【パパのいうことを聞きなさい!】小鳥遊美羽誕生日記念

2018年1月15日、パパのいうことを聞きなさい!の小鳥遊美羽の誕生日を記念して書きました。

 俺、瀬川祐太は、姉さんの子供――血縁関係では姪にあたる人――である長女の空ちゃんと結婚した。
 馴れ初めを話そうとすれば、それこそ三姉妹との出会いから話さなくてはならないので、ここでは割愛させていただく。
 
 さて。今日は何の日だろうか。別に世間一般で休日に指定されているわけでも無ければ、何か歴史的な事件が起きた日でも無い。
 今日――一月十五日は、三姉妹の次女・美羽ちゃんのお誕生日である。そのため、俺は通常より早く仕事を切り上げる事にしていた。
 ただ今の時刻は午後五時三十分。ぼちぼち退勤の準備をするべく資料の整理をしていると、日頃からお世話になっている上司が俺に話しかけてきた。
「ところで瀬川君、今日は誰かのお誕生日だと記憶しているが、行かなくて大丈夫かね?」
「ええ。三姉妹の次女の誕生日で、この後自宅でパーティーをする予定なんです」
「確か瀬川君は、三姉妹の長女さんと結婚されたのだったね」
 この上司の方には、俺がここまで至る経緯を伝えてあり、その事についても何かと融通を効かせていただいているので、頭が下がるばかりである。
 そうして上司と雑談に花を咲かせていると、退勤予定の十分前に差し掛かっていた。
「――あ。すみません、私はこの辺りで失礼させていただきます」
 上司に対して一礼して頭を上げる。上司は笑顔で、
「ああ。家族が待っているのだから、早く行ってあげなさい」
 もう一度一礼して、タイムカードを打って、出版社を後にした。

 事故などに遭わないように最大限の注意を払いながら、大急ぎで帰宅した。
 自宅に到着したのは出版社を発ってから一時間後の事。
 玄関のカギを開けて中に入ると、先日産まれた赤ちゃんをあやしながら立っている空ちゃんがいた。
 俺が帰って来たのを見て、表情をぱあっと明るくさせた。結婚してからというもの、天ちゃんはこうして俺が帰ってくる度に出迎えをしてくれているのだ。
 最初は空ちゃんの体を心配して断っていたのだが、「祐太さんの事が心配なので」と、逆に断られてしまった。
 ちょっとしょんぼりして「そんなに信頼無いの?」と尋ねると、空ちゃんは頬を赤らめて「……私の『一生愛したい人』だから、余計心配なんです」と破壊力満点の言葉が帰って来たので、空ちゃんの好意に甘える事にしたのだ。
 さて、場面を現在に戻そう。
「お帰りなさい、祐太さん」
「ああ、ただいま。――ごめんね空ちゃん、帰るのが少し遅くなって……」
「いいの。それに、今日のパーティーの準備、美羽とひなが手伝ってくれたから、物凄く助かっちゃった」
 そう言ってはにかむ空ちゃんは、すっかり大人の女性の表情になっていて、俺が三姉妹を引き取ると決めたあの日とは比べようもなかった。
「……祐太さん、どうしたの?」
「ああ、いや。とりあえずリビング行こうか」
 空ちゃんと一緒にリビングに入ると、テーブルのセッティングを終えた美羽ちゃんとひながこちらを振り向いて、何故だか頬を膨らませていた。
「あー! もぅ、叔父さんったら帰るの遅いですよー」
「そーだよ。準備は、美羽姉ちゃんと空姉ちゃんとわたしでやったんだよー?」
「あはは……ごめんな」
 俺はただただ苦笑するしか無かった。昔から、どうも俺は三姉妹の尻の下に敷かれている感じが否めないよな――と思う俺であった。
 着替えを済ませて再びリビングに戻ってくると、三姉妹はパーティーの最終チェックを行っていた。
 しっかり者の空ちゃんが主導になり、あっという間にチェックが済んでいく。
そして――。
「――よし。これでパーティーの準備は終わりかな!」
「お疲れ、空ちゃん。少し休憩したら?」
「ううん、まだ大丈夫だよ。ありがとう祐太さん」
 その時インターホンが鳴らされた。三姉妹と一緒に玄関へ向かう。
 玄関を開けると、そこには懐かしい面々が勢ぞろいしていた。ロ研、大学の同級生、バイトの仲間、さらには小鳥遊家の親戚の方々まで。
 実に多くの方が、今日の美羽ちゃんのパーティーに駆けつけてくれたのだ。
 美羽ちゃんは人の多さに感動したようで、涙が溢れていた。信じられないといった様子で口元を抑え、嗚咽をこらえている。
 そんな美羽ちゃんの様子を見て、一同が頬を緩める。そして、莱香さんが掛け声を発した。
「せーの」
「「「「「「「美羽ちゃん、お誕生日おめでとう!!」」」」」」」
 美羽ちゃんはいよいよ本泣きに入ってしまい、しばらく涙を堪える事が出来なかった。
 空ちゃんやひなに気持ちを落ち着かせてもらった美羽ちゃんは、皆のほうを向くと、彼女が小学生の頃見せた眩しい笑顔で、
「ありがとうございますっ!! 皆さん、大好きです!!」
                                   ~END~

             ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
 ここからは本編とは関係の無い事柄ではありますが、今回、私が二次創作をさせて頂いた『パパのいうことを聞きなさい!』の他、多数のライトノベルを執筆され、また、サブカルチャー業界においても非常に功績を上げられた、作家の松智洋先生が、2016年5月2日に逝去されました。
 私が高校生の頃、当時はまだ本編刊行中の時期で、小説の感想を、twitterを通して松先生にお伝えしたところ、非常に丁寧なお言葉で返信を頂き、その文面からも、松先生がとても優れた方だという事が伺い知れました。
 お話をさせた頂いた機会は少なかったですが、一時でも松先生と交流させて頂いたため、訃報を聞いたときはショックで言葉が出ず、涙が止まりませんでした。
 “家族の温かさ”というものをとことん追求し、それを世の中に広く伝えて下さった松先生の功績を鑑みれば、ただただ感服するばかりです。
 最後になりますが、私は松先生をとても尊敬しています。生涯、松先生を忘れる事はありません。小説という媒体を通して、多くの人々に家族の温かさやその良さを届けて下さった、そんな松先生が、私はとても大好きです。
 この場をお借りしまして、お礼を申し上げます。本当にありがとうございました。
 そして、成松孝洋さんのご冥福をお祈り申し上げます。

【パパのいうことを聞きなさい!】小鳥遊美羽誕生日記念

最後までお読みいただきありがとうございました。

【パパのいうことを聞きなさい!】小鳥遊美羽誕生日記念

この作品を、松智洋先生、そして成松孝洋さんに捧げます。

  • 小説
  • 掌編
  • 青春
  • 恋愛
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2018-01-15

Derivative work
二次創作物であり、原作に関わる一切の権利は原作権利者が所有します。

Derivative work