午後3時

 インスタグラムを眺める午後3時。本当ならば講義に出席しなければならないのに何故か私は部屋のベッドでスマフォ片手に横になっている。昨晩お風呂に入っておらず、頭が痒いが気にしない。朝ごはんも昼ごはんもすっ飛ばして空腹が限界を迎えているが気にしない。悲惨な私が興味を持つのはスマフォの画面だけ。見知らぬ顔のインスタグラムは私の手の中で煌々と華やかな瞬間を映していた。
 確か私にも「彼氏」が居たようだ。未使用のコンドームがベッドの隙間から出てきたので、どうやらそうらしい。インスタグラムが言うには「彼氏」とは、記念日にアクセサリーや財布などのプレゼントを用意し、1年に1回はディズニーランドかシーでデート(ダッフィーとシェリーメイのぬいぐるみを抱えて)。春は花見で、夏は花火、秋は#食欲の秋 #食べ過ぎ。冬にはイルミネーション。そしてたまに旅行にも行く。旅館で浴衣を着たカップルの写真がインスタグラムに載せられているとセックスの象徴にしか見えなくて気持ち悪いのだけど、別に彼らはそんなことを思っていないらしい。私がおかしいのだろうか。
 まあ、とにかくそんな「彼氏」は私にはいなかった。私はただ部屋でセックスをしていただけだ。ディズニーランドもプレゼントも一度も記憶にない。インスタグラムで二人並んだ写真を載せたこともない。なんだったら「これが私の彼氏です」と第三者に紹介したことさえない。あーーーと大きめな声でため息をつく。別にそんなものはどうでもいい。行きたい場所は1人で行くし、買いたいものは自分で買う。人に紹介できなくたっていいんだよ。私はあなたが好きだから。
 それなのにこうもイライラが止まらない。インスタグラムの写真を探る手も止まらない。目はすでに死んでおり、脳みそは腐敗している。負の感情だけが増殖し続ける。嫉妬なのか、憎悪なのか、憤慨なのか。もはや今の私には判断ができなかった。今日の講義をサボるのは今日で5回目だった。つまり単位はさようなら。私はこうして時間も金もドブに捨てていく。不愉快な気持ちだけを大切に添い寝させて、インスタグラムから弾き飛ばされていく。
 あーーー!!!!とかなり大きい声で叫ぶ。スマフォを投げる。脱ぎ散らかした洋服の上にダイブした。
 うるせえよ!という声とともに壁を殴る音が隣の部屋から聞こえてきた。
 私はベッドから這い出てスマフォを回収し、再びベッドに潜ってツイッターを開く。「隣の部屋の人に壁ドンされたwわろたww」と呟いて、静かに泣いた。
 太陽は全く空気が読めないので沈んではくれない。小学生の下校中の声が外から聞こえた。私は誰よりも汚い存在として丸くなった。

午後3時

午後3時

  • 随筆・エッセイ
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更新日
登録日
2018-03-06

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