ぼくは知らなかった。

ぼくは知らなかった 24/11/2014

ぼくは、近くの公園に、学校の後、夕食の時間がくるまで、ともだち三人と自転車で遊びにきていたんだ。
それは、いつもの遊び場で、ぼくたちは、ザリガニを捕まえてみたり、とんぼや蝶を追っかけたり、休みの日にはサッカーをしたりしていたんだ。
その公園はとても大きくて、広い。だから、ぼくたちは自転車で、あちらこちらに動いていく。
その日も、そうだった。
池のまわりにきたときに、何かが池のなかに浮いているのを、はじめにとおるくんが見つけた。
ぼくたちは、好奇心にかられて、大きな棒きれを見つけてきて、その何かをいっしょうけんめいたぐりよせた。
水にぬれて重たかった、その白いものを、地面の上においてみてびっくりした。
それは、ちいさなねこだった。
池の中に沈みかかっていたものは、もう息をしていない冷たいこねこだった。
どうしてそんなところにいたのか、ぼくたちはよくわからなかったけれど、かわいそうだから、みんなで土のなかに埋めてあげたんだ。
おかあさんに話したら、きっと怒られてしまうかもしれないと思ったけれど、なんだかお墓をつくってあげなければいけない気がしたんだ。
年長のあきらくんは、
これは、ぼくたち三人のひみつにしておこう
と言って、ぼくたちはそのこねこのことは、周りの大人には話さないことにした。
それから、1週間くらいすぎた頃、ぼくはひとりで公園に行って、こっそりお墓を見に行ってみた。
石を積み上げて隠しておいたから、お墓はそのまんまで、ぼくは安心した。
帰り道の途中の公園のなかで、自転車を止めた女の人が、荷物を持って何かごそごそとやっているのを見かけたから、ぼくは気になって、話しかけてみたんだ。
すると、その三つ編みをしたおばさんは、のらねこにごはんをあげているのだと言ったんだ。
ぼくはちょっと驚いた。
飼われていないねこに、ごはんをあげるなんて・・。
どうしてなのか聞いてみると、その三つ編みおばさんは、公園にはたくさんの捨てられたねこたちが、野良猫になったりしていて、仕方なく住み着いて、お腹をすかせていて、こうやってにんげんがくれるごはんを待っているのよ、と言った。
野良猫になると、だいたい3、4年しか生きられないものなの。増えたねこたちが自然に生き延びるには、わたしたちの暮らすこの世界では、とても難しいことなの。だから、赤ちゃんが生まれないようにして、不幸なねこが増えていかないようにするのは、にんげんの役目でもあるの。あなたは、犬やねこが、毎年たくさん処分されるのを知っている?
ぼくはとても驚いた。
そんな話は、おかあさんや学校の先生からは聞いたことがない。
ぼくは、首を横にふって・・・そして黙り込んだ。
きみは、じぶんと同じいのちを持ったいきものが、ただたんに処分されていくのをどう思うかな。
そのとき、ぼくは、池に浮かんだ白いこねこが、急にあたまのなかによみがえった。
ぼくは、このまえ、ここでこねこのお墓をつくりました。
ぼくが話を詳しくすると、おばさんは、もしかしたら、からすのしわざかもしれないね。だけど、そうじゃないことも、あるんだよ。
そうじゃない場合のことを三つ編みのおばさんは、かなしそうな目をして、うつむいて話した。
ぼくは、どうして、わざわざ、ちいさいいきものをいじめたりするにんげんがいるのか、わからないと言ったけど、おばさんも、それはわからないと言った。
だけど、そういうことを、知っているのに、しらんふりをして見過ごしてしまうのは、よくないことなんだよ。
と言った。
そういうことをなくしていかなければ、ほんとうには、みんなが幸せな世界にはならないの。
とおばさんは、小さな声で、でも、ぼくの目をじっと見つめて話したんだ。

ぼくは・・・・知らなかった。
ぼくには、知らないことが、きっとたくさんあるんだろう・・・・と思う。
だけど、ぼくは、今日、三つ編みおばさんと出会わなければ、知らないですんでいたことを、知ることができて、なんだかよかったような気がしたんだ。
ぼくはぼくが大人になるまでに、こころの片隅に、あのしろいこねこの居場所をつくっておいてあげたいような気がしたんだ。
そう思ってから、ぼくは、三つ編みのおばさんにさようならと言って、なんだか今まで感じたことのないこころもちになって、そおれ!とばかりに自転車のペダルに足をかけた。

ぼくは知らなかった。

ぼくは知らなかった。

ねこブームだからこそ、のらねこの存在をきちんととらえなおしてかんがえてほしいな。

  • 小説
  • 掌編
  • 児童向け
更新日
登録日
2018-01-30

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