冬と僕の愛情表現

その日は、少し遠出をして、健康的な夕食を食べました。
月食だというので、2人で店を出て、知らない静かな街を、歩きました。
なかなか月が見当たらなくて、「いつもはすぐ見つかるのにね」なんて会話をしながら。
いつだって、見たい時は見れないもので、いつも、夜の端にいつでも光ってると思ってるのにね。
知らない街でしたので、曲がり角では、わたしの根拠のない直感で、左だ右だと、曲がりました。あのビルの後ろにいる、とか、そうやって細い道を抜けたりします。

少し大きくひらけた十字路で、直感を探るため、足を止め、ふと上を向くと、ぼくらの真上に、すこし赤みがある月が見えました。
「あっ」なんて声を出した時には、君も月を見ていました。あまり綺麗に見えるものでもないのだな、そう感じました。
特に写真を撮ろうともせず、2人再び歩きはじめます。
「公園とかないかな」という君の提案を、否定も肯定もせず、歩きます。わたしの直感は公園を探します。と言っても、何も当てはありません。
本当に闇雲に、白い街灯が等間隔で照らす、ほんとうに静かな知らぬ街を、2人で歩きます。
特に話したりはしませんでした。寒い、とだけは、よく口にしました。

少し歩くと、高架下の公園に出ました。やはり、わたしの直感を褒めてやります。薄暗く、健康的な雰囲気はない公園でした。ブランコに年甲斐なく乗ったのはいいけど、うまくこげないし、きぃきぃと、不安な音を立てるので、すぐに降りて、ベンチに座ります。
高架があるので、月なんかは見えず、前の道を車と、自転車がたまに過ぎるだけでした。
少したわいもない話をした後、わたしは目の前の遊具が気になり、立って、登ってみたりしました。
少し離れた場所から君を見てみました。
暗くて表情がわからなかったけど、君は少し呆れを含んだ目で、僕を見ていたような。

冷たい鉄が、ああ、春になって夏になって、暖かくなれば、今まで以上に、君を好きになってしまうことを、教えてくれました。

遊具から飛び降りると、少し足首が痛くて、もう若くないことも知らされました。何か、君へ言葉をかけようとしましたが、どれも納得できる言葉ではなかった。ので、ベンチに向かって歩いて、君の前に立ったまま、短いキスをしました。
それ以降、顔を合わせてくれなくなったので、嫌われたかな、と心配しましたが、照れているだけで、手をわたしの上着のポケットに入れました。
わたしもすぐ、それを追いかけました。

そろそろ帰る雰囲気になったので、わたしの直感が辿りつかせてくれた公園を後にしました。月食は、もう終わりかけでした。いつも通りの、黄色い月が丸く。
帰り道、さっき冷たい鉄が教えてくれたことを、君に伝えると、「私はもう今でも充分」とそこまで言って、言葉を続けませんでした。

冬で丸くなってる僕らの愛情表現を、
暖かくなったら、もっと大きく、伝えられることを願っています。

冬と僕の愛情表現

冬と僕の愛情表現

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2018-02-05

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