黒い猫神

黒い猫神

黒猫幻想小説です。PDF縦書きでお読みください。



 仕事場の忘年旅行である。東京からバスをしたて、三時間あまりかけて、長野の温泉郷にやって来た。
 いつものことであるが、今日の忘年会の余興ではちょっとばかり恥ずかしい手品を披露した。僕は歌も歌えない、しゃれたことはできない、芸無しはこういう場が苦手である。そんなことで、小学生でもわかってしまうような手品をいくつか覚えているが、それを披露したわけである。同じものを何回かやっているのに、女の子たちは手をたたいて喜んでくれた。とても良い仕事環境である。
 皆の余興が一段落した。僕はトイレに立った。
 戸を開け、木のサンダルに履き替えると、小便器の前に立った。端の小便器の前に黒っぽい人が立っている。前を広げてさて出そうかと思った矢先、その黒い人が「まて」とこちらを向いた。
 ちょっと縮み上がって出すのをやめ、黒い人を見た。
 どうみたって真っ黒な猫だ。猫のぬいぐるみを着ている。誰なんだろう。
 「どうだ、一緒に外でやろう」と真っ黒い猫が僕を見た。
 真っ黒な猫の人はトイレの出口に向かうと僕に来いという合図をした。
 僕は出していたものをしまうと彼について行った。
 廊下のガラス戸を開けると、黒い猫の人はこっちだと合図を送ってきた。
 下駄をはいて庭に出た。顔に冷たい空気が取り巻いた。庭にはかなり雪が積もっている。
 猫の人の黒い尾っぽがひょこひょこと動いている。上手なものだ、本物みたいだ。
 黒い猫の人は建物の陰に入ると手招きをした。
 黒猫人はすっくと立つと、前の庭に向かっておしっこをはじめた。
 「お前もやれ」
 僕も並んでおしっこをした。
 黄色い点々が白い雪の上に模様を描いた。
 黒い猫の人は終えてしまうと、さっさとチャックをしめて、いや、何もしなかったようにも見えたが、僕のほうに顔を向けて、
 「気持ちいいね。そいじゃ」
 と、一人で戻っていってしまった。
 なんなんだ。
 僕も終えると建物の中に入った。

 宴会場に戻ると、
 「おそいじゃないか」と同僚が酒をついでくれた。
 「今、黒猫のぬいぐるみを着た人がトイレにいたけど誰だろう」
 「誰もここからでていないぞ」
 部長がニコニコしている。
 「それじゃ、よその人か」
 「何かあったのか」係長が聞いた。
 「なにも、外でつれしょんをちょっと」
 「えー、雪の中でか」
 「うん」
 みんな笑っている。
 「誰だったんだ」
 「いや、わからなくて、真っ黒な猫が」
 それを聞いたみんなは大笑いになった。冗談だと思ったらしい。
 それから、しばらく宴会は続き、お開きになった。
 この旅館は一人部屋が多く、一人で寝ることができるのは気兼しなくてよい。僕の部屋は三階の一番隅の階段の脇であった。
 
 ふと目がさめ、ベッド備え付けのデジタル時計をみると、夜中の三時だ。外の雪はとカーテンをめくって見ると止んでいる。
 明かりを点け、冷蔵庫から水を取り出して飲んだ。その時、机の上の、二十四時間掛け流し露天風呂の案内が眼にはいった。宴会の後に風呂に誘われたが、だいぶ飲んだので一緒に行かなかった。特に風呂が好きなわけではないが、眼が覚めたこともあり、行ってみることにした。
 一階まで階段で降り、フロントの前を通り、少し長い渡り廊下をいくと、男女の露天風呂があった。女風呂の前を通ると明かりが消えている。誰も入っていない。突き当りの男風呂には電灯が点いていた。
 ガラス戸を開けると、広くて落ち着く黒い石づくりの浴槽が眼にはいった。
 からだを流すと浴槽に身を沈めた。ガラス戸越しに雪の積もった木々が重たそうに首をたれているのが見える。
 ほどほどに温まって、外の露天風呂に出た。屋根がかかっているとはいえ、冷たい空気がからだを刺す。露天風呂は大きな自然石に囲まれていた。寒いのであわててはいると、脇のほうに黒っぽい人影が見えた。
 首まで浸かって、その人を見ると、こちらを向いて手を挙げた。また、真っ黒な猫だ。縫いぐるみを着たまま入っているのだろうか。
 「よお、いい露天風呂だな」
 かなり、ぞくっとした。
 「どうだい」
 黒い猫は、風呂に浮かせたお盆を引っ張って近くまで来た。
 どう見たって猫だ。顔の髭がぴくぴく動いている。
 お盆の上にはお銚子が一本と猪口が二つあった。
 「一人じゃつまらんので、ちょうど良かった」
 黒い猫は酒を注いだ猪口を僕に差し出した。
 夢を見ているのだろうか。
 とりあえず受け取って、一口に飲んだ。確かにうまい酒だ。
 黒い猫に猪口を返すと、
 「こりゃあ、雪国の酒で一番うまいやつだ」
 黒い猫はまた酒を注いで僕に渡してくれた。
 黒い猫が僕を見た。
 「度胸があるな。大きな猫なのに怖くないのか」
 なんと答えて良いかわからず、「つれしょんしたから平気だ」と言うと。黒い猫はひゃひゃひゃと笑った。
 「そうだな。まあ、もう一杯、おっとと、空になった」
 黒い猫が手をたたいた。
 すると、真っ白な猫が尾っぽを振ってお銚子をもってきた。
 どこから来たのだろう。
 「おお、すまんな、暖まっていったらどうだ」
 と黒い猫は銚子を受け取った。
 白い猫は、「ほほ、いやよ」
 と、ぽっと消えてしまった。
 なんなのだろう。
 「あいつは、恥ずかしがりやなんだ」
 黒い猫はまた酒を満たして猪口を僕に渡してくれた。
 「何かの縁だな、よろしくたのまあ」
 と自分も飲んだ。
 そのうち、黒い猫はラッコのように湯の上に浮かぶと、うっつらうっつら舟をこぎはじめた。
 もうずいぶん長いこと湯に浸かっている。
 黒い猫は幸せそうに湯に浮いる。僕は声を掛けずに湯から上った。
 朦朧として部屋に戻り、ベッドに入るとあっという間に寝てしまった。

 とんとんと戸をたたく音で眼が覚めた。
 時間をみるともう八時だ。
 「ごはんよー」
 同僚のあさりちゃんが起しに来てくれたようだ。あさりちゃんは僕より一年後に入社した子で、英語がとっても得意だ。外人さん相手に活躍している。
 僕の勤める会社は「石」屋である。きれいな色の石を売るのだが、いわゆる宝石類ではなく、「墓石」の類だ。これまた、ただの墓石ではなく、ペットの墓石屋なのだ。これが意外と注文がある。きれいな石で小さな墓石を作り、なくなったペットの名前を刻み、自分の家の墓の隣に置くのである。さらに、自分の庭に置いたり、盆栽の脇に翡翠でできた墓石をそうっと置いたりしている人もいる。特に外人さんに売れる。みんな社長が考え出したものだ。
 あわてて歯を磨いて朝食の会場に行くと、社長の隣しか空いていなかった。もうみんな食べ始めている。
 社長は秋田の湯沢で御汁粉屋をやっていた人だ。飼っていた真っ白い猫が老衰で死んでしまい、自宅の庭の梅の木の脇に埋めて弔った。その時、庭の片隅に放り出されていた緑色の手のひらほどの大きさの石が眼にはいった。よく見ると蛇の鱗のような模様があった。光にあたると鱗のように光った。社長さんはその石を、猫を埋めた前に立てた。きれいなお墓ができたと社長さんは思ったそうだ。
 後でわかったことだそうだが、その石は山登りの趣味のある弟さんが、白馬のふもとの川で拾ってきたものだったそうだ。蛇紋岩という石である。そこで社長はこの商売を考え出したということだ。今では銀座にまで店をだしている。
 「あら、遅かったじゃないの、夜遅くまで何してたの」
 社長さんがアジの干物をつつきながら大きな眼で僕を見た。
 「夜中、露天風呂に入ったもので」
 「それだけえ、誰と一緒だったの」
 社長さんは突っ込んでくる。
 「黒い猫の人と風呂で酒を飲んだもので」
 僕はまじめに話してしまった。
 「アーラ、まだ酔ってるの」
 社長さんはマシュマロのように白い顔に笑窪を寄せて笑った。
 「まあいいわ、楽しんだのでしょ」
 社長さんは味噌汁を一口飲むと部長さんに言った。
 「今日は、これからどこに行くのでしたっけ」
 「はい、行き当たりばったりで、運転手まかせということになっています」
 「ふーん、運転手はどんな人」
 「はあ、よく覚えておりませんで、すみません」
 部長さんは顔を赤くして、あやまった。
 「でも、面白そうね。あっそうだ、思いついたのだけれど、これからは、ペット用の墓石ばかりではなく、人の位牌代わりに売り込もうと思うのよ、皆どう思う」
 いきなり、皆が食べているところで大きな声をあげた。
 社長さんは秋田でも色の白いふっくら顔の美人である。ところが、引き締まった顔になって、いきなり今話していた事と違うことを言い出すことがある。それでこの会社はもっていると言ってもいい。
 係長さんが聞いた。
 「戒名を彫るわけですね」
 「戒名だけじゃないのよ、好きなお花を彫ってもよいかもしれないしね。裏に本名と、亡くなった日付を入れるのよ」
 「それは受けるかもしれません。宝石箱のような仏壇をつくって、そこにしまっておくのがいいかもしれません」
 僕もそう言ってみた。
 「君、それはグッドなアイデアね、君が主任になって頂戴」
 ということで、忘年会に来て位牌主任になった。
 
 さて、朝食もすみ、帰り支度をしてフロントに集まった。
 社長さんは黒いシャツに、黒いパンタロン、白い靴を履いている。黒い背景にいくと、顔と足先だけが動くように見えるだろう。
 バスが入口についた。皆ぞろぞろとバスに乗り込んだ。
 僕が一番最後にステップを登ると、運転手は僕を見てにたっと笑った。あの黒猫だ。前を行くアサリちゃんに声をかけようとしたら、黒猫の運転手は首を横に振った。言ってはだめだというのだろう。
 何が起きるか知らないが、まあいいか。
 僕の席は運転手側の前から二番目だ。前にはアサリちゃんがいる。このバスは両側に一人ずつ座るようになっている贅沢なものだ。三十人ほどの席のある中型である。
 運転手さんは前をむいたまま、
 「さて、皆さんおそろいでしょうか、今日一日楽しい旅と行きましょう」
 そう言ってエンジンをかけた。
 アサリちゃんが「どこにいくのかしら」と独り言を言ったところ、運転手は、
 「名古屋城にいきまあす」
 とバスを出発させた。
 「名古屋城だってさあ」後ろのほうからわいわいと声が上がった。
 バスはくねくねと下って、広い道に出ると、あっという間に中央高速にはいった。
 「はやーい」あさりちゃんがびっくりしている。
 バスは他の車をどんどん追い越していく。二時間も走ると、名古屋にはいり、名古屋城に向かう。名古屋城が見えてきた。
 「あ、名古屋城」、あさりちゃんが叫んだのだが、バスは止まらずにそのまま通り過ぎた。
 調子よく運転しながらバスの運転手は言った、
 「名古屋城より、犬山城のほうがいいよ。成金の名古屋城よりゃ、国宝の犬山城だねえ。室町につくられたんだよ、六百年も前だぜ」
 運転手は誰にものを言っているのだろう。変な運転手だ。だが、誰も気にしていないようだ。はじめから犬山城に行くと言えばいいのに。
 バスは走り続け犬山城についた。バスが停車し、運転手がドアを開けると、地元のガイドさんが乗り込んで来た。社長さんと同じくらい色の白いお嬢さんだ。どこかで見たことがあるような気がする。
 ガイドさんは清らかな声を上げた。
 「犬山をご案内します。お昼もここでお召し上がりください」
 皆ぞろぞろと降りると、
 「行ってらっしゃい、ここで待ってるぜ」
 運転手が運転席に座ったまま手を振った。でも、なんと言うセリフだ。
 降りるとき運転手の横顔に髭が見えた。今度は僕のほうを見ないようにしている。
 運転手の言う通り確かに犬山城は落ち着きがあり、ゆったりとしたいい城である。木曽川に張り出した高台の上にある見晴らしのよい城で、造られたのは千五百年代だ。
 我々はガイドさんの後について城に入り、一番上まで登った。上から眺める景色も良かった。木曽川がよく見える。
 社長さんが聞いた。
 「あそこに見えるお寺はなあに」
 少し遠いが、木曽川沿いに緑色の屋根の寺が見えた。
 ガイドさんはそれを見ると首をかしげた。
 「あれ、あんなお寺、昨日はなかったけどな」
 ガイドさんが困っていると、社長さんはあの寺に行ってみましょうと言いだした。
 我々はぞろぞろと狭い階段を降り、バスに乗り込んだ。
 「もうお帰りですか」
 運転手は帽子を深くかぶってバスのエンジンをかけた。
 なぜか城のガイドさんも乗っていた。ガイドさんは運転手に言った。
 「お客さんが南のほうに見えるお寺に行きたいって言うものだから、お願いできますか」
 「ああ、緑(りょく)猫寺(びょうじ)ね、よく見つけたね」
 運転手はそのお寺を知っていた。バスを五分も走らせるとそのお寺に着いた。
 お寺の前で我々が降りると、運転手は駐車場に止めてきますと、バスを発車させた。
 緑猫寺の入り口はとても小さく、かがまないと入れない。開いている門の戸には猫が彫られている。観光客は誰もいない。
 皆が入口の前に集まってガイドさんを囲んだ。
 真ん中にいるガイドさんは、白い顔を桃のようにピンクに染めて、
 「私はこのお寺のこと知らないのですみません。運転手さんが知っているようですので、もどってきたら説明してもらいます」
 と困っていた。
 「おう、遅くなった」そこに、運転手が早足でやって来た。
 おかしい、黒猫ではない。コーヒーの宣伝に出ているアメリカの俳優そっくりである。そう、トミー・リー・ジョーンズだ。彼を見た社長さんが、「アラすてきな運転手さん」と、声を上げた。社長さんごのみのようだ。トミー・リー・ジョーンズは僕のほうを見てちょっとだけウインクした。黒猫が化けているんだ。社長さんの好みを知っているんだな。
 「この寺は犬山城と同じ室町時代にはじまったもので、緑猫宗の総本山です」
 運転手は説明を始めた。
 総本山といってもずいぶん小さいし、そんな宗派があっただろうか。
 「日蓮上人の隠し子と、空海の隠し子が一緒になり、その子どもが飼っていた白猫が年をとると緑色になり、多くの知恵をその子どもに授けたことから、緑猫を祀ったこの寺が造られたそうです、雑学の知恵が授かるという、猫仏像がご本尊として祀られています、中にお入りください」
 本当に嘘くさい。大体、日蓮と空海じゃ時代が違うじゃないか。
 「間違えた、空海の隠し子の孫が一緒になったのです」
 運転手が訂正した。だが、そんなことはどうでもいい。みんなの目は期待に輝いていた。
 くぐり戸のような門をかがんで入ると、真正面にいきなり釣鐘堂があり、大きな緑色の釣鐘が吊るされている。運転手はその脇を通ると、本尊のある本堂へとむかった。庭は意外と広く、本堂の屋根は銅葺きで、緑青がわいているので緑色に見えた。
 太い木でできた階段を上がったところで靴を脱ぐと、本堂の中に入った。非常にさっぱりとした堂内で、真正面の木彫りの菩薩は、特に猫の顔をしているわけではなく、穏やかないい顔をしている。
 運転手は本尊を指すと言った。
 「これは、最も古いあやかしの本尊であります、ここに、またたびの粉がありますが、これを、勇気のある方は焼香台にくべてみてください」
 社長が手を挙げた。「わたしがやるう」
 「五百円です」運転手が言った。
 「え、高いのね」
 「これは本当のまたたびの実、特に虫こぶのものを乾燥させ粉にした手製でして、はい、安すぎるくらいで」
 運転手は手をだした。「わたし秋田生まれなのよ、またたびなんか山に行けばたあくさんあった」と言いながらも、社長さんは五百円玉を渡した。
 またたび粉のはいったかわらけを受け取った社長さんは、さっさと本尊の焼香台の前にいき、またたびの粉をぱかっと振りかけた。
 煙がぱっと上がると、がらーんと大きな音がして、本尊が爆発し、菩薩の顔が緑色の猫に変わった。太い尾っぽが生え、菩薩の手が猫の手になって、社長さんを抱きしめた。
 「きゃああ」社長さんの声があがると、また、がらーんと音がして、猫はもとの菩薩にもどった。
 トミー・リー・ジョーンズの運転手が言った。
 「こりゃすごい。社長さんはこれで雑学に目覚めるぞ」
 社長さんもびっくり、見ているほうは驚いて口を開けたたままだ。
 「このご本尊は、日本で始めてのからくり本尊なのです。自動仕掛けのご本尊などはここにしかありません」
 ということで、口をあんぐり開けたまま本堂を後にした。
 社長さんが甘えた声で言った。
 「運転手さん、ここにこれてよかったな、あとお墓が見たいなあ」
 運転手は、
 「さすが社長さん。ここの墓はすごいんだ」と片目をつむった。
 ぴょこんとひげが生えたが誰も気がつかなかった。
 本堂の階段を降りると、寺の裏手にある墓地に行った。
 墓は高い石塀に囲まれているので中が見えない。
 入口があるが石でできた戸が閉まっている。
 運転手は塀に沿って角を曲がり、猫が彫られている石をなでた。運転手はさらに歩いて墓の裏手に来ると、鼠が彫られている石をなでた。また歩き左にまがると猿の彫られている石をなでた。塀沿いに歩くと、とうとう入口にもどって来た。みんなぞろぞろと墓場を一周したわけである。
 運転手は入口の丸い石をなでた。すると不思議、石の門が左右にごろごろと開いた。入口を開けるのも仕掛けである。
 ぱっと眼に飛び込んだのは緑色であった。
 社長さんが、また、「きゃああ」と声を上げた。
 みんなもまたびっくりした。
 百八基あるすべてのお墓が緑色の翡翠でできていた。
 われわれは翡翠のお墓の間を見て回った。どの墓も猫の顔が彫ってある。
 「私ここのお墓にはいりたい」
 社長さんが言った。
 運転手が「残念ですな、無理ですな。これは猫のお墓です、しかも高価です」
 と言ったので、これでまた驚いた。
 「私の商売を室町時代からやっていたなんて、なんと素敵なのでしょう」
 社長さんが溜息をついた。
 われわれが墓をでると、じじじいと音がして石の入口が閉まった。
 「墓が盗まれるといけないから、からくりの入口になっています」
 納得しながら、バスのところに戻ってきた。
 「あ、食事をし忘れた」
 運転手が言った。
 バスの中ではお城のガイドの女の子が待っていた。
 「買っておきました」と、お弁当をみんなに配ってくれた。
 「バスの中で食べてください」
 気の利く子だ。そういえば、あの露天風呂でお銚子をもってきた白猫に何処となく似ていなくもない。
 「さようなら」、ガイドさんが手を振った。ちらっとひげが見えたような気がした。
 みんなも手を振った。
 バスが出る。
 みんなは弁当の包み紙をはがした。だいぶお腹が空いている。
 中から出てきたのは猫の絵が描いてあるただの箱だった。開けるところがない。
 みんなが騒ぎ出した。誰かのお腹がグーッとなった。社長さんだ。社長さんは恥ずかしそうに、「誰か開けて」と大きな声を出した。
 運転手がにたにた笑っている。
 あさりちゃんが、
 「だめだニャー」
 と言ったとたん、あさりちゃんの弁当がパカット開いた。
 「開いた」
 猫の鳴き声で開くからくり弁当だ。
 みんな、ニャーとかニャニャアーとか言って弁当を開けた。
 中はおかかのお結びが詰まっていた。
 猫の鰹節弁当と描いてあった。
 「あら、意外と美味しいわ」社長さんがお結びをほうばっている。
 暫らく静にお結びを食べた。
 こうして、バスは桑名により、ハマグリの佃煮を買うと東京に戻ったのである。バスが銀座の会社につくと、みんなぞろぞろと降り、一番最後に降りた僕に運転手が、帽子をとって言った。
 「またなあ」
 真っ黒な猫にもどっていた。
 
 年が開けた。会社が始まると、早速、僕は宝石の位牌を売りに地方を回ることになった。会社が見本用に僕の名前を入れた翡翠の小さな位牌を作ってくれた。
 とりあえず社長さんの田舎にいってみることにした。秋田の湯沢は湯沢市で、新潟の湯沢は町である。だが、あまりにも新潟の湯沢がスキーで有名になったものだから、秋田の湯沢は取り残されている。秋田新幹線も通っていないし、山形新幹線も到達していない。秋田新幹線の大曲駅と山形新幹線の終点である新庄駅の間にある奥羽本線の駅である。しかし、城下町の湯沢は京都から嫁いできた佐竹藩のお嫁さんのための、しゃれたお祭りや七夕がある。有名な秋田の酒の本舗ももある。僕の好きな稲庭うどんや漆器も有名なものがあり、奥に行けば小安峡のいい温泉がある。にもかかわらず知られていない。
 僕は秋田新幹線の大曲に東京から四時間かけて到着し、そこから奥羽本線くだりに乗って湯沢に向かった。たった二両の電車だ。途中の駅の名がまた面白い、醍醐、十文字、歴史を感じさせる。
 湯沢に着くとまず駅の中を見渡した。おじいちゃんおばあちゃんが孫や子どもを迎えにでてきている。これは売り込みにいい場所である。
 早速、孫を連れて嬉しくて顔をくしゃくしゃにしたおばあちゃんをつかまえた。
 「どうです、新しい位牌をお安くしますが」
 僕は鞄から翡翠の位牌をみせた。
 おばあさんは、
 「ほー、きれいだなんす。ほんで、なんすか、これ、くれるんか」と手を伸ばした。
 ぼくはあわてて、「いや、見本で、あげられないのです」と握り締めた。
 「なーんじゃ、見本ならくれても良かろうに」
 と言われて、「いや、また」とその場から逃げ出した。
 街中を歩いていくと広い間口のお菓子やさんがあった。名物酒泉もなか、三杯餅とある。
 ここは地元の人が来そうな店である。中に数人の客がいる。そこで待ち伏せ作戦をとることにした。
 おじいさんが孫を連れて和菓子を買うとでてきた。
 「お位牌の販売をしております、とてもきれいなお位牌で、植木鉢にも置けるものです」僕は見本を差し出した。
 おじいさんは僕が持っている翡翠の位牌をみた。
 「きれいですのお」
 「これきれい」
 孫の女の子も触ろうとした。
 「おいくらですかの」
 「戒名かお名前を入れて二万円です。
 「えれえ安いのう」
 これは脈がある。
 「わしの店にきなっせいキノコ料理を食わせるで」
 僕はそのおじいさんのお店に連れて行かれた。
 「お客さんとっ捕まえたでよう」
 おじいさんの店は、昔からの古い建物を利用したとてもしゃれたきのこ料理屋だった。孫がチョコチョコと店の奥に入っていく。
 テーブルの一つに座った。
 入ったからには何かを頼まなければいけない。
 「ここの名物は何でしょうか」
 聞いてみると、「そりゃ、モタシ汁じゃよ、セットで千五百円」
 「それお願いします」
 と言って、さて位牌の宣伝をしようと翡翠の見本をだした。しかし、
 おじいさんは「ちょっと時間がかかるがよ、我慢してくらっしゃい」
 と飛び跳ねて奥に入ってしまった。
 十五分たってもなかなか奥から出てこない。水をしょぼしょぼ飲み、待つこと三十分。「へい、お待ちどうでした」
 おじいさんは大きなお盆にキノコがたっぷり入った汁のどんぶり、ご飯と梅干、いぶりがっこを載せてもってきた。
 「まいたけ、こうたけ、あんずたけ、なめこ、しめじ、きくらげ、イヌッコボタシ、ざっと、八十八種類のキノコがはいっているだ。美味いよ。みんな天然だ」
 おじいさんは鉢巻をとくと、僕の前に座って水を足してくれた。
 翡翠をおじいさんに見せようとすると、
 「まず、食ってけれ」
 とすすめられ、箸を取ってキノコ汁のキノコを食べた。確かにおいしい。お腹も空いていることだし、位牌の宣伝は食べた後でいいだろう。
 僕はいろいろなキノコを口に入れた。汁もちょうどよい味だ。
 「これはさー、おまけだんべ、飲んでくりゃんしょ」
 と、おじいさんは湯沢の日本酒を一合、冷で持ってきた。
 たしかにキノコ汁とよくあう。
 キノコ汁を平らげると
 おじいさんが、「これはサービスじゃ」
 と、頭の黒い網笠茸をバター焼きにしてもってきてくれた。
 「この時期に、このキノコが生えとるとは珍しいんじゃ、食べてくだされ」
  黒い網笠茸が僕の前に置かれた。じゅうじゅういっている。
 「まあーせっかく湯沢まで来たのだから、おいしいキノコをたんと食べてくだしゃれ」
 このキノコもうまい。
 ビールを一本頼んだ。
 もう位牌を売るのはどうでもよくなった。
 「どうだね、もう一つキノコ料理を食べなさらんか、茸と地鶏の串焼きなんざー、コリャおいしくて大変じゃ」
 「それじゃそれを」
 「茸は何にするかね」
 「舞茸をお願いします」
 「はいよ、天然舞茸だからね、うまいよ」
 その後、ビールを数本たのみ、茸の串焼きを八種類も食べ、幸せな気分になった。もう夕方である。
 もっと食べたいなと思っていると、隣のテーブルの客が、「もうそのくらいにしておいたほうがいいよ」、と言った。余計なお世話だと客を見ると、あの真っ黒い大きな猫であった。
 その客は、それだけ言って店を出て行った。いつの間に来ていたのだろう。
 僕も、そうしようと、席を立った。
 「さて、お勘定をお願いします」
 「へー、ありがとうございますで、二万八千ですが、どうでしょうな、翡翠の位牌を一つ注文して、残りの八千円で」
 なんだか分からないが、僕はうなずいていた。翡翠に刻む名前を申込用紙に書いてもらうと、八千円払った。
 「何時届くけ」
 「二週間後になります」
 「へえ、毎度」
 こうして僕は注文を一つとり、おいしいキノコをたくさん食べ、湯沢駅にむかった。新幹線の中で、自分が二万円を会社に入れなければならないことに気がついて、ちょっと憂うつになったがすぐ寝てしまった。
 
 東京に着いたのはもう十一時近かった。新宿に出ると京王線に乗り、うつらうつらしていると調布に着いた。通いなれた道を無意識に歩いてアパートに戻ると、疲れがどーっとでて、そのままベットに横になり寝てしまった。
 寝てしばらく経ったときである。ふと気が付くと枕元に黒い猫がいた。
 「川に行こう」と言った。
 「どこの川」
 「きれいな川だよ」
 そう言われて、僕はベッドから出ると、黒い猫の後をついて外に出た。家の前には忘年会のときのバスが横付けにされていた。
 運転手の黒い猫が「どうぞ」と、僕を先にバスに乗せてくれた。
 黒い猫は運転席につくと、「さて行くよ」と、エンジンをかけた。
 バスは深夜の町を通り、やがて山道はいると、うねうねと上に上っていった。頂上らしき場所に来ると、運転手はバスを止めて僕に降りるように言った。
 星空の下でバスを降りると、小石が敷き詰められているような場所を歩いて、遠くの景色を見た。昔、高尾山の頂上からこのような景色を見たことがある。その時は昼間だったが、遠くに新宿の高層ビルまで見ることができた。この場所からはそのような建物は見えないが、遠くに家々の光が小さく見える。
 「もうすぐ日が昇るよ」
 黒い猫の運転手がそばにきて言った。
 「川に行くのじゃないの」
 僕がたずねたその時、朝日が頭の後ろのほうから差してきた。すると、山の頂上かと思ったこの場所が大きな川の岸であることが分かった。目の前にはゆったりと水が流れ、遠くの家の光は対岸の家々であることが分かった。
 明るくなるにつれ、川の水がきらきら輝きとてもきれいだ。
 河原の石の上を歩いていくと、小石がいたる所で積み上げられていた。
 川辺には舟がずらりと並んで浮いている。
 黒い猫は一つの船に僕を案内した。
 「さー乗ろうよ」
 黒い猫は先に舟に乗ると僕の手をとって引っ張ってくれた。
 僕が乗り込むと、黒い猫は綱を解き、船の上にあげて櫂ををにぎった。
 舟が川の中に進み始めた。川の流れはゆっくりで、そんなに深くはなく底の石が透けて見える。
 舟はなかなか進まない。
 黒い猫が汗をかいている。
 僕は舟べりに腰かけ、黒い猫を見た。
 黒い猫はにゃと笑った。
 「バスの運転は得意だが船は苦手なんだ」
 やっと真ん中までくると黒い猫が言った。
 「泳ごう」
 「そんな無茶な、僕は泳ぐの苦手だよ、死んじゃうよ」
 僕が拒否すると、黒い猫は僕を押して水中に突き落とし、自分も飛び込んだ。
 「もう死なないよ、大丈夫」
  黒い猫は蛙泳ぎを始めた。
 あっぷあっぷしていた僕も蛙の真似をした。すると驚いたことに、すいすいと岸が近くなってきた。
 黒い猫は背泳ぎになって空を眺めている。
 こうしてどうやら対岸に着くことができた。
 「ほら、舟よりずっと早いじゃないか」
 黒猫は川から上がってぶるっと身を震わせて水を切った。
 確かに早かった。
 僕も岸に上がった。着ているものが濡れていない。夢なのだ。
 反対側の岸辺にも小石が積んであった。小石の上は歩きにくい。よたよたと黒猫の後をついていくと大きな竜宮のような建物が現れた。
 我々が近づくと、入口から日焼けをした四角い顔をした老人がでてきた。角帽をかぶっている。僕が出た大学の帽子に似ている。
 「ほら、偉い人が直接出てきたよ。挨拶しろよ」
 黒い猫は僕に言った。
 誰だかも知らないが、「よろしくお願いします」と頭を下げた。
 その人は、
 「そうか、そうか、とうとう来たか」
 とひとなつっこい笑みを浮かべた。
 後ろから、棒を持った赤と青いネクタイを締めた男と女が顔を出した。
 「大王様、困るじゃないですか勝手に門から出てしまっては」
 「いや、死神が帰って来るというから、一杯やろうと思ってね」
 「どうだい」大王と呼ばれた人は酒を呑むしぐさをした。
 黒い猫は死神と呼ばれているらしい。
 「もちろんで」
 さらに黒猫は大王に聞いた。
 「こいつも一緒にいいでしょう、閻魔様」
 「そりゃあいいさ、これから地獄の役割を頼まなくてはね」
 ということで、僕は黒い猫と閻魔と呼ばれる人の後について行った。
 変な夢を見ている。
 閻魔様の部屋に通されると、ウイスキーが出てきた。
 「わしゃ、いつもは角瓶の炭酸割りじゃが、今日は死神が帰ってきたので、シングルモルトにする。どうじゃアイラだ」
 「そりゃ最高ですな」
 黒い猫はストレートでその酒を口に流した。チェーサーを飲んで、あーうまいと、舌なめずりをした。
 僕にもグラスを渡してくれたので、そのウイスキーを少しなめてみた。
 とても強くて、海藻臭くて飲むのはつらい。
 「さー、ちょっと見てみるか」
 閻魔様は脇においてあった大きな水晶の玉を我々の前に転がしてきた。
 「みてみなされ」
 水晶の玉になにやら映し出された。その映像にはびっくりした。
 水晶の中であさりちゃんが泣いている。
 「あの子あんたに惚れてたな」黒い猫が言った。
 ぼくはなんだかわからなかったが、黒い猫はさらに続けた。
 「あんた、童貞だろう」
 童貞ってなんだろう。
 いぶかしげな顔をしていたのだろう。
 「ふにゃふにゃめ」
 黒い猫が笑った。
 ともかく頷くと。
 黒い猫はなんともいえない顔をして
 「まあいいや、死神になりなよ」
 と言ったのである。
 水晶玉に目をやると焼香台が見えた。僕の名前の彫ってある翡翠の位牌の見本が置いてある。
 社長さんが焼香台に向かって歩き出した。
 すると、あさりちゃんがそれを押しのけて焼香台の前に立った。泣きながら焼香を始めた。焼香を終えると、いきなり翡翠の位牌を抱きしめた。泣きじゃくるあさりちゃんの肩を社長さんが後ろからそうっと抱いた。
 あさりちゃんは泣きながら焼香台を後にした。
 社長さんが焼香している。
 「あんた、もてるのになあ、おれが仕込んでやらあ」
 黒い猫が言った。
 「まだ死んだことがわからないようだね」
 とも言った
 「たまにはそういうボーっとしたのもいるさ」
 閻魔様はウイスキーをぐーっとあおった。
 水晶玉の中で、棺桶が開けられた。僕が入っている。
 「え、僕は死んだのかい」
 周りには会社の同僚が集まっている。僕には家族も親戚も無かった、だから、会社の人だけである。
 不思議に思っていると、黒い猫が教えてくれた。
 「湯沢で食べた茸だよ、月夜たけが入っていたし、じゃぐま網笠茸もたっぷり食べたし、でも旨かったろう」
 確かに旨かったのでうなずいた。
 「それで次の日、自宅で死んだのだよ」
 でもなぜ地獄に来たのだろう。悪いことをしたのだろうか。偽物を売りつけたりはしていない。ゴキブリを踏み潰したのがいけないのだろうか。
 それを察したように、黒い猫が言った。
 「ひゃは、天国なんてないのさ、地獄だけ、人間が思っている天国の中にも地獄はあるし、地獄の中にも天国があるし、意味はない。相対的なものだ。煉獄だって地獄もあるし天国もある。死んでいくところは地獄だけ、その中で何になるかは知らないが、希望はあるさ」
 閻魔様が続けた。
 「位牌を売るのと、死んでいく人を納得させるのと似ているのだよ、君。いや、コミュニケーションはすべて納得させることなのだ。最も難しいのが死神の役割だ、死んでいく人を納得させるのは難しいよ。君はここに来てもまだ死んだことが分からなかっただろう。だから、死神は苦労してここに連れてきたのだよ。納得していれば自分で三途の川を渡るものだよ」
 なるほど、閻魔様は理論的だ。
 それで、どうだ、わしの弟子になって、死神の勉強をしたらどうだ。幸せになるように死なせてやるのが役割だ。地獄で最も大切な役割なんだ」
 毎日たくさんの人が死んでいくのに、そんなにたくさんの死神がいるのかちょっと疑問だった。
 「世界を見渡すと死神はそんなに沢山いるわけじゃない。死んでいく誰にでも死神は来るとは限らないのだよ。地球上にはいろいろな神様がいる。名前を出すと差しさわりがあるといけないから言わないが、神様と呼ばれている者たちは皆そろいにもそろって長生きしなさい、幸せになりなさいとしか言わないではないか。その邪魔をしては申し訳ない。だからそういった神様に守られている人たちには近づかないんだよ」
 なんとなく分かる。
 「日本人の宗教のいい加減さはたいしたものだ。それで日本には死神が多いんだよ。死の予定が立った人がいると一月前にそこにいって、幸せの中で死んでもらうのだよ」
 「僕が死ぬのが分かっていたわけだなあ」
 「そうさ、茸を食べて死ぬのが分かっていた。死神が死を呼ぶのではないのだよ。死ぬ人が死神を呼ぶのだよ、死神に付かれて死ぬのは幸せなのだ。おまえさんだって、このように楽しく、いつの間にか三途の川を渡ってしまったろう」
 確かにそうである。
 「死神になったら黒い猫になるのかな」とつぶやくと、
 黒い猫は笑った
 「いやいや、猫だって、蚤だって、死神になりたければなれるのさ、一つの命は皆同じ、あたしゃ、生前は猫だったのだよ、覚えていないだろうけど、お前さんが、孤児院にいるとき、死にそうな黒猫を拾ってきて、尼さんにしかられたろ、お前さんは、俺を孤児院の物置にそーと隠し、自分の牛乳を分けて毎日飲ませてくれて、俺は元気になり、町に出て野良猫の大将として子どもをたくさん残し、幸せの人生を送らせてもらったんだ、感謝している、年とって車にはねられて死んだとき、閻魔様に拾われて、死神に育てていただいたのだ、人が死神になればそのままの形で死神さ」
 黒い猫はまたウイスキーをあおった。
 「そんなこともあったかもしれない、なんとなく記憶がある」
 「僕も死神になるよ」
 僕が答えると、黒い猫は、「そうこなくちゃ、まずウイスキーが飲めるようになれ」
 と言って、
 ラガブーリンの十二年カスクをストレートグラスに満たし僕の前にすっと置いた。
 「死神は大いに遊ばねば、遊びを覚えないと、死んでいく人と遊べないからなあ」
 黒い猫がそう言うと、閻魔様もうなずいた。
 僕は、目の前のウイスキーをくっと飲んだ。胃がカーッと来たが、少し旨いと感じた。
 ふっと思い出して黒い猫の死神に聞いた。
 「あの白い猫も死神なの」
 「ひゃ、違う、ありゃ菩薩さん、俺の彼女」
 そんなもんなんだ地獄って。
 もっと驚いたことを閻魔様が言った。
 「昔、わしの彼女だったのを、この死神が盗みやがった、はははは」
 「ふーん」
 「そんで、わしゃ、死神の前彼女をいただいたのよ、お、そらきたよ」
 そこに現れたのは、自由の女神であった。


(「黒い猫」に収蔵、自費出版 2015年 33部 一粒書房) 

黒い猫神

黒い猫神

黒猫の死神の話。コミカルな話。

  • 小説
  • 短編
  • ファンタジー
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2018-02-24

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