求めていた俺

第四部 「摩天楼の決戦編」

三十六話


「いくぞ」

桐生の合図によって戦士達は白石を取り囲むように一斉に押し寄せる。

まず先に白石にとびかかったのは、タイラのマチャカドだった。自身を強力なバリアで覆いひたすら突進する。

「そんなヤワな膜で私に勝てるとでも?」

パリィィン!

白石のパンチによってバリアは全壊する。

「まだでござるよ!魔獣先輩!!」

「いいっすかぁ?」

マチャカドの背後に隠れてた魔獣先輩がここに来て必殺技を披露する。

「武ッ血ッ波!!」

奇怪な音と共に汚物が撒き散らされる。

「く、クッセェ!」

その強烈な臭いは仲間をも巻き込む。

だが白石には掻い暮れ効果は無かった。

「フン、私をナメるな!!」

ボボボボボボボボボボッッ

青く光るエネルギー弾を乱れ打ちする白石。

「うおおおッ!」

ルビアが炎剣でエネルギー弾を一つずつ弾いていく。しかし数が多く処理しきれずに数発被弾してしまう。

「うぐぁ!?」

吹き飛ばされるルビア。


「くらえっス!!」

次なるチャレンジャーは『石ころ』だ。

得意の体当たりをお見舞いするが・・・

「おっと」

ヒュンッ

白石が首を軽く振っただけで回避されてしまった。

「あーーーーーれーーーーーーー。」

加速が止まらない石ころの小さな体ははそのまま大空へ投げ出されてしまう。

「石ころーーー!!お前の犠牲はむだにしないぞーー!」

なんか扱い酷くないスか? 的な声がどこからか聞こえて来た気がするが気のせいだろう。

そして次は電撃使い遊馬雷奈と瓜生。

「ちょっとシビれるけどいい?」

バッシャーーーン!と、最大出力の巨大な雷が白石に直撃した・・・筈なのだが。

落雷地点からもくもくと白い煙が立ち込める。
やがて煙が晴れてくると、ただそこに居たのは無傷&平然と立ち尽くしている敵だった。

「まじかよ、ピンピンしてやがる。」

有り得ない状況に未だ信じられない瓜生。

「兄貴、ぼーっとするな!」

「はっ」

瓜生の頭上に巨大な黒い影が浮かぶ。
我に返った瓜生はサッと真横に跳びのく。

ズバンッッッッ

あと1秒遅かったら白石が真上から振り下ろした全長約二十五mの巨大なエクスカリバーの餌食になってる所だった。

「あっぶねー、めちゃくちゃしやがって。」


「邪水じ・・・!?」

バキィッッッ

サファイが彼らの後をフォローしようと試みたが超高速で放たれた白石のアッパーカットに阻害される。

ズシャアッッ

「痛っっ!」

垂直に打ち上げられたサファイは自由落下でそのまま着地。硬い地面に背中を強く打ち付けられる。

「サファイ!!」

「だ、大・・丈夫・・。」

「ホラ、立てよ。」
「うっ」

白石がサファイの首を片手で掴み強引にその華奢な体を起こすと、腹パンを一発かました。

ズンッッ
「ぐっ!」

白石はサファイに休む隙も与えずにさらに追撃を叩き込む。

バキッ
「ほら、」
ドゴッ
「早くお仲間を助けないと」
ガスッ
「死んじゃう・・」
ゴキッ
「ぞッ。」

ズドンッ・・

「あ、あうぅ・・・」

白石はまるでボロ雑巾の様に満身創痍と化したサファイにとどめを刺ずべく、両手を頭上にかざし、巨大なエネルギー弾を生成する。

「楽にしてやろう。」

「もうやめろ!」

サファイを助けるため白石を止めようとする桐生。

しかしその時彼の目に一瞬ある者が映った。それは白石の口元からたらりと垂れていた。よくよく見ると、それは細い一筋の赤い線の様に見えた。 血だ。

(吐血している? ・・・まさか!)

勘のいい桐生はすぐに気付いた。

『冥王』とてその本質は『人間』だ。異能の力を持つ人間という意味では桐生となんら変わりはない。そして人間が異能の力を行使すればするほど、その力が強大であればあるほどそれに比例して自分の身体にかかる負担は大きい。

「おいお前、まさか・・」

「敵の心配なんかしてる余裕などあるのか・・・? グ・・、グブ・・・ッ。」

(やっぱりか・・。コイツも・・)


「チャンス!」

隙を見て白石の背後に回り込む遊馬と一ノ瀬。

「これで私の背後を取ったつもりか?」

ドッッッ!

二人の奇襲に白石は後ろ回し蹴りで対抗する。

だが遊馬は何とか体勢を立て直し、全身の電気を拳に凝縮させた『雷電の拳』で反撃にかかる。
「よくもやったなぁぁ!!」

ガシッ

しかし白石はそれを避けもせずに掴み取る。
「なぬぬ!?」

「フン、中坊が。私のシステムディスターバーがあればこんな攻撃など効かんわ!」

ギリギリギリリリ・・

白石は掴み取った遊馬の細い手をネジを回す様に時計回りに捻る。

ビキビキビキゴキゴキゴキヒシヒシヒシヒシと、手首の関節が外れる音が聞こえてくる。
「うっぎゃああああああ!」

手首をおさえて悶絶する遊馬。

「猿男!遊馬を助けてやってくれ!」
「あいよ。」

猿男は白石に飛びつき、鋭い爪で顔の皮膚を引っ掻き回す。

「グッ!?」

そして猿男がその場を離れると魔獣先輩がよろめいた白石を羽交い締めし、動きを止める。

「なんだお前は、やめろ放せ!」
「暴れんなよ・・暴れんな。」

「でかしたぞ魔獣先輩!そのまま白石を逃がすな。」

もうすっかり指揮官気取りの桐生。

「アバレーヌ!」

あばれない君が呪いをかける。白石は完全に動きを封じられる。 そこに減畑会長と森山が加勢。

「オラオラオラオラ」
「うりゃうりゃうりゃ!」

ドガガガガガガガガガガガッ!!!

肉体美追求会特有の拳法で白石を殴打する。

「ぐあああああっっ!」

「やったか!?」

確かに手応えはあった。白石はこれで倒れたはずだ。

が。
「・・ザコがああああ!!」

ドンッッという衝撃音が響いた。白石が地面にパンチをしたのだ。そして彼女を中心に巨大な蜘蛛の巣状の亀裂が走った。

「「うわわわっ!」」
その振動により桐生達は転倒する。

「ハァ、ハァ、いい加減諦めろ・・。グ、ガハァッ!」

ビチャッ
再び吐血をする。

白石の体は痙攣状態で、目は真っ赤に充血している。彼女がどんなに万能な能力を持っていようと所詮は能力。癌を患っているのにほぼ等しい。死ぬのは最早時間の問題だ。

そう、真に時間が無いのは彼女の方だったのである。

桐生にも何となく分かってきた。白石の真意が。

「嘘なんだろ?制限時間内にお前を殺さなければ”俺が自滅する“ってのも。 いいや、それだけじゃねー。世界を滅ぼさなきゃならないってのも。 お前はただ『強い敵と闘いたい』だけなんだろ?」

「フン、何を今更ほざいているんだ・・。平和な世界・・など、クソ喰らえだ・・。」

白石の顔は満足そうに、それでいて弱々しく見えた。

だから桐生は思った。
こんな戦いは早く終わらせなければならない、と。


「・・白石。初めてあった日のことを覚えているか?」

「何をいきなり・・・」

「幼い頃。ある公園の砂場であの時俺は初めて出会った。白石茜という1人の少女に。
そしてその子はいじめっ子達から俺を助けてくれた。」

桐生は苦し紛れに呼吸をしている目の前の敵を見つめ、再び話を再開する。

「あの時、俺はお前にお礼を言わずにその場を去ってしまった。だから最期に今ここで、お礼を言わせてくれ。 ありがとう。」

桐生が頭を下げる。

「なっ・・」

いきなりの行動に困惑する白石。

「冥王だろうが何だろうがお前はお前だ。お前は最初から1人の人間なんだ。
短い間だったが世話になったな。」

言いたいことは全て言ったつもりだ。
これで心残りは無い。

「・・んじゃあやる事も済んだことだし、とっとと決着をつけてやるぜ!」

「いいだろう・・。」


桐生が一度振り返り、仲間たち全員の顔を見る。
「皆んな、これまで一緒に戦ってくれてありがとな。だがお前らの体はもうボロボロだ。
十分に戦ってくれた。後は俺に任せて休んでてくれ。」

仲間達は互いの目を見つめ合って頷くと再び視線を桐生に向けた。 そしてその中の1人の青年が言った。

「行ってこい、桐生!俺たちはいつだってお前を応援している。」

「ありがとう兄貴。 それに他の皆んな。俺は必ず生きてみせる!!」

桐生は再度白石に視線を移す。
二人の距離は約八m。
「んじゃとっとと始めようぜ。時間がねーから一瞬でケリをつける。これは俺とお前、一対一の戦いだ。この一瞬に全てを賭ける!」

「なるほど。小細工抜きの真っ向勝負という訳か。 ククク、面白い。最終決戦には相応わしいシチュエーションだ。」

二人は暫く睨み合うと同時にスタートダッシュを切った。

「勝負だ白石!!」

「オォォォォォォォ!!!」

二人は目の前の敵に向かってただ一直線に疾走する。ひたすら全力で。そして二人の『人間』は 遂に激突した。

ゴッッッッパァァァァァァァァァン!!!

これまでに無い炸裂音が闘技場に響いた。

同時。 決着は本当に一瞬でついてしまった。

会場が沈黙に包まれる。

一人の『人間の少女』が大の字になり地面に仰向けの状態で打ち倒されていた。右の頬がベッコリと凹んでいる。
そしてもう一方の『人間の少年』が拳を強く握りしめて前方に突き出したまま立っていた。
どうやら頬を殴られたのは『人間の少女』で、勝ったのは『人間の少年』のようだ。

そして勝った方の少年がようやく口を開く。

「・・俺の・・・勝ちだ・・・。」

この一瞬の間に何が起きたのか。どうして桐生は勝つことができたのか。理由は単純だった。
激突する直前、白石は一瞬どう出るか戸惑った。 戸惑ってしまった。なぜなら桐生の手には『相手に触れた瞬間その動きを封じる能力』が宿っているからだ。あの時点で『システムディスターバー』を使い、桐生の能力を“克服“すれば彼女は勝っていたかもしれない。
だが不思議とそれが出来なかった。これ以上能力を使えば身体が崩壊してしまうから・・・・
・・ではなく、桐生が『あまりに愚直で単純だったから』 である。
当然桐生だって白石の能力の概要については知っていたはずだ。それを知ってた上で敢えて真っ直ぐ突っ込んだ。がむしゃらに手を突き出した。白石はまさか本当に桐生が第一撃だけで決めてくるとは思っていなかった。
そしてもう一つ。
白石の『システムディスターバー』は能力を一回使用するたびに、”何を克服すればいいのか頭の中でイメージしなければならず“ 、克服の対象を『桐生の能力』にするのか、『桐生のパンチ』にするのか迷ってしまった。
何故なら彼女の能力の弱点は『一度に設定できる克服の対象は一つまで』だからである。
結局白石は最後の最後まで能力に振り回されてしまった。結果彼女は自分に嘘をつくしかなかった。『戸惑ってしまう』ということは
自分の心が『嘘をついている』から。ただひたすら『本当の答え』を模索しなければならない。
対して桐生は何の迷いもなくたった一つの選択肢に賭けたのだ。 『バカ正直』に。
白石と桐生。
前者と後者の違い。

嘘つきが正直者に勝つことはできないのである。


白石は結局桐生のパンチを喰らったため、体を動かすことは出来ない。それでも何とか口だけは動かすことができた。

「・・プッ、フフ・・・、ククククク・・アーーーーーハッハッハッハッ!!良い!実に素晴らしい!こんなに楽しめたのは何年ぶりだろうか?久しぶりにゾクゾクしたぞ。
けどまだ足りない。もっとだ。もっと、もっともっともっともっと私を楽しませ・・・・ろ・・・・・・・・。」

白石茜はこれ以上喋ることはなく両目を開いたまま逝った。その表情は『冥王』なんて渾名には似つかわしくなく、桐生が初めて会った時と同じ顔だった。

桐生が白石の遺体を抱きかかえる。その体は余りにも軽い。

「満足だろ白石。後はゆっくり眠れ・・。」

白石の瞼にはわずかに涙が溢れていた。自分の目的を果たすことができた嬉し涙なのだろうか。できる事なら『普通の人間』として生まれ、桐生達と同じ平穏な日常を過ごしてみたかったという悲し涙なのだろうか。
死の間際に流れる涙はまるで生きている人間のそれとは違って生温かい。

桐生が白石(友達)の体をゆっくりと地面に下ろそうとした時、


ビシュッ・・


何処からか飛んできた銃弾が白石の体を、桐生の胸ごと撃ち抜いた。

「え?どうして・・・」

一同は予想外すぎる展開に未だ呆然としてる。

桐生は白石の遺体を抱きかかえたまま前に倒れる。
その周りの床には白石と桐生の血液で水溜りができていた。

その時、近くから男の声がした。

「いやぁ、よくやってくれたねぇ桐生くん。ご苦労ご苦労。」

“その男” は拳銃を片手に持ちながら桐生達の元に近づいてきた。 その銃口からはまだ白い煙が上がっている。

奇跡的にまだ呼吸ができる桐生はうつ伏せに倒れたまま辛うじて頭だけを持ち上げて男の顔を睨みつける。

「・・お前・・の・・仕業か・・・・。お前が・・撃った・・・の・・か?」

「その通り。撃ったのは俺だよ。」

桐生の仲間達全員がこの男の顔に見覚えがあった。

皇楼祭ではずっと解説を務めていたその男。

決勝戦に現れたが即効で野人に殺されたはずのその男。

「牟田・・一尊・・?」

「ピンポーーーン!大正解だ!」

「なぜ・・俺達を・・?お前は・・さっき死んだ・・はずじゃ?」

「ああ、あれな。アイツは俺の影武者だよ。
事前に冥王とその手下達がここにやってくる事は聞いていたんだ。」


「冥王の存在を最初から知っていただと!?」

桐生の兄、瓜生が問う。

「世界を崩壊へと導く悪魔『冥王』を殺せば、俺は世界を救った人類史上最高の英雄になれる。そして遂にその野望が叶った。
これで俺は大金持ちになって、未来永劫
『救世主・牟田一尊』の名を歴史に轟かせる事になるのだ!ガハハハハハハ!!!」

「テ・・、テメェ・・・!」

「喋るなよ似非ヒーロー。お前の役目はもう終わったんだ。さっさとそこでくたばってる大事な大事な彼女ちゃんと地獄で遊んでろ。」

「絶・・・対・・殺す・・!!」

「その血だらけの体で何ができる。お前が本来掲げられるべき名声と手柄は俺が代わりに
頂いてやる。」

その時、上空からバラバラバラバラと大きな音が聞こえてきた。 次第に音は大きくなっていき、やがてその音源となるものは牟田のすぐ近くに着陸した。それには『自家用ヘリ』
と書かれてあった。

「逃げるつもりか牟田一尊!!」
サファイが言った。

牟田はヘリのドアを開けて、コックピットに乗り込んだ。そして機体は離陸を始める。
去り際に牟田が窓を開けて挑発した。

「やーいバーカバーカ!悔しかったらここまで来てみろってんだ!!」

「逃すか!!」

バッシャァァァァァァァァァン

サファイの必殺技『邪水刃』でヘリコプターを撃墜する。

「そんなアホなぁあああああああああああああああああああ!!」

ヘリコプターはそのまま遥か遠くに吹っ飛ばされ、お星様と化した。
牟田一尊の野望はあっけなく潰えた。


「フン!どんなもんだ!」

えっへん、とドヤ顔をみせるサファイ。

「それより彼は大丈夫なのかな?」

一ノ瀬が指をさした方向。そこには満身創痍の桐生がぶっ倒れていた。胸には穴が空き、身体中の穴という穴から血を吹き出し、傷だらけなのにも関わらずそれでも白石の体を強く抱きしめながら。

「桐生!桐生しっかり!!」

桐生の元まで駆け寄るサファイ。ほかの仲間たちも
それに続く。

桐生の体を揺さぶるマナト。

「意識を失ってはいるが死んではいない。サファイ、救急車を呼んでくれ!!」

「わ、分かった!」





コッ・・コッ・・コッ・・

皇楼祭が終わって、サファイ達や全ての観客がいなくなった後、沈黙に包まれた闘技場に響く靴音。

それは、戦いの一部始終を影で傍観していた「一人の男」のものだった。



ちょうど闘技場のど真ん中付近に残るのは桐生の血溜まりである。

ピチャッ

男は歩みを進めて、爪先が僅かに血溜まりを踏むあたりで足を止めた。

「ホゥホゥ多少は強くなったみたいじゃねぇか。だが、お前の力はその程度じゃないだろ?なぁ・・桐生」

男は好物の棒付き飴をポケットから取り出し口に咥える。

「死ぬのはまだ早いぜ。お前にはいずれ役目を果たしてもらうのだからな。そう、世界の変革の為に。
だからそれまでゆっくりおやすみ・・・」


誰も居ない闘技場に謎の台詞を吐き捨て、男は再び来た方向に振り返りその場を静かに去っていった。

桐生はこの時、真っ暗な闇の中に1人、佇んでいた。 前を見ても上を見ても下を見ても左右を見ても後ろを見ても、そこにあるのは
ー真っ暗な闇ー
(そうか・・。俺は死んだのか・・・。)


これは、ある一人の少年の戦いの記録である。



Next to Sequel...

求めていた俺

これにて「求めていた俺」は無事終幕です。
・・ハイ。ラストを読んでいただいたならお分かりだと思いますが、このストーリーにはまだまだ続きがあります。これまでの戦いは序章に過ぎないのです。
というわけなので皆さん、これからもどうか桐生の戦いを是非最後の最後まで見守って頂けるならこの上なく幸甚です!

求めていた俺

  • 小説
  • 短編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2018-01-12

Copyrighted
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