良多、花、ひらく

お元気でいて下さい。

良多さんの人生はこれから花が開くんですよ

親を恨んだ事があるかって?
まったくないとは言えないな。
産んでくれた事に感謝はしているさ。
でもさ、うちの、かーちゃん、泣くんだよ。
「留美、男の子に生んで上げられなくてごめんね」
って。
生んだ母親に罪はないのにいつまでも恨める訳がないと思わないか。
俺だって好きでこんな風に生まれた訳じゃない。
俺もかーちゃんに謝ったさ。
「女の子として生んでくれたのに俺は心が男だとかって言い出して、
びっくりしただろ? ごめんな」
ってさ。
「トランスジェンダー」
っていう言葉も多分なかった時代、
「おんなおとこー」
とか
「おとこおんなー」とか色々言われたよ。
どう、生きればいいのかなんて誰も教えてくれなかった。
それとさ、俺、一生自分の子供持てないんだ。
めちゃくちゃ子供好きなのに。
今まで色んな事を諦めて来たんだ。
俺も、家族も。
かーちゃんも何も言わないけど孫は諦めてくれたんだろうな。
まだ20代の一人娘が子宮も卵巣も何か何まで全部取るって、
女親にとってはどんな気持ちなんだろう。
かーちゃんは今も俺の変更した後の戸籍上の
「良多」って名前じゃなくて「瑠美」としか呼んでくれない。
なかなか、呼べないんだろうな。
俺も色々悩んだんだぜ、
これでも。
それこそ、10代の頃は、
周りの女友達に合わせて、
スカートはいてみたり、
化粧してみたり、彼氏作ってみたり。
男装して女の子にナンパされたり、
男子高校生になりたくて転校したり退学したり、
好きな女に『気持ち悪い』って言われたり、
全てに絶望して自殺未遂したり、
彼女と同棲したり。
実の父親と揉めたりさ。
とにかく忙しい人生だった。
今もそうさ。
LGBT(エル・ジー・ビィー・ティー)
って正しく意味まで知ってる奴なんかめったにいないだろうな。
「面倒くさい」と思ったらひとくくりに
「変態」呼ばわりさ。
「化物」って言われたこともあったっけ。
俺だってさ、
男の身体を持って生まれてきたかったんだよ。
そういえば、
職場関係の人…女の人なんだけどさ。
「男でも女でも関係ない、良多さんは良多さんです。
女の子の身体に生まれちゃったのは、
神様のいたずらじゃないですか」
って言ってくれた人がいたよ。
俺はずっと生まれてこの方、
陰にいたんだ。日陰、人影、物の影。
とにかく日当たりは悪かったよ。
さっき話した『おばちゃん』もさ、
壮絶な人生で経験値の高い人でさ。
よく二人で
「こんな人生は荷が重い」
って深刻に話し込んだりした。
その人こうも言ってた。
「私は娘が彼女を連れてきても、
息子が彼氏を連れてきてもウェルカムです」
あの人はそういう人だった。
俺が当時の彼女と別れるきっかけになった事にも、
おばちゃんは俺の代わりに、
めちゃめちゃ怒ってくれた。
内容が内容だからさ、
詳しくは言えないけど
元々、正義感の強い性格なんだろうな。
俺の人生、ほんと、荷が重くてさ。
自分でも嫌になるけど、その人が、
「良多さんの人生はこれから花が開くんですよ。
私は蕾のまま腐ってますけど」
なんて言ってくれたから、
これからの人生、
生きて行けると思うんだ。
だから、
「俺は世界で一番幸せな男であります!」
って胸を張っていえるほど今は幸せなんだ。

良多、花、ひらく

知り合いのトランジェスターの方をモデルに書いた話です。
今、良多さん(仮名)は男性として生きておられます。
良多さんの人生の花が大輪の薔薇のように開きますように。

心を込めて祈ります。

良多、花、ひらく

  • 小説
  • 掌編
  • 青春
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2018-03-01

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