本を読むこと
頭のなかだけのできごと
人からそれを見られることなく
なにも言われることなく
ただここに今起こっている
世界のできごとのなかで
これほど心地よいことがあろうか
こちらからあるいてゆくでもなく
向こうからやってくることなく
入り始めは進み具合がぎこちないが
すぐに慣れて
す~いす~いと
いつの間にか自分を忘れ
その陶酔のなかに浸る
見たことのあること
経験したこと
覚えたこと
感じたこと
それらを総動員で記憶のあらゆる層から引っ張り上げ
眼前の文脈と関連性をみつけ
もう一度記憶の層に塗り込み畳み込み
深くまで染みわたらせるとき
糠床をかき混ぜたときのように
それはまた息を吹き返す
本を読むこと