ガラクタバッカノクニ

まどろ

ガラクタバッカノクニ
  1. ガラクタバッカノクニ
  2. マチガエバッカ
  3. カナシミバッカ
  4. クルシミバッカ
  5. ニクシミバッカ
  6. シアワセバッカノクニ

ガラクタバッカノクニ

そこはゴミできた土地だった。
見たまんまに名前がついて、ガラクタバッカと呼ばれていた。
そんな街にも、もちろん人はいた。
ボロボロの衣装を着て、ため息ばかり吐いていた。
そのため息が白い靄となって街全体にかかっていた。

そんな街を変えた1人の王様がいた。

マチガエバッカ

ガラクタバッカは4つの領域を持っていた。
ガラクタバッカの西に位置している“マチガエバッカ”
ここに住む人はいつも間違えを犯していた。
朝ごはんにビーフステーキを食べてしまったとか。
午前の煎茶(せんちゃ)を午後に飲んでしまったりとか。
分かっていながらギャンブルに身を染めてしまったりとか。
他の人を好きになってしまったりとか。
「なんでこんなに間違ってしまうんだ…」
マチガエバッカの人は口々に唱えます。

そこに王様が現れたのです。

「みんな。それは決して間違いではないんだよ。朝ごはんはご飯と味噌汁じゃないといけない。午前の煎茶は午後に飲んだらいけない。ギャンブルはしてはいけない。違う人を好きになってはいけない。世間一般という言葉に耳を貸す必要なんてないんだよ。みんなが起こした行動1つ1つに、正解不正解なんてないんだよ。その1つ1つが繋がった先が今なんだよ」

マチガエバッカの人々は、自分の行いが間違いではないと知ったその日から、ため息をつくのをやめました。
街全体にかかっていた白い靄が、ほんの少し薄くなりました。

カナシミバッカ

ガラクタバッカの南に位置する“カナシミバッカ”。
ここに住む人はとにかく涙を流していました。
友達に嫌われてしまったりとか。
親を亡くしてしまったりとか。
大切な物をなくしてしまったりとか。
「なんでこんなに悲しいことが起こるんだ…」
カナシミバッカの人々は口々に唱えます。

そこに王様が現れたのです。

「みんな。泣くのもすごく大事だけど、もっと大事なのはその悲しみと向き合っていくことなんだよ。親が亡くなった。友達に嫌われた。大切な物をなくした。みんなの身に起きたその悲しみは、いつの日かみんなを通して次に繋がる日が来るんだよ。だからほら、向き合おう。いつかは自分が悲しませてしまう日が来る。その日が来ても笑顔でさよならできるように笑おう。悲しみは少しずつ少しずつ共有していこう。貰い手がいないなら僕を呼んでおくれ。僕はみんなの味方だよ」

カナシミバッカの人々は、悲しみを分け合う強さを知ったその日から泣くのをやめました。
街全体にかかっていた白い靄が、少し薄くなりました。

クルシミバッカ


ガラクタバッカの北に位置する“クルシミバッカ”
ここに住む人はずっと胸を押さえていました。
仲の良かった人に裏切られてしまったりとか。
生死の分からない親友がいたりとか。
好きな人に新しい好きな人ができたことを知ってしまったりとか。
「なんでこんなに苦しいんだ…」
クルシミバッカの人々は口々に唱えます。

そこに王様が現れたのです。

「みんな。今が苦しいのは分かるんだ。裏切られた。生死が分からない。知りたくもなかったことを知った。確かに苦しい。でもね、必ずしもみんなだけが被害者ってわけじゃないんだ。今、みんながそうしてひっそり生きていると、生死が分からない。みんなのことを思っている人は同じ苦しみを味わってしまうんだ。裏切りだってそうだ。100人いたら100通りの裏切り方がある。みんなが裏切ったと思ってなくても、裏切られたと思わせてしまっているかもしれない。みんなが弱いなんて言わないよ。ただ、強くもない。だから、一緒に手を取り合おう。少なくとも、僕はみんなの味方だよ」

クルシミバッカの人々は、1人で苦しまなくていいんだと分かったその日から、胸を張って生きていけるようになりました。
街全体にかかっていた白い靄は、だいぶ薄くなりました。

ニクシミバッカ


ガラクタバッカノの東に位置する“ニクシミバッカ”
ここに住む人は常にナイフを握っていました。
親が憎かったり。
友達が憎かったり。
自分が憎かったり。
「もういっそのこと、殺してしまいたい…」
ニクシミバッカの人々は口々に唱えます。

そこに王様が現れたのです。

「みんな…。とりあえずナイフを置こう。ナイフは本来人を傷つけるものじゃないんだ。親が憎くても、友達が憎くても、自分が憎くても、ナイフは人に向けてはいけない。憎しみというのはどうしようもない。1番重い感情だ。だからもう、こうするしかなかった」
王様がそういうと、ニクシミバッカの入り口から、ぞろぞろと人が入ってきた。
「みんなの憎しみの元凶たちだ。みんなの心を傷つけ、そんな目にさせた人たちだ」
人々は地面に置いたナイフを拾い上げようとします。
「待ってくれ!」
王様の声はニクシミバッカを抜け、ガラクタバッカ全体に響き渡った。
「みんな。これは僕のわがままになるんだが…どうか…どうか許してあげてほしい。僕は今まで、マチガエバッカ、カナシミバッカ、クルシミバッカの人々を変えた。だからここのみんなにも変わってほしい。この国を…ガラクタバッカノクニを、シアワセバッカノクニに変えたいんだ!」
王様が言葉を重ねていくうちに、ガラクタバッカの霧は薄くなり、人々の顔が見えるようになっていく。
「もう1度やり直そう。ゴミでできた街でも、住んでいる僕たちはゴミなんかじゃない。1人1人がちゃんと生きてる。間違ったことも、悲しいことも、苦しいことも、憎んだこともあった。忘れようなんて言わない。乗り越えようとも言えない。ただ、手を取り合って生きていこう…。僕は……もう、何度も何度も同じことを言ってるけど、みんなの味方だ」
ニクシミバッカの人々は、ナイフの代わりに人の手を握る勇気を得たその日から、笑顔と涙を取り戻しました。
街全体に掛かっていた白い靄は、すっかり無くなってしまいました。

シアワセバッカノクニ

そこはゴミでできた土地だった。
見たまんまに名前がついて、ガラクタバッカと呼ばれていた。
そんな街にも、もちろん人はいた。
ボロボロの衣装を着て、ため息ばかり吐いていた。
そんな時期もあったが、今は幸せな日々を過ごしている。

「もう悩まなくたっていいんだよ。1人じゃないんだよ。この街はみんなで1つなんだよ」
そう言って、王様はいつも笑っていました。
王様はみんなが大好きでした。
みんなも王様が大好きでした。

ガラクタバッカノクニ

ガラクタバッカノクニ

  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
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