詩 2

祐喜代

  1. 風攫い
  2. JOHNGARA
  3. カンカン踊り
  4. 化け軍鶏
  5. 瞽女さん
  6. まぼろしの郊外
  7. 始発に聴いた亡霊のバラード
  8. 赤線
  9. 赫 ~あか~
  10. とある冷血漢の診断結果

風攫い


風攫いがやって来た

花たちが嫌がった

草木も嫌がった

雲も嫌がった

風車小屋は悲しんだ

太陽は怒った

風攫いは仕方なく風を逃がした

風攫いは疲れた

風攫いは風の谷へ帰って行った

JOHNGARA


凍てついた津軽の海の岩礁に腰掛けて

足枷をされた盲目の三味線弾きが

その激しく暗い津軽三味線の音色と共に満潮を迎えます



じょんがら、じょんがら、
           じょんがら、じょんがら、
                      じょんがら

じょんがら、じょんがら、
           じょんがら、じょんがら、
                      じょんがら


盲目の三味線弾きの姿が波に消え

真っ二つに折れた三味線がゆらゆらと波間を漂っても

その激しく暗い津軽三味線の音色はやみません



じょんがら、
     じょんがら、
          じょんがら、
じょんがら、
     じょんがら

じょん
   がら、じょん
がら、じょんが
ら、じょ
んがら、じ
ょんが

津軽の海は荒ぶるばかりです

カンカン踊り


貧乏長屋に住む運の無い染織り職人の男は

江戸の大店に嫁いだ娘が流行り病にかかって仏様になって長屋に戻ってくると

酒を浴びるように呑んで

得意のカンカン踊りを近隣に披露した

冷たい娘を後ろから抱きかかえ、死に装束の二人羽織

朱をさした青白い死に化粧にリンとリン棒を持たせてカンカン、カンカン、遮二無二打ち鳴らす

娘の葬儀は近隣中の仲間が集まってのお祭り騒ぎ

陽気な音頭で
      カンカン、カンカン、

やれ悔しや、やれ悔しや

大店の旦那は金の亡者

大店の若旦那は色狂い

貧乏長屋の哀れな娘は骨までしゃぶられお釈迦様

      カンカン、カンカン、

やれ悔しさ、やれ恨めしや


釣られた娘は冷たく笑って

カンカン踊りは一晩中続いた

化け軍鶏


本家の番犬の墓前の小屋で飼われている軍鶏はいまだ無敗だ

敵の目を刳り貫いて羽を引き裂き

最後はその鋭い嘴で噛み殺して丸呑みする

まこと恐ろしい軍鶏だ

赤銅の大きな鶏冠を逆立てて

威風堂々、人さえも威嚇する

まこと化け物のようなヤツだ

この軍鶏が屠った余所の軍鶏の数といったら何千羽におよぶだろう

余所とは格が違う

鍛え方が違う

この軍鶏がはじめて闘鶏の場で勝ちを収めた日の朝

小屋の前では本家の番犬が噛み殺されて死んでいた

本家の番犬は土佐からきた由緒ある闘犬だった

瞽女さん


真昼に闇夜を眺める瞽女たちがひっそりと往来を歩いていく

面を上げず這うように

瞽女たちがお屋敷の門前で三味線を叩く時は

日照りも風も雪も押し黙っていてくれる

まだ日のあるうちに真っ赤な瞽女唄を唄い

撥が闇夜に染まる頃には安宿の荒っぽい温もりの中にいる

列をなしての長い巡業の間

三味線を持つ腕も

行李を背負った背中も

いつしかへしゃげて

また妙なる音色に化けていくのだ

まぼろしの郊外


日曜の朝の風景の中には鉄塔か鉄道橋が欲しい

まぼろしの郊外で

出来ればそれに合わせた田園と運河なんかもあればいい

集合住宅のそこここにはそこに住む人たちの生活の死角があって

そういった場所はたまに悲しい出来事を引き起こす事になっている

やたらと蝿がたかった段ボールがポツンと放置されていたり

パンパンに膨れた寝袋が悪臭と共に横たわっていたりする

それはその町で比較的時間に余裕のある主婦が発見する決まりになっていて

新聞の片隅でひっそりと記事なり

すぐに風化してまたすぐに変化のない日常がはじまる

娘と父親はきちんと学校と職場を往復し

主婦は近所の主婦と連れ立ってこっそりランチに出かけたりする穏やかな日常

退屈しのぎに繰り広げられるセールスマンとの情事だって

日曜の朝だけは全て包括してただ優しく了承されるだろう

始発に聴いた亡霊のバラード

東武東上線の始発を待つベンチの男は

きっと酔いどれの亡霊だったのだろう

上機嫌な俯き加減に変な外連味があるのですぐに解った

(お前も俺も被害者でよかったんだよ)

その男は乗るつもりのない始発をやり過ごし、ベンチでそう繰り返していた

(加害者になんかなったらどんな顔していいか解らないぜ)

未成年の頃は暴力を繰り返し、いつも鑑別所の壁が近かったそうだ

「すいません」と力無く笑って、意味もなく土下座するのが得意だったらしい

(すぐに「すいません」って言う人間が一番危ないんだよ)

酔いどれの亡霊は明け方になるといつもそうやってベンチでいる

初めて人の親になった時の記憶を、始発を待ちながら何遍も何遍も繰り返している

そんな亡霊のバラードを僕は一人始発で聴いた

赤線


こっからこっちは往生やぞ

孫を売ったら次は子や

発情した野良猫は

赤線踏んだらタダでは帰れん

ドドメ色した襦袢の春猫

肉の褥でごゆるりなされ

青線下って鳩の街

ドンドンパンパンドンパンパン

ドンドンパンパンドンパンパン

赫 ~あか~


白い雪原の平野の中に赫

赤ではなく赫

滲む想いのような色

泣き濡れた襦袢の色

ぬかるむ雪を踏みしめる時には血の想いをする

戒めを破ってまぐわう時の嗚咽は赫

瞽女たちが見る夕陽の色は赫だ

とある冷血漢の診断結果

・帽子を深くかぶる人
・夕焼けがつくる子供の影
・排気ガスの臭い
・狐の嫁入り
・手の甲に糊を塗って、乾いてから剥がす行為
・真夜中の湖面に映る丸い月


■診断結果■

キミは地に足の着いたところが全くなくて、あわよくば四六時中でも夢想の世界に浸りきっていたいという願望を持っているようだね。
出来ればこんな世界とは一刻も早くオサラバしたいとすら思っているかもね。

キミの性格は、いうなればハードボイルドな一匹狼だなぁ。
自分以外の他人は、全て眼中にない。利用できる相手なら利用するし、邪魔ならつぶす。

キミにとっては、人間というのはまさしくモノでしかない。
だから他人の感情だとか何だとか、そういったものは一切無関係、無関心、無頓着。

そもそもキミ自身の感情だって、何か重要な部分が欠落しているような傾向すらある。

そんなキミが求めるのは、ただ危険とスリル。
ただ脱出するという目的のためだけに、極限状況を自ら求め続ける人。
危険と困難を克服した瞬間の達成感だけが生き甲斐、って感じだね。

詩 2

詩 2

粕谷栄市氏の詩と町田康氏の詩に憧れています。

  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
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