小瓶の中身

 葡萄を潰した。紫色の液体を小瓶に入れた後に、指でつまんで太陽にかざした。紫色の液体は光を透かして僕の網膜の神経を優しく刺激した。カラー印刷で調合されているこの辺りの風景が紫色に上書きされて一帯が綺麗に見えた。すると僕の後ろから冷たいシャンパンを弾いた様な声が聞こえた。
「やあ。待ったかい?」
 僕はその声の主に対してすぐさまに答えた。
「やあやあ。狐君」と僕は言って緑色のベンチに狐を誘導した。僕と狐は緑色のベンチに座り、軽く深呼吸をして、足を組んでリラックスした。
まず、僕が口を動かした。「そうだね。だいたい二十分くらい待ったかな? それで君がなかなか来ないから僕は暇つぶしをする事にしたんだ。ほら、あすこに公衆トイレがあるだろ? 約五十メートルと言ったところだ。さっき気づいたんだがこのトイレの後ろ側には葡萄の木が生えている。濃い青色のビー玉みたいな奴だ。それで僕は腕を伸ばして葡萄の実をもぎ取ったんだ。スベスベとしていて、弾力のある葡萄だった。取りあえず暇だったから僕は指で潰して、絞って、垂れた液体を小瓶に詰めたんだ。まさにクジラのあくびを集めた様な色をしている」
「ふぅん」と言って狐の奴はコンコンと咳ばらいをした。
「しかし、今日はとても熱いですな。まぁ、遅れた事に対して謝罪します。けどもです。私がこうして遅刻した事で貴方は葡萄を見つける事が出来て、おまけに小瓶に葡萄の液体を収集する事が出来たのです。良い事ではないですか。いやはや、私が最近収集しようと躍起になっているのは大学の単位です。これでは留年をしてしまいますね。単位やこれからの先の思い煩い何てモノも小瓶に入れて使いたい時に取り出して、飲み干したいものですよ。それに加えて、個人的に秋に飲む、収集物はホンノリと苦くて寂しい味で、でも、何処か切なくて甘い栗の様な舌触りもありそうです。でも私は小瓶に入れる事はしませんね。小さすぎて、無くしますよあんな物」
 狐はそう言うと赤いベストのポケットに手を突っ込んでポケットティッシュを取り出して鼻をかんだ。品のない音が響いて僕は何だか恥ずかしくなった。

小瓶の中身

小瓶の中身

  • 小説
  • 掌編
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  • 青春
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2018-02-20

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