ゆりりんと愉快な仲間たち

メイドカフェで働きアイドルを目指す23歳 ゆりりん
毎日に飽きてしまいただ死ぬ事だけを考える16歳 山本梓
ロックバンドを組みデビューを目指す27歳 リュージ
大企業社長候補から一変。ホームレス生活をはじめる29歳 瀬戸賢治
etc・・・。

だってあなた死にたくないって言ったから

才能のないと気づき挫折する人、
才能がないのにあると過信する人、
才能があるのに発揮しない人
あなたはどれにあたるのだろうか。



あなたは私たちの本当の意味でのアイドルでした。




――――――――まもなく、2番線に電車がまいります。白線の内側までお下がりください。
今日はいつも乗る車両とは違い薄暗いトンネルの近く、電車が一番最初に見える23号車。
後ろで汚いハスキー声と甲高い悲鳴にも近い声を使い分ける女子高生らは悲しくなるほど馬鹿げた会話を繰り返す。
短いスカートにぐちゃぐちゃになったプリーツ。
私も見た目は彼女らとあまり大差ないのだろう。
右隣りの小太りメガネのサラリーマンは重い瞼の下から私の足と彼女らの足をなんの躊躇もなく凝視する。
気持ちが悪い。

甲高い声をかき消すように電車の機械音と摩擦音がトンネルからうねるように聞こえる。
風が鳴り、髪が私の肌をあおる。

アナウンスを無視し一歩二歩と前へ進む。
隣のサラリーマンは空洞の瞳をちらりと私の足から顔に向けた。
興味がないならほっといてね。

つま先が浮く。
何も考えまいと必死に目をつぶる。
眉間にしわがより、こめかみに嫌な体液がつたる。
私の思考とは逆に身体が予想外の反応をする。
おかしいなー。

16年間生きてきて楽しかったこともあったと思う。
嫌なことだってたくさんあったと思う。
でも、そんなことどうでも良かった。
なんとなくただなんとなく飽きちゃったんだ。
こんな事言ったら大人たちは
『たった16年間生きて何言ってるの』
って言うのかな?
じゃああんたらはそんだけ生きて私に何を教えれるって言うのさ。
私の人生は私のものだよ。
あなたたちが私に何を言おうと私の意思は今更変わらない。
現代語で言うと中2病って言われるのかな?
なんかもー どうでもいいや。うん。


後ろの女子高生の声も横のサラリーマンの視線も気にならない。
トンネルからまぶしいほどのライトがのぞく。
あと少し、もう少しーーーー。
踵の力が抜け、重力にまかせた身体は予想以上に遅く前へ倒れた。

早く、早く・・・。



人生に悔いはない?やり残したことはない?
明日生きてて良かったって思える日になるかもしれないよ?



そっと目を開けると目の前にゆがんだ線路が見えた。
こめかみと目から変な体液が出る。
心臓が張り裂けそうってこういう事をいうんだ。
痛い心臓が痛い。辛い。
嫌だ。ダメ。やっぱり・・・・。


グウォォオォンザザ――――――――――――




「危ないよ?」


白いシャツにフリルのきつい白いワンピース。
白いニーハイに白い厚底のヒール。
なんだろーこの生き物。


中に浮いて前へ落ちたと思った私の身体は
なぜか後ろへ落ちた。

駅のホームのタイルは思ったより堅く、冷たかった。
お尻が痛い。重力は正直だね。
前へ落ちる瞬間この白い生き物に引っ張られ後ろへ倒れたのだ。


「なに・・・・なにしてくれてんのあんた?!!!」


朝のラッシュで混雑するホームでは私の声はさほど響かなかった。


「んー・・・。だってあのままいったらあなた電車にひかれてたよ?」


とぼけた顔に甘い声、少し右に傾けた仕草は私をいっそうイラつかせた。


「見てわかんねーのかよ!自殺しようとしたの!あとちょっとだったの!意味わかんない!空気読めよ!私はもうよかったの!責任とればか!!」

悔しい。
何がって生きてる自分がいることで自分が安心してることが。
あんなにも決意したのに。
閉じ込めていた感情が爆発する。


「だってあなた死にたくないって言ったから」

白い生き物はまたにっこりと小首を傾げて私を見つめた。



会社員と学生が行き交うホームで人目をはばからずに泣いた。
泣くしかなった。
悔しくて、嬉しくて、うごめく感情は空高く上がってきれいに散った。



一言だけど十分だったの。
私のすべてを知って受け止めてくれる言葉だったから。

カランカラン・・・。


「お帰りなさいませ、ご主人様!」

甘い香にピンクと白の世界。
迎えてくれたのは、まさにメイド服を着た甘い声の少女だ。
正直可愛さは理解できないが乙女とはこういう人の事を言うのかな。
私とは真逆の世界だ。


「ごめんね、着替えてくるからここで待っててね☆」

一番奥のゴージャスなレースで区切られたブースは少し固めの3人掛けのソファーに低めの猫足のテーブル、大量のくまさん人形、ハート型のクッション、照明はふつうなのに目がちかちかして落ち着かない。
ソファーに腰をかけ近くにあったくまのぬいぐるみをなでてみる。
昔おばあちゃんに買ってもらったくまのぷっちーはどこにやったけ。

右腕を押すと声を録音でき左腕を握ると声が聴ける。
今ではふつうのぬいぐるみかもしれないけどあの頃の私には衝撃的で興奮する他とは違うぬいぐるみだった。

ゆりりんと愉快な仲間たち

徐々に更新していきます。

ゆりりんと愉快な仲間たち

  • 小説
  • 掌編
  • 青春
  • 恋愛
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2012-09-08

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  1. だってあなた死にたくないって言ったから
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