理想の夢来(むら)
今日、これほど世の中が乱れているとは・・・・。民主主義、自由と歌いながら、自由はなく、民主主義も形骸化されている。日本は、独立していると言いながら本当に独立しているのであろうか。外国の軍隊が首都圏を取り囲み、日本の主権はない。しかし、権力者は、独立していると言っている。マスコミも当たり前と言っている。国民もそれを信じているが、問題が発生した時にその論調が崩れた。スケープゴートの沖縄が反乱の火の手を上げた。経済がうまくいかなくなって国民も植民地根性が寝ずいていることに気がつき始めた。政権が保守政権から交代した。しかし圧力は強かった。そこで交代した政権を担う人たちは、自分たちがアメリカの手のひらに踊る国民だったことをしった。
この物語は、本当に人間が人間らしく生きていける世の中はできないものか、対等・平等とは、非武装とは、平和とはを掲げて戦う人たちの物語である。日本を真の独立に導くものがたりである。
独立宣言(プロローグ
独立宣言(プロローグ)
理想郷はあるのだろうか。かつて武者小路実篤と仲間により理想郷を目指して“新しき村”が作られ今日まで存在している。この物語は、理想郷の国を目指した物語である。ある人は空想的社会だと批判した。
国とは、政治的な国家が支配する一定の領域や住民・共同体・制度・文化など総体である。国は憲法を所有する。憲法とは、国家の組織や統治の基本原理・原則を定める法を言う。
突然、独立宣言を表明した国が現れた。
「独立宣言」
我々は、ここにわが大和国が独立国であること,大和と宣言する島国に居住する人民が自主の民であることを宣言する。
今日我々の任務は、ただ自己の建設があるのみで,決して他を破壊することではない。我々が制定する憲法の理念を共有する人たちにより新しく自主的でかつ、国民の国民のための国を建設することを目指すものである。それは、自然と協調し人間が人間として生きていく国つくり、未来を作る理想国家を目指すことを目的とする。
「前文」
大和国民は、正当に選挙された国会における代表者を通じて行動し、われらとわれらの子孫のために、諸国民との協和による成果と、わが国全土にわたって自由のもたらす恵沢を確保し、政府の行為によって戦争の惨禍が起こることのないようにすることを決意し、ここに主権が国民に存することを宣言し、この憲法を確定する。そもそも国政は、国民の厳粛な信託によるものであって、その権威は国民に由来し、その権力は国民の代表者がこれを行使し、その福利は国民がこれを享受する。これは人類普遍の原理であり、この憲法はかかる原理に基づくものである。われらは、これに反する一切の憲法、法令及び詔勅を排除する。大和国民は、恒久の平和を念願し、人間相互の関係を支配する崇高な理想を深く自覚するのであって、平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した。われらは、平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めている国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思う。われらは、全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する。われらは、いずれの国家も、自国のことのみに専念して他国を無視してはならないのであって、政治道徳の法則は、普遍的なものであり、この法則に従うことは、自国の主権を維持し、他国と対等関係に立とうとする各国の責務であると信ずる。
大和国民は、国家の名誉にかけ、全力をあげてこの崇高な理想と目的を達成することを誓う。
大和民主主義共和国の独立宣言と憲法の前文がインタネットに流れた。
大和共和国登場(20XX年〇月1日)
大和共和国登場(20XX年〇月1日)
?地球は青かったと叫んだ時代今は昔?
一
現代は、空や海に船舶や航空機が盛んに運航している。さらに大気圏を越えて気象衛星や軍事衛星が地球を監視している。地球上の大陸や河川、島々は全て可視出来る時代である。
インターネットを使えば、全ての国々の人々は、リアルタイムでそれぞれの国の出来事がネットを通じて見ることが出来る。また、ネットを通じて商品の購入や銀行取引も可能となった。各企業や公共施設、さらに個人が、ホームページ等でWEBサイトを開設している。
二
ホームページに大和民主主義共和国が登場した。日本語、韓国語、中国語、アラビア語、ドイツ語、フランス語、英語、そして、スペイン語で、“独立宣言”を伴って大和民主主義共和国が、ホームページに登場した。
この国の場所は、南鳥島の南東に位置し、ハワイと南鳥島の中間ぐらいにある。人口は約10万人、多民族国家のようだ。国語は日本語である。独立宣言および憲法の前文には戦争放棄をうたっており日本国憲法に類似している。国の主力産業は、農業・漁業を中心とした産業を基盤としている。しかし、行政組織の体制をみると、文部・科学省や交通・宇宙局など小さな島国と思えない部門が存在する。また、国家主席と首相が存在することから中国の体制にも類似している。
この国が、ホームページに登場したが、誰もこの国の実在を信じなかった。一部のサイト愛好家が空想国家を作あげたものと思われた。小さな島国であるが、今日において、誰にも知られないで新しい国家が登場することは、考えられないことであった。
国を代表とする主席は、東郷大悟言う。どうも日本人のようだ。副主席は3名(朴恵一、孫和慶、張学民)、日本人でないようだ。
主席と首相の役割関係などは不明であるが、中国の体制と似ている。副主席の張が首相、朴が内務大臣、孫が大蔵大臣を兼務している。
外務大臣は、本山一夫という人物が担当している。軍事関係の部門が存在していないのは戦争放棄をうたっているからなのだろうか。気になる宇宙局は、大空成美なる者の名前があった。日本人らしき者の名前が多い。建国したばかりだから選挙が、行われたとはとても思えない。多分建国に拘わったメンバで構成しているのであろう。
人口10万人と記述されている。それぞれの人達は、元の国籍はどうしたのだろうか。本当にこれだけの人達がいるのだろうか疑問である。他民族国家だから色々な国から集まったと人達が居住していると思われる。また、強制的に集められたのかわからない。これらの疑問は、後に明らかになっていく。
この国が注目されたのは、ある漁船の船長からの報告である。遠洋漁業からの帰りに嵐にあい、故障し、漂流して救助された。救助した人達が、このホームページに乗っていた国の人達だった。帰国した時、地方新聞にこの国のことが報じられ、実在することがわかったのである。
三
外務省に問い合わせが殺到した。大手のマスコミも取り上げた。報道番組のなかでは“信じられない”が連発された。突然現れた島、国そして、日本国憲法に類似した憲法を持ち、日本語を国語としている。この謎めいた国が俄かに注目された。
南鳥島を管轄しているのは東京都である。当然東京都も動いた。ハワイやマーシャル諸島など近辺に影響力を持っているアメリカも動いた。監視衛星で上空から偵察した。さらにハワイ、グアムから偵察機を飛ばした。在日米軍は、イージス艦を派遣した。急激に南鳥島近辺における緊張が高まったのである。 日本政府も厚木基地から偵察のために飛行機を飛ばした。同乗したのは防衛省から太平洋管轄局の課長・轟、外務省太平洋局・平林、国土交通省国土管理局・田中、東京都渉外局・渡利そして厚木基地からの自衛隊員3名が同乗した。
四
日本に隣接した地域に、しかも日本人らしき人達により独立国が、誰にも知られないで建国される。日本政府は、面子を落とされたと感じた。アメリカは、日本以上に面子を傷つけられた。在日米軍を配置し、全世界を監視できる衛星システムを有しているアメリカである。驚き以上に脅威を感じ駆逐艦を派遣したのである。
国防省は、中央情報局のアジア太平洋担当官を呼んだ。さらに太平洋司令官と在日米軍司令官を急遽呼び寄せた。
東京の空は、厚い雲に覆われていた。今はまだ冬である。天気予報は夕方から雨が降ると予報していた。
南の島テレビに登場(20XX年〇月2日)
南の島テレビに登場(20XX年〇月2日)
?南の島遠き島より流れつく情報?
一
東京都都知事室において小泉知事は、渉外局課長の渡利の報告を聞きながら
「このような時代に、独立国を作る日本人がいるとはアッパレと言うべきかね。何を考えているのか、うまく行くと思うかね。東郷などの人物とは何者かわかったかね」
今後の対策を練るために、矢継ぎ早に質問した。
「今、政府とも打ち合わせして調査を始めています。政府の対策室に東京都も参加したいと要請しました」
「アメリカは、何かいってきているのかね。相当怒っているだろう。在日米軍もかたなしだからね。無茶な行動はしないとおもうが」
「わかりませんが、慎重に対応することを期待しています。何分日本人が主役で国と宣言していますからね。政府には連絡が言っていると思います。お互いに情報の共有を図ることが必要になると思いますが、どこまで情報を提供し合えるのか課題となると思います。それにしても平和気分でうかれていた日本ですから一触即発な状況は、いい刺激で済まないですね。アメリカと日本は中東だ、北朝鮮だと騒いでいて、足元がみすかれたことがショックですね。アメリカは戦略の見直しを含めて、色々と日本政府にも強い要望がでてくると思います」
「自衛隊は、何をしていたのかね。南鳥島に常駐強化をしていく必要がでてくるね」
「・・・・・」
二
そのころ政府首相官邸では、緊急対策室が設けられていた、日本に対して脅威になるのか、独立を認めるのか、大和民主主義共和国からは、承認の要請と平和条約の協定及び貿易協定の要請がされていた。日本政府は、共和国の建国した理由を測りかねていた。テロリスト集団として断定するには、10万人の人口が妨げとなっている。本当にそれだけの人数が存在しているのか、前例のない出来事であった。日本人が建国に拘わっているならば何故独立なのか、日本国籍はどうするのかなど、簡単に認められる雰囲気でなかった。
一つは、日本に近接している島で日本人が独立国として認めろといってきていること、日本国憲法に類似した憲法を持ち新たな国を樹立しようとしていること。
一つは、アメリカとの関係もある。日本はアメリカに防衛力をゆだね今日に至っている。沖縄など米軍基地に悩まされている。これを安易に認めることは沖縄を含めた米軍基地や在日米軍との関係がギクシャクしていくことになる。日米同盟を基本としている日本としては、外交・防衛・経済にも影響を及ぼす懸念がある。
一つは、誰にも知られずに建国まで持っていったこの国の力である。主力は日本人のようだが韓国・中国・その他の人達による国づくりである。日本と違う新たな国を成し遂げる自信があるのか、その根拠は何か。大和共和国として判断するための情報が不足していた。何も判らないこの事が、余計に得体の知れない不気味さを感じさせていた。
全てにおいて過去に例の無い国であることは、間違いがない出来事であった。内閣調査室長の影山は、調査状況を報告していた。
「総理。今ホームページに載っている日本人氏名は調査中です」
官房長官の野平は、緊急対策室を構成する名簿を提出していた。総務省、外務省、防衛省、法務省の各大臣と各事務次官それと東京都渉外局局長、自衛隊からは陸・海・空の戦略本部から、民間からは、防衛、外交の専門家などで構成する大規模な対策室となった。
「ホームページの名簿から人物の情報把握と背景、彼らの組織の存在を調べてほしい。それと至急に該当する島への調査をしてほしい」総理の山鳩が指示した。防衛大臣の島が
「現在厚木基地から現地の偵察として偵察機と調査機の準備手配をしました」と言った。海上自衛隊の海原は
「自衛隊は、いつでも出撃ができる準備態勢はできています」と報告した。
外務省大臣の加来が言った。
「アメリカは、駆逐艦を派遣したようです。いざとなれば武力行使もやむ得ない体制で望むようです。在日米軍は、臨戦態勢に入っています。慎重に対応してほしい旨を要請しています。また情報交換を含めて打ち合わせをしたいとの申し入れもありました」
「武力行使はできるだけ避けたい。アメリカ政府にも要請しよう。いずれにしても相手国の情報を仕入れてください。彼らは、本当に独立を求めているか。真っ先に日本へ承認を求め、平和協定を申し入れてきているから、こちらもそれなりの対応しなければならない。曲がりなりにも彼らは、我らの同朋日本人だからね。“だった”というべきかな」総理が言った。
「気象衛星を通して上空からの写真を手配しました」総務大臣がいった。
「いずれにしても、平和的な方法で解決したいものですね。駆逐艦は、すでに向こうの領海内に着いたようです。中国、ロシアの艦船も出撃したようです」防衛大臣の島が言った。
「ところで国民の反応はどうかね」
「マスコミの状況では、まだ半信半疑の反応ですね」
これらの会話が交わされながら対策が練られていった。
内閣調査室の係官が入ってきて影山に耳打ちした。そしてテレビがつけられた
「皆さん、テレビをみてください。これは、インターネットで映し出された映像です。生中継になっています」影山が言った。
映し出された画面を皆食い入るように見入った。そこには、アメリカの艦船とヘリコプタが写し出されていた。そして小さな監視艇が写し出されていた。
日本の近海で緊張した情景が、映画を見ているような光景で、テレビ画面に映し出されていた。
東京は冷たい雨がふっていた。昨日の夜から降ったりやんだりであるが降り続けていた。
記者会見(20XX年〇月3日
記者会見(20XX年〇月3日)
?地球は広い寒い所暑い所日本は冬だ?
一
マスコミ各社が、大和民主主義共和国独立緊急対策室の前に集まっていた。各社も民間の調査飛行を要望していたが民間機の飛行は、禁止された。ホームページに載ってから1週間経過していた。地方新聞に共和国の存在記事が載ってから3日である。
日本政府からのコメントは、まだ正式に何もない。大和共和国緊急対策室が設けられたとの報告があっただけである。マスコミ各社はいらだっていた。
?アメリカ、中国、韓国も注目している
?テロリストが、国家を作って隠れ蓑としているのでないか
?日本国憲法に類似している。日本に喧嘩を売っているのでないか、日本を馬鹿にした話でないか
?本当に国家を形成しているのか、冗談だったで終わるのでないか
?ここまで騒がしているから許される話でない。アメリカは、駆逐艦を出している、日米同盟に影響がでるのでないか
?沖縄問題に影響がでるのでないか
?戦争が起きるのでないか、アメリカは攻撃するかもしれない。中国も乗り出している。 等
これらの話で騒然としていた。さらに昨日から放映されている、アメリカ艦船との対応状況が話題となっていた。アメリカの駆逐艦は、冷静に対応して一旦共和国の領海外に撤退し、一触即発の危機は脱していたが、緊張は続いていた。
二
大和共和国緊急対策室の扉がひらいた。
「皆さん、静かにしてください。日本政府としての状況報告と対策については、本日13時に政府の方針を説明します。以上です」
対策室の広報担当として総務省出身の倉持係長が、騒然としていた記者やレポータなどマスコミを前にして言った。今は、10時だった。
「もう少し情報がほしい」とクレームを言っている社もあるが、皆引き下がった。
13時前だが、会場は多くの記者やカメラマン等でざわついていた。正面のテーブルには多くのマイクが設置され、テレビカメラも正面の中央に配置されていた。中央の壁には巨大なスクリーンも用意されていた。
外国の記者も来ていた。入りきれない人たちのために別室が用意された。
倉持係長が入ってきた。
「まもなく官房長官から報告があります。尚、質問は各社一つでお願いしたい」と話すと、官房長官を始めとして関係者が入ってきた。カメラは一斉にまわり始め、シャッタの音がガシャガシャと鳴った。正面のテーブルに官房長官を中心として、両隣は防衛大臣、外務大臣が着席した。シャッタの音は鳴りやまなかった。官房長官を始めとして防衛、外務の大臣が一緒に出席するのは異例であった。
「日本政府として大和民主主義共和国に対する対応状況について報告させていただきます。はっきり申し上げて、まだ調査中と言うのが本音です。あまりにも情報が少なく、この国がどのような国か判らない状況では独立を承認するべきか否か判断出来ない状況です。しかし、後ほどお見せしますが、この国と言うか島は、確かに存在しており人々が住んでいます。そしてホームページに載っている日本人らしき人物が、我が国に居たところまで調査ができています。共和国からは、この国を承認要請及び平和条約ならびに貿易に関する打ち合わせの要請が来ています。政府としては、平和的な手段で慎重に対応していきたいと思っています。アメリカにも慎重に対応してほしい旨を要請しています。何故慎重に進めたいとするか、それは大和共和国と称するこの国の実態が把握できていない事、今まで過去前例のない独立国である事、共和国の建設に日本人が関与している事、何故日本国で一緒にやれないのか、独立を掲げるその理由がわからない事等からです。政府としては、関係部門に調査を第一にすることを指示しました。テロリスト集団の存在の可能性があるならば、わが国にとって脅威になります。近日中に彼らの呼びかけでもある打ち合わせをするために、調査団を派遣します。その結果で承認するか否かを判断したいと思います。派遣にあたっては、危険は十分考慮しますが、話合いを拒否する理由はありません。皆さん、しばらくは平静に対応して状況を見守って下さい。正確な情報に基づいての報道を心がけていただけることを願っています。政府としても出来るだけ情報の提供をしていきたいと思っています。またアメリカ政府からも協力するとの連絡をうけました。周辺の国々とも協力しながら平和的な方法で対応していきたいと思っています」
「質問!・・」と挙げたところもあるが、倉持係長から
「質問時間は、後でとってありますからその時にお願いします。防衛省が調査した写真及びビデオを皆さんにお見せしたいと思います」
正面のスクリーンに衛星写真が映しだされた。広い海のなかに正方形のものが現れた。ズームアップされると中央に建物が見え、右(西側)に空港らしきものがあった。点々と見えるが中央の周辺は緑があり美しい島だった。軍事基地らしきものは見えない。今度は、偵察機が撮った画面が切り替わって島の状況が写し出された。島の道路は整備されていた。鉄道もある。漁港らしきものもあった。ビルも結構建っている。中央の建物は、白く高さもありそして大きい。運動場も公園も見える。映し出された映像を見る限り通常の島である。ハワイやグアムまた沖縄などで見かける島と何らかわりないように見えた。領空内で撮ったものだろう。許可ない飛行機の侵入をよく許したものだ。防衛対策については、対応ができていないのかもしれない。海上の警備はアメリカの艦船とやりあった姿がテレビに映し出されており、空より海の警備が厳しいのかもしれない。しかし、アメリカの艦船とやりあっている映像からは、普通の警備艇で対応しているので戦力差は話にならない。軍隊に対して警察力で対応している事から軍備は整っていないように感じられた。20分くらいビデオだったが、大和共和国という島を見た。
防衛省の海原大尉が調査した島を説明した。
「今一通り見ていただきました。この謎めいた島と言うか、この国の様子です。私たちが近づいても、緊急なスクランブルなどで反応してきませんでした。軍事基地はないものと思われます。但し、西側に空港施設が存在していますが、南側にも同じような空港施設が存在しています。小さな島に2つの空港は多い気がします。また、結構ビルが建っています。これだけのビル建設は、かかわった人間、資金、資材は相当なものです。これが誰にも知られずに建設している力が、この国にはあります。だから一概に軍事基地が見えないから軍事力がないとの判断は拙速だと思います。中央の建物は、優に200メートルを超すものと思われます。この島は、どのようにして出来たのか不明です。考えられるのは埋め立てられて造られたものでないかと思われます。他の島と比べて整然としており形が正方形だから人工的に造られたと思っているところです。島の周辺地域にも小さな島があります。この様な島を人工的に造ったとするならば、この国の底力は侮れないと思います」
「外務省としては、総理の指示もあり、また防衛省の調査した結果を踏まえて、彼らの要請に応えた第一次調査団と言うか交渉団を編成してこの国を訪問することにします。彼らとのコンタクトは、現在メールで進めています」
「それでは、質問を受け付けます」
質問が始まった。各社とも一番は、この国を承認するかどうかが関心ごとであった。
「この国を承認するにあたっては、独立の目的、国を構成する国民の総意で国を作ろうとしているかである。このことが確認とれるならば承認を拒むことはない。しかし、反社会的集団による構成で成り立っている国、宗教団体によるマインドコントロールされた国、強権的な圧力による専制国家の要素があるならば認めることは出来ないと思っています」
「人口10万人を擁しているのですよ。そのことは、どのようにして確認されるのですか。憲法を読む限りそのような兆候もみられない。たとえ彼らと会って聞いて、調査しても短期間で確認できるのですか」毎朝新聞の白井記者から発言があった。
「日本人が、建設に関与していることが問題でないですか。日本は、分裂したとの印象を受けますので避けるべきでないですか」
「国連加盟申請されているとおもいますが、国連に加盟が認められると承認するのですか」
「アメリカ政府が認めなかったらどうするのですか」等、痛烈な発言もあった。
「いずれにしても、調査団の結果で対応したい。彼らからは、日本と最初に話がしたいとの意向もあり結果しだいで判断したい」
「その調査には、我々マスコミも参加させてもらえますか。交渉の場はともかく取材をさせてもらえますか」毎朝新聞の朝比奈記者から発言があった。
「本来は控えてもらいたいが、戦争しているのでないから彼らと交渉をしてみます。仮にOKとなった場合、皆さん全員をとならないと思います。そのことを了解してください」
その他やり取りがあったが、共和国独立問題についての記者会見は終わった。
この会見模様は、テレビで放送された。あらためて国民は、大和民主主義共和国の存在を知り話題となった。さらに、アメリカ艦船は領海外といえど、近くに待機していて、緊張は解除されていない。日本は、色々な国内問題を抱えている。しかしテレビ報道は、この共和国対応の問題が中心となった。昨年に政権交代したばかりの政権にとって厄介な問題であった。沖縄の基地問題が騒がれていて今後の動向にも影響が出てくることは避けられない。北朝鮮と韓国においても緊張する事件が起きている中でアメリカ、中国、韓国の動向も気になる出来ごとになった。取り分けアメリカが、考える世界戦略の一環の中で日本の役割、在日米軍の在り方に影響がでることは確実であった。何分、アメリカでさえ今日まで把握出来ていなかったからである。日米同盟に楔を打ち込むかのようであった。
世界は、新たな緊張をする出来ごとが極東地域に発生した事に注目した。日本政府が会見で報じた映像は、全世界に配信された。
日本に新たな問題を発生させた事を哀しむように、雨は昨日から降り続けていた。冷たい雨だった。冬はまだ終わっていない。
調査団編成(20XX年〇月4日)
調査団編成(20XX年〇月4日)
?未地への旅そこは天国か地獄か?
一
大和共和国対策室では、忙しさをましていた。共和国調査団の人選はほぼ終了しており、マスコミ各社からの参加要請名簿を検討していた。今後、共和国側との調整によるのだが、共和国側からはまだ何も返事が来ていなかった。
対策室は、官邸の近くのビル2階にあり、一階に記者クラブが設けられていた。共和国建設に携わっていた日本人メンバについては、出身県の洗い出しは終わっていた。それによると主席の東郷は、鳥取県出身である。他に熊本県出身の細川、高知県出身の橋本、三重県出身の伊勢、長野県出身の北村、富山県出身の富田、栃木県出身の石田、宮城県出身の宮坂、北海道出身の北川、沖縄県出身の平敷が該当する地域に居たことがわかった。現在、彼らの所在を確認中である。張と孫は中国。朴は韓国の出身と思われる。中国。韓国に問い合わせていた。
世界各国は、承認の動きをはじめた。まず中近東からイラン、UAE、パキスタン、トルコ、パレスチナなどは独立に対して承認する方向であると表明した。フランス、スペイン、スイス、オランダも承認するとした。アフリカにおいても承認する国が出ていた。ケニア、ナイジェリア、リビア、モロッコなどが表明していた。中南米諸国もブラジル、アルゼンチン、キューバ、コスタリカなども承認を表明した。アジア諸国において真っ先に北朝鮮が承認を表明した。ベトナム、インドネシア、シンガポール、マレーシア、ヤンマー、台湾などである。
今後承認する国の広がりは予想される。各国は、日本が分裂したと報道し、日本政府の出方を注目していることがわかった。また、日本政府に謎の多い部分の解明を期待していた。承認の広がりは、昨日の会見で日本政府が映し出した写真とビデオの影響があった。
軍事基地を持たない、平和的手段で独立を宣言した姿が好感を受けていた。
アメリカの艦船は、島の南側の了解外に停船して様子を伺う体制を取り続けていた。インタネットから放映される映像から中国海軍も艦船を派遣していたことが判った。彼らは、西側に待機していた。ロシア艦船も北側に来ていた。共和国は、大国に監視された状況にあった。それでも島は、上空から見る限り人々は平常通りの生活をしているように見えた。
インタネットでの放映が、武力行使を牽制しているのかもしれない。また、アメリカ、中国、ロシアは、連携行動していないのでお互いが牽制する形となっていた。
記者クラブに倉持係長が入ってきた。
「共和国側から返事がきました。調査団を歓迎するとのことです。マスコミ関係者の同行も許可がでました。全体で50名規模の調査団を派遣したいと調整しています。マスコミ関係者は、10名前後を割り当てますので参加メンバの人選を記者クラブの中で調整してください。メンバが決まりましたら名簿を提出してください」
「滞在期間は、どのくらいですか」
「1週間です。宿泊施設は用意するとのことです」
「食事や飲み物などは大丈夫ですか、持ち込む必要はないですか」
「打ち合わせ時の、食事・飲み物は用意してくれます。その他、調査行動での費用は、自己負担です。基本的に高級食材以外については、日本にあるものはあるとのことです」
「通貨は、どうですか」
「通貨は現地通貨で同じ円です。レートは、日本円に対して1円が1円です。しかし、日本円はそのまま使えるようです。皆さんの調整が出来次第、午後1時までに連絡ください。向こうに名簿を提出します。出発メンバは、明日10時に外務省の大会議室にきてください。打ち合わせをしたいと思います」
「出発はいつですか」
「明後日です。専用機でいきます」
記者達は、一斉に各社の上司に連絡を取り始めた。同行を申請しているところは、20数社に挙がっていた。
記者クラブ幹事会社の通信時報の佐藤次長が、「皆さん。メンバの人選について理事会に一任していただけませんか、11時にメンバを提案しますので、その時に再度各社の意向を検討したいと思います。以上よろしく」
今は10時になったばかりである。各社は、ここは決まらないだろうと思い佐藤次長の提案に賛同し、理事会に一任した。
記者クラブの理事会メンバは、別室に集まった。
「佐藤さん。良い案はありますか。今回初めての国ということで指名推薦にしませんか。 我々は、どのような国かを国民の皆さんに知らせる事と、全世界に情報を提供するとの立場で選ぶべきでないでしょうか。だから今回は、大手の会社で調整する方法はどうですか」毎日テレビの内田がいった。彼は、古参の政治記者である。NHKの佐々木が「佐藤さん。テレビカメラは、私どもに任せていただけませんか。カメラマンは、どこかの若手でフットワークのよい人間にしましょう」
「佐々木さん。済みませんね。しかし同行人数を何とかしたいですね。あまりにも少ない、最低の基本ラインをだして政府と交渉しませんか」
前幹事長の風馬が言った「皆さん。今回は大手6社とNHKから各1名、テレビスタッフ2名、カメラマン5名、政治・経済・外交などに強い評論家3名、その他として地方紙から3名にしたらどうでしょうか。地方紙は今回のきっかけ作った静岡新聞、そして沖縄と北海道から各1名の20名規模を提案する案はどうですか」突然の具体的な提案で、各理事は一斉に風馬をみた。
「風馬さん。いつから考えていたのですか。評論家などについては、誰か具体案あるのですか」佐藤がいった。風馬は、評論家については皆がよく知っている3名を挙げた。カメラマンについては、通信時報から推薦してもらうのが良いのでないかと提案した。他の理事はそこまで考えていなかったので皆その提案に賛同した。
「各社に手分けして連絡しましょう。評論家の先生については、風馬さん打診してくれませんか。地方紙については、斎藤副幹事からお願いします。私は、政府と増員について調整します。11時までに確認お願いします」佐藤の発言で各理事は、一斉に立ち上がった。佐藤は、増員を絶対認めてもらうのだと決意して、2階に駆け上がっていった。
しばらくして、興奮した面持ちで記者クラブに佐藤が帰ってきた。
「風場さん、政府に認めてもらいました。共和国側もOKのようです」
11時になった。ざわついていたのが静かになったところで佐藤が話し始めた。
「済みません。各社には、事前に連絡が言ったと思います。時間が無かったので事前調整させていただきまし。人数枠は、20名に拡大することを政府と共和国側に了解してもらいました。要員としては、次のようになりますのでご了解ください。今回は第一次です。今後何回も行くことになると思いますので、その時は、今回外れた皆さんもチャンスがあると思いますのでよろしくお願いします」
「了解。わかっているよ。皆そのつもりだよ 。心配するな」などの声が上がった。理事会で風馬が提案した案に沿って、メンバが発表された。佐藤は、マスコミ関係を取りまとめる形で参加することとなった。風馬は、政治評論家の都合が折り合わなくてその代わりとして参加となった。
「では、以上のメンバで提案します、メンバは明日10時に集まっていただきますので遅れないようにしてください」
二
静岡駅の近くの居酒屋にカメラマンの福西と黒田と上司の大石室長が居た。
「大石室長 ありがとうございます。大石さんが通信時報へ推薦してくれたのですね」
「推薦したのだからいい写真を頼むよ、プレッシャを感じることはないが、君の感性のままでいいからね」
「解りました。頑張ります、彼らのホームページを見たのですが、日本に類似した憲法を掲げて理想に燃えている感じを受けますね。彼らは、どんな人達なのか非常に興味があります。黒田さんが書かれた漁船の人達の話しを読むと、本当なのかと感じます。今日本に欠けている物が何かが、見つかるかもしれないなと思っています。ワクワクしますね」
「福西君は若いけど、人を撮るのがうまいからね。私も漁船の人達の話を聞いた時から夢の世界の国かなと思っていたから、それを現実的に感じることが出来るとはうれしいね」飲みながら、話題が漁船の船員達が言っていた話で盛り上がった。
「しかし、アメリカ、中国、ロシアの艦船が監視している中での調査だから気をつけるようにね。彼らが武力攻撃に移ることは多分ないと思うけどね。それと今回のメンバ人選については、記者クラブの風馬前幹事長の案のようだね。礼を言っておくことだね。ところで明日の準備はできたのかね。多分次ぎの日に出発だからそれらも用意しないといけないだろう。お金は大丈夫かね」
「私は、独身だから簡単です。いつも寝袋一つで旅したりしていますから。商売道具のカメラが中心ですからその他は二の次ですね。
でも今回は、政府の公式の場所に行ったりしますので、身奇麗するように気をつけます。準備については、電話いただいた時に準備したのですよ。何故か行けるようなきがしていたので準備OKです」と笑いながら言った。
「私は、妻がやってくれていますので大丈夫です」
「ならば、こんな時間になったからもう終わりにしよう。明日は送らないからね」
大石室長の言葉でお開きになった。外は、寒さが厳しかった。向こうでは夏のような暑さとなる。体調管理をしなければと思いながら黒田は、帰宅を急いだ。今夜は満月だ、月が黒田を追いかけていた。
出発前(20XX年〇月5日)
出発前(20XX年〇月5日)
?修学旅行行き先を思いドキドキワクワク?
一
外務省の大会議室は、すでに派遣に選抜されたメンバで熱気がムンムンしていた。暖房だけでない興奮した熱気が暑さを増していた。政府は、事前調査と云うことで閣僚クラスの派遣はやめて実務にたけた官僚中心の調査団を編成した。但し、政府使節団としての形式をとるために総務省副大臣である田中門真(48歳)を団長とした。副団長は、外務省の事務次官と防衛省の事務次官をアサインした。さらに外務省は、アジア太平洋管轄局から課長・主任、総務省は通信局の課長と主任技師、国土・交通省は、国土管理局から係長、交通局から課長・主任が調査団のメンバとして参加した。防衛省は、武官を中心に警備を兼ねて10名を派遣した。東京都は、小笠原諸島や南鳥島を管轄している立場で渉外局の課長・主任を参加メンバとした。オブザーバとして与党から3名、野党から2名の議員が加わり、大型の調査団が編成された。
政府交渉団としては、閣僚が参加しない、ある意味ではものたりない、頼りないと感じる編成である。しかし、各省から選ばれたメンバは、実務レベルの精鋭メンバであった。
オブザーバ参加の議員は、50歳以下の条件をクリアした議員である。外務大臣の挨拶が始まった。
「今回の交渉・調査は、わが国としては情報不足を補うための調査が主であります。共和国を支持表明している国は、すでに50カ国以上となっています。我々は、この共和国が独立を承認するに値する国であるかをつかむことを目的としたい。出来ることならば、分裂したとの印象を払拭するためにも説得して我が国に組み入れるようにしてほしいと思います。現在、アメリカ、中国、ロシアの艦船が島の周辺に待機しています。各国には、慎重な対応を要望するとともに、我が国が調査団を派遣することを連絡しています。無茶なことはしないと思います。また、共和国も調査団の安全を約束していますが、状況は状況ですから気をつけて調査・交渉をお願いします」外務大臣の挨拶が終わると各省から調査の観点の発言があった。
「外務省としては、外交・交渉能力など自立可能な実力が彼らにあるかどうか確認したい。後に承認することを想定した場合、大使館を設置するときの調査もする予定です」
「総務省は、通信の状況及び郵便物などの扱いについて調査したいと思います。また日本国籍を有している日本人の取り扱いをどう考えているかを確認したいと思っています。彼らの行政能力も調査の一環です」
「国土・交通省は、島がどのようにしてできているか、建物の状況、空港、漁港などの状況、交通手段の状況などを調査したいと思います。また貿易についても調査したいと思います」
「防衛省は、防災、警備状況を確認したいと思います。また、軍隊をもたないで国の防衛をどのように考えているかも確認したいと思います」
各省からの代表者は、調査の観点をそれぞれ発言した。野党の国会議員から各国の艦船の引き上げを要請すべきでないかの発言があった。
「各国は、一応慎重に対応するとの返事をもらっています。また、各艦船については、通常の公海演習の一環であると言ってきています。共和国側は、日本が問題なければ共和国としては気にしないと言っています。飛行機の安全も保障すると言っています。どこにそれだけの自信があるのか疑問ですが、彼らは平静です。不気味なほどです」外務省から報告があった。与党の議員から財務関係の調査はどうするかの質問もあった。
「独立国となれば、国としての財務対応なので我が国が関与すること出来ないと思います。今後は、必要になるかもしれませんが今回は対象から外しました。宇宙局など気になる部門がありますが、何をするところか聞けたら聞く程度にしたいと思います」調査団長が回答した。その後、マスコミ関係者も同行するにあたっての抱負などを決意表明の如く一通りマスコミ関係者が発言していった。
「オブザーバとして与党・野党の国会議員が参加されていますが、何をされるのですか」佐藤幹事から質問があがった。
「議員の皆さんは、それぞれの打ち合わせに参加してもらいます。出来るだけ平和的な解決をしていくためにも共和国側の代表者や議会関係者との交流を諮ってもらえればと思います。また、何故独立するのか、日本への帰属の交渉をしていただければと思います。承認、友好の善し悪しのサポートをしていただければとおもいますが、どうでしょうか」団長からの発言に各党の議員も参加にあたっての抱負などを語った。
その後、対策室の広報担当となっている倉持から現地での注意事項の説明がはじまった。
「皆さんに配布しました注意事項を見てください。基本的に生活環境は、日本とかわらないと記述されています。タバコは喫煙場所以外では禁止です。武器の携帯は警護目的でも持ち込み禁止です。各施設への独自の訪問は、予約して許可が得られれば可能です。公共施設は施設のルールに従えば問題なくみることができるようです。飲食店はあるようです。居酒屋もあります。現地の人との交流を妨げるものは特にないようですがトラブルは起こさないでください。日本語は通用します。入国時に渡される入国カードは、常時携帯してください。監視・管理するようです。主な訪問先と打ち合わせ日程につては、資料に記載しています。独自取材したいところがあるならば、言ってください。そうは言っても情報が不足しているので、現地で調整したほうがいいですね。飛行機は、皆さんを届けたら一旦引き揚げます。帰国する時に迎えにいきます。1週間も現地に待機させるわけにはいかないためです。もし不測の事態が発生した場合、安全面や帰国の手段などは、その時点での判断で調整となります。そうならない事を願っています。以上です。何か質問がありますか」
「不測の事態が発生した時は、自分達の身は自分達で守れということですね」
「冷たいかもしれませんが、その通りにならないことを願うだけです。但し、政府としては、帰国と安全のための最善は、努力します」外務大臣が補足した。全員シーンとした。あらためて安全が保障されていない地域へ行くことの実感が湧きあがった。しかし、いまさら辞退すると言えない雰囲気もあった。そんな雰囲気を和ませるかのように。
「本当に、こんなにオープンに色々な施設を見せてくれるのですね。彼らも独立を認めさせたい一心の表れですかね」
「行きはよいよい、帰りは怖いとなるのでは?」 “ワアー”と笑いが起こり、先ほどの不安と緊張が和んだ。
「いずれにしても、見ることが出来る物、聞くことが出来る物は、貪欲に調査しましょう」
「彼らは、調査に来ることは、重々わかって準備していることだから、良いところばかり見せて、悪いところは見せないだろうね」など雑談が弾んだ。
「ところで、写真を見る限り近代的な建物が観られるのですが。資金援助や技術援助している組織や建設に関わった建設労働者が大勢いたとおもうのですが、それらの調査は、どうなっているのですか。その後新しい情報はないのですか」突然、日日新報の轟記者から質問があがった。
「残念ながら、それらの情報はまだつかまれていません。いずれにしても、現地にいけば少し見えてくるのでないかと思います。今は憶測や不正確な情報に惑わされないようにしましょう」
「電話どうなりますか」
「国としてまだ認識されていないので国際電話はできません。国番号は割り当てられていないのです。現在、日本が許可するならば一番近い南鳥島の一部として日本の国番号でどうですかと言ってきています。即座に通話開設できる通信技術を持っているようです。総務省と話したところ暫定的に許可しようとの話なので日本国内と同様な通信として通話できるように交渉しています。現地で携帯やパソコン登録することで通信が可能になるようです。彼らは、衛星通信網を持っているようです」
総務省の通信局課長が報告した。
「そりゃすごいね。そこまでの通信設備をもっているのですね」
「その他質問などありますか。なければ、本日の打ち合わせは終わりとします。明日は10時羽田出発ですから9時集合でお願いします。遅れた場合は、待ちません欠席として定刻に出発しますので注意してください。以上解散です」
二
ホテルの1室に通信時報の佐藤幹事、日日新報の轟、毎朝新聞の白井、静岡新聞の黒田がいた。
「佐藤さん。朝の打ち合わせで共和国は、各国の武力を恐れていないような話がありましたけど、どう思いますか」黒田が聞いた。
「通常は、もっと緊張が高まってもおかしくないが、テレビで見る限り、現地の人達の動きに緊張感が感じられない。アメリカ軍に警備艇で対応している行為や現地の人達が臨戦態勢を執らないで通常の生活をしている。まるで武力行使はしないだろうと読んでいるのか、武力行使をしてきても対応できるとの自信の表れなのか、通常では考えられないね」
「予想外と云う事ですかね」
「予想外だろうね。ネットでアメリカ軍の行為を全世界に中継するなど、出来たばかりの国がやることでないからね」
「確かにそうですね、アメリカ軍の動きが、これで強引に攻めることが出来なくなったのですからね」白井が言った。
「武力行為を世論に認めさせないやり方ですね。意図してやっているならば、相当な知恵者が居ることになりますね」轟が言った。
「ネット戦術だけでないね。中国やロシアが来てお互い牽制しあうことも予測している感じもある。制空権を確保していないように見えているが、調査団の訪問の安全を保証することを宣言している。防衛に自信があるとしか見えない。恐ろしいね」佐藤が言った。皆うなずいていた。
「話が変わりますが・・」と言って、黒田が救助された漁船の乗組員から聞いた話をした。
「これは、記事にしなかったのですが、今日の発言で資金や技術援助の話がでたのですが、乗組員と彼らとの雑談のなかで、あの島にはUFOが来る話があったのです。漁船の人たちが見たのでなく、現地の人と飲んだときに話しが出たようです。よくあるUFO話として聞き逃したのですが、短期間にビルを建設したことや建設に携わった人は、現地のひとだけでは賄えない、また埋め立てたりして作ったのであればその資材など船で大量に運ぶ必要があるが、誰も目にしていない。また、あの島に10万人の人達がいる事などを考えると“ふっと”先日の船員のUFO話が、浮かんだのですがどうですか」
「面白い話だね。でも信じられないね。しかし、共和国の存在自体が信じられない出来事だから馬鹿にできないかもしれないね」轟が言った。
「そう言えば、沖縄新聞の平賀が推薦したカメラマンの平良が、以前アフリカ各地を取材した時に不思議な話があったな」佐藤が言った。
「今回と関係があるのですか」
「関係があるとは思えないけど、もしアフリカの人たちがこの国の建設に参加していた場合、どうかと思う話だよ」と言いながら平賀記者から聞いた話をした。
「アフリカで日本語学校をやっている話だが、何のためにやっているのと聞いたら、笑っていて、ここの人達が日本語を教えてほしいと言うから始めていると言う人と会った。子供達は、皆日本語がうまかったと言っていた。費用はどうしたのかなと思って聞いたら、jaica時代の給与を元手に今は、ここの人達と農業しながら日本語を教えていると言っていた。それが一箇所でなく5つの地域で見たから、その他でもやっている地域があるのでないかなと言っていた。宗教色の気配はなく、純粋に日本語教育をしていて、日本の低学年用教科書などを使用していたようだ。単純にボランテイアでないと思う、彼らを支援して別の目的を持った組織がいるのでないかと言っていたな」
「関係がありますかね」
「わからない。もしアフリカ人が居たら、この話が繋がるかもしれないなと思っただけだよ。そうなれば、彼らは、世界中に組織を持っていることになるからね」
「もしそうならば、すごいですね。主席の東郷という人物はどんな人ですかね」黒田がいった。
「東郷は、民主会の寺門会長と懇意だとの話がある。民主会は、1960年代に発足している会だが、現在中心拠点は鳥取にある。民主会は、全国10ヵ所の活動拠点があり、共和国メンバの出身地と民主会の活動拠点が一致している様なのだ。政府筋の情報なのだけどね」佐藤が話した。
「民主会とは何ですか」轟が聞くと
「私もよくわからない。創立当初は、宗教法人として立ち上がった様だ。インタネットには載っていない。現在、会長は寺門と言う人物で3代目になる。記者や出版関係をやっていた人物の様だ。古い人に聞いてみると知っている人がいるかもしれないね。2代目の会長が東郷でないかとの話で、初代は伊藤のようだ。伊藤と東郷の実態はよく判らない。寺門は、現会長なので直接話しを聞けばよいが、他の人達の調査は手古摺るね。会にはどうも色々な分野のスペシャリストがいるようだ。過疎化となった村や財政破綻として廃墟となった地域を買って色々な事業を目立たないようにやっている所を民主会が関与しているのでないかとの噂だ。夢来(むら)と言う地域があり、鳥取県の夢来の所にある寺の住職に伊藤初代会長がいるとの事。民主会は、親睦会のような形で現在も活動しているようだ。だからあまり知られないでいるのかもしれない」
「何故今頃判ったのですか」白井が聞くと
「今回の出来ごとで、今までのうわさやの辻褄を総合してみたらとのことのようだ。犯罪を行っているのでなく、街の活性化など貢献していて、目立たない普通の行動を行っているから民主会は目立たないでいる」
「オウム組織と違うようですね」轟が言うと
「今度帰国したら、上司に申請してみます」白井が言った。
「共和国の理想理念が、民主会の理念に近いとの話もあるようだから面白いかもしれないね」佐藤が言った
「共産主義者でないのですか」黒田が言うと
「判らない。どうも違うと内調は言っている。結びつくところがあるかもしれない」
「この話は、どこまでしられているのですか」轟が言うと
「そのうち、知れるだろうが、今はオフレコだ。そのつもりでいてくれ」
「反乱分子の国として敵対関係になれば、国内の支持勢力に対して洗い出しする等、色々と圧力が懸るかもしれないですね。混乱を招くかもしれないですね」
「そんな事にならないようにしないとね。調査結果しだいだが、共和国と協力関係を結びたいね。出来たら独立でなく日本の一部となってくれることを期待したいね」佐藤が言った。
「今の日本が、大きく変わりそうですね」
「彼らが作る理想国家は、人を惹きつけるものを持っているけど、かつて色々な革命が挫折しているからね。一時的には可能としても継続していくのは人間の欲で腐敗、堕落の面が出てきたりするし、専制国家になり失敗したりしているからね」
「佐藤さんは、期待しているのでしょ。かつての60年、70年の安保闘争時代の血が騒ぐのでないですか」白井が、からかうと皆笑った。
「ところでアメリカの動きはどうですか」
「駆逐艦を派遣して一応、この地域はアメリカの管轄範囲だと示したと思うけどね。中国とロシアが出てきたのは予想外だろうね。面子は保ったと思うが、今後色々と政府に注文だすと思うね。調査を一緒にやりかったようだけど共和国が拒否したようだからね」佐藤が言った
「北朝鮮が独立支持を表明しましたね。もう一つ気になるのが宇宙局なる部門がありますね。軍事部門がないけれどミサイル技術を備えていますね。通信衛星を持っていますからね」白井が話すと轟が
「エネルギ分野も気になりますね。鉄道が走っている、電力などはどうしていますかね。原子力エネルギをつかっているならば問題ですね」話は尽きなかった。
「もう遅いから、寝る時に寝ておこう」
時間は、2時をまわっていた。皆興奮していて眠れそうになかったが、自室に戻り寝床に入って行った。
春近し、雨はやんでいた。されど外は寒さ厳しき風が吹き荒れていた。これからの厳しさを教えているのかもしれない。
大和共和国到着(20XX年〇月6日
大和共和国到着(20XX年〇月6日)
?夢の島いつしか夢でなくなる島となる?
一
羽田空港では、共和国調査団のメンバが全員集まっていた。マスコミや旅行者などもいて集合場所となった第一ターミナルはごったがえしていた。海外のメデイアもニュースとして放送していた。メンバは眠そうな顔を隠そうとしなかった。ベテランでも、今回の調査行きは、寝付かれなかったようだ。緊張地域に行くことから家族の見送りは、多かった。団長である田中から簡単に挨拶があった。その後、皆専用機に搭乗していった。飛行時間は、3時間である。飛行機での現地の空港管制センターとの通信については、事前に調整がとれていた。機長は、日の本航空のベテラン機長である。副操縦士を始め乗務員10名が日の本航空のスタッフである。緊張地域と初めての場所への飛行とのことで、航空自衛隊からとの案もあったが、刺激を抑えることもあり、日の本航空の乗務員で落ち着いた。専用機は、順調に飛行していった。
「間もなく、現地大和民主主義共和国の空港に着陸します。」のアナウンスで全員緊張が走った。アメリカ、中国、ロシアからの妨害もなく専用機は、静かに着陸姿勢に入り着陸していった。調査団は、スクリーンから見る景色や窓から見える景色にみとれながら緊張したまま、声をだすものはいなかった。
窓から見える島の周りの海はきれいだった。島も南の国で見かける風景の中で近代的な建物が見えた。
専用機は、空港建物の近くで止まった。広い空港である。他に飛行機がいないから余計に広く感じられた。タラップが降ろされた。団長を先頭に降りると南国特有の暑い日差しを受けた。湿った風、燦燦と降り注ぐ太陽、みな緊張のなかで手をかざし、日光を防ぐしぐさをした。地上では、共和国の外務大臣本山が、関係者と一緒に出迎えていた。制服をきた警備関係のメンバが両側に並んでいた。顔から判断して。アフリカ系、ポリネシア系、アジア系の顔つきである。握手と簡単な挨拶を交わしながら空港の建物の中に入って行った。
「外国のかたが訪問されるのは、今回が初めてです。申し訳ありませんが簡単な入国審査を受けていただき、入国カードを受け取ってください。我が国に居られる間は、常時みにつけておいてください。荷物は、後ほど宿泊先にお持ちします。」日本語で日本人と思われる人からいわれ、日本のようでやはり外国にきたのだなと皆感じた。緊張がもたらすこともあり複雑な感情が交差した。
入国審査は、何事もなく順調に進んだ。緊張した割には、審査官が日本人と思われ、雑談を交えた審査が行われた。全員にパスポートに対応して入国カードが渡された。これは写真が貼り付けられており、ICチップが組み込まれたカードである。日本でよく見られる首からかけている写真付きのものと同じである。
二
空港は、近代的できれいであった。こんな小さな島で立派な施設を有しているとは、皆驚いた顔をしていた。
専用バスが、2台用意されていた。荷物を受け取り、専用バスに乗り込み、宿泊するホテルに向かった。専用バスは、エコカーである。外観は、通常見かけるバスと変わらない。エコカーだと言われない限り判らない形状である。道路は整備されており、片側3車線の幹線道路でホテルに向かって走っていた。走っている車は少ない。驚いたことに車は、全て電気自動車とのこと、そういえば、この専用バスの音も静かで座席は広かった。空港から30分ほど内陸に入ったところにホテルがあった。マスコミ関係者が多い車両では、やたらシャッタの音がしていた。
現地時間では、17時近くになっていた。日本時間14時である。ホテルに着くと、フロントの前で、本日の予定と部屋割の説明があった。全員一人部屋である、9階は、政府関係者、8階はマスコミ関係者に割り当てられた。各階には、一部屋余分な部屋が割り当てられた。それは、調整部屋として活用が出来るようにとのことで用意された。
会議室は3階に、大・中・小の会議室を使用してもよいように提供された。インタネット用として100台のPCと共に専用の部屋が用意された。
最上階にはレストランがあった。本日の夕食は、そこでとることとなる。
乗務員は、調査団を全員下ろすと、1時間後に日本へ帰国した。調査団が帰国する時に再び、この空港へ迎えに来る。それまで皆元気でいてくれることを願い帰国していった。
「各自、チェックインのサインをしたら集合までフリーです」との声を聞きながら皆、荷物をもちカウンタに並んだ。
このホテルは、貸し切りである。観光客もいない。日本の調査団だけである。18時前には皆、最上階のレストランに集合していた。すでに調査団の幹事と共和国側で明日からの調整行われていた。
電話は、携帯電話を登録することで通信可能となった。衛星中継用設備は、NHKに貸し出されていた。
皆、日本に向けて電話をしたようである。ホテルの周りを散策した者もいた。
レストランでは、日本食が出された。
三
その頃、共和国の首相官邸のある一室では、首相の張、副首相兼内務大臣の朴、警務局長・堺、情報調査室長・佐古を中心に関係者が集まっていた。
「警備状況は、大丈夫か?」張が言うと
「大丈夫です。問題は、すでに不法入国している連中が30名程確認されています。全員武器を携帯しているようです。海岸近くに武器と逃走用ボートなどを隠しています。全員逮捕しますか?」
堺がいつでも出来るかのごとく話すと、佐古が言った。
「今のところ泳がせておこう。危険を感じたら即身柄を確保できる体制にしてほしい。国民に危害を加えたら、そんなことは許せないが処置は任せる。調査団がいる間静かにしてくれればよいが」
「彼らの飛び道具は、無効に出来るようにしますか。但し、ナイフなどは別ですけどね」佐古が古い言葉の“飛び道具”と言った。
「平和的な方法で対応したいね。何もなく調べるだけ調べてこの国から出て行ってほしいね」朴が言った。
「今回は、警備を甘くしています。いつでも進入出来る国だと思わせるようにしています。しかし、生活習慣など違うので国民の中に入り込むことは出来ないと思います。顔は日本人でもこの国の人間でない事は、すぐ判ってしまうでしょうね」堺がいった。
「多分進入しているメンバは、アメリカ、中国、韓国、ロシア、日本から送られてきたとおもわれます」佐古が言うと
「アメリカ、ロシア、中国の艦船と潜水艇はどうだね。東郷主席につたえておくか?」張が言うと、佐古がすでに報告してあるといった。
「しかし、調査団と別に日本人の部隊も侵入するとはね」堺が言った。
「張首相、明日の調査団との打ち合わせですが、出られますか」朴が言うと
「挨拶は、しましょう。表敬訪問ですからね」
「宇宙局については、構想だけにしておいてほしいですね。まだ、あまり刺激を与えたくないですからね。それと、彼らは、我々の支援者の実態をつかもうとしていますから、これもぼかしてほしいですね」佐古がいった。
「ハハハ・・。そうだね、切り札は後だね。一応想定された施設の根回し、準備は大丈夫ですか。本山さん。大変だろうけどよろしくたのみます」張が笑いながら話した。
「わかりました。日本人同士で外交交渉するのですから、少しやりにくいですね」
「おいおい! 本山さん。もう我々は、大和人だからね」
「ハハハ・・。失礼しました。いつまでも郷愁に浸っていてはだめですね」
首相官邸では、ずっと灯りがついたままであった。外では、南国で見かける星が輝いていた。流れ星が、一つ、また一つと流れた。
視察始まる(20XX年〇月7日)
視察始まる(20XX年〇月7日)
?暗闇は人を惑わせる光は人を導く?
一
この国の住民の朝は早い。太陽が、東の海からこの島に光をさし始める頃、住民は起き始める。朝の5時である。ホテルでは、フロントの周りや庭の掃除をはじめた人達がいた。黒田は、緊張のせいかすぐ目が覚めた。昨日は、食事のあと有志で飲んだ。眠れなかった。空がしらむころ起きて1階におり散歩にでた。気持ちのよい朝である。
「おはようございます」声がかかった。ホテルを清掃している人達である。
「散歩されるのならば、近くの公園にいかれたら良いですよ。皆さん体操しています」
ここの人達は、もう起きて働いている。言われた公園に行ってみると、この国の住民が、体操していた。散歩している人達、清掃している人達もいた。皆まちまちの服装である。こんなに、朝早くから起きているのか。
「おはようございます」すれちがう人達は、声をかけあう。顔は、日本人のような顔したアジア系の人や、アフリカ系、ポリネシア、白人などである。年齢も年をとった人が多いが、子供達もいた。
「日本の調査団の人ですか?」
「そうですが、何故わかるのですか」
「ハハハ・・。何もしないで驚いた顔で歩いているからですよ」
「エツ。皆さんと同じように散歩しているのですけど」
「確かに私達は、散歩しています。体操したり、清掃したりしています。でも生活していると言うか、周りに自然と溶け込んでいるところが違いますよ」
「それは、散歩のしかたに違いがあるのですか」
「違いはないです。散歩は散歩です。そのうち判るでしょう」歳をとった住民は言った。
「お父さん、判らないわよ。まだこの人は若いし、この国で働いていないから」娘と思われる若い女性が、横から声をかけた。
「もうすぐ、朝市が行われるから、この公園と反対のところにいってみたらどうですか」
「何か珍しいものがあるのですか」
「何もないわよ。朝市だから野菜や果物を中心に売っているだけね。そこに行けば、少しこの国の住民の気持ちがわかるかもね」
「ありがとう」黒田は、お礼を言い先ほどの“そのうち判る”“働いていないから判らない”と親子が話した言葉を気にしながら朝市が行われている場所に向かった。
朝市は、朝市通りと名称がついている通りにあった。上野のアメ横に似た感じである。新しい町のためか建物事態は、きれいな平屋建てである。朝の6時から8時のあいだ店が開き採りたての野菜や果物が売られる。売る人は、周辺で作っている人達が持ち込みその場で値段を設定して売るようだ。8時から10時は店を閉める。10時から15時まで別な商品が売られ17時から20時は夕方市が開かれる。その時間帯で商品が変わるのである。面白いシステムである。食事するところは、6時から夜まで開かれている。お酒は夜しか売らないとのことである。調査団のメンバは、結構来ていた。テレビカメラも回っていた。
「黒田さん、ここだったのですか」カメラマンの福西が声をかけてきた。
「公園まで散歩に行っていて今来たばかりさ。しかし、色々な人達が売っているのだね。皆生産者なのかね」
「さっきあそこで売っている黒人の人と、話したのですが、自分で作っていると言っていました。このキュウリとトマトはそこで買ってきました。食堂に持っていけば料理してくれるとの事です」
「朝は、ホテルで朝食するのだろ」
「団長が、好きにしても良いとの事です。調査するのだから、現地の人とコミュニケーション出来るので最適だろと言っていました。食事しに行きましょう」
「9時45分集合だから、十分時間があるね」
「そういえば、車を手配して海岸の方へ、向かった人達もいました。こちらの人達は、朝が早いですね。6時ですよ、車を動かしてくれるのだから」
「今、6時半か。昨日はあまり寝られなくてね。そこで食事しよう」
食堂は、結構広かった。人はあまり居なかった。朝のメニューは、種類は少なかった。日本円での支払いが可能か聞いてみると可能との事、但し、お釣りは大和円になるとの事であった。現地の人達の近くにすわり、この国と日本の違いを聞いてみた。
「朝早くから働くのが、好きな人達が集まった国だよ。働かないと罪になるからね」
一緒に居る人達がニヤニヤしながら、私達をみていた。福西君が吃驚した顔で
「冗談ですよね」ドッと笑い声が広がった。
「日本では、どこに住まわれていたのですか」
「九州に住んでいたよ」
「俺は、北海道だよ。これ以上詳しいことは話さないようにと言われているから、ごめんね」
「仕事は、何をされているのですか」
「私は、公務員です」
「俺は、近くの工場で電気製品をつくっているよ」
「私は、湾岸鉄道に勤めています」
「色々な人種の人達が、国民におられますね」
「そうだね、世界中から集まっているね。その中で、日本から来た人達が一番多いね」
「子供たちもいて、お年寄りもいる。ここには、何に乗ってこられたのですか」
「何だと思う? 政府の人に聞いてください。多分、笑ってその回答はないだろうけどね」
「どうしてですか?」
「皆さんは、UFOを信じますか? 多分信じないでしょ。私たちは、UFOで来たのですよ」そこで皆一斉に笑った。
二
ホテルのフロント前に全員集合していた。首相官邸への訪問である。
官邸は、南国特有の白い建物である。アメリカのホワイトハウス並みであるが、形は違っていた。張首相がにこやかに迎え、朴大臣、本山大臣、ジョージ大臣、ケビン大臣が一緒に出迎えへた。型どおりの挨拶や写真撮影が終わると調査団は、会議室に入り打ち合わせに入った。マスコミは、オブサーバとして打ち合わせに参加することが許された。
「日本の皆さん、よくいらっしゃいました。私は、大和民主主義共和国を代表してお礼を申し上げます。わが国は、まだ公式には認められていない状況ですが、日本国に承認され友好が築ければと思っています。わが国は、日本国と類似した憲法を理念として建設しました。従って皆さんとある意味では考え方や目指すものが共有出来るものと思います。私達は、自主独立を前提に平和を願うあらゆる国と友好関係を築き、対等・平等を基に貿易や人材交流などを図って行きたいと思っています。是非、わが国の状況をみていただき、その結果を踏まえてわが国と交流を深め、友好関係が、速やかに構築出来ることを願っています」張首相の挨拶から打ち合わせが始まった。
「私達は、今回訪問するに当たって、いくつかの疑問を持ちました。その疑問が解決することが友好関係を結ぶ早道となると思っています。国を承認することは簡単です。しかし、承認することは、張首相が言われたように友好を進めることが前提となります、そのためには皆さんの事を知り、わが国日本が協力出来るものがあるのか、わが国の安全を脅かす国でないのか等の率直な疑問を解決する必要があります。その疑問は、次のことで大概集約されます。一つは、大和民主主義共和国が何故、どのようにして作られたのか。日本国憲法と同じでありながら、共和国として独立が必要なのかです。一つは、本当に独立して経済的にもやっていけるのか。一つは、色々な国から集まった人達を責任持って国民の安全や社会保障などやれるのか。一つは、この国が本当に民主主義と平和を尊重した国か、国民は納得しているかが疑問としてあります。日本に隣接した国として建設されているところに、わが国としては、脅威に感じているところです」団長の田中が、まず挨拶かねて率直に疑問点を述べた。
「率直なる疑問を提言していただきありがとうございます。私達も皆さんの立場ならば当然の疑問であり確認したいと思います。今後の打ち合わせや調査を通じて、皆さんの疑問が解決される事を願います。そのための援助は、惜しみません」それぞれが、まずは、簡単なジャブの応酬で始まった。
「我が国は、5つの行政区を持っています。従って、5つのグループに分かれて調査されると良いと思いますがどうでしょうか。異存がなければ、皆さんが見て、聞いて、感じて分析された結果が、疑問の解決に役立つと思います。最終日の前日に調査結果を踏まえたところで合同会議をする事でどうでしょうか」朴の発言で、最初の合同打ち合わせは終わった」
三
テレビ放映は、日本にも朝一番のニュースとして報じられた。訪問団が張首相と握手を交わすところや、会議室の様子、首相官邸の映像が日本全国に電波にのって映し出された。
きれいな島で、住民・国民の明るい顔が印象的だとのコメントと一緒に報じられた。夕方のニュースでは、もっと色々なところが映し出されることになるであろう。
この国は、5つの行政区に区切られている。島の中心にある高い建物は、国会を兼ねた行政の中心地である。近くに、首相官邸、迎賓館、中央図書館、中央病院、中央研究所、博物館、美術館などが置かれている。ここを中央区と称している。そして東西南北に分かれた行政区がある。
西区に空港が配置され、北区の漁港、南区にも空港らしきものがあった。東区には大学が集中している。店は各区に均等して配置されているようだ。大型点は、北と西にある。30キロ四方の島だから、結構大きい。これを埋め立てる資源はどうしたのか疑問である。
周囲を鉄道が、回っている。産業は農業・漁業が中心といっているが、ハイテク機器が結構設置されている。電力は、太陽エネルギー、風力・海水で賄われている。車はすべて電気自動車であった。これらのことから、この国の科学技術のすごさが伺いしれる。石油は、蓄えられている。漁船などのバックアップエネルギーとして使われている。
電線・電柱は一切みることはない。水はどうしたかといえば、海水を真水にしている。雨水も利用している。リサイクル化は、徹底していた。リサイクル工場エリアで全てのゴミをリサイクルしている。これらの実態が、これからの調査であきらかになってくる。
調査団は、5つ班に分かれた。団長を中心としたチームは中央区、外務省の課長を中心とした西区、総務省の課長が北区、国土・交通は、南区と東区を受け持った。各班にメンバが割り当てられた。
今日は、初日なのでグループ毎に各地区を車で回りながら見学することになった。車は共和国側が、運転手付きで案内人を付けてくれた。警備の要員はつかない。外務省の課長が警備についてクレームをあげた。共和国側は、笑いながら、
「心配ありません。わが国の治安は、折り紙つきの安全地帯です。案内人と運転手は、100人力の護衛技術を持ったメンバですからご安心してください。」と言った。
四
東区に回った調査団に案内人は
「この地区は、学校を中心としています。各行政区に、小・中・高とあります。日本と同じ6・3・3制です。大学は、東区に集中しています。各区にも大学がありますが、生涯大学と専門・技術大学です。この点は、日本と違います」
大学は、総合大学である。4年生で大学院を有している。短期大学や専門学校はなかった。
「専門学校は、ないのですか?」
「学校としては、ないですね。企業と行政が指導する専門学校の様なものがあります」
大学には、多くの学生がいた、他民族国家らしく色々な国の若者がいた。
「彼らは、この国の学生ですか」
笑いながら“そうですよ”と案内人は言った。学校は、日本でも見られる光景と同じであった。
文系、理系、医学、農業、漁業と別れている。広い敷地を抱えていた。
「こうしてみると、若林さん。ないのは防衛関係ですね。」防衛省出身の新巻が言うと。
「宗教は、どうなのですか?」
「どうだという意味は?」
「世界からあつまっていることから、宗教施設はありますか?」
「宗教施設は、あります。一番大きな施設は、お寺と神社です。後は小さな施設です。規制はしません」
「学生の就職先は、あるのですか?」
「あります。他の国への就職については、今後の承認国と友好関係が結ばれてからとなります」
「移民や留学生については、どう考えているのですか?」
「国の規模から見て、将来は100万人が適当と我々は、考えています。それにそった移民計画になると思います。留学生については、制限はないと思います。但し、日本語が基本です。それと憲法の理念を認めることが前提となります」
「差別するということですか」
「・・・・・・」案内人は、ムッとした顔で黙っていた。
「食料は、大丈夫ですか?」
「独立宣言が打ち出される時、検討されました。現在、主食を基本として100万人が生活できる食料の確保が出来ています」
「それは、確認したのですか?」
笑ってうなずいた。この国は、すでに、あらゆるものが周到に準備されている。住む人達は、選別されてこの国に来て生活し、未来に向かって人を育てている。国土・交通の若林課長は、羨ましくもあり、また恐ろしさを感じえなかった。
「学生たちや、学校関係者と話しますか?」
「今日は、やめときます。広く・浅くみてから明日以降にします」若林が言った。
他の参加者も、圧倒されていた。この国は、ただの小さな島でない。精錬された国、理想を目指している国との第一印象を受けていた。世界がこの国の実態を知った時、どんな反応するのだろう。若林は、ふとアメリカ、中国がどんな反応するのだろうかと思った。沖縄問題を抱えている日本は、独立を許すだろうか、不安がよぎった。
東区を調査する調査団は、いろいろと見て周った、そして歩いた。東の空は、赤くなり始めていた。
五
事件は起きた。南区の子供たちが住む“あすなろ”で食事が終わって子供たちが部屋で宿題している頃、食事の後片付けをしてゴミを捨てに行った調理当番のローズは、見知らぬ人物がこちらを見ているのにきがついた。
「そこで何をしているの?」その人物は近付いてきた。そのとき横から出てきた人物にローズは口を塞がれ
「静かにしろ、静かにしていれば何もしない」恐怖で喋るどころでなかった。叫び声も出なかった。この国でこのような出来事が起こる事は信じられなかった。
「誰が居る。人数は何人だ」ローズは、ふるえを抑えながら喋ることが出来た。
「あなたたちは何者? お金はないわよ」
「そんなことは、関係ない。中に何人いるのだ。静かにしていれば、危害を加えない」
「寮母が3人、他は子供たちが10人よ」
「静かに中に入れ」
「乱暴しないで。皆女性だから」
寮の居間に女性が3人テレビ見ながらくつろいだ格好で喋っていた。そこに、ローズと2人の男が現れた。
「静かにしてくれ、静かにしていれば何もしない」男達は、拳銃を突きつけて言った。
「貴方達は何物なの。何の用なの。この国では、拳銃は禁止よ。貴方達は、この国の人間ではないわね。よく入国できたわね」気が強そうなサリーが言った。
「君達は、アフリカ系のようだね。日本語がうまいね。他には誰がいる?」
「子供達だけよ。貴方たちは調査団の人達でないわね。何が目的なの」スージが言った。
「気が強いお嬢さん達だ、静かにしてくれれば何もしない。皆さんと話がしたいと思っている」男達も予定外の対応だった。本来は、街の様子や警備状況を探る目的だった。昼間歩いてみたが街の人達の中に入る込むことが出来なかった。違和感をもった。探索を夜にしてみた、油断であった。発見されたのである。この国の探索は、簡単でない気がした。うまく切り抜けないといけない。監視されている気がしていた。
「おい!子供たちはどうしている」
一階の居間では、2人の侵入者と寮を管理し、子供たちを面倒みている女性との静かな緊張したやり取りがつづいていた。ローズ、サりー、金、スージは、20代から30代の女性である。リーダは、スージである。
「子供たちは、まもなく寝るわ」
「そうかい。そうなれば俺たちとアバンチュールが出来るわけだ。夜は長いから楽しみだ。ハハハ」
「NO2、冗談言っている場合じゃない。俺達の存在が知られたからには引き上げだ。作戦変更だ!」
彼らは、番号で呼び合っていた。何を入手しようとしているのか判らない。
「騒がないでいてくれて感謝する。このまま、朝まで静かにしていてくれるとありがたいが、どうですか」
「どうせ見つかって脱出できないわよ。この国を甘くみないで」
「気の強い女性は好きだね。皆さんが、朝まで静かにしてくれれば我々も何もしないで出ていく。甘いですか」「・・・・・」
「NO2。丁重に皆さんを縛ってくれ」
「残念だ。楽しみが出来なくなった」と言いながら手際よく椅子にくくりつけていった。
口はテープで塞いだ。女性達は、恐怖と屈辱に耐えていた。しかし、子供達が安全であることにホッとしていた。
男達が出ていくと、しばらくしてドアが開き新しいお客が入って来た。彼らが帰ってきたと思ったが違っていた。迷彩服姿で、顔を隠していたが警備隊の人物だった。女性達は解放された。各自でテープを剥がした。金が、入ってきた警備隊の人物に向かって
「彼らの行動が判っていたのなら何故取り締まらないの“二度とこのような事がないようにして!”」金は、かつて情報室の優秀な要員だった。韓国で仕事をしていたが子供を事故により亡くした痛手をいやすために佐古が共和国に引き揚げさせた。金は手を出さなかった、手を出せなかった。まだ心の痛手から回復していなかった。
外は、こんな事件が起きている事など関係無いかのようにさわやかな風が吹いていた。
この島からは星はよく見える。降り注ぐように星は空を散りばめていた。
西の行政区(20XX年〇月8日)
西の行政区(20XX年〇月8日)
?青い木々今か今かと雨を待つ?
一
西区の調査チームは、西区の行政の中心地、区役所にいた。日本の城を思わせるような建物である。この地区には、空港がある。昨日は、西区の主要なところを駆け足で回った。このチームは、外務省の課長を中心にしたチームである。日本の区役所や市役所などと同じである。区役所の職員数は、住民の1%以内で職務を行っているようだ。職員の数は、各地区で異なる。税収は、個人が、30%、企業は、50%を基本と高い税率である。これでは、不満がでてくるのでないかと心配である。区役所では、電気・ガス・水道・通信(電話)を第三セクタ方式で経営・運営している。公共の建物は、国が建て、貸し出されている。全て建物は、国が建てたものばかりと思われる。個人が建て、民間が建てたものはあるのだろうか。建物からの借料が国の収入となる。病院・診療所の建物も、国が建て各行政区に貸し出す方式をとっている。学校も同じである。民間の医療施設は、存在しない。国は、経営・運営については関与しない。学校は、国立・公営である。中央区は、ほとんど国立だ、各行政区は公立のようだ。但し、大学だけは全て国立だ。高校までは、義務教育で学費は、無料である。大学においては、学費の5割が個人負担、残りは国が補うことになっている。留学生は、全額個人負担だ。各行政区の生涯学習大学の学費は、各行政区の負担である。生涯大学については、建物は、既存の学校の建物を、空いている時に使用し、公共施設や企業の施設を借りて行われる。
「財政運営は、うまくいっているのですか」日本の各自冶体が、赤字になっている現状を踏まえると老婆心ながら心配だと聞くと。
西区行政区長の梁は、笑いながら
「今のところ問題ありません。行政としても事業展開を行い予算の確保を行っています。建物などほとんどのインフラ設備が国により造られているので設備投資の費用はない。つまり各行政区は、借金なしで始めているのです」
「住民登録は、どうしているのですか」
「基本的には、身元を証明するものを基本にしています」
「資格審査があるときいていますが?」
「あります。資格審査会の承認が必要です。審査内容は、秘密ですが」
「日本人が、この国の建設に参加しています。このままでは、わが国と貴国の国籍を持ちます。貴国と本人しかしらない二重国籍所有者です。犯罪の温床になりかねません。こうした危惧を我々は持っています。名簿を渡していただけませんか」怒ったように外務省課長の大谷が言った。
「名簿は、渡すことはできません。わが国の住民が、罪を犯すとの危惧は、心外です。しかし、正常でないことは理解できます。わが国が承認され、貴国と友好関係が結ばれて彼らの移籍や身分保障されるならば、手続きも容易となり自然と移籍した人達があきらかになります。日本国内の友人・知人にお別れをいっていません。日本とは、行き来できるようにしたい」
「かってな言い分のように見受けられます。独立しないで日本所属すれば、こうした問題はないと思いますが」
「ハハハ。国籍、渡航の問題だけみれば、解決するかもしれませんね。しかし、それならば他の国が日本に所属したいとの要望があったら受け入れますか。今回のように調査して判断されるでしょ」
この問題は、独立を許す、許さないに発展することからお互い並行線であった。
しかし、調査すればするほど、この国の底知れぬ不気味な力を感じる。あまりにも整備され、採用されているインフラは、日本だけでなく世界でも実現していない設備もあった。
昨日の夜に行われた調査団の合同打ち合わせでも話題となった。この国の力を取り込めば、日本の活性化がはかり知れなくなると誰しも感じた。経済封鎖などで孤立させ、音をあげさせる。米軍や自衛隊送り込んで力にて取り込むなど。無茶苦茶な案がでたほどである。
二
農業をやっている地区にきた。農作業は、暑い日中を避けて行われている。朝方と夕方が作業時間だ。農業従事者は、結構歳を召した人たちが作業している。朝の10時だった。午前の作業は、終わっていた。国会議員の佐々木が声をかけた。
「暑いところ、お疲れ様です。何を作っておられますか」
“ムツ”とした顔をして、声をかけられた住民が振り向いた。
「調査は、順調ですか。我が国を承認できる 目処がつきましたか。その顔では、まだまだ調査できていないようですね。夕方、ここに働きに来なさい。頭だけで調査してもだめですよ。土をいじってみなさい。この国では、働かない人は住めないよ。調査も一緒に働くと判ることがでてきますよ」声をかけられた住民が話した。すると他の住民も
「貴方方は、日本では何しているのですか。日本で机に座ってえらそうにしているだけだろ」
「そこでカメラをいじっている兄ちゃん! そんなんでは、いい写真がとれないぞ!」
笑いながら、日焼けした顔で調査団に声をかけてきた。調査団はたじたじだった。
福西カメラマンが、「じゃ! 夕方来ていいですか。時間は何時ですか」
「オツ! その気になったね! いいのか怒られないか! ところで農作業やったことがあるのか」
「ありません」
「夕方は、ジムがリーダだったな! 中川さん、ジムに言っておいてよ!」
「16時にあそこにある事務所まで来な」中川が指をさしながら言った。
「大谷さん、私も参加していいかね」最初に声かけた自由党の佐々木が、リーダの大谷に話すと
「中川さん、よろしいでしょうか?」
「わかりました。その時間に来てください。手ぶらでも大丈夫ですよ」
突然、おかしなことになったと調査チームのリーダである大谷は思った。議員の佐々木が参加するとは思わなかったので驚いた。
三
その頃、警備隊の青木は、西区を車で回っていた。
“あすなろ”寮に進入した2名は、南区の海上から撤退したとの報告を朝受けた。アメリカの特殊チームであろうと思われた。南区の海上にはアメリカ軍の艦船がいた。
住民に見つかったことで調査を打ち切ったものと思える。この事件は、調査団が帰るまで、外部に漏れないようにした。“あすなろ”の金は怒っていた。彼女は、以前警備隊の特殊チームの一員だった。子供を亡くしたことで青木と破局した。特殊チームからも外れた。あすなろ寮で人質を許すなど警備チームもどこか緩みが出ていたのかもしれない。そう思いながら、現在西区を車でパトロールしていた。西区には10名の不法入国者がいる。こちらは、中国の特殊チームと思われる。不法侵入チームは、北区、南区、東区にもいたが中央区までは入り込んでいなかった。彼らは、多分見つかっているとは思っていない。無防備な島だと思っていることだろうが、何故か違和感を持っているようだった。青木は、西区の警察署に寄った。警官は、進行中の不法入国者の動きを知らないまま日常業務をこなしている。西区の刑事部で、第一捜査課の堀内主任に会った。
「どうですか、この国での警察の仕事は、おもしろいですか?」
「青木君、この国に第一捜査課が必要ないのではと思うよ。このままならば、私の仕事は無くなり、転職願いを出すかもしれないね。ハハハ・・」と笑いながら堀内が言うと
「これからですね。この国が承認され観光客などが増えてくると前の国と同じ事件が発生しますよ。堀内さん。それまで準備期間みたいなものですよ。この国は、理想・夢の国として登場したけど、これからは色々な人達がきますからね」青木は、現在、30名の不法入国者がいることは黙っていた。
彼らが、事件を起こさないで何事もなく静かに帰ってくれれば想定通りである。今は警備を緩やかにしているが、調査団が帰国した後は、通常の警備態勢に戻すことになっていた。侵入者が想定通りに引き揚げてくれればと願うばかりである。
「青木君、調査団の人たちは先ほど、区役所に来ていたようだ。農業地域に周ったようだけどね。どうも、別の国との感覚がまだわかないね。彼らを外国人として扱うのだからね」
「そうですね。でも彼らは、私達をすでに外国人として見始めていますよ」
日本の調査団は、5つに分散して調査している。共和国は比較的自由に調査させていた。
四
日本では、東郷主席の家族、兄弟の所在が洗い出されていた。当然マスコミは殺到した。東郷の子供達は、結婚していた。しかし自分達の父親が共和国建設をしているとは思っていなかった。10年前から父親は、単身赴任で働いていた。仕事は、小さな情報処理会社を経営しているものと思っていた。子供達が結婚したことで母親は、父親の所に移ったものと思っていた。家族内での会話は少なかった。母親を通しての会話で済んでいたため父親が共和国建設の事業をやっているとは思わなかった。兄弟達も同じだった。東郷の兄弟は7人兄弟である。兄弟達も東郷が小さな会社で頑張っているものと思っていた。だから突然の共和国のTOPが、自分達の身内だった事をマスコミの報道で初めて知った。質問しても判らなかった。本人達は吃驚するだけであった。マスコミは、子供達に父親が何をしているのか判らなかったのかとしつこく聞いていた。あまりにもしつこいマスコミの対応に息子が言った。
「貴方がたは、何が聞きたいのだ! 親子の関係を聞いてどうしたいのだ。失礼だと思わないのか。知らないものはしらない。判らないものは判らないと言って何が悪いのだ! 私達を脅したり、怒らせたりすることが目的なのですか! これ以上私達の生活環境を妨害しないでほしい」怒りをにじませて、お願いをした。笑っているマスコミもいたが、ベテランのレポータが謝罪し引き揚げさせた。不満を述べるマスコミがいたが、圧倒的には礼儀を失した対応であることで、家族や兄弟達へのインタビューは止めた。東郷は、家族等含めて建設を進めていた事を話さないで進めていた事をあらためて理解した。
五
雨が少ない島である。スコールが時々降る
。恵みの雨である。農業従事者の顔が、生き生きとしている顔がこの国を物語っていた。働くことの喜びが表れていた。
暑い日差しが照りつける中でも、南国特有の木々の青い葉っぱが、風に揺れていた。
理想の夢来(むら)