頭に角のある女
鬼伝説、みたいな話、好きなんです。
聡くんを食べないと…私、死んでしまう…。
「触ってみて、ほらここ」
この前、街でナンパした女の子は言った。
20歳、ウオーター系の商売をしているという。
「ほら、こことここ」
美鬼は聡の両手を持ち、自分の頭に持って行く。
「確かにあるね」
頭には鬼の角のような『こぶ』があった。
「単なる『こぶ』じゃないの?」
「『角』よ。村には角を持って生まれる赤ちゃんと、
持っていない赤ちゃんの2種類が生まれるの。
私には妹が3人いるけど、持って生まれたのは私一人。
村の中でも差別が有って『角』もちは差別される側なの」
ナンパして、遊びに行って、意気投合して仲良くなった。
連絡先を交換して遊ぶようになった、
聡、二十歳。
今は軽い感じの女友達だけど、
聡はすっかり、少し変わった美鬼の虜になっていた。
「美鬼ちゃんと付き合いたい!」
内心思っていたが、なかなか言えなかった。
「聡くんの事、好きになったみたい。好きって言う気持ち?やばいな…」
あの…。
「やばいって?」
「よくわからない事だらけ。
『角』もちは、家の外に出ないように…それがあの村の掟だったから。
私、学校も行った事ないのよ、『角』もちは恋愛も禁止なの」
「でも…二十歳になったら…」
美鬼は楽しそうに笑った。
「二十歳の誕生日に村から追い出されるの!
おかしいでしょ?
私は街に出て水商売をするしかないって思った。
『地方から働きに来ている』って言ったら寮に入れてもらえたし」
「なんつー、村だ」
聡は言うしかなかった、あまりにも過酷だ。
「普通にデートできるって嬉しい。
村では『角』もちは嫌煙されるから、
家族以外の人と話した事も殆どないの」
「それで、接客よくやってるよな」
「我ながら良く頑張ってる!」
ケラケラと美鬼は笑った。
夢中だった。
「俺たちさ、付き合わない?」
聡は美味しそうにパンケーキの上にのった生クリームを食べている美鬼に言って見た。
「『つきあう』ってなに?」
そうか、そこから説明がいるのか。
「うーん、デートしたり、いちゃいちゃしたり、
旅行行ったり、将来の話したり。多分、
そう言うこと!」
聡もまだ誰とも付き合ったりしたことがない。
「俺も初めてだから、
わからなくて、自信ないけど。大事にする…だめかな?」
美鬼は迷惑そうな顔をする。
「無理!無理、友達でいようよ」
「わかった。美鬼ちゃんがそういうなら仕方ない。じゃ、いい友達で、よろしく。」
そう言ったら、
美鬼は何故かなきだしてしまった。
聡、二十歳、未だに恋愛経験0、どうしていいか解らない。
「美鬼ちゃん?どうしたの?」
「なんでもない…違う…なんでもあるわ」
「泣き止んでよ。店出る?」
「もう、逢えない…もう、逢えない」
「逢えない…って俺と?」
美鬼は
「うん」
と言った。
「今頃、自分の気持ちに気がついてしまった。ごめん、
私、貴方から逃げるわ。そうしないと…私はあなたを…。」
泣きじゃくる、美鬼をとりあえず寮まで送って行った。
「もう二度と、美鬼ちゃんの前には現れないよ。
安心して。幸せになって、これ約束。」
美鬼は何も言わず、
「送ってくれて、ありがとう」
とだけ言った。
その夜、一人暮らしのアパートに戻り、
ぼんやりしていたらノックの音が聞こえた。
時計を見たら12時過ぎている。
誰だ、こんな時間に。
「美鬼で。」
「美鬼ちゃん!?」
急いで玄関を開ける。
「どうしたの、こんな時間に」
美鬼の『こぶ』が『角』に変わっていた。
「美…鬼ちゃん…?その姿は…?」
「私、私たち『角』もちは愛した人を食べないと死んでしまうの」
「美…鬼ちゃん、俺の事…?」
「愛してる…でも自分の気持ちに気がつくのが遅すぎた。
聡くんを食べないと…私、死んでしまう…。
私、『鬼』だから!」
美鬼ちゃんが鬼?
鬼だって?
聡は頭からバリバリ食べられながら、
自分がオスのカマキリみたいだ、と思った。
頭に角のある女
オトコってちょっと悲しい。