さようなら、私が殺した私

もうどこにもいないの。自分自身。

「妹は恨みを買うような子じゃなかった」
早紀子と死んだ妹の有美子は双子の姉妹だ。
誰もまだ気が付いていない。
姉妹がいれかわっている事、
生んだ親も笑ってしまうくらい私たち姉妹はそっくりだったから。

私、早紀子は有美子を殺した。
妹を殺し、妹になりすまし妹の人生を生きようとしている。
世間では、私、早紀子が死んだ事になっているけど、
早紀子はピンピンしている。
私は、妹の有美子を殺し、何から何まで有美子の物を身に付け、
有美子の死体にだきつき芝居をした。
楽しいくらい誰にも悟られる事はなかった。
静かに焼かれていく自分に、別れの言葉を言い送り出した。

数か月前、
早紀子は、自宅に送られてきたDVDを不審に思いあけて見てしまった。
宛名が早紀子宛。箱には、タイトルのないDVDが1枚入っていて、
妹の有美子と男が全裸で絡み合う行為が録画されていた。
興味本位に見たものの、
自分と同じ顔なので気持ちが悪くなって吐いてしまった。
男の方は早紀子の別れた恋人、立花翔だった。
半年前に、
「夢を追いたい。それには早紀子みたいな重いタイプの女は邪魔なんだ。」
冷たい最後の言葉に、
「纏わりつくような真似はしたくない。」
そう思って自分を納得させ、
傷を1人癒してる最中に送られてたビデオだった。
「送ってきたのは、翔?それとも、有美子?」
どちらにせよ、
馬鹿にされている事くらいわかるわ。
まだ、翔に気持ちが残っていた私は哀しくてそのDVDの前で泣き崩れた。

「有美子として生きる。」
そう決めた瞬間からおかしないたずらにDVDを送られるような惨めな私は死んだ。
焼かれたのは私が殺した有美子。
有美子を納戸の隅に有った重い砂袋で後ろから近付き後頭部を数回殴打した。
有美子は死んだ。
砂袋の中の砂は車で10分ほどの埠頭から海に撒いた。
袋の方は翌日の燃えるゴミの日に生ゴミと一緒に燃やした。
これで証拠は何もない。
『凶器のない殺人』だった。

私『有美子』に怪しげなメールが届いたのは早紀子の初七日を過ぎた日からだった。
数人もの男たちから「夜、あいてる?」
などとメールが来るようになったのだ。
無視をして翔のメールにだけ、返信していた。
「今日は夜ならあいてるから鍵を開けて入ってきて」
その日、私、有美子が帰るのを『彼氏の翔』が先に着て待っていてくれていた。
「翔、ただいま」
でも、私、有美子を待っていたのは翔だけではなかった。
「おかえり、有美子」
翔ともう2人、知らない男がいた。
「今日も、こいつ好きにしていいから」
「翔はどうする」
男の一人が言った。
「俺は見物だ」
私は暴れて力では適わない男たちにせめてもの抵抗をした。
「翔さん、こいつ一人前に抵抗してますよ」
「抵抗?有美子にしては珍しいな」
これは一体何?有美子は無抵抗だったの?
でも、有美子を演じないとと思うと、急に身体の力が抜け、
後は男たちにされるがままだった、
ここで「有美子」を演じないと途端に疑われてしまう。
抵抗をやめた私に、
「お前に幾ら払ってると思ってるんだ。
「報酬は全額、翔さんの財布の中でしょ」
笑いながら男だけで爆笑している。
あんたには、こんな1面もあったの?
「翔、有美子ってこんな人形みたいな女だったか?」
その言葉に私は凍りつき、
「まだ…早紀子が死んだショックから…抜け出せなくて」
と翔に懇願するように言った。
「気持ちは解らない事もないが…金貰ってんだよ」
「報酬金、全て翔さんが持ってくからハリがないんじゃないか」
男たちは笑った。心の中にはもう早紀子の欠片もなかった。
私は狂ったように振舞った。
毎夜、毎夜。
「もうどこにもいないの」
私を抱きながら翔が
「何が?」
と尋ねた。
「自分自身。」         

さようなら、私が殺した私

さようなら、私が殺した私

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2018-03-01

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