絵描きの独り遊び


1日かけて散らかすだけ散らかして、何も生み出さなかった机の上を、片付けた。
不完全燃焼の余熱を持て余している。
今日だってまともに外へは出ていない。手についたインクを洗い落とすのも億劫だ。
もう電気を消して、眠ろうとしたけど、一度水を飲んでおこうと思った。
台所に置いてある2Lのペットボトルが目に入る。まだ少し残る余熱が原因となって、私は、ペットボトルの中に閉じ込められた少女の絵を描きたくなった。

自室に戻り、再び散らかし、いつものペンとノートで線を重ねはじめる。が、上手く線が形にならない。おかしい。
私はさっき、ペットボトルを見た瞬間に、
頭の中では既に少女は閉じ込めた。完全に、隙間なく。それを描くのみ、なのだが。

絵を描くというのは、脳の中にある完全なる下書きのもと、ただその通りに手を動かす。
脳に下書きがあるのなら、描けないのは不思議。日々の生活であってもそうだ。頭の中の完全なる下書きのもと成立している。ほぼ無意識(必ず意識はしているが)で、下書きを作り、その通り動く。
袋から取り出す、湯を沸かして入れる、
3分待つ、箸を割り、食べる。
脳の中にある完全なるカップラーメンの食べ方。下書きがあれば可能、ではなぜ、この少女は外に出たがるのか。

──不運な少女は、私の欲望によってペットボトルの中に閉じ込められてしまっている。
しかし、不完全。抜け出そうと全力を出せば、この場所から逃れられる気もするが。

完全なる下書きのために、必要なもの。
それは「慣れ」、つまり、私はカップラーメンを食べ慣れているが、少女をペットボトルに閉じ込め慣れてはいない。
私は、完全に納得できる線ができるまで、なんとか少女を、なだめ続けなければならない。
そして、完成した時、彼女は完全に閉じ込められるのだ。

しかし、私も鬼ではない。そうなれば、彼女を真っ先に外に出してやる。いや、恥ずかしい話、彼女を閉じ込めようとし続けるうちに、彼女をはやく外に出してやりたくなっていた。私は、彼女と一緒に、外へ行きたい。

完成も間近だ、もう少し。当初の目的が達成されるのを待ち遠しい顔をして、本当に待ってられないのは、彼女とすぐ外へ。
ここで、気がつく。ああ私はまだ、
「ペットボトルの外にいる彼女の完全なる下書き」
を持っていない。

ごめん、もう少しその中にいてくれないか。そんな眼で見ないでくれよ、そうだな、外に出れたら、まず喫茶店にでも行こう。

絵描きの独り遊び

絵描きの独り遊び

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2018-03-07

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