柘榴
手に入れては、失って…… 失っては、また気がついて…… 気づいた頃には、ほら、傷ついて…… 霞み行く記憶の末路…… 脆く、味気無く、弾け出す、柘榴。
届かない叫び、静かな崩壊
目まぐるしく、移り変わってゆく景色。
僕の眼前を通り過ぎて行く人々は、雨に濡れた都市独特のアスファルトの匂いに見舞われながらも、傘を差したまま、黙々と進行してゆく。
手持ちのバッグや、通勤カバンを頭に乗せ、雨を凌ぐ人々、無防備にズブ濡れで歩く人もしばしば見受けられる。
何処へ向かうのか、彼らは僕のことなど目もくれずに、ぐっしょりと水分を吸い込んだ靴を〝ぎゅむぎゅむ〟と鳴らしながら、ただただ歩いて行く。
そんな光景を眺めていると、時折こんなことを思ったりもする。
〝まるで、僕自身の存在が、元から存在しないかのように〟
今朝、懐かしい夢を見たんだ……
幼少期の同級生たちが集って、当時の姿のまま、公園で缶蹴りをしたり、駄菓子屋で腹ごしらえをし、友達の家でTVゲームに熱中する。
暫くすると、町内に設置されたスピーカーから、17時を報せるメロディが鳴り響き、皆それぞれ家路へ着く準備をする。
学校が終わってから、多かが2~3時間程。
その時間が、数時間も長く感じられていたあの頃。
今となっては胸が締め付けられるような、もどかしくも懐かしい思い出。
ひとつ現実と違うところは、皆がそれぞれまっすぐ家路へ向かう中、僕は何処に帰れば良いのかもわからず、ただただ暗い路地を歩いている。
そんな夢を見ていた。
目が覚めて、現実世界に戻った僕は、夢の内容を思い出しながら、ふと、こんなことを呟いた。
「何処に向かえば良いのかもわからないなんて、現実も夢も一緒じゃないか…」
パーカーのフードを深く被り、雨ざらしのままに路地を歩く僕の脳内に、あの言葉が再び過る。
〝まるで、僕自身の存在が、元から存在しないかのように〟
向かうべき場所も、自分の存在さえも、わからないままに、只々、むしゃくしゃしていた。
路地の向かい側から、僕と同じく傘も差さずに、パーカーのフードを深く被った青年が歩いてくる。
歳も背格好も同じような境遇の他人に、少しばかりの親近感にも似た安心感を覚えつつ、すれ違う。
その直後に覚えているのは、酷く冷たい感覚が腰から腹部に渡った次の瞬間、身体の内側から燃えるような激痛が走り、僕の意識は遠退いていった。
愛情の代償
『次のニュースです。本日、正午過ぎ、千代田区九段下にて、男性が何者かに刃物で刺される事件が発生しました。犯人の目撃証言は無く、現在も逃走中との事。尚、警察は被害者の身元特定にあたっています。』
柘榴