小窓の向こう
SNS時代を思いながら、悩み抜いて書いたもの。スマホ画面の向こうを想像してみたことはありますか?小さな闇を感じて、表してみたものです。
あなたの世界は、どこに?
そこは、不思議な窓がある。
一面の草原に、手のひらほどの小窓がひとつ。
ある日、そこにポツンと現れた人間。
初めは広大な草原に目がいき、勢いよく駆け回ってみたりした。
草の感触、柔らかい風、青い空。
そこは、確かに存在する世界そのもの。
やがて、人間は気づく。
宙に浮かぶ、小窓。
人間は恐る恐るその小窓に手を伸ばした。
小窓の向こうには、たくさんの景色や物が溢れかえっていた。
人間は、たまらず窓を思いっきり閉めた。
そして、しばらく近づくのをやめて、再び小窓の向こうが気になる頃には、人間は自分を偽り、着飾ることを覚えていた。
小窓は近づくと楽しげな声がする。
とうとう、自身を駆り立てるような誘惑に負けて、人間は恐れながらも、その小窓を開いた。
眩しく、きらびやかな世界が広がる。
手を伸ばし、触れようとしてもそこには何もない。
人間は、途端に悲しくなった。
ただ、見ているだけの世界はいつしか寂しさを連れてきた。
それでも、人間は小窓の向こうに自身の存在を知らせる何かを探し続けた。
人間は、小窓から離れない。
もうずっと、そこにいる。
小窓に、涙が流れていく夜。
人間は星空に泣いた。
久しぶりに空を見て、草の感触を取り戻し、心配するように周りを囲む動物たちの姿は、人間に優しかった。
「それは、作られた世界だよ。」
動物たちは、語りかけてきた。
「僕らも、よく夢に見るんだ。けど、あっちは幻のように触れなかったでしょう?」
「きみがその小窓を開けてから、本当にいろんな声がきこえてくるようになった。」
人間は、泣いていた。
空に、懐かしい流星群。
流れ続けた、そこにいるみんなの思い。
それは、確かな温もり。
「君は、寂しかったんだね。」
牙を折られた虎は言う。
「また、寂しくなったらその小窓を開けてごらんよ。」
やせ細った象は言う。
「僕達は、ずっと君と一緒だよ。」
だって、君は世界にひとり。
僕達に名前をつけてくれた!
僕達は、お互いをその名前で呼んでるんだ。
でも、君が寂しそうだから、小窓の向こうのことなかなか言えなかった。
動物たちの優しさは、人間を笑顔にした。
その日から、小窓は閉ざされた。
近づけば、声が聞こえるけれど。
次第に、その声は罵りあいになって、小窓は壊された。
宙には、窓枠だけが浮いている。
小窓の向こう
夏に具合が悪くなるほどに悩んでしまい、のちにそれを変化させようと思い、お話にしました。