針先


ハリネズミのことをどういう風にして思おうか、そのことを考える事が一番好きなの、そうして笑顔になる彼女が気になった。口角が上がる、歯を見せる。
長い髪の毛が不自然に立ち、ニットの袖口をパチパチいわせる彼女。今年一の寒波が襲来し、向かい風が吹いた今朝。涙目になりながら、彼女は僕に話す。丸くならず、しゃんと伸びて、湾曲を描く彼女の背中には、重そうな書籍が詰まった水色のリュックがぶら下がる。無地のシンプルなデザイン、前ポケットは一つ。その端に付けられたピンバッジが示す、チームは海外のサッカー。毎シーズン、順位表の上位に位置する。彼女が気に入っている別の手提げ鞄には、メジャーリーグの名門チームのロゴのものがが付いている。どちらも選べない、と彼女は言う。選ぶ必要はないよ、と僕は言わない。
ちくちくたく。ちくちくたく。
通らざるを得ない、キャンパスまでの上がり坂、緩やかでもなかなかしんどい、なのに腕時計の針は不規則で、時間の進み方が早い。お陰で、歩く二人の冬はどんどん過ぎて行く。でも、助かる時はある。話が途切れたとき、ただ僕は、僕たちは、耳を澄まして、それを聴いた。道路を走る自動車に、解体工事中の作業、たまたま通り過ぎる、ねえねえ、とねだる子供を叱る親。朝の動きに合わせた音は様々でも、僕が左手に身に付ける、そして僕の左側を歩く彼女には聞こえる秒針、短針。積もり積もって、僕たちのだんまりが長く続かずに、あっさりと終わる。
彼女が出した結論はこうだ。今日の彼女は、ハリネズミのことを手の平で優しく包むらしい。もちろん素手で。そして、針を立てないのはハリネズミ。
なら、軍手は僕がプレゼントする。

針先

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  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2018-01-18

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