仙人と先人

小説を読破するよりも、国語のテストのような小説の端切れに
後先を空想する時が一番の楽しみだったりします。
たとえ邪道な考えであっても、芸術は自由の唯一の拠り所なのかもしれません。

「苦悩を有する事は、幸いな事なり」
かつて仙人が私に言った言葉はあまりにシンプルなものだった。

有り触れたその言葉の表層を掬っただけとも知らず、無言で聞く姿勢を繕っていた
学生服の私の心が、温め直そうと火にかけた味噌汁のブクブクと音を立てる様な
状態になった事を今でもよく覚えている。当時の私は目の前の悩みを歓迎せよと
でも言われた様な気になっていたのだ。

けれど、煙草を嗜む歳になってからも頭を悩ます度に思い出すのだ。忘れもしない
あの仙人の言葉を、あの夕暮れに傾き出した太陽の照らす藺草の香りを。

(中略)

「時間を有する者は、悩む事なり」
そうして私が先人となる頃、若者は仙人の言葉を思い出すのだろうか。

仙人と先人

仙人と先人

その他というジャンルの行方は如何に。

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2018-03-09

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