自選歌集 2018年1~2月

 日々の歌


まるまったアルマジロには日常が遠い世界に思えるだろう

カラオケのリモコンだけが巡りゆきいつかは神が降りるだろうか

この先は考えなくていいんだよ笛吹き男についていくのさ

三等は秘伝のタレをぶちまけて一から調合しなおす権利


 自分の歌


誰もいないただ鈴の音が一度きりそれが答えと信じきること

気休めで咳はしたけど違和感は別のところに貼りついている

バス停に急ぐ途中に群れていた鳩はわたしを愛していない

理解するために四角く切り取って僕はすべてを奪えないんだ

僕たちはガラスの迷路の中にいて寂しくないが出会えはしない


 冬の歌


冬の朝儀式のように手を水にさらして待てばじんと温水

大雪で足止めされていた夜に生体認証パスしたの誰

雪よ雪よ愛しいひとを抱きしめて逃げてもやがて春は追いつく

氷上にひとり少女は回転体からだを捧げ聖杯となる

木枯らしを三角形にくぐらすと春成分が増えるらしいよ


 街の歌


あいつらが糸をほどいて逃げたので人形劇はずっと休演

だんだんと朽ちゆくことは許されず今からここも何もない場所

裏通り野良犬野良猫野良カラス野良ビニール傘野良食べかけのパン

ピカピカの電車に股をくぐらせて錆びた跨線橋が踏ん張る

三叉路に冴え冴えと射す小夜の月指し示す先咲くさ桜も


 夜の歌


水槽の金魚が夜ごと逃げてゆく隙間だらけのわたしの眠り

サヨナラのピンチを救うナイスキャッチだと思ったら流星でした

誰からも見つけられずにいた星が虹へと生まれかわって流れた

少しずつ記憶は溶けてしまうのでどんな夢でも覚めればなみだ


 愛の歌


骨格も愛(いと)しみながら背をなぞる君に翼がなくてよかった

そんな怖い顔しないでと言いながらわりと興奮してたりもする

二人して回転木馬の馬車に乗り恋人らしい恋人になる


 愛の歌?


凍えてた少女にコートをあげたので今のわたしは裸なのです


 未来の歌


隙間とか裏にはすぐに草が生え結局世界は原っぱになる

プログラムはバグを抱えて走りだし制御不能できらめく未来

番人が呑気に暮らしていたもので国境線はなくなりました

神だった石も砕けて砂となり長い記憶を風と語らう

自選歌集 2018年1~2月

自選歌集 2018年1~2月

2018年1月から2月にツイッターや「うたの日」で発表した短歌からの自選31首です。

  • 韻文詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2018-03-07

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