ぶどう農家民話・ホルモンぶどう

 岡山県北の津山というところに、ホルモンが大好きなぶどう農家がおりました。
 ぶどう農家は特に、噛んでも噛んでも噛み切れないような固いホルモンを好んでおり、あと、津山名物B級グルメ・ホルモンうどんが大好きでした。
 そんなホルモン好きのぶどう農家。好きが高じてとうとうある日
「ホルモンぶどうを作る」
と宣言してしまったのです。
 おかみさんが心配そうに見守る中、農家は知り合いの畜産農家から雄牛を借りてくると、
「母親がぶどうで父親が牛なら、ホルモンぶどうができるだろう」
と、自分のピオーネ畑に丸一晩、雄牛を放牧しました。
 誰もが無謀と思ったこの挑戦、農家の熱意が届いたのか、秋に3房だけ様子の変わったぶどうが生ったのです。

 1つ目のぶどうは真白の粒を実らせていました。粒を弾くと、純白のミルクが弾け出ました。
 2つ目のぶどうは、粒の代わりに、スライスされた霜降りの上ロースがたわわにぶら下がっていました。
 そして3つ目のぶどうは、一見すると赤ぶどう、しかし目を凝らすと様々なホルモンが鈴生りに生っていたのです。

 農家は大喜びで、おかみさんともども、さっそく試食してみました。
 ホルモンぶどうは、見た目はホルモンそのものでしたが、ほのかにピオーネの果実臭があり瑞々しさを感じさせます。
 農家が大好きなホルモンうどんに調理してみたところ、味噌をベースとしたタレの香りがせっかくの果実臭を消してしまうのは今後の課題です。
 また、歯ごたえが拍子抜けするほどありません。
「まぁそれは、母親がピオーネだからな」
 と納得するものの、硬いホルモンが好きな農家には物足りません。ところが一方、おかみさんは目を輝かせて
「歯の弱いお年寄りには喜ばれるんじゃないかしら。これは、売れるわよ!」
 農家も自分の嗜好はさておいてすっかりその気になり、量産へ向けて、今度は大量の雄牛を借りてくると、またもピオーネ畑に放牧しました。
 しかし動機がよこしまなものになったためか、はたまた奇跡は二度起こらないからなのか、ホルモンぶどうはもちろん、どんな種類の牛ぶどうも生ることはありませんでした。
 ならば種をと、先に生ったホルモンぶどうの残骸を探したのですが、いつものようにジベレリン処理を施していたため種無しぶどうとなっていて、一粒たりともありませんでした。
 今や幻となったホルモンぶどうですが、まだ樹にぶら下がっている時に農家が撮った写真を見た精肉業者が、ホルモンをぶどう状にデコレーションして販売したところインスタ映えすると話題になりちょっとしたブームになりました。
 それもやがて下火となり、たった一人を除いて買うお客さんも居なくなったのですが、その客というのが例の農家でした。
 ただ一人となったご贔屓さんのために、精肉業者はわざわざ噛んでも噛み切れない固めのホルモンを選りすぐって“人口ホルモンぶどう”を作ってあげたので、農家は
「わしゃ結局、ホルモンぶどうを作るのに成功したんじゃなかろ-か」
と、いつまでもご満悦だったそうです。

ぶどう農家民話・ホルモンぶどう

ぶどう農家民話・ホルモンぶどう

岡山県北・津山では明治以前から牛を食べる文化がありました。ホルモン好きの津山のぶどう農家が念願のホルモンぶどうを手に入れるまでのお話です。

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2018-03-06

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