ささきななこ@nanako_tanka 2018
「好きでした」話したこともないくせに過去形にする身勝手な春
生まれずばこんな痛みもなかるらむ新たな傷で紛らはしけり
痣になり消えてゆくかな恋愛の青春の傷笑わば笑え
目的は何なのですかキャラメルはあげますけれどキスはまだです
CDの音源よりもライブでしょ? 言葉ではなく目で語りたい
切り取ってディスクに込める言葉では伝えられないほど愛してる
君とキスしてる煙草に嫉妬してしきりに塗ったリップクリーム
砂浜で拾った薄い貝殻のような恋を宝物にする
淡い恋ぎゅっと固めて君に会う時は閉まって肺を労わる
「好きでした」話したこともないくせに過去形にする身勝手な春
傷ついた胸を悼んだ夜ふかしを明けて冷めたるハンバーグ噛む
生きるのも地獄死ぬのも地獄爪切った破片を身代わりに捨つ
電話音リピートください不知火のお問い合わせで腹は膨れず
しわしわにならぬ素材の服を着る祈りを込めアンチエイジング
もう二度と会えないほうがいいかもね種のまんまで眠れこの恋
社交辞令笑顔で流す念じてる明日こそ幸と精神武術
すぐ空になるのおかわりくださいな今すぐ君で満タンにして
タイム・イズ・マネーもったいないことはしない誰でもいいなら帰る
もし哀れと思わば殴れ思い切り剥がして無理の詰まった笑顔
引き金のロック外すな照準が自動で君の方角を指す
心得るカートリッジを入れ替えて新しく生き直せるかしら
照準は自動で〈君〉に合っているピンを外すな恋は爆弾
この恋が恋などという名称であってたまるか弾けてしまえ
死んでいくきのうのわたし悼むべく流す灯籠川の果てまで
死んでいくきのうのきもち悼むべく川の果てまで流す灯籠
狙うのはカネよりもっとすてきなのタダより高いものはないのよ
会うまでは確かに友達だったのなのにねじれて切れてたそがれ
鈍感なフリしたずるい君になどあげないチョコの期限も過ぎた
鈍感なフリした君に会いたいと言えずに賞味期限は切れた
鈍感なフリする君に会いたいと言えずに期限切れとなりけり
水曜日会えませんかの返信は「ゴメン」でチョコは家族と供養
信じてた用意していたあれこれをひとりで食べる眠れない夜
テンションも気分もローで上がるのは血糖値だけバレンタインデー
水曜日会えませんかの返信は「ゴメン」で供養する恋とチョコ
遠い目でこちら見ている弟に同じく遠い目でチョコ渡す
被害者の顔した加害者の僕を見下ろす演技派だとわらって
今年こそ見切りをつける精神の腫瘍となった希望・夢・恋
思い出の君がアプリになる夢を断ち切りたくて濃くなる化粧
絶句するこんなところで会うなんて安いドラマでよく見た構図
幸せにしてあげられる自信などなくていいただ今そばにいて
震えてる腕押されて解除されたマナーモードで泣いていたのに
発車前きみのページを破ります細かく切って桜吹雪に
花と舞え君のページは刻まれて紙片となりて思い出と咲け
花と舞え刻んだ君の思い出を風に流してバスに乗り込む
悔しさをバネにし過ぎて軋む春髪も記憶も花びらと散れ
漢方が金魚のエサに似ていると気づいた朝に咲く傘の花
親指の若葉マークを喜んでいるセラピスト4日目の朝
エサみたい漢方薬を飲み込んで尾びれの傘を掲げた金魚
「大丈夫?」それを聞くのね召し上がれ「大丈夫よ」嘘のミルフィーユ
ソラマメの閉じた口ではないところ裂けて飛び出た本音が甘い
泣かないとヒソヒソされるお葬式泣けないことに困り果て泣く
泣いているみんなに合わせ泣くふりをして凍りつく六歳の冬
訳もなくなきそうだからチョコレートアイスを買ってセルフよしよし
見つめ合い視線に乗せてテレパシーそれがアイコンタクト(ドヤ顔)
みんないつどこで超能力を身につけたのなんでそれでわかるの
「私」だと示すところは脳じゃないからAIにしてもいいよね
拒否されたこの想いなどバグでいいだからNPCに戻して
いつ来てもいらっしゃいませこんにちはわたしNPCのナナコよ
君からの最後の手紙見返して返事を書いて書いては破る
君の名を書いたページを破ったら風に流れて花びらとなる
花束を持って迎えに来てくれる日を待っている干からびるまで
付き合っていない初めてのデート失恋ソングばかりを歌う
繰り返し去っていく背に取りすがる夢を見たって君は知らない
カエル鳴く細道飛ばす原付もここが居場所と静かに吼える
トラウマの地元が「世界一幸せに暮らせるまち」を自称する
酸欠でぱくぱく口開ける金魚わたしも同じ愛に飢えてる
不良品しか愛せない性癖の人の宝物になれるかも
「どうしたら目の前のひとしあわせにできるか考える」「私もよ」
ささきななこ@nanako_tanka 2018