復讐劇
復讐。
怖いけど、やってしまう人の気持ちは分かる。
女が男にできる復讐ってね。一つしかないの。愛していない男の子供も産むのよ
ちょっと寄り道してもいい?私『堂〇ロール』を買って帰るわ」
ランチの帰りに花華がおっとり言った。
「霞を食べて生きてるんだ、花華は」
花華の夫で私の実の兄の潤がいつも笑って言っている。
花華と私は少しややこしい義姉妹の関係だ。
「だから、俺達の事も気付かない。持つべきものは鈍い嫁さんだな。しかも、気心の知れた『元妹』だ」
私と花華は同じ年なのに、5~6歳花華の方が若く見える。私はすっかりおばちゃん体型になってしまった。
だから、毎週、実妹の私の身体を抱きに来るお兄ちゃんを不思議に思う。
今だ華やかな美しさを保つ花華と小さな会社の地味な『経理のお局様』の私。
なぜ、お兄ちゃんは私の部屋に毎週通ってくるのだろう。
「はい、友ちゃん、これ」
店から出てきた、花華は私に紙袋を渡してくれた。
「『堂〇ロール』敏生お兄ちゃん、甘いもの好きでしょ。二人で食べて」
花華は無邪気に微笑む。
「今度また、蟹をお取り寄せして蟹鍋でもしましょうよ」
「そうね、敏生兄に言っておくわ」
「昴を迎えに行く時間だわ。友ちゃん、乗って、マンションまで送るから」
「ありがとう。送ってもらうわ」
私はそれなりに幸せだった。独身で自由気ままに生きていた。
何より、花華と比べて全てにおいて劣っている私が、花華の夫、私の実の兄に女として愛されている。
同じ年の4月29日に同じ産院で生まれた私、友子と花華は看護師にわざとすりかえられた。
14歳の時に間違いがわかり大騒ぎの後、本当の両親の待つ自分の家に私たちは戻った。
私はその時すでに幼馴染の「花華のお兄ちゃん」の事が好きだった。
本当の家に帰って、一緒に暮らすようになっても私は兄が好きだった。
双方の両親の強い願いもあり、20代半ばで潤と花華は早い結婚をした。
『兄妹として育ったのに女として見れる訳がない、親が煩いから結婚したが、俺はお前の方を女として見ている』
十代の終り、兄と私はお互いの気落ちを確かめあっていた。
新婚旅行から帰って来た兄に手を引かれ小さな神社に連れて行かれた。
「これから、俺とお前の結婚式だ。」
安いが若い女の子に人気のあるブランドの指輪を私の指にはめてくれて、
「神様の前で誓う、俺の嫁さんはお前だけだ、友子。結婚とか色々、泣かせてごめんな。」
私は、兄に愛されているこの幸せに酔ったまま今日まで生きて来た。
蟹鍋の当日、蟹は車で卸売市場に潤と私が買いに行った。
卸市場のすぐ近くの環状線沿のホテルに寄った。
「卸売市場が「『混んでいた』とでも言えばいいさ」
蟹を買って家に帰ると、まだ敏生は来ていない。
スマートフォンを持った花華が座り込んでいた。
「花華…どうしたの?」
「今日も探偵をつけてたの。」
「これ。さっき来たメール。ホテルに入ってく車。気が付かなかった?
関係はいつからって子供の頃からよね。
私の事、二人そろって馬鹿だって笑ってたのよね」
スマートホンをこちらに向け、花華は泣き笑いのような症状を浮かべて言っ
「馬鹿なんて言ってない!」
「敏生兄さんも慰めてくれたわ。敏生は花華の実の兄だ。
「『お前は馬鹿じゃない、潤と友子に復讐すればいいんだ。
それもとり返しのつかない復讐だ。俺たちにしかできないやり方で。」
次の花華の言葉に私と潤は凍り付いた。
「復讐、になったのかしら。血の繋がった兄の子供を産むことが。」
花華は隣の和室で一人で遊ぶ昴を見て言った。
「昴は俺の子じゃないのか?」
「そうよ。お兄ちゃん。昴は敏生と私の子供。友ちゃんも、うちの人と子供作りなさいよ」
花華は言う。
「女が男にできる復讐ってね。一つしかないの。愛してもいない男の子供も産むのよ。
私は昴の為に生きていく。
貴方たち兄妹の人生から『未来』を奪ったの。
実の兄妹の間に生まれた可愛そうな昴の成長を見守ってあげて。
あなたたちは幸せにはなれない。
この狭い街で育っていく昴を見ながら貴方たち二人は一緒に生きていくの。
どんな気分なのかしらね。少しは後悔するのかしら?」
おっとりと微笑みながら花華が何度も昴の頭を撫でた。
復讐劇
復讐されるもんが悪いって思う。