ヨリコさん

ザ。大阪のおばちゃんロボットを書いて見ました。

家政婦ロボットのヨリコ。20日前にできたのになぜか55歳。

1DKで一人暮らしの蒔子の部屋に「ヨリコさん」がきた。
世界最強、「大阪のおばちゃん」が夜行バスでやって来たのである。
パーマ頭に豹柄のトレーナーを着ている。
「いやー、長旅やったわー。遠いわ。あんたが、糸井蒔子やね。
まきこて。おばちゃん臭い名前やなあ」
反論する元気は蒔子にはなかった。
蒔子は極端に大阪人が苦手なのだ。
「と! 言うわけで20日前に東大〇市で完成した家政婦ロボットのヨリコ。
20日前にできたのになぜか55歳。身長は153センチ、体重は秘密。
まあ、よろしく、頼むわ!」
戸惑う蒔子にお構いなしに、
「狭いねえ。ここ家賃なんぼ。7万9000円?
その前にあんた、手取りなんぼ? 部屋が狭い? 心配せんでもえーよ。
アタシ立ったまま眠れるから。そうそう、これ、大事な事やけど、
今日から男の出入り禁止な」
「困ります。私、彼が…」
「あんた、一つ上の同僚と不倫してるやろ。知ってるんやで。
悪い事言わん、別れなさい。彼やない、ただの不倫相手やないの」
傷口に粗塩を塗り込まれて蒔子は、完全にヨリコさんに巻き込まれていた。
「ヨリコさんはここに。ずっと?」
「そそ、住み込みの家政婦。プラス、私生活まで口挟ませてもらうで。OK?」
OK?と言われても、選択肢ないし。
「あたし充電きれそうや。充電するわ。台所の隙間で寝るし8時間終電してくれたら
12時間大丈夫やから、冷蔵庫よりコスパ、ええやろ」
ヨリコは、得意げに言った。
「不倫相手の純は嫁も子供も第1の不倫相手もおる。秘書課の和田亜由美。
あんたは嫁から数えたら3番目の女や、酷な事言うけどな。別れなさい」
ヨリコに頭を抱えられ、抱きしめられたら、涙が出てきた。
そこで充電が切れたらしく、ヨリコは動かなくなった。
ヨリコから「3番目の女」と聞かされてから、
純に対する気持ちは急速に冷めて行った。
蒔子は実家の弟の勧めで、
弟の先輩の町田と言う真面目なサラリーマンと交際するようになった。
町田の事はヨリコも、蒔子の両親もたいそう気に入ったようで、
トントン拍子に結婚話が進んで言った。

ある、土曜日の夕方突然、
純が蒔子の部屋にやってきた。
蒔子が結婚することを誰かから聞いたようだ。
「何?」
蒔子は昔の男に言った。
ヨリコがいるからおかしな事はしないだろう。
純はヨリコの事を見て見ぬふりをして、
「結婚するんだってな。聞いたよ」
「情報が早いのね」
「おまえは俺の女だ」
「時効よ。別れてから1年もたつのよ。情報源は秘書課の亜由美ちゃん?」
「お前は俺の! 所有物だ!」
純は台所に行き、包丁を蒔子に向けた。
「やめて!」
その時、ヨリコがものすごい力で
「馬鹿な事はやめなさい!」
二人を引き離した。
「なんだ、このおばさん」
「蒔子、逃げなさい。アタシはな、こんな男何人来ても殴り倒せるねん。
何馬力やと思ってるねん。
東〇阪市産のロボットなめてもろたらこまるわ!蒔子、警察!呼びなさい!」
「なんだ、この婆…。怪力すぎるやろ」
警察が来るまで、ヨリコにものすごい力で投げ倒されて、拘束され、
純は連れて行かれた。
「ありがとう…。ヨリコさんがおらんかったらどうなってたか
「それより、あんた明日も式の打ち合わせやろ。はよ、ねーや」
「ありがとう。ヨリコさん」
その願いには返事もせず、
ヨリコは充電モードに入ってすーすーねてしまった。
10月に式を挙げ、新婚旅行先から帰ってみると、
新居のどこにもヨリコはいなかった。
「ヨリコさーん」
町田の職場の近くに借りた3LDKのマンションのどこにもヨリコはいなかった。
まるでドラえもんが未来へ帰るようにヨリコさんは東〇阪市に帰ったのだろうか。

月日は流れ、2年後に蒔子は女の子を産んだ。
初めての子育てに戸惑う蒔子の前にいきなり、
「『のぞみ』にのって来たわ!」とヨリコが現れたのだ。
その時、蒔子は育児ノイローゼ寸前だったのだ。
周りに頼れる人は誰もいなかった。
「ヨリコさん、ヨリコさん、あいたかった…」
泣きじゃくる蒔子に、
「可愛いあんたのピンチを見て見ぬふり出来る訳、
ないやないの。大船に乗った気でおったらええ。
育児は全面サポートさしてもらうわ」
「ガハハ」とヨリコは笑った。     

ヨリコさん

ヨリコさん、うちにも欲しいなー。

ヨリコさん

  • 小説
  • 掌編
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2018-03-01

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