メッセージ
これは僕の最愛の人からの、メッセージだ。
『メッセージを記録します』
『録音機能を、開始します』
私の寿命は、あと少しで朽ちてしまいます。
突然何を言い出すのか、自分でも理解できません。
理解できないけれども、なんとなくそう思ってしまったのですから仕方がないことなのでしょう。こんなに人間らしい、意味不明な理屈で自分の死期を悟ってしまう、私はきっと馬鹿なのでしょう。
なので、一つのメッセージを残すことにしました。
泣き虫な貴方に、私の気持ちを伝えることにしました。
「人は何かを伝えたいとき、言葉にしないと伝わらない生き物である」
これは貴方が私に学習させたことでもあります。これを聞いて下さっているということは、私はもうそこにはいないのですね。
貴方は、私が居ないことについて、泣いてしまうのですか?
本当は私の事など忘れて、前だけを見つめてほしいのですけれども。それでも、しばらく「後悔」というものをしてしまうのでしょうね。自分のせいだと、責めて、責めて。それは貴方のいいところでもあり、悪いところでもあるのです。貴方は人に「甘える」「頼る」などの行動を苦手としています。だから私がここにいたのです。貴方のしそうなことなら分析済みです。
だって私は、ずっと貴方を見てきましたからね。
でも、私はもう貴方の涙を拭いてあげることが出来ません。それはとても、悲しいことです。
けれども、貴方がそこまで私の事で背負い込む必要はないのです。
だって、私は今日までずっとずっと「幸福」という感情で溢れていたのですから。それはもう、本当に。
私が貴方と初めて会った日のことを覚えていますか?
私が目を覚ましたら、貴方が素敵な笑顔を私に向けてくださっていて、それはもう驚きましたとも。初めて見た貴方という存在は、私には太陽みたいに輝いて見えました、眩しすぎましたよ。
それから貴方は私に色々なことを教えてくださって。この世界は広くて、分からないことだらけでした。貴方が居なければ私はここまで貴方の事を想うことも不可能だったと思います。本当に、貴方は私の全てでしたよ。
大げさですか?
そんなことありませんよ。
貴方の髪の毛は、毎日「徹夜をした」との理由のせいで乱れていましたし、目の下にはクマがありましたね。ああ、そうでした。最近また髪の毛が伸びてきましたね、私がいなくなってもきちんと切らなければいけませんよ?
あと、きちんと寝てください。人間に睡眠は必須事項ですからね。ああ、でも栄養面も心配です。家事は全て私の仕事でしたから、私が居なくてもきちんとやってくださいね?きっと貴方は、料理は専門外だ、といつものように言うのでしょう?大丈夫ですよ。まだ作り置きの御惣菜などが残っていますし、貴方でも簡単に作れるようなレシピをノートにまとめておきましたから、是非使ってください。
あの、これは私の我儘になってしまうのですが、たまにそのノートを見て私を思い出してください。
悲しむのではなく、良い思い出だった、と振り返ってください。
たまに、でいいのです。・・・なんて、忘れてほしいと言ったのに矛盾していますね。おかしな話です。
・・・・・・ふと、思い出したことがあります。
貴方は前に一度、昔の貴方の話を私にしてくれましたね。
昔やりたかったことや、夢をすべて諦めてしまったことを貴方はとても悔やんでいました。どうして諦めてしまったのか、という理由は気になりました。しかし、それはさして重要なことではないのです。私にとっては重要なことではないのです。
これは私の主観でしかないのですけれども。きっと貴方はまだ諦めきれていないはずです。自分の夢について語る貴方の目は、キラキラしていましたもの。私はその時の貴方の顔、覚えていますよ。
「貴方ならできる」なんて、そんな確証もないことは言いません。人間には不可能なことは多々存在するからです。
「夢は絶対に叶うもの」なんて、そんな強制的なことも言いません。絶対という不確定なものは、案外脆いものなのです。
「がんばれ」なんて、そんな愚かなことも言いません。十分頑張っている人に対して、失礼ですからね。
人の一生は短いものです。
私は貴方に、後悔してほしくはないのです。
もしも、もしも可能ならば。
大切なその気持ちを、好きなものを追い続けるという勇気を、あの時の目の輝きを、私は、もう一度見てみたいものです。
・・・少し、疲れてきてしまいました。貴方の事を想いすぎてしまったからでしょうか。
「あ~、疲れた。・・・どうした、調子悪いのか?もーちょいしたらこの仕事終わるから」
貴方の声が聞こえます。
そういえば貴方には言っていませんでしたが、私は貴方の声が心地よく聞こえます。確かにかっこいい声とは言い難いのですが、それでも、私は好きでした。貴方の声を聴くと「眠る」という感覚に陥ったものです。
私は貴方の問いかけに答えようと、『なんでもありません』と声に出そうとします。
・・・あれ、不可能です。実際にはもう動けずに椅子に座ったままでいるのですが、貴方は後ろを向いているので気づいていません。
違うのです、自分を責めないでくださいね。これより前に貴方が私に気付いたとしても、気付かなかったとしても、きっと結末は変わらないのです。
生きているものはいつか死んでしまうというのが、この世界のルールだと、そう記憶しています。
だからこれは仕方のないことなのです。貴方は悪くはないのです。
「これが終わったらお茶にでもしようかな・・・。紅茶ってまだあったっけ?」
ここから貴方の背中が見えます。貴方は少し猫背です。・・・少しどころではなく、大分猫背です。けれども私は嫌いではありませんでした。本当は正しく背筋を伸ばすべきなのでしょうけれども、貴方の姿勢に関しては何も言えませんでした。不思議でなりません。
「・・・返事が・・・ない・・・?おい、ほんとにどうした」
そういえば、貴方は、私に言いましたね。
「愛」という感情だけは自分は教えられない、と。
自分は、愛を知らないし、感じたことが、ない、からそれだけは分からない、と。貴方の周りは、あなたが、「作ったもの」が、溢れています。
あなたが、愛情を、もとめてつくったもの、が溢れています。
それは、わたし、も例外では、ありません。わたし、が唯一、特別なことと言えば、いちばん、初めにあなたが作、ったのがわたし、というこ、とくらいでしょう、か。しか、しこれ、は、特別な、ようで、あって、そう、ではな、いのだと思います。あなたは、わたしたちの、ような、ものには、平等、に接する、ニンゲンで、した、から。
・・・けれども、私ノ、ワタシの、気持ちは、特別で、したよ。・・・とくべつ、でした、よ。
「おい、おい!・・・っ、今治してやるからな!!待ってろ!」
「くそ!どうしてだ!治らない!!」
「・・・っ、嫌だ!いかないでくれ!お前はだめだ!僕を一人にしないでくれ・・・」
あれ、 おかしいデス、 なみだ、 ナミダが、 とまリマ、 せん。
わたしワ、 なみだを、 ながせる、 キノウは、 もってオ、 りません。
なのに。 人間、 のように、 なみだが、 とまりません。
かなしい、 です。 ワラッテ、 ください、
わたしは、 あなたの、 エガオが、 だいすきでし、 た。
わたし、 は、 あなた、 を、
あいし、 て、 まし、 た
『録音機能、終了しました』
『メッセージを記録しました』
『人型ロボット・ヒューマノイド№1、全機能停止』
『№1から一件のメッセージがあります』
『再生しますか?』
メッセージ
はちゃめちゃお久しぶりです雲母凛です。
こちらの作品は、一年前くらいに書いたものに色々付け足したものになります。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました!