ローレライとやまとの画家〜森鷗外作「うたかたの記」を読んで〜

此れは、「浪漫」の傑作だ…!今の世に、此れ程迄に気高くも妖しい浪漫はあるまい。 叙情性を此れ程迄に高尚な文学に高められる作家は希少だ。流石文豪。


気高く美しい少女、マリイ。 芸術に狂う遠きやまとの画工、巨勢は、少女を愛し、マリイを雛形にローレライを描いた。ハイネに詠われしラインの精、ローレライを。「美」を。


「舞姫」は日本人留学生が主人公であるが、「うたかたの記」はマリイが主役で巨勢は狂言回しの役割だと云う説がある。 だが、僕には巨勢も非常に魅力的な主要キャラクターに見える。


学識高きマリイの警句が、我が胸を打つ。 「われを狂人とののしる美術家等、おのらが狂人ならぬを憂へこそすべきなれ。」 故に、芸術に狂う外国の画工を愛したのだろうか…?


明治の立派な紳士である巨勢だが、少々「乙女的」だと思ってしまうのは僕だけだろうか。 「余りに久しくさいなみ玉ふな。今も我が額に燃ゆるは君が唇なり。はかなき戯とおもへば、しひて忘れむとせしこと、幾度が知らねど、迷は遂に晴れず。」 この巨勢の台詞が艶かしくて好きだ。


マリイは、か弱き少女にも、強き貴婦人にも見える。 儚くも強い貴婦人だ…


マリイを愛し、美を愛し、愛された巨勢…
狂王によりマリイを喪い、悲嘆にくれ瘦せ細った彼は「ローレライ」の絵の下に跪いた。
哀しい…
でも僕は、巨勢君が羨ましい、本当に。
僕もマリイに愛されたい。異郷の地で、芸術に、美に狂いたい。 …それは叶わぬ夢。 浪漫は、あくまで虚構だから。
しかし、優れた虚構は現実より尊いと、僕は信ずる。

ローレライとやまとの画家〜森鷗外作「うたかたの記」を読んで〜

ローレライとやまとの画家〜森鷗外作「うたかたの記」を読んで〜

  • 随筆・エッセイ
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2018-01-13

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