あの娘なんか

こういう女の子っているよねー。
って思って書きました。

お金で解決できない事なんて世の中には何一つないもの!

何をやっても私の方が上だった、
勝っていた、容姿も、頭の良さも、学校の成績も。
希望は美しい少女だった。
希望は血の味を感じる程、唇を噛む。
なのにどうして、あの子なの?
優しくて素直で性格がいいから?
性格がいいって何?
それがなに?
それを演じるのは本当に簡単。
そうよ、簡単なのよ。
そして、それが、一体、何になるというの?
朋美の身体を傷つけてやりたい・・・それは希望に取ってごくごく、
当たり前の欲望だった。
私は傷ついたわ!
こっちも一生、傷が残るくらい、
あの女に大鉈を振るってやる!
いざとなったらお金で解決するわ、
それに私はまだ17歳。17歳なのよ!
だから、きっと・・・何をしても大丈夫。

今年、優也、希望、朋美は初めて3人同じクラスになった。
3年連続同じクラスになった親友同士の希望と朋美、
そして、2人とは初めて同じクラスになった優也。
優也は、希望と言う彼女がいるにも関わらず、
絶えず女子に人気がある、希望の自慢の恋人だった。 
希望は、「彼」に「親友」を改めて紹介した。
綺麗で異性にいくらもてても彼氏以外には目も向けない私。
どこから見ても完璧な私が、
平々凡々なこんな地味な子と友達をやってあげてるの!
私、優しいでしょ!
みんな、見て。
どの角度から見ても完璧な私を見て!

「彼」の優也と「親友」の朋美。
面識はあったが挨拶以上に話したり、
お互い、深くは知らないはず・・・
でも、朋美は優也の事が好きなんじゃないかと希望は思っていた。
根拠はないけど、なんとなく。
可愛そうな朋美。
相手がこの私なんて、戦えないわよね。
笑ってしまうわ。
地味でみっともない朋美の癖に、優也の事が好きなんて。
希望は優越感からくる笑みを浮かべて、
優しい眼差しで自分より劣っている親友を見た。
朋美は学年一の美人と言われている華やかな希望に比べたら、
ごく平凡な目立たない容姿の少女だった。
貧乏な家庭の長女で、他人に従順で、おとなしくて、魅力のない、
運に見放された、つまらない朋美。
目立つ事が好きな希望の、理想の引き立て役、忠犬に似た朋美。
利用してやってる、使い勝手がいい、疑う事をしらない素直な朋美。
心のどこかで常に朋美の事を希望は、朋美を、見下していた。
とりたてて、社交的でもない、クラスでも目立たない娘。
あまり深く考えることをしない、扱いやすい、
朋美のような馬鹿な女が、希望は大好物だった。
「優也、顔と名前くらいは知ってるよね、
今日から同じクラスの朋美。私たち、親友なの。」
朋美は無言でぺこっと頭を下げる。
「そして、朋美。改めて紹介するわ。私の彼の優也よ。
二人、これから、仲良くしてね。」
「よろしく、朋美ちゃん。」
「こちらこそ。」
これが3人の関係の始まりだった。
希望はいつも、輪の中心にいないと気が済まないタイプの少女だった。
本当の希望は、人に愛されて育った愛に恵まれた人間が大嫌いな、
根性のネジくれた少女。
「私たち、親友よね」
そう、言いながら、
希望は朋美の事を心底馬鹿にしていた。
「あの貧相で、醜い身体の女」
女として異性を引き付けるのは、私。
そう自負していたし、実際、朋美は異性には人気があり取り巻きもいた。
「朋美なんて、まともに恋愛も出来ないくせに」
朋美には心臓の手術の跡が大きくあった。
朋美は生まれつき心臓が悪く、手術の跡が酷く残っていた。
それが、朋美の引け目になり朋美は高校3年生の今まで、
まったく恋愛が出来ずにいた。
御しやすい「親友」と素敵な「彼」に囲まれて
高校3年生の一学期は平穏に終わろうとしていた。

夏休み前に、希望はおかしな事を、クラスメイトから耳にした。
「ねえ、のんちゃんは、優也くんと別れたの?」
「別れていないわよ。喧嘩もしていないし、
でも、しばらくは土日逢ってないけど。どうして?」
「優也くん、休みの日に〇〇駅周辺で、よく朋美と一緒にいるわよ。
二人の事を、見た子も何人かいるわ。
私も〇〇駅が最寄りだから何回か二人をみたわ。
〇〇駅は朋美の最寄り駅でもあるし。のんちゃん、のんびりしていて、
朋美にちゃっかり、優也くんを盗られたんじゃないの?」
そんなはずはなかった。
「でも、朋美に限って」
「ああいう庇護欲をそそるタイプが男は、案外、好きなのよ」
礼子は言う。
庇護欲。
「朋美じゃなくても、優也くんが振り向いてくれたら、
嬉しいでしょ。ラッキーだわ。」
朋美、あの私の下僕が?
私の優也にいったい何をしかけたの?
屈辱だった。
嫉妬より強い、この感情。
この私が、あの娘なんかにやられた?
あの娘なんかに。
希望は事実を確かめずにはいられなかった。
「のん、朋美は悪くないんだ。俺が朋美のことを先に好きになったんだ。
だから、朋美を責めないでやってくれないか?」
「のんちゃん、優也くんは悪くないのよ。」
希望は叫んだ。
「庇いあわないで!
優也、こんな、朋美なんかのどこがいいの?
容姿も平凡で成績も普通だわ。家も貧乏だし、そうよ!
第一この子、 貧乏臭いのよ!スタイルだって、私の方が身長もあるしずっといいわ。
朋美なんかより、私の方が優也に、ふさわしいのに!それに、朋美はね・・・。」
どうして?
そんな呆れたような悲しい顔で二人揃ってこっちを見ているの?
哀しいのはこっちよ。
朋美は、なんで泣いてるの?
泣きたいのは私よ!
朋美なんか、被害者顔して・・・希望は沸騰寸前だった。
ドス黒い感情が湧き上る。
まるで、私が悪いみたいじゃないの。
「ストップ。そういうところだよ、のん。
俺はいつも一段高いところから人を見ている、
そういうお前に最初は戸惑って、悩んで、もう、疲れたんだ」
疲れた・・・?
「優也、違うの。私の話を聞いて。優也」
「俺、お前と朋美のこと、ずっと見てきたけど、
お前ら、主従関係にしか見えなかったよ。
お前、いつも朋美をどう有効に使おうか、
考えている近所のいやらしい意地悪なおばさんにしか、見えなかった」
「のんちゃん、ごめんなさい。私、私」
朋美は泣いて言った、
この、私が嫌いな素直で素朴な朋美の本質が嫌いだった。
「朋美!あんたは、いい子過ぎて、気持ち悪いのよ!吐きそうだわ。
本当のいい子はね、友達の彼氏を盗ったりしないのよ!何なの、
いいこぶって!」
希望の口から本音が出た。
こんな事って。
この私が恋人を盗られる?
よりによって、
この朋美に?
こんな、生まれつき運に見放されたような女に。
「優也、こんな朋美のどこが」
「優しい。性格がいいんだ。ただ、好きなんだ。」
「貧乏でも仲のいい暖かい家族、そんな家で育ったら、
誰でも性格くらい良くなるわよ!
私の、私が育った冷たい家庭環境のこと、優也も知ってるでしょう?」
優也の少し困った顔。
「性格がいいなんて、それだけの理由で私から乗り換えるなんて!
許さないわ。私がだめなところは努力するわ。
朋美に出来て私に出来ない事なんて、何一つ、ないもの!」
優也の顔がグニャリと、歪んで見える。
「朋美なんてつまらない子じゃない。
朋美に一体、何があるの?
お願い、優也。考え直して、もう一度、私を見・・・。」
「もう、これ以上は無理だ。無駄だ。行こう、朋美。」
「朋美の肩なんて抱かないでよ!」
「どんな環境で育っても、お前はお前だよ。
そんな簡単な事も、まだ、お前はわからないのか?」
暖かさの欠片もない言葉。
「優也、私、変わるわ。変わって見せる。」
どういえば、伝わるのだろうか。
優也に、この私の気持ちが。
「そうだ!優也、私に何かプレゼントさせて。
何がいいか分からないから、一緒に選んで?ね?優也?」
優也は呆れたように、少し辛そうに、
朋美の肩を抱き、立ち去ろうとする。
二人の後姿が見えなくなっていく。
「私、優也がいないとだめなの。」
ああ、私は何を言って・・・。
こんな台詞、プライドが許さないのに。
違う、プライドなんて、とっくの昔に捨てている。
「お願い、待って、そうだ。優也、朋美はね、
身体に傷があるのよ。一緒にお風呂に入った時に見てしまったけど。
それが、どんなに大きくて醜い傷か!
あんなのみたら、誰だって嫌よ!汚くてみっともない!」
泣きながら、そこまで言ったとき、希望は優也に頬を叩かれた。
「そういうところが、醜いんだ、お前は。
朋美の傷の事は二度と言うな。許さない。」
そんな馬鹿な、私が負けるなんて。
美しい希望は「醜い」と、人に言われたのは初めてだった。
朋美なんか、朋美なんか、朋美なんか!
私から、優也の気持ちが移った。
希望は、へたへたとその場に座り込んだ。
優也は振り向きもせず、朋美の手を引いて去って行こうとしている。
朋美は時々、後ろを振り向きながら、優也に手を引かれ歩いている。
嘘よ、こんな・・・。
こんなことって・・・。
夕暮れに周囲がぼやけて見える。
一瞬目の前が真っ暗になる、バランスを失う。助けて、優也!
優也と朋美は、すうっと消えるように見えなくなっていった。

このままでは、終わらなせい。
朋美なんて、めった刺しにして、殺してやる。
希望の中の真っ黒な塊がとろとろととろけはじめた。
何をすれば、あの二人の魂までを傷つけることが出来るだろう。
考えることは、とても楽しかった

「堀内希望さんですね。」
夏休みの終り、ドアを開けると、制服姿の警官が二人、立っていた。
「堀内希望さん、署まできてもらいます。」
「私が?何故ですか?」
何?
何なの?この展開は?
「容疑は・・・田坂朋美さんに対する『強制性交罪』です。」
「私は何も・・・。」
「田坂さんより、被害届が出ています。あなたが支持を出した少年二人も自首しています。」
「私は何も・・・。
私の取り巻きが勝手にやったことだわ。
「とぼけても無駄です。ご丁寧に撮影までしているじゃありませんか。写真を使って、
一生、田坂さんを強請るつもりだったようですが、あなた、自分もしっかり写っていますよ。まったく、間抜けな話です。」
いいえ・・・私は何も。
「最近の女子高生は・・・末恐ろしいとは、あなたの事です。堀内希望さん。」
何が悪いと言うの?
私は復讐しただけです。
人の恋人を奪うような女を法的に処罰してもらいたいくらいだわ。
「私の取り巻きはこう言ったの。『希望のためなら何でもやるよ』
だから、やったのよ、人の男に手を出す女に報復して何が悪いんですか?
私は美しいから、男って少し飴をくれてやればなんでもやるのよ。
朋美を呼び出して、屈辱を与えてやったの。
私、手を下してないわ。『教唆容疑』に当たる?
それ、なんですか?とにかく、指示なんかしていません。
男たちが勝手にやっただけです。だから、家に帰して。
うちはパパもママも弁護士なんです。私は運がいいわ。
パパとママに相談する時間を下さい。中学のときは示談で済んだの、
今度も朋美の家は貧乏だからお金を積めば何とかなる。
お金で解決できない事なんて世の中には何一つないもの!
学校側には寄付でなんとかするわ。1000万もあれば解決するかしら?
お願い、刑事さん。幾らでも用意するから、今回は見逃して!」
違う・・・混乱している。何もかも話すわ。
私がここまで怒ることなんてないのよ?
「そうよ、私が取り巻き2人に、指示を出したの。
私は自分の手をこんなことで汚すのが、嫌だった。
教唆容疑?・・・ですって? 軽く済みそうって昨日、ママが言っていたわ。
転校しないとだめみたいね。するわよ、転校くらい。
私は綺麗だから、転校先でもすぐに取り巻きが出来るわ。
ねえ?刑事さん?あの二人、優也と、朋美・・・の事をうまく傷つけることが出来たかしら?
パパが足を引っ張るなって怒っているみたいなのよ。
弁護士もサービス業だから。
今、L.Aあたりのハイスクールを探しているみたいよ。
今度、海外で何かしたら、親子の縁を切るって言われたの、刑事さん。
今、この瞬間に、朋美は笑っているの?
運のいい女ね。今度はその運に恵まれた朋美の心臓を思い切り刺してやりたいわ。」 

あの娘なんか

私の周囲にはいないけど、
世の中、わんさかいると思う。
生々しい感じが出ていたら幸いです。

あの娘なんか

  • 小説
  • 短編
  • 青春
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2018-03-01

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