきどきしてきた私は都希に助けを求めた。
怖い。
「俺もだよ」
「こういうの良くないよね。
無理やり死者の秘密を暴くみたいで、嫌だな、私」
「俺も嫌だよ。でも仕方ない。」
光が鍵つきの小箱を持ってきた。
「軽いから何も入ってないかも知れないけど。
私の手元にあるお姉ちゃんの遺品はこれで全部なの」
「光ちゃん、この鍵、壊してもいいよね?」
「お願い」
「壊すよ?」
都希が鍵をこじ開ける。
小箱の中には、さっきの写真とまったく同じ写真が1枚入っていた。
「同じ写真かあ」
手にとって何気なく私は写真を裏返して見た。
「母・瞳21歳、娘・光6歳」
と、綺麗な字で書かれていた。
「母・瞳?」
「娘・光?」
母・瞳…?母・瞳…?母・瞳…?母・瞳…?母・瞳…?
「お姉ちゃんが私の本当のお母さん?」
光を生んだのは瞳さん?
私たち3人は顔を見合わせた。
「私の本当のお母さんはお姉ちゃんだったの!?」
光が混乱している、頭を抱えて座り込んでいる。
「都希くん、いつものパニック。
頭にいっぱい黒い虫がいて飛び回っている。助けて」
光は言った。
「よし、今日はここらへんで解散にしよう、俺は光ちゃんについているから」
「分かった、私はとりあえず帰るわ。都希、光をお願いね」
私は一人帰った。

光だけでなく私も同様にショックを受けてしまっていた。
光を生んだのが瞳さんだったなんて。
わずか15歳で、光を出産。
生んですぐ、施設に預けて光が小学校に上がると同時に引き取り同居を開始。
以後は母とは名乗らずに「姉」として25歳で自殺するまで光を育てていた。
光の『父親』の存在がどこにも出てこないのが不思議だった。
実の父親はどこへ消えた?
まだ中学生だった、瞳さんを妊娠させた相手は?
いったい、どこへ消えたんだろう? 影すらない。

「その男」が光のいる都希の自宅に来たのは突然だった。
都希の両親は出かけていたが、
たまたま、私も都希の部屋にいたから、怖くはなかった。
「来栖光はいるか?」
光の知り合い?
光は首を横に振る。
「怖い、いないって言って」
私と光に小声で
「ここにいろ」
と言い残して都希が玄関にでた。
「光はいない。それより、どちら様ですか」
「俺は『来栖瞳の昔のオトコ』だ」
「オトコって瞳さんを妊娠させた相手の男?
光の父親?
「光は中にいるはずだ。上がらせてもらうぜ」
「おい!待てよ!」
都希がとめたが男は簡単に上がって怯えてリビングの隅にいた光を見て言った。
「瞳そっくりだ。俺は光がどう成長したのか見たかったんだ。」
「お前、でてけよ!警察呼ぶぞ!」
都希は言った。
「晴香!警察を呼べ!」
「瞳と光の昔話を聞きたくないなら呼びなよ」
イヤにどうどうとしている。
「どうせ、体裁悪くて隠してんだろ?
教育業界に君臨する来栖一族のやりそうな事だ。光の出生の秘密。
なんで、瞳が自ら死んだのか。そして親父までわずか数時間後、
瞳さんの死の24時間以内に死んだのか。
この家のことをここまで深く知っているのは俺だけだぜ」
男はニヤリと笑った。
「警察でも何でも呼びたかったら、呼べよ。
その代わり、俺は二度とここへは来ない。事件の真相は永遠に闇の中だ」
そして男は金を要求してきた。
「いくら欲しいんだ」
「重要な話だ、最低でも100万だ」
「100万!?」
「そんな金ない」
「それなら、俺は帰る。
光は永遠に答えの出ない疑惑に囚われた人生を送ればいいさ」
男は古い鞄を持って帰ろうとする。
「待って下さい!私のお母さんは何で死んだの!?」
光が言った。
「ごめんなさい、晴香。私、聞きたい。こんな中途半端なままじゃ、終われない」
「わかるよ」
私は握り締めていた携帯電話を置いた。
「ここまできたら話してよ」
男は床に鞄を置いた。
「私。100万払います。
ただ、今すぐは無理です。明日でもいいでしょうか」
都希も
「あんたが『唯一の証人』だ。警察は呼ばない。頼む」
男は
「じゃあ、話は金を受け取ってからだ。
明日、7時にT駅前にある、カラオケボックスJに来れるか?」
「なんで、カラオケボックスなんだ?」
「話の内容が内容だからだ。喫茶店で話す内容じゃない」
光が口を開く。
「あなたが私の父親なの?」
「その答えも明日だ。邪魔したな。金を忘れるな、
言っておくが全ては金と引き換えだ」
男はそれだけ言って帰って行った。
「明日行くわ。お金は私が用意するから、
カラオケボックスに一緒に行ってくれる?
一人では心細いの」
光は俺と晴香に言った。
「もちろん、行くよ」
「必ず」
「私、100万なんて惜しくないわ」
光は一点を見据えて、言った。

次の日、男はカラオケボックスJの前にいた。
「よう、きたな。ガキドモ」
「お金、今、渡します」
光は白い封筒を渡そうとする。
「とりあえず、中に入ろうぜ、中身は後で確認させてもらう」
私たち4人は、広めの部屋に通された。
「おじさん、私のお父さんなの?」
「それは、違う。お前の父親はまったく別の男だ」
どうやら、本当に真実を知っているらしい。
都希はそう感じた。
この男は真実のかたりべだ。
「お母さんが25歳の若さで自殺してしまうほど絶望していたのはどうして?」
「お前が瞳の中に残っていた『最後の命の糸』を断ち切ったからさ」
「私が?」
「お前、瞳に『死んだお魚の目みたいな目をしてる』って言ったのを覚えてるか?」
「はい。」
「瞳は、まだ10歳だったお前を性的な対象として見る親父から守る為に、
お前の代わりに実の親父に身体を差し出していたんだ」
「お父さん?」
「瞳は最初に実の父親に強姦されたのは12歳、14歳でお前を妊娠して15歳で生んで
孤児院に預けた。ここまでは分かるか?」
「はい、わかります」
お前が6歳になった頃、
『命と引き換えにしてでもお前を守る』。
そう言って家を出てお前を引き取って遠くへ引っ越し、
父親との関係を断った。
瞳は、働きながらお前を育てて、俺ともそのころ知り合った。
そしたら運悪く親父とどこかの繁華街で遭遇しちまった。
それからは。瞳は『光に手を出す』と脅されて毎日毎日実の父親に犯される日々さ。
光を守る為に瞳は生きていた」
「なんて酷い父親」
「そんな父親聞いたこともないわ。犯罪じゃないの!」
「お母さんは私の為に。それなのに私は。なんて事を」
光が泣き崩れた。
「何て事を言ってしまったのだろう」
「人生に絶望していた瞳は光に
『死んだお魚の目みたいな目をしてる』
って言われた事を気にしていて『もう、死にたい』…って漏らしてた。
命がけで守っている幼い娘の言葉に、瞳は過剰に反応して絶望して、
親父に犯される毎日が辛くて、しかもまた、親父の子供を妊娠している事を知り、
全部に絶望して瞳は死んだんだ。」
男は都希に、
「お前は『とき』だよな」
「そうだ」
都希が怒りを抑えて応える。
「大きくなったな」
「俺の事も知ってるのか?」
「瞳は
『私に何かあったら光をお願いします』
って常にお前の親に頼んでいた。
何か悪い予感か予兆があったのかも知れない」
「そして、予感は本当になり、光はうちに来た」
「瞳さんが死んですぐ、瞳さんを犯していた父親も自殺した。
これはどういう意味か分かるか?」
都希が言った。
光はぼんやりした顔で男の話を聞いていた。
「瞳さんのお父さんが死んだのは?」
「どんな親父だよ。犯罪者じゃねーか!」
「確か瞳の親父さんも教育関係の仕事をしていたはずだ。
代々子供の教育に携わっていた来栖一族の一員だからな。
来栖学園…私立中学の理事長だったかな」
「聞いた事がある」
「親父の自殺の話も聞きたいか?」
男は、ニヤリと笑った
息を飲む。
「親父さんが死んだのは瞳に脅されていたからだ。脅迫だよ」
「え?」
「瞳さんが?」
「私のお母さんが?人を脅していた?」
「自分が死んだ後、
子供の時から父親に犯されていたことを一部始終記録していた。
週刊誌に売ってやるって。
ずっと、記録していたみたいで。これがその大学ノート」
男は鞄から色あせた一冊のノートをだした。
「私に何かあったらこれを週刊誌に持ち込んで」
瞳は言った。
「そして、それを託されたのが俺だ。
瞳が死ぬ直前に電話があって、
「『今すぐ、父を週刊誌に売って欲しい、一日も早く、
お父さんと光を、あの二人を離さないといけない。
まだ、10歳の光が自分と同じ目にあわないうちにって』
俺は自分なりに考えて、週刊誌に売る前にまず、俺はお前の親父を脅したよ。
『光に手をだすなって。週刊誌に売るぞ』って」
「そしたら、そしてら、数時間後に自殺しやがった、あの鬼畜親父」
「そんなお父さん、私が瞳さんなら殺すかも知れない」
「俺が知っていて、お前たちが知らない話は全部したはずだ。
光、瞳のこと悪く思わないでやってくれ」
「悪くなんて思いません」
光は涙を流して言った。
「思うわけないでしょう」
「さ、俺は帰るとするか。光、金はもらっていくぜ。
元気で暮らせよ。それが、瞳の願いだ」
「お母さんと死んだ赤ちゃんの分まで幸せになります」
男は去り際に、
「光。知ってるか?」
「何をですか」
「お前の、自分の名前の由来」
「しりません。」
「人生でどんな絶望の中でもがいたとしても、いつも、
『一筋の明るい光がお前の行く道を示すように』
まだ15歳の瞳が幼い心で一生懸命考えてお前につけた…いい名前だよ。
覚えておいてやってくれ」
光は、静かに泣いていた。
「分かりました、私、絶対に、忘れません」

光は涙を拭い、
「私、自分なりに生きていくわ。見ていて。恥じない生き方をするの。
お母さんが見ていてくれるから」
「分かった、お腹すいたね?何か食べに行こ?」
「命の限り生きなくちゃ」
そのとき、私のお腹の中で何かが動いた。
「あ」
「どうしたの?晴香?」
多分、お腹に赤ちゃんが。
「後で、話すわ。多分とても、いい話よ。とりあえず、いこ!」
光を真ん中にして3人で腕を組んで私たちは歩き始めた。

明るい光のさす方へ

パッピーエンド!

明るい光のさす方へ

  • 小説
  • 短編
  • 青春
  • サスペンス
  • ミステリー
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2018-03-11

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

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