ガラクタバッカノクニ

ガラクタバッカノクニ

ガラクタバッカノクニ

そこはゴミできた土地だった。
見たまんまに名前がついて、ガラクタバッカと呼ばれていた。
そんな街にも、もちろん人はいた。
ボロボロの衣装を着て、ため息ばかり吐いていた。
そのため息が白い靄となって街全体にかかっていた。

そんな街を変えた1人の王様がいた。

マチガエバッカ

ガラクタバッカは4つの領域を持っていた。
ガラクタバッカの西に位置している“マチガエバッカ”
ここに住む人はいつも間違えを犯していた。
朝ごはんにビーフステーキを食べてしまったとか。
午前の煎茶(せんちゃ)を午後に飲んでしまったりとか。
分かっていながらギャンブルに身を染めてしまったりとか。
他の人を好きになってしまったりとか。
「なんでこんなに間違ってしまうんだ…」
マチガエバッカの人は口々に唱えます。

そこに王様が現れたのです。

「みんな。それは決して間違いではないんだよ。朝ごはんはご飯と味噌汁じゃないといけない。午前の煎茶は午後に飲んだらいけない。ギャンブルはしてはいけない。違う人を好きになってはいけない。世間一般という言葉に耳を貸す必要なんてないんだよ。みんなが起こした行動1つ1つに、正解不正解なんてないんだよ。その1つ1つが繋がった先が今なんだよ」

マチガエバッカの人々は、自分の行いが間違いではないと知ったその日から、ため息をつくのをやめました。
街全体にかかっていた白い靄が、ほんの少し薄くなりました。

カナシミバッカ

ガラクタバッカの南に位置する“カナシミバッカ”。
ここに住む人はとにかく涙を流していました。
友達に嫌われてしまったりとか。
親を亡くしてしまったりとか。
大切な物をなくしてしまったりとか。
「なんでこんなに悲しいことが起こるんだ…」
カナシミバッカの人々は口々に唱えます。

そこに王様が現れたのです。

「みんな。泣くのもすごく大事だけど、もっと大事なのはその悲しみと向き合っていくことなんだよ。親が亡くなった。友達に嫌われた。大切な物をなくした。みんなの身に起きたその悲しみは、いつの日かみんなを通して次に繋がる日が来るんだよ。だからほら、向き合おう。いつかは自分が悲しませてしまう日が来る。その日が来ても笑顔でさよならできるように笑おう。悲しみは少しずつ少しずつ共有していこう。貰い手がいないなら僕を呼んでおくれ。僕はみんなの味方だよ」

カナシミバッカの人々は、悲しみを分け合う強さを知ったその日から泣くのをやめました。
街全体にかかっていた白い靄が、少し薄くなりました。

クルシミバッカ


ガラクタバッカの北に位置する“クルシミバッカ”
ここに住む人はずっと胸を押さえていました。
仲の良かった人に裏切られてしまったりとか。
生死の分からない親友がいたりとか。
好きな人に新しい好きな人ができたことを知ってしまったりとか。
「なんでこんなに苦しいんだ…」
クルシミバッカの人々は口々に唱えます。

そこに王様が現れたのです。

「みんな。今が苦しいのは分かるんだ。裏切られた。生死が分からない。知りたくもなかったことを知った。確かに苦しい。でもね、必ずしもみんなだけが被害者ってわけじゃないんだ。今、みんながそうしてひっそり生きていると、生死が分からない。みんなのことを思っている人は同じ苦しみを味わってしまうんだ。裏切りだってそうだ。100人いたら100通りの裏切り方がある。みんなが裏切ったと思ってなくても、裏切られたと思わせてしまっているかもしれない。みんなが弱いなんて言わないよ。ただ、強くもない。だから、一緒に手を取り合おう。少なくとも、僕はみんなの味方だよ」

クルシミバッカの人々は、1人で苦しまなくていいんだと分かったその日から、胸を張って生きていけるようになりました。
街全体にかかっていた白い靄は、だいぶ薄くなりました。

ニクシミバッカ


ガラクタバッカノの東に位置する“ニクシミバッカ”
ここに住む人は常にナイフを握っていました。
親が憎かったり。
友達が憎かったり。
自分が憎かったり。
「もういっそのこと、殺してしまいたい…」
ニクシミバッカの人々は口々に唱えます。

そこに王様が現れたのです。

「みんな…。とりあえずナイフを置こう。ナイフは本来人を傷つけるものじゃないんだ。親が憎くても、友達が憎くても、自分が憎くても、ナイフは人に向けてはいけない。憎しみというのはどうしようもない。1番重い感情だ。だからもう、こうするしかなかった」
王様がそういうと、ニクシミバッカの入り口から、ぞろぞろと人が入ってきた。
「みんなの憎しみの元凶たちだ。みんなの心を傷つけ、そんな目にさせた人たちだ」
人々は地面に置いたナイフを拾い上げようとします。
「待ってくれ!」
王様の声はニクシミバッカを抜け、ガラクタバッカ全体に響き渡った。
「みんな。これは僕のわがままになるんだが…どうか…どうか許してあげてほしい。僕は今まで、マチガエバッカ、カナシミバッカ、クルシミバッカの人々を変えた。だからここのみんなにも変わってほしい。この国を…ガラクタバッカノクニを、シアワセバッカノクニに変えたいんだ!」
王様が言葉を重ねていくうちに、ガラクタバッカの霧は薄くなり、人々の顔が見えるようになっていく。
「もう1度やり直そう。ゴミでできた街でも、住んでいる僕たちはゴミなんかじゃない。1人1人がちゃんと生きてる。間違ったことも、悲しいことも、苦しいことも、憎んだこともあった。忘れようなんて言わない。乗り越えようとも言えない。ただ、手を取り合って生きていこう…。僕は……もう、何度も何度も同じことを言ってるけど、みんなの味方だ」
ニクシミバッカの人々は、ナイフの代わりに人の手を握る勇気を得たその日から、笑顔と涙を取り戻しました。
街全体に掛かっていた白い靄は、すっかり無くなってしまいました。

シアワセバッカノクニ

そこはゴミでできた土地だった。
見たまんまに名前がついて、ガラクタバッカと呼ばれていた。
そんな街にも、もちろん人はいた。
ボロボロの衣装を着て、ため息ばかり吐いていた。
そんな時期もあったが、今は幸せな日々を過ごしている。

「もう悩まなくたっていいんだよ。1人じゃないんだよ。この街はみんなで1つなんだよ」
そう言って、王様はいつも笑っていました。
王様はみんなが大好きでした。
みんなも王様が大好きでした。

ガラクタバッカノクニ

ガラクタバッカノクニ

  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2018-02-17

Public Domain
自由に複製、改変・翻案、配布することが出来ます。

Public Domain
  1. ガラクタバッカノクニ
  2. マチガエバッカ
  3. カナシミバッカ
  4. クルシミバッカ
  5. ニクシミバッカ
  6. シアワセバッカノクニ