純白

白い色が好きなんです。

何をしている時でも由貴の心は純白だったんだと思います。誰に何を言われようと。

「由貴がSEXをしているわ」
朱美はクスクスわらう。
私は笑っていいものかどうかわからなかった、というか固まってしまって笑えなかった。
「分かるの?」
「感じるのよ、胸がね、ざわざわするの。
あの子馬鹿だからほいほい男についていくのよ。安い女」
朱美は吐き捨てるように言った。
紺野由貴と紺野朱美は双子の姉妹だった。
「あの…なぜ、由貴を助けようとしないの。双子の姉妹でしょう」
驚いた顔で朱美は私を見る。
「助ける? だって、あの娘。一度に大勢の男を相手にするのが好きなのよ」
「由貴が望んでいるの?」
「そうよ。子供の頃からよ」
子供の頃からって。
あの清楚で可愛らしい由貴が。
確かに朱美のような特定の彼氏はいないけど…。
「生理が始まる前の10歳のときから隣に住む汚い親父達と夏休みなんて
一日中楽しんでいたわ。これは、私とお兄ちゃんしか知らない話だけどね」
「親も、もちろん、知らないわ。うちは二人とも教師をやっているし。
生徒が大切で、『自分の子供には関心はありません』って熱血教師たちだからさ。
大げさに言うと兄妹3人で生きてきたの」
朱美は笑って言った。
「お兄ちゃんの場合は当事者だけど」
楽しそうに朱美は続ける。
「まさか、お兄さんとも? 関係があるの」
「そうよ」
朱美が話すことは、つい、一ケ月前、
コンビニ1つない和歌山のK町から出てきた世間知らずの真白には、
信じられない事ばかりだった。
一番に仲良くなった朱美には、
3歳上の兄と双子の姉の由貴がいた。
双子はそっくりで、最初見分けがつかなかったから困ったけれど、
服装の感じや、化粧、香水の違いで、だんだん違いが分かるようになってきた。
由貴と朱美の姉妹は美しく、
とくに由貴は心優しく、おっとりした少女で異性にも同性にも人気があった。
だから、朱美から聞く話は信じにくい話ばかりだ。
驚かされる事ばかりだったから、全て朱美の作り話ではないだろうか。
真白はそう思わずにはいられなかった。
朱美には同い年の彼氏がいて、それが余裕になっているのか、
一段高いところから由貴を見下していた。
真白は和歌山出身で、今年の春に大阪府北部の大学に合格して、
大学の近くにアパートを借り、
アルバイトと仕送りと奨学金で大学に通う苦学生だった。
真白にとっては、朱美から聞かされる由貴の話は、
「陳腐な作り話」にしか聞こえない時もあった。
あのときまでは。
19歳になったばかりの夏、由貴は殺された。
犯人は、マンションの隣に住む男、豊田将司49歳。
親が残した財産で4LDKの分譲マンションに2匹の猫と暮らし、
生まれてこの方一度も働いたことがない男だった。
豊田の家の中で由貴は、死んだのだ。
真白は偶然、朱美の住むマンションにお茶を飲みに来ていた。
「由貴を自分だけのものにしたかった」
禿げ上がった頭の男はいった。
「刺しても刺してもトドメにならない気がして、
何回刺したかわからない。由貴の心臓が止まっても刺し続けた」
豊田はそう言った。
まだ、子どもの頃から愛してきた美少女がいつしか大人になり、
自分以外の男と簡単にSEXするようになったことに、
「耐えられなくなった」
というのが豊田の言い分だった。
「由貴が二十歳になったら結婚するつもりだった」
「でも、複数でSEXすることや、
遊び感覚で男に抱かれることを由貴に教えこんだのは豊田さんでしょう」
第一発見者の紺野姉妹の兄、了が言った。
「由貴はお兄ちゃんとも関係があるのよ」
朱美の言葉がぐるぐる廻る。
「この人が、お兄さん」

子どもだった由貴を隣の家に向かわせていたものは一体なんなのだろう。
隣で朱美が呆然としていた、
さすがにショックらしい。真白は了に言われた。
「由貴を知る君と2人で話がしたい」
兄と目が合った朱美はそっと席をはずした。
「真白さん、由貴は極端に交友関係が狭かった。
身内以外は豊田とゆきずりの男達、そして真白さんだけなんだ」
「由貴…大学では?」
「由貴は、人当たりが良さそうで人気もあったようだが、
誰にも心は開かなかったみたいだ」
「私も親しいとは言えないと、思います。
なんの情報も持ってないです。
朱美経由で聴いた話くらいしか知らないです、ただ…」

「あの、あばずれ」
それが死んだ後の由貴の名前になった。
由貴は自分に欠けているもの、表向きの良い子の由貴の部分を忘れたくて、
子供の頃から性を解放してきたのかも知れない。
「いいこ」を演じなくてもいい自分、
男達に「とんだあばずれ」と呼ばれても
「その時」だけは由貴は「素の自分に」でいることが出来た。
だから、毎日のように男の元に通い実の兄に抱かれ…由貴は…。
自分自身を解放することが出来た。
真白は「私はこう思う」と了に告げた。
「ずっと、由貴の心は純白だったんだと思います。誰に何を言われようと」
目の前にはうなだれた了がいた。    

純白

純白に見えても黒い人なんて、いっぱいいる。

純白

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2018-03-01

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