生真面目な人々 1.「生徒会長」

1.「生徒会長」
 まず、ボクの中学時代の生徒会長、瀬山レミだ。彼女は本当に「生徒会長らしい」生徒会長だった。品行方正を地でいき、自分がダメだと思ったことはたとえ先生でも注意をするような生徒だった。
 彼女の家は、父親が警察署長、母親は良家の出、上の兄は弁護士、下の兄は県外の名門私立に在学しているという、「エリート一家」だった。
 彼女は美人で、成績も常にトップだった。ボクはひそかに彼女にあこがれていた。

 そんな彼女と中学2年のとき同じクラスになった。
 お決まりのごとくまず学級委員長になった彼女は、「ズボラのコウスケ」の二つ名を持つボク、伊沢(いざわ)コウスケに先制攻撃を仕掛けてきた。
「伊沢君、ロッカーを片付けなさい」
 ひどく散らかっているボクのロッカーを指さして、彼女は命令を下した。
「片付けるまでは私も帰らないから」
 彼女の眼は僕に反論を許さない。なんという圧力だろう。
  ボクがいやいや片付けていると、
「あなたのためを思っていってるのよ」
という独りよがりな言葉を発する始末だ。
(お前、先公かよ。去年の担任の山下先生はやさしくていい女だったぞ。)
「別に片づけが出来なくても死にはすまい」と思ったけど、ここは素直に従っておいたほうがいいと思い、何とか片付けた。
 そのときの獲物をとった狩人のごとく満足げな瀬山レミの顔は今でもはっきりと思い出すことが出来る。

 憧れが一気に嫌悪に変わった瞬間だった。
 
 一週間後また災いが降ってきた。
「伊沢くん、髪の毛」
彼女はボクの髪の毛を触って、蔑むような眼でボクに話しかける。
「へ?」
「だから髪の毛よ」
「へ?」
「ふざけるのも大概にしなさいよ、髪の毛染めてるって言ってるのよ」
「いや、染めてなんかないよ」
「嘘をつくのはやめなさい」
「だからね、これは地の色だよ。ボクの母方の祖父はスウェーデン人で、母も金髪だ。クォーターのボクは茶色がかった髪の毛をしているんだよ」
「ふーん、信じてあげるわ、その代わり明日から黒く染めてきなさい。紛らわしいから」
「え?」
(冗談だろ?)
 逆らったら何を言われるかわからない。ボクはなけなしの小遣いで黒のヘアカラーを買って染めた。仕事から帰ってきたオカンに見られてびっくりされた。
 ボクはこのことを担任の岡村先生に相談した。先生はボクに「すまん」と一言返すばかりだった。
 翌日、今度はパーマをかけてるだろうと言いがかりをつけられた。天然パーマだといったら、今度はストレートパーマをかけて来いと言って来た。仕方がないのでそのとおりにしたら、岡村先生に校則違反だと注意された。

 彼女と一緒に日直をする日がやって来た。僕は朝から暗澹たる気持ちになっていた。日直という名の地獄が始まった。
 一時間目が終わった後、ボクは黒板の字をしっかり消したつもりだったのに、何回もやり直しを命じられた。「まだ白いわ」と呪文のごとく言われた。「白かったら先生に失礼でしょ、全くなってないわ」とも言われた。
(多少白くたって先生は死にはしないのに。それに、毎日あんなにずけずけと先生に物申すことの方が、失礼なんじゃないのかい?)
これを六時間目が始まるまで言われた。ねちねちねちねちねちねちと。
 そして、ボクは決定的なミスを犯してしまった。学級日誌を書くのを忘れてしまったのだ。
 当然岡村先生にたしなめられた。でも、「これから気をつけるんだぞ」って言ってくれた。
 瀬川レミは違った。二,三時間これでもかと説教された。そのときの彼女の顔は忘れられない。悦に浸っていた顔を忘れることはない。呪文のごとく言っていた「あなたのためを思って言ってるのよ、わかる?」って言う言葉を忘れることはない。
 彼女だって、「学級日誌、書いたの?」って一言も言わなかったくせに。わざと言わなかったとしか思えない。
 他にもいろいろ言われたがイライラするのでここではこれ以上書かないことにする。

 ボクは帰宅部だった。運動も苦手だったし、オンチで絵も下手だったし、なにより興味のあるクラブがなかった。一応クラブに入るのが義務付けられていたので、あるクラブの幽霊部員をしていた。
 放課後、友達とゲーセンで遊んで、夜になると、中学校の先輩であるTさんとパソコン通信をしていた。T先輩は大学でコンピュータの研究をしていて、T先輩のアドバイスを参考に図書館に行ってコンピュータ関係の本を読んだり、借りたりしていた。
休日になると、ボクはT先輩の家によく遊びに行っていた。先輩はとても博学で、話が面白くて、いつも的確なアドバイスをしてくれた。ボクはこういう大人になりたいと思っていた。
 ボクのコンピュータに対する興味が大きくなっていき、梅雨の中ごろになると放課後毎日図書館に行くようになっていた。
一方、瀬山レミはブラスバンド部(全国コンクールで何度も金賞をとっている)でサックスを吹いている。来年の部長の候補らしい。
 しかも、瀬山レミは5月に行われた生徒会長選挙で、現職の会長を大差で破って生徒会長に就任した。2年生での生徒会長は学校の歴史で初めてだったそうだ。これで彼女は学校で絶大な権力を発揮することになった。そして、僕への攻撃はさらにきつくなっていった。
 テスト期間になった。ボクは相変わらず放課後図書館で毎日コンピュータ関係の本を読み漁っていた。
 そこに瀬川レミがやってきた。
 彼女はボクがいるテーブルの上にコンピュータ関係の本を見つけ、いきなりくさいものを扱うかのようにつまみ上げた。
「あなた、こんなくだらない本を読んでいる場合なの?」
「くだらない本?」
「ええ、くだらない本よ、授業に関係ないんだから。私が返してきてあげる。その代わり、しっかり勉強するのよ。これは生徒会長命令です」
 彼女は本を返しに行って戻ってくるなり、ボクを見下して、
「あなたは本当にくだらない人間ね。授業中に寝て、ここであんなくだらない本にうつつを抜かして。クラブ活動もしないで、ちゃんと勉強しないであの成績なんて、私には理解できないわ。不正でもやっているんじゃないの?」
と言い放った。
 ボクは腹が立って仕方なかった。くだらない人間って言われたからじゃない。憶測で言いがかりをつけてきたからだ。そんなことをやってボクに何の得があるというのか?ボクをそんな人間として見ていたのだろうか?悔しくて悔しくてたまらなくなってきた。
 ボクはこれ以上彼女にかかわりたくなかったので、
「わかりました。勉強しますよ」
と答えたら、
「心がこもっていない!あなたがしっかり勉強するか私がきっちり見てあげる」
といわれたので、たまらず退散した。
 ボクは当分図書館に行くのをやめて仕方なく家で勉強していたら、彼女が毎日電話をよこしてきて、「ちゃんと勉強してる?」と念仏のように聞かされた。我慢が限界に達しようとしていた。

 ボクは日曜日、T先輩に相談することにした。彼女がいないかどうかきょろきょろ見渡して先輩の家に向かった。ボクが瀬山レミの名前を出すと、
「瀬山か・・・・、ひょっとしてあの瀬山きょうだいかい?僕は一番上の兄貴と同級生なんだよ。本当にいやな奴だった。よくいやな思いをさせられたよ。あそこの家はみんなエリート面をしていて、人一人の違いなんてお構いなしで、いつも自分だけが正しいと思っているんだ。ほんとにいやな奴だったよ。ボクもマイペースだったからよく標的にされたよ。だからコースケ君の気持ちはよく分かる」
 先輩は不快感をあらわにした。初めてあんな先輩のいやそうな顔を見た。よっぽど瀬山の長兄にいやな目に合わされたんだろう。
「僕が何をされたかは詳しくは言わないけど、彼女が君にしたことは僕も大体されたね、うん。」
 先輩は腕を組み、うなずきながらそういった。
「うーん、難しい質問だなぁ、それは」
 先輩は少し考え込むと、
「僕は馬耳東風で通してあいつをあきらめさせたけど、君は思ったことが態度にすぐ出てしまうからなぁ」
「はい・・・」
 (もう打つ手が無いのかなぁ・・・。たまらねぇな。卒業まで標的にされるだろうな。もう転校したいよ、まじで。)
「あ、そうだ。いいことを思いついたぞ。いいかい・・・」

 瀬山レミに反撃するに当たってボクは幼稚園のころからの親友の「どてちん」の力を借りることにした。
 彼の本名は「下山太一(しもやまたいち)」というのだけれど、その風貌と愛嬌者っぷりから「どてちん」と呼ばれるようになり今は彼を本名で呼ぶものは誰もいない。先生でさえも彼を「どてちん」と呼ぶ。
 彼はそのあだ名をたいそう気に入っている。だから僕も彼のことを「どてちん」と呼ぶのだ。
 先輩に教えてもらった反撃「案」をどてちんに提示した。すると、
「いい手があるぞ、コースケ。ちょっと耳を貸せ」
といい、最高の反撃「作戦」が完成した。

 中間テストも終わって学校中が一息ついたころ、学校中の掲示板に「虚無新聞第一号」が張り出された。記事の見出しはこうだ。
「生徒会長、アイスノンを年貢に」
 記事の内容は詳しく覚えていない。でも概要はこうだった気がする。
“生徒会長は怒りが収まらないことが多く、このままでは自分が発生した熱で死にそうなので、生徒会長の権力で全校生徒にアイスノンを持ってくることを命じることにした”
 事実このころの瀬山レミはボクにだけじゃなくてどてちんやほかの生徒にも怒りの矛先を向けていた。その理由はあとになってわかるのだけど。
 全校中が笑いに包まれたが、生徒会長は烈火のごとく怒り狂い本当にアイスノンが必要なくらい顔を真っ赤にしてその日の昼の学校放送でこう言った。
「今回は許してあげますけど、もう一度やったら犯人を捜しますからね」
 その放送を僕とどてちんは笑いを必死にこらえながら聴いていた。

 これが僕とどてちんが考えて実行した反撃「作戦」だった。
「コースケ、新聞を作ろうぜ。ブラックなユーモアの聞いた新聞を作るんだよ」
 T先輩は「ブラックユーモアで対抗すれば良いんじゃないか」とボクにアドバイスをくれた。そして、詳しい作戦は自分で考える(もちろん友達の知恵を借りてもいい)法がいいといってくれた。僕がそのことをどてちんに相談した結果「新聞」という作戦を提示されたのだ。
 どてちんは小学生のころから新聞係ばかりしていた。どてちんは小学生新聞を購読し、2年生のころからは父親(ボクはおじさんと呼んでいる)に分からない漢字を教えてもらいながら大人が読む普通の新聞を読んでいた。彼の将来の夢は新聞記者だった。
 彼の作る学級新聞は本格的でクラスの皆にも好評だった。クラスの話題や実社会で起こっていることを父親に手伝ってもらいながらも分かりやすく自分の言葉で解説していた。どてちんは皆から一目置かれ、風貌と愛嬌のよさも手伝ってクラスの人気者だった。 
 どてちんは昔から人が大好きで物事に対する興味が半端なかった。ただ、勉強の成績がさほど良くなくて、父親の会社を継ぐために工業高校で機械の勉強をすることになった。高校卒業後上京して風俗にはまって風俗ライターになったのだった。
 この間ボクが彼と一緒に飲んだときに言っていた言葉で印象的だったのが、
「今オレは会社の面接官やってるんだけどさ、最近の若者はほんとに新聞を取らねぇし、読まねぇから困る。つまんねぇな。俺はよ、新聞に興味のねぇやつとは一緒に仕事したくねぇから、そんな奴は容赦なく落とすよ。なによりさ、ライターだぜ?文章でメシ食おうって奴がさ、新聞とか雑誌とか読まねぇってありえなくねぇか?おめぇもそう思うだろ?」
 ボクは彼の言葉に同意するほかが無かった。彼は新聞社に就職してもいい記者になっていただろう。でも風俗ライターの仕事に誇りを持って取り組んでいるどてちんのことをボクは大好きでたまらない。
 
 話は戻る。どてちんは不安がるボクにこう言ってくれた。
「オレもあいつにはちょっとかましてやりたかったんだ。おめぇいい話を持ってきてくれたな。大丈夫だ、オレに任せろ。俺の情報網をフル活用して、ブラックなユーモアを利かせた新聞にしてやる」
 事実どてちんの持っている情報網はすごかった。学校にうわさが起これば、情報網をフル活用してことの真偽を確かめて言った。とても正確な情報で噂を噂で無くしていった。今回は噂を作ることになってしまったけど、彼の正確な情報を基に作られていった。事実瀬山レミはさほど暑くも無いのにアイスノンを常備していた。
 
 翌日、「虚無新聞第二号」が刊行された。
「生徒会長、『秘密警察』を作ることを検討」
 記事の概要は確かこんな風だったように思う。
“生徒会長はこのたび、校則を破る者の撲滅のため、秘密警察を作ることになった。秘密警察に捕まれば最後、反省文を3000字書かされる罰が待っている。これでいいのか?”
 学校中が笑いと喧騒に包まれた。事実、瀬山レミは校則を破るものへの監視を強めようとしていた。選挙の公約に掲げていろいろ取り組んだが、それでも校則を破るものを撲滅できなかったのだ。
「もう、誰がやったのかは大体わかっています。今度やったら、本当に反省文を書いてもらいます」
 その声には怒りがこもっていた。放送を聞いた僕たちはもうやめてやってもいいんじゃないかと少し思ったけど、ここまで来た以上は引き下がれなくなっていた。
 学校の中にも僕たちがやっていることを見抜いていた奴がいて「もっとやれ」といわれたこともあって、僕たちは調子に乗っていた。

 翌日、「虚無新聞最終号」が刊行された。
「生徒会長、どてちんにプロポーズされる」
 それだけがでっかく書かれていた。それ以上もそれ以下も無いからである。生徒会長はどてちんのようなタイプが一番嫌いだった。
 生徒会長は烈火のごとく怒り、朝のホームルームの後の休み時間にボクたちの元に来た。
「昨日の放送を聴いてなかったの?」
「寝てて聞いて無かったよ」
「まあ、良いわ。これを書いたのあなただけ?」
「ああ」
 記事はどてちんがほとんど書いたけど、僕は想定されるトラブルにどてちんを巻き込みたくなかった。これはあくまでボクと彼女の問題だからだ。彼女もボクを懲らしめれば満足のようだった。
「あなた、廊下に出なさい」
 どうやら、ボクを見せしめにするらしい。
「それにしてもよくもやってくれたわね。これだけ人を侮辱して何が楽しいの?」
「侮辱?ただのユーモアじゃないか?生徒会長もあろうものがユーモアも理解できないなんて笑っちゃうぜ」
 瀬川レミの眉がぴくっとなって、眉間にさらにしわがよっていく。
「ユーモア?」
「いいか?ユーもあってのはな、その人の器量の大きさを示すもんだぜ?生徒会長もあろう方がそんなことでは困るよ」
(よし!決まった!どてちんや新聞を張るのを手伝ってくれた用務員のおっちゃんや何よりTさんに感謝しないとな。ありがとう!)
 その瞬間ボクにもブチッと何かが切れる音がした。
 いつの間にかボクはもんどりを打って倒れていた。そして彼女の手にはモップがつかまれていて、ボクの頭に飛んでくる。
「悪かったわね。ユーモアも分からなくて、器量も狭くて。あんたみたいな奴はこの世から消えちまえ!」
 それまで彼女の口から発されたことの無い低くてどすの聞いた声が飛んでくる。
「死ね!死ね!死ね!」
 彼女はボクの頭に何度もモップをありえない怪力を持って叩き続けている。
(ああ、オレはほんとにこいつに殺されるんだ・・・)

 眼を覚ましたらそこは病院のベッドの上だった。
 オカンはボクに3日も意識が無かったと教えてくれた。ドクターはボクの頭蓋骨にヒビが入っていて3週間の入院が必要だと告げた。
 T先輩は見舞いに来るなり涙ながらにボクに謝った。自分があんな馬鹿なことを言わなければこんなことにはならなかったと言った。でも、自分がやったことだ。責任は自分にあるってボクは先輩に言った。
 どてちんやクラスの皆もボクに温かい言葉をかけてくれた。それが身にしみてうれしかったけど、皆にとても悪い気がした。
 退院すると、ボクは両親にこってり絞られた。どてちんも事件の後親父さんにぼこぼこにされて、倉庫に閉じ込められたらしい。ボクもオトンにトイレに閉じ込められた。ボクたちはそれを甘んじて受け入れた。
 久しぶりに登校するとボクとどてちんは岡村先生、教頭先生、校長先生にこってり絞られた。
 クラスの皆は僕を温かく迎えてくれて、どてちんのコンビを「ナイス」と云う奴もいた。いつもと全く変わりない雰囲気だった。
 でも、そこに居るべき人がいなかった。瀬山レミだ。
 どてちんはボクに衝撃的な悲報をボクに伝えた。
「彼女、転校したんだよ」
「え゙っ?」
 ボクは状況を把握できなかった。どてちんの言葉の意味が分からなかった。
「オレに怪我させたことが原因か?」
 もしそうだったら彼女に申し訳ない。正直ボクたちはやりすぎた。でも、どてちんは首を振った。
「いいか?落ち着いて聞けよ」
「うん」
 自分がつばをゴクリとしている音が聞こえる。どてちんがとんでもないことをボクに告げようとしているのが表情で読み取れる。
「彼女の親父さんが人を殺して捕まったんだ」
「!?」
「愛人を殺したらしい。あいつの父親はプレイボーイで有名だったらしくてな。あいつの家庭はもう冷え切っていて、あいつがあんなふうになった一番の原因らしい。これはオヤジの友達の刑事さんから直接聞いたから間違いない。新聞にも載ってたよ。ワイドショーでもやってたよ。警察署長が人を殺すなんて最高のメシの種だからな」
 そういえば両親は俺に新聞を全く見せなかったし、ワイドショーになるとチャンネルを変えていた。僕はおかしいなぁと思っていた。
まさか、こんなことが起こっているなんて思っても見なかった。ボクたちはあんなことをする必要なんて全くなかったのだ。彼女はここを去らなくてはいけない運命だったのだ。
「どうして教えてくれなかったんだ?」
「お前を悩ませたくなかったんだよ。入院中にそんなこと言ったらお前は絶対に苦しむ。先生とクラスの皆で口裏を合わせたんだ」
 どてちんらしい気配りだった。ありがたく思った。ボクは言葉が出なかった。涙が出てきた。いろんな感情があふれ出てきた。言葉では言い表せない涙だった。
「おい、どうしたんだよ」

 ボクが大学生のとき(今から十年位前)にどてちんが瀬山レミの近況を教えてくれた。彼女が去って以来、心の片隅でずっと気にしていた。
 どてちんによると父親の殺人事件のあと、彼女の次兄は傷害致死事件を起こして少年院に入ったそうだ。長兄も脱税に加担して逮捕され、すべてを失ったそうだ。母親は病気になり、あの事件の3年後に亡くなったらしい。父親は今も服役中で、彼女は一回も面会に行ってないらしい。彼女は父親を捨て、家族を捨てて、自ら天涯孤独になったそうだ。あの事件のころの彼女にとって家庭は地獄だったらしい。父親は愛人の家に入り浸り、次兄は内外のストレスに耐えかね家庭内暴力に走り、母親はノイローゼになっていたそうだ。あのころ、ボクに当たっていたのはボクが自由に生きているように見えてねたましく思ったからだそうだ。
 彼女は当時何をしていたかというと、風俗嬢をしていたそうだ。なにより、当時どてちんは風俗にはまっていた。そうだ、どてちんは風俗店で彼女の客になったのだ。そして、サービスを受けずにひたすら彼女の話を聞いてあげたらしい。
 彼女はボクにすまなかったといっておいてくれと言ったそうだ。ボクは「もういい、俺こそスマンかったと言っておいてくれ」とどてちんに言った。
 どてちんは律儀にもそのことを彼女に告げに行ってくれたが、彼女はもう店を辞めていたそうだ。
 あれから十年彼女の消息はどてちんもボクも知らない。

註:2012年9月18日改訂
註:2012年10月14日改訂

生真面目な人々 1.「生徒会長」

生真面目な人々 1.「生徒会長」

彼女は本当に「生徒会長らしい」生徒会長だった。品行方正を地でいき、自分がダメだと思ったことはたとえ先生でも注意をするような生徒だった。(本文より)ボク=伊沢コウスケと学級委員長から生徒会長に上り詰めた才媛との対決!

  • 小説
  • 短編
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2012-09-09

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