NEO☆ROMANTIC
愛は世界を救えない!?
第三次世界大戦
時は西暦2200年
かつての第3次世界大戦勃発によりアジア全域にわたり忘れられていた弾道ミサイルが
一部の中東ゲリラ同盟により米国及び日本、韓国へ誤射されてから180年も過ぎようとしていた。
2020年に日本を襲った核ミサイルの脅威は首都東京を始め、福岡、大阪、名古屋、新潟、仙台、青森、
函館と広範囲にわたって襲いかかり、一夜にしてそのすべてを廃墟とした。
国民の大半が被爆し直接の被害以外にも被爆者として多くの人々を死なせることになった。
考えられない量で降りそそいだ放射能による影響は
2世代にわたり遺伝子異変を引き起こし第3世代には特殊な能力を持つものも現れはじめた。
兄弟国アメリカも同じ状況下ではあったが発射されたアジアから遠かったため
弾道ミサイルに対応できて、かろうじて大惨事には至らなかった。
ある筋の情報としてテロの動きを関知していた組織がアメリカ政府にリークしていたともいわれている。
黒い陰謀の中でこれまで考えられないような非情な企みが行われ一般市民の日常を壊す事件だったのだ。
のちに国家機密として日本、韓国に対してアメリカが黙認し対策が遅れていたことが発覚したことで
強い反米感情が根強く残っていて一部の国内反政府運動部隊を結成させた要因のひとつになっている。
その当時、国連の報復手段としてイラク、アフガニスタン、レバノンの隠れているゲリラ同盟に対する
殲滅作戦が実行されたが早期に分散したテロリストへの捜査模様は混沌とした世界の中で交じりあい
180年だった今でも解明されていない
核の脅威は、何年ものあいだ国としての中枢を奪い、
国の主要拠点を破壊したため人々への物資の流通をも遮断した・・・・・。
その反面陸路が断たれた状態のため通信手段として
コンピューターによるネットの発達は急速に進んだのであった。
日本国は、このニュークリアーアタックにより
生き残った人々の復興のために駐留となったアメリカを中心とする国際支援機関と
一部の財閥企業との間で資本が提供され再建されたのである。
財閥企業
当時 バイオテクノロジーと情報通信技術の融合を図り
バーチャルリアリティーの開発において成功して
TOPの座を築き上げていた企業ニューコスモエンターテーメントは
断たれた流通機能をネットにより情報を提供し大企業に発展していった。
またバイオテクノロジーにより開発された新しい農作物や家畜による食料等も提供し始めていた。
人々への娯楽としては、バーチャル空間が提供し続けられた。
多くの人々に受け入れられたそれはマスメディアに変わり普及した。
しかし、その人気の影で密かに個人情報と個人の監視を目的としたシステムが
IDの振分けとともに構築されていったため
日本国民は企業体と新生外資系政府に洗脳され、飼いならされ
支配されていくのであった。
人類冷却管理センター
第3次世界大戦後 事実上首都東京は消滅した。
その後の放射能汚染から逃れるため
地下800メートルの地中深くに新東京市が建設される。
人口1500万人の人々がここに生活していて他の地方の地下都市は
スパイラルチューブと呼ばれる最新式の地下鉄で接続されている。
新東京市にはコスモエンターテーメント㈱(以下N.C.Eと略)の施設のひとつに
人類冷却管理センターと呼ばれる施設がある。
ここは余命幾ばくと診断された人々の中で一部の裕福な階層の人や政府機関によって
選ばれた者が冷凍人間としてフリーズされている。
医療の発達した現在でも進化していくウイルスや細菌を回避し
生命を維持させていくことは難しいのである。
バイオテクノロジーの成長に伴い人間のクローン臓器移植は常識となっているが、
人間のメンタルな部分まではクローンできなかった。
以前、死んだ人間のクローンを再び蘇生するという実験も極秘で研究されていたが、
失敗に終わり今では行われていない。
クローンは肉体的には新しく生まれ変わることができたが
メンタルな部分までは完全にはコピーされない。
自分がオリジナルではないことに気がついてしまうと、
純粋なこころは過去の自分を持ち合わせることになり悩み苦しむのである。
偽りの過去を持ちそれを誤魔化しきれない者は、自らを消去していくのであった。
そのために現在では医療の発達を待ちここで冷凍睡眠するのが主流となっている。
蘇生~~眩しい光の中で
目が開けるのが痛いくらい眩しくきらめく光の中に僕の意識が存在していた。
・・・・どのくらいそうしていたのだろう?・・・・
そこではありとあらゆるものが一つに同化しているかのように輝きと沈黙を受け入れるしかない。
白い壁で覆われている空間には奥行きがなく中心には薄っすらと輪郭を持つ光る球体のようなものがあり
僕は静かにうなだれてその球体の光に包まれる。
・・・・・何かを待っているようだった。気が遠くなるような長い時間が安らぎにかわってゆく・・・・・
微かに浮かぶ光の影に時折原色の光・・・・REDやBULEの閃光が走るソレは
長い間続いていたその時間が終わりゆっくりと動き出したことを証明していた。
壊れかけ、音を出して回るメリーゴーランドのように・・・・・
ひどく疲れてけだるい感覚
意識はだんだん覚醒してゆく
やがてすべてが激しく廻り出す。きしむ音を何十にも重ねられたような嫌な音をたてて
不快感をよりいっそう強くさせた。
”ここにきて!”白い手をした少女がやさしくささやく
”はやく!” ”はやく!” ”はやく!” 何度も繰り返される
”はやく!” ”はやく!” ”はやく!” ”はやく!” ”はやく!” ”はやく!”
やわらかく暖かいその声は加速して金属音のような鋭い声に変わってゆく
あまりの痛さに僕はついに重い口を開いた。
”やめろ~~~~!!”
その瞬間 深い闇が やってきた。
月光岩~~MOON LIGHT DAZZLE
暗闇の中に仄かな光が照らされている。
それと 懐かしい匂い・・・・・
もう何年も忘れていた僕の好きだった彼女のつけていたコロンの匂いだ。
なぜだろう こんなに長く暗闇の中にいるのにあの長い間眩しい空間にいたときほど
孤独感を感じさせない。
いや、寂しさなどはすでに麻痺した心の片隅にも残っていないのかもしれない
・・・・・とどのつまり人間は一人だ。
だからこそ誰かと寄り添って生きていくのだろう・・・・・
ふと彼女とあの夏に交わした約束を思い出した。
僕たちの住む街の海岸線沿いに小さな島があり、僕らは月光岩と呼んでいた。
満月の日、その場所で誓い合うとその二人は永遠にいっしょにいられる
そんな少女趣味的な迷信が言い伝えられていた。
もちろん僕は信じなかったが彼女は本気だった。
非科学的な馬鹿げた事は到底信じていなかったが、
僕は彼女といられることだけで幸せだったので
ある夜、その島に二人で過ごすことになった。
夏の夜の海は穏やかで、ちょっぴり潮風がひんやりとしていた。
昼間、事前調査していた海の売店で貸し出しているゴムボートを
こっそり借りてきて息を切らしながら海を走らせた。
その距離はほんの数百メートルだったけど
夢中でオールを廻す僕に月に照らされて微笑む彼女は綺麗だった。
But it‘s not ture love
静かな海の平面に、僕たちの進むボートの波紋だけがきらきらとひかっていた。
遠くから見えるその黄色いボートがベニスのゴンドラのように優雅なものに思えた。
楽しそうに口ずさむ彼女の聴いたことのないメロディー・・・・昨日の晩、作曲したらしい。
波の音と混じり不思議なハーモニーは、それまで必死だった僕にゆっくりとボートこがせた。
月光岩の入り江が見えてきた。
ゴツゴツとしたグレーの岩肌はやわらかいゴムに刺さりそうだ。
近づくにつれてボートが波に激しく揺れるので慎重に岩陰に寄せる。
彼女の小さすぎる体には不釣合に大きいバスケットケースを大事そうに抱えて
大きな瞳で岩にロープを縛り付けている僕を見てこう言う。
「きちんと縛ってね。ボートが流されたら、もう、お家に帰れないよ」
『うん、でも大丈夫だよ。今日はそれほど波も高くないし』
「ボートがなくなって帰れなくなったら、ココの伝説どおりにずっといっしょにいられるわね」
『おいおい・・・・怖いこというなよ』
冗談交じりに言われた言葉に軽く受け流してはいたが
内心、それもわるくないなぁ と思えてしまう自分がいた。
最近、彼女といると周りのことすべてがどうでもよくなってしまって物事が考えられなくなる。
仕事のこと、友人のこと、家族のこと・・・・抱えきれないすべてを棄てたくなる。
これが恋なのだろうか? でも そうすることは本当の愛ではない。
約束
月光岩の大きさは僕たちが通っていた高校のグランドほど大きくはなかった。
ドーナツのように真ん中が空いていて侵食された部分は満月を見るのに丁度いい場所になっていた。
その後ろには、二人が入ってもまだ少し余るくらいの洞穴があった。
やはり心配だったのでそこにボートを隠しておくことにした。
岩でできたテーブルの上にバスケットケースの中から敷物をしくと
手際よくティーカップを並べてミルクティーとサンドイッチを出してくれた。
ミルクティーはものすごく甘く、サンドイッチの玉子はちょっとしょっぱかった・・・・・
でも おいしかった。
もう時間もAM1:00になろうとしていた。
二人は寄り添ってうとうとしながら、海や月をぼんやりと見ていた。
真っ暗な静寂の中に暖かい灯があるようなやさしい気持ちになれた。
もう言葉はいらなかった。
ずっといっしょにいられるような気がしてくるから不思議だ。
その晩、僕たちは無言で約束をかわした。
永遠につづくなら・・・・
かならず、そうしていられることを。
安らぎの中でいつの間にか僕たちは寝てしまっていた。
地平線
どのくらいだろう?
こんなにも何も考えずに熟睡できたのは・・・・・
暗い闇の中でひとりで眠ることがこんなにも怖いものだと
君と出逢って初めて気がついた。
寝ることなんて 当たり前なことなのに・・・
気がつくと彼女は僕の腕の中で華奢な小さな体をまるめて寝息をたてていた
寝相が悪いのか確認しているのか、時折、足で僕のおなかの辺りを蹴ってくる。
寝息をスースーと気持ちよく心地よいリズムを刻んでいた。
地平線が青白く輝いてきているのを眺めながら、起こそうか?どうしようか?
と迷ったけど、あまりにも寝顔がかわいいので、もう少し寝かしておくことにした。
きっとこの風景のことを話したら、ほっぺたを膨らまして怒るにちがいない。
そんな怒った顔も僕は好きだった。
彼女が起きた時にはすでにあたりは明るくなっていた。
彼女のひざの上に頭を乗せてぼーっと海を見ていると再び眠さが襲ってきて
頭の上の彼女の顔がだんだんかすんで消えてゆく・・・
「また、逢えるわよね」
「いつかきっと・・・ここで・・・・お休みなさい」
WELCOME NEW LIFE
薄暗く見える人影がだんだんとはっきりしてきた。
その影はすぐに男であることに気がつくには
あまりにも深すぎる眠りだった。
『お目覚めデスカ・・・・NO.318
ワタシハあなたの担当管理官でDr.Fとイイマス』
その声は小さかったが、よく通る低い金属のような声でに僕の頭の中を揺らした。
日本語とも英語とも聞きなれない口調でしゃべっている。
どうやら日本人のようだが、着ている服はビニール素材でできたスーツで
襟がなくピカピカに光っている。
その中に同じ材質でできたトータルネックのシャツを着ている彼の首は
妙に長く見えた。
『ダイジョウブです。ダンダンカラダも慣れて動けるヨウニなってきますヨ』
「・・・・・・・」
『WELCOME NEW YOUR LIFE!! さぁ はじめましょう』
White Room No.318
白いプラスチックのような壁で覆われた部屋の中には窓がなく
電球や電灯などの照明がないが白い壁と同じ材質でできた天井が
僕の意識に合わせて明るく光っている。
眠いときは薄暗く、ベットから起き上がると明るくなる。
随分と時間が経っているようだった。意識が覚醒してからようやくカラダも動くように
なってきている。
果たしてここがドコなのか検討もつかない。
分かっているのは僕が長く眠っていたこと・・・・
僕の担当官と呼ばれるDr.Fに聞いた話によると
180年間冷凍保存されていて、ある意味で時期が来たので解凍され蘇生したのだという。
ある意味について・・・・そのある意味が何であるかFに問いかけたが
感情の起伏も感じられないいつもの表情で
『時期がキタラ自然とワカリマス。今は回復スルコトガ重要・・・・なのです』
と動く口と一緒に眼鏡が揺れてキラリと光る。
ここにきて僕は、はじめは途方にくれていた・・・なにがなんだかわからない
なぜそうなったのか・・・・・思いだせないことなど考えていたが
回復するにつれてくよくよ考えることをやめてF管理官の言うとおりに
どんどんと激しいリハビリにのめりこむように励んでいった。
BODY トレーニング
ここにあるものすべてが新しく変わっていた。
それが何か?とわかるまで発想できるほど僕の頭はとても良くできていなかった。
ただ、毎日つづくトレーニングはとても原始的だ。
ひたすら動くプレートの上でひたすらジョギングをしたり、
両手でスプリングのついた取っ手を引っ張ったり・・・・・
時折、バナナやオレンジの味がする歯磨き粉のようなチューブをもらい
栄養を摂取するように言われた。
これを食べると疲れていたからだがシャキっとしてきて
不思議と疲れを感じなかった。
汗をかき、時間が来ると眠る。
何日もこれが続いた・・・・・
ここの建物には全て同じ白いプラスチックのような材質がつかわれ貼り付けられていた。
やはり、壁には窓がなかった。
なぜ窓がないのか?
この問いについてもF管理官からは答えを得ることはできなかった。
質問されるとき彼は全く無表情で、対応には慣れているのかそのことについては
一切触れる隙を与えずに次から次とトレーニングを僕に要求してきた。
ある日を境に僕と同じトレーニングをしている男を見かけるようになった。
僕よりも10歳くらい年上に見える。
彼の周りにもF管理官のような人物が傍にて見慣れない機械を片手に難しい顔をしながら
眉間にしわを寄せていた。
彼は数日間現れたが、いつも無表情で会話を交わすことがなく
突然泣き出したと思ったらそれ以来再びその姿を見ることはなかった。
そのことについての僕の質問もF管理官は答えることなく
無表情にこういった。
『あなたの滞在トレーニング期間はあと95テラスト(約3日)です。
明日、最終テストを受けてくだサイ。合格ならば・・・・
データーロードランの資格をあなたは得られることになりマス。』
僕は今まで何も考えないようにしてきたが、トレーニングの終わりを告げられ
聞きなれない言葉の意味を探そうとしていた。
”データーロード・ラン?・・・とか資格とかって何なんだ???”
・・・・F管理官に聞こうと思ったが教えてくれるわけがないと思い口を閉ざした。
移動
”データーロード・ラン”という最終目標を言い渡された次の日
F管理官がいつも迎えに来るのと反対の廊下を小型の長椅子の様な乗り物(浮いていて車輪等はない)に
彼の手招きでいっしょに腰掛けるとスーとそれは動き出した。
「この乗り物はなんなのですか?僕の時代ではありませんでした。
動力はなにか新しいエネルギーでしょうか?」
『・・・・発想の転換によって出来たエネルギートデモイイマショウカ・・・・
かつての人類は地下に眠っているものを使い果たし自然との調和を破壊するダケデシタ。
自然界に存在するものに宿るパワーを摘み取り、形にすることで動いているのです。
昔の人間の力でいえばサイコキネシスと呼ばれていた力です。
この力は自然界すべてのものに宿ってイルノデス。
動こうとする力、その源になるものとイイマショウカ・・・・・
ちょっとしゃべり過ぎました。』
「サイコキネシス・・・・・」
『ソウ・・・その存在もまやかし扱いにしていた遅れた時代の住人だった人々には
驚きかもシレマセンネ。右脳開発は前世紀の大戦後にもっとも研究された分野です。
この乗り物はその研究結果が応用されたエンジンを積んでいます。』
そう話しているうちに、僕らは狭く長い廊下をしばらく進み青いプレートの付いている
扉の前で、長椅子の乗り物から降りると同時に扉が開いた。
扉の向こうには僕の部屋よりも広いドーム型の部屋だった。
「お待ちしていましたよ。No318、私は管理官のSです。どうぞこちらへ・・・・・・」
最後の希望
彼は先日、僕と一緒にトレーニングをしていた人と一緒にいた管理官だった。
F管理官と同じ制服を着ているが胸に付けている名章の色が違っていた。
なんとなく顔つきもF管理官とは対象的で、S管理官は冷たい感じのする美少年といったところか。
ドームの中の中央には歯医者さんにおいてあるような診察用の椅子が置いてあり
それを囲うようにしていろいろといままで見たこともない機械がびっしりと並べられていた。
「F管理官、クランケの調子はどうですか?」
『ハイ S管理官、ご苦労様デス。 コードネーム NO.318は
順調にTRプログラムを終了いたしマシタ。』
「予定通り彼は何も聞かされずにいないようだな。
何も知らないということは、何ものにも恐れることのない強さを持つことでもあるのだ。
データーロード・ランに関しては予備知識などは全く必要がないということが先日の
コードネームNo.317の分析結果により分かっている。
我々の目的を達成できるかどうか・・・No.318は可能性を秘めた最後のサンプルだ。
失敗はもう許されないのだぞ。
F君・・・・・・わかりますね?」
『ハイ! 彼は私たちの失った記憶を解く『最後の希望』になるカモ知れません。』
僕は二人のやり取りをぼーとながめ思った。
<S管理官が話した彼らの最後の希望とは・・・・・・なんなのだろう?>
考える間もなく僕は中央の椅子に座るように命令された。
NO MEMORY
「よいですか?No.318 これから最終トレーニングを行います!」
その声はS管理官の声だ。
どことなく人を見下した感じのとれる低く高圧的な口調は僕の頭をスッポリと
覆いかぶさっているフルフェイスのヘルメットの中でエコーとなって響いた。
「最終のトレーニングは、長い間使われていなかった貴方の脳みそ!みそみそみそ・・・・・・・
そう! 脳みその訓練です!
BE CEREFULLIY!! 注意がっ必要です!
万が一のことですが・・・・途中で訓練をやめると・・・・
廃人になってしまう恐れがあります。」
『ソウデス、No.318 トレーニングの間 イロイロな過去の記憶の中で過ごさなければナリマセン。
複雑な深層心理の中に自ら入ることはトテモ危険なことデスガ・・・・・・』
S管理官とF管理官の声が立て続けに聞こえた。僕は電極がたくさんついているヘルメットをかぶり
僕はドーム中央に置かれている歯医者さんの治療室でよく見かけあの椅子に横たわっていた。
ギリリリリリィ~ ガチャン! ガチャン! ガチャン!
ふいに、電極のたくさん付いた手錠が 両手と両足の自由を塞ぐ・・・
まるで奴隷のように過ごしてきた僕は成すすべもなく素直にトレーニングを受けようと思った。
解凍されたときから僕には主体性がなく、何も考えることができずに
F管理官が指示してきたとおりに動いてきた。
解凍前の記憶は・・・・なぜか思い出そうとしても思い出せない
なぜならば 僕は、過去の記憶をすべて失くしているからだった。
稼動5秒前
僕はいったい何者なのか・・・・・?
どこで何をしていたのか・・・・・?
これは一時的なことなのか・・・・?
僕は困惑する。
それらのことを思い出すことは
何も書かれていないノートのページをめくるような感覚と同じだった。
ぼんやりと夢の中にいて自我のない世界。
解凍されてから覚醒する意識の中で懐かしい何かに包まれていた。
今はその断片ひとつですら思い出せずに新鮮な体験にすら感じる。
こうして思考能力があるということは数百年の間、僕が眠っていたその前には
今の僕を創る過去の環境や経験があったに違いない。
僕を孤独にしない自然作用なのか?
記憶が失われている今は精神的な苦痛がまったく感じられない。
もしこの最終トレーニングが、記憶の淵にある何かを呼び戻すものだとしたら
それが深い悲しみにつながり、これからの新しい生活をする上でとっても大切なものになるだろう。
きっと僕の前のトレーニングを受けた人はこの最終トレーニングを受けたに違いない。
あの人はどうなったのだろうか・・・・
本当の自分を取り戻して自らの置かれた状態に気がつき
その重さに耐えられたのだろうか。
『IMC 稼動5秒前 4・・・3・・・2・・・1 システム開放 』
バビュ~~~~~~~ン!!
視界がフルフェイスの中の暗闇から真っ白に眩しくフェイドインしていった。
I WAS BORN
とても眩しい光の中で僕はギャーギャーと泣いていた。
どろどろした透明の液体に濡れた小さな体を抱き上げられて空中を移動する。
白衣を着てマスクをした女性の肩越しに
優しくうれしそうに僕を見つめる女性が横たわっていた。
汗ばんだ額と髪の毛の下隠れる瞳はすこし潤んでいる。
その女性の横に寝かされると不思議に安心した気持ちになった。
「男の子ですよ・・・・お母さん、やっぱりあなたの言ったとおりでしたね。
良くがんばりましたね。 もう 明け方ですよ。
しばらく眠ってください。では私はこれで・・・・・・」
その部屋の窓からは白く太陽の光が射している。
どうやら僕の生まれた部屋らしい。
まだ目の見えない僕にそっとつぶやく。
『ありがとう。あなたに逢いたかったのよ。ずっと待ってたわ』
『本当にありがとう』
そっとおでこをなでる懐かしい白い手は細くて綺麗だった。
僕が生まれた意味がひとつわかった。
僕は安心して眠ってしまった。
そっとおでこをなでる懐かしい白い手は細くて綺麗だった。
SQUAIR
目を開けると四角い正方形の部屋に僕は立っていた。
詰襟の学生服を着て学生帽をかぶっている12歳くらいの男の子が真っ暗な窓ガラスに映っている。
僕は頭が痒かったので右手でかこうとしたら帽子をかぶっていたのでこの男の子は自分だ。
真っ暗な窓の外は夜ではなく何もなかった。
その正方形の箱は一点の光の線もない空間に浮かんでいるようだった。
歩くとこの部屋全体がふわふわと揺れるのわかる。
それ以外は普通の男の子の部屋だ。
ベットがあり机、本棚、洋服タンス。週間漫画雑誌、野球のグローブ、プラモデルのシンナーの匂い・・・
そういえばこぼれた接着剤をベットの下で発見したのを思い出した。
ふと 下のほうから名前を呼ばれた気がした。
この部屋を出ようと思い勢いよくドアを開けて足を踏み出したが
足が地につかずに前のめりに倒れてしまった。
「うわぁあああああ~」
ドアの向こうにはやはり何もなかった。闇の中をひたすら落ちていくようだった。
僕はスカイダイビングをやったことはなかったと思うが
加速していくスピードに耐えられるほど体力があった。
3分ほどしてそれが長いトンネルであることに気づき
落ちているのではなく横に移動していることがわかった。
オレンジの空
だんだんと灯が見えてきた。
暗闇を抜けるとトンネルは銭湯の煙突だった。
出たとたん体が一瞬空中に放り出された形になって重力で下に落ちた。
僕はあわてて煙突のタラップを右手でつかんだ。
高いところは大変苦手だったが見下ろす町並みはみたことのある風景だった。
夕暮れ時のその町の向こうには海が見えていた。
きらきらと夕日色に染まった水面が揺れていた。
すーと遠くを見ていると吸い込まれそうになる。
なぜ、夕焼けの空を見ると急に人恋しくなるのだろうか?
それまで寂しいという感情にはならなかったが
この見慣れた町並みを見ているとそんな気持ちになる。
そこからは僕の通っていた高校、良く買い物をしたスーパー
出かけるときに乗った電車が駅から出てくるのが見えた。
帰郷の思いだった。
忘れかけていた何かがこみ上げてくる。
僕はタラップをあわてて降りようとした。
タラップに足をかけると5段下がったところで足元が水で濡れていた。
拍子抜けして周りを見ると煙突は水面の上にポツンと立っていた。
足首がすっぽりとつかる30cmくらいの浅瀬で遠くのほうまで何もなく
ただ水面がゆらゆらとオレンジ色をしている。
急に見慣れた風景から再び不条理な空間に変わり不安になった。
あてもなく水面の上をひたすら進んだ。
耳にはパシャパシャと跳ねる水の音だけが聞こえている。
だんだんと足元が重くなっていたけど僕はもがくように必死だった。
誰かに会いたくて・・・会いたくて・・・・
記憶のない自分がさっきの煙突の上にいたときに
僕を知っている誰かに会えるような気がしてほっとする自分がいた。
そしてまたそれを奪われた気持ちになりひたすら体を動かして
自分をごまかそうとした。
夕焼けはいつまでたっても変わらなかった。
水面は永遠に続き世界一面がオレンジ色の絨毯みたいだった。
何かに向かって包み込まれ、僕はひたすら前に進んだ。
空も海もひとつになった。
永遠の孤独
永遠に続く黄昏色の絨毯の上を幾度もなく立ち止まろうとしたが
やがてやってくる暗闇の中の灯を探さなければいけない衝動に駆られては
再び重い足を引きずりながら歩く・・・・・
何故、夕暮れになると孤独感を感じるのだろう
子供のころ公園でみんなと遊んでいた。
泥んこになってみんなと遊んだ。
やがて日が暮れてきて一人一人家に帰っていく。
夕方は帰省本能が多分働くんだと思う。
一人ぼっちで家に帰ると一人でいることに気がついてしまう。
一人でいることに慣れてしまっていることに気づき孤独になる。
なぜかその黄昏の向こうに僕を待っている人がいるような気がして
歩き続ける・・・
何時間も何時間も・・・・
キミと出逢わなければよかった。
孤独に気がつかずにいられたのに・・・・
不安な毎日を過ごさすにいられたのに
キミがいつまでも傍にいてくれたらよかったのに
僕は淋しくなかったのに・・・
ずっといっしょについてくる永遠の黄昏の中で
僕はずうっとつぶやいていた。
W∀TER
遠い記憶を忘れている僕は
僕の生まれたときのこと
僕の育った部屋や街を見ることで
思い出さずにはいられなくなった
永遠の黄昏の上で歩いていると
僕の知り合った人たちの顔も次々と蘇ってくる
懐かしい気持ちでいっぱいになる。
遥か遠い未来に来た僕はもう彼らとは遇うこともないだろう
どうして僕がここにいるのか?
いつどこでどうしてこうなったのか?
僕は何歳まで過去の時代に生きていたのか?
分からないことが多すぎる
思考回路の回復とともに数多くの疑問が脳裏に浮かんでくる
僕の心の中は鈍よりとした暗闇に変わろうとしていた
目からあふれてくる液体が数珠つなぎとなり
やがて渦を巻いて僕の体を包み込んだ
深い海の底へゆっくりとゆっくりと廻りながら沈んでゆく
優しく触りかけてくる涙はさらさらと僕の肌を
すり抜けて僕の深い悲しみを癒してくれた
静かにキミは待っててくれたんだ
この深い海の底で・・・・・
懐かしいとても大切な人
僕が一番逢いたかった・・・・・キミが・・・・いてくれている
スガタ・・・カタチはないが・・・・それはキミだった
過去も現在も変わらない究極の「キミ」
それが何なのか僕自身が見極めるときが来たんだ!
ふいにマイクのハウリングをさせながら例の金属のような声が叫んだ
『とうとうあなたは見つけマシタネ!! 最終トレーニング終了デース』
「凄い数値を記録したよ!No.318・・・・いやもといHII@君
歴代最終トレーニング者の中で∑エンドロフィン値が1万74ガロンを
たたき出したものはいない。君は最高の数値を記録しているよ」
突然 頭の中にガンガン響く金属音が混じったような声・・・
F管理官とS管理官の声が僕を現実に再び引き戻した。
僕の目には涙がいっぱいついていた。
「・・・・F管理官、僕の見つけたものとは・・・いったい何なのでしょう?」
『ソレハ長い間ワタシタチが探し続けていたもの・・・
今となっては存在シナイ過去の遺物とでもいいましょうか』
F管理官は僕のシートの傍らに立っていてそっと僕の手を握っていた。
『ヤハリ、あなたは選ばれたニンゲンなのです』
A-SK01
僕はSPセンターに着くと同時に施設の中の一室に案内された。
大勢の好奇な目に囲まれた精神的疲労度は激しく、僕は部屋に入るや否やベットに倒れこんだ。
以前滞在していた部屋と同様に人間のマインドに合わせた空調や照明の調節が施されるようになっていた。
白い壁はほの暗い光の中でわずかに青く光ったり赤く光ったりしていた。
僕が深い眠りに落ちているころその部屋の明かりは暖かいオレンジ色に変わり部屋全体を染めた。
焼けるような夕焼けの色はやさしく包み込むように僕をつつんだ。
SPセンターと呼ばれるその建物はN.E.Cの所有する建物で正式名称をスーパーコンピューター情報管理センターという。
世界中に点在するコンピューターとつながっていてあらゆる情報を支配するいくつかのスーパーコンピューターを管理していた。
歴史は第三次世界大戦後の劇的な変化に伴いこのセンターを中心に動いていたとも考えられている。
大戦後の人類の生き残るために急ピッチにコンピュータネットワークが発達しその中心になっていたのは、
その当時画期的とされた最新テクノロジーを駆使して作られたA-SK01といわれるスーパーコンピューターであった。
人類の住める状況でなくなった地上を捨て地下へ逃げ込間なくなったためその建設事業に多くのコンピューターとのネットワークが作られA-SK01はそのネットワークを統合するマザーコンピューターとして活躍し80年間休みなく働き続けた。
その後も最新式のコンピューターも導入されその役目を終えようというときにA-SK01は静かな反逆をするかのごとく完全に自ら自分のプログラミングに入り組む指令を遮断してネットワークから孤立し始め暴走し始めた。
地下都市を制御するコンピューター群は地上の無人施設のコンピューターとのネットワークをこのA-SK01の稼動により行っていた為、その暴走を止めることのできなくなった人類は地下都市に閉じ込められた形で地上階からは遮断されてしまった。
A-SK01は静かに眠りに付くように今もこのSPセンターの施設で稼動しているが、そのアクセスを拒み沈黙を続けている。
まるで心を閉ざし言葉を失った子供のように・・・・
Mr.X
SPセンター内の中央管理制御室では気難しい青白い顔をしたS管理官が壁に映し出されたいくつかのグラフや数値の入ったファイルを眺め大きなため息をついた。
「Mr.X君 ここ数日間変わった事が何かあったかね」
部屋の中央に置かれた丸いテーブルの中央に3点のレーザーにより映し出された男の顔が浮かび上がる
『こんばんわ S管理官様 ご要望のままに・・・お調べいたします。しばらくお待ちを・・・』
そのアラジンのランプから出てきたような無機質な顔立ちの男の顔は、このSPセンターの中央制御をするコンピューターのAI回路の分身である。間髪いれずに返答が帰ってくる。
『以前、人類冷凍管理センターで数回アクセスしてきたA-SK01からの信号と同じ情報ファイルをここ数日この施設内でも見受けられます』
「やはり何かあるな」
S管理官はもうひとつに映し出されたデーターを見ながらあごに手をやってつぶやいた。
『A-SK01はHII@の解凍からTR実施の間に確実に眠りを覚ましつつあります。
数時間前、空調制御端末の指令系統を数分間占拠して室内の空調を行っていました。』
「まるで 彼を見守るかのようにそのアクセスはつづいているな」
『きっとA-SK01は 彼に恋をしているのですよ』
「Mr.X 君も恋をするのかね 人工知能の君は実に人間らしく思えるときがあるんだが・・・」
無表情の機械のようなその男から飛び出される言葉はこっけいに思えた。S管理官はニヤニヤしていた。
「このことはNEO東京評議会のやつらも、F管理官も知らない、私と君だけの秘密だ、わかるかね」
『Yes!マスター 仰せののままにいたします』
NEO☆ROMANTIC
最初は未来日記のようなものとしてちょこちょこ書いていました。
SUPER DYOOON という鈍よりした気持ちの中、当時狂ったように制作していた自分の曲のタイトルや歌詞にもなっている小説です。
実はチャプター22まで・・・たぶん当時は24まであったはずですが、物語を書きだしたのは20年も昔にさかのぼります。
必ずいつか最終章まで完成させようと思っているうちに投稿していたサイトが消滅しここに移しました。
タイトル名のHII@HPは僕の楽曲や絵、小説などを掲載していた僕のホームページだったものです。