求めていた俺
第四部 「摩天楼の決戦編」
二十八話
『芭部流の塔』第八階層。皇楼祭もいよいよ終盤に差し掛かっていた。
桐生は闘技場でこれからの八回戦で当たる相手に備えて準備運動をしていた。
「残す所三戦か。 これまで色々な奴と戦ってきたな。次はどんなやつかなー。」
いつのまにか桐生は、"本来ここにいる目的"のことはすっかり忘れて、ただ純粋に試合を楽しむようになっていた。 自分だけじゃない。ここで戦っている戦士もみんな何かしらの大義を持っている。 戦っているうちに分かってきた。彼らはただトントン相撲の紙のように戦場に立たされているわけではない。それぞれが得意分野を持ち、自分なりの大義や信念を持って戦っているのだ。
戦いというものは、自分の個性や人間性を最大限に晒け出せるような、そんな滅多にない機会だと思う。せっかくそんな舞台に招かれたのだ。楽しまなきゃ勿体無いと思うのも分かるだろう。
そんな大会もついに終盤。気が付いたらもう準々決勝だ。 時間が経つのも早いもんである。
『さてさて、皇楼祭もいよいよ準々決勝ですが、解説の牟田さん、何かコメントは?』
ピコピコ・・
『あ、待って。今中ボスだから。』
『あのー、なにゲームしてるんですか?おーーい。 ・・・駄目だこりゃ。
こんな奴はほっといて準々決勝で戦う桐生選手の対戦相手を紹介しましょう!
彼女は昨年の皇楼祭にて準優勝に輝いた電撃使い、 "右大臣" 、 "遊馬雷奈" !!』
「はぁ〜い!!皆待たせたね!らいなだよーーー!!」
ショートカットで特撮ヒーローみたいなピンク色のタイツを着て、両手には銀色の軍手を着用した中学生の美少女が闘技場に現れた。
その奇抜な格好は見るもの全てを虜にするだろう。 実は彼女、戦士以外にもソロでアイドル活動もしているようだ。
「らいなちゅわーーーーん!!」
観客席には彼女を見るためだけにここに来た
コアなファンもいた。
そしてここにももう一人・・。
「らいなん・・。俺たちの天使だ・・。」
今の一言を言ったのは栗山マナトだった。
「なっ!?お前、そんな趣味もあったのかもー!?」
敷島が思わず突っ込んだ。
「あんな中学生なんかに・・」
サファイが呆れた声でいった。
「テメエら今なんか言ったか・・?」
マナトがギロリと二人を睨む。
「ひぇ〜〜!」
『それでは準々決勝・・・、はじめぇッ!』
ビーーーーーーーーーーーッ!
「悪いが、男子高校生桐生は相手が女子中学生だからって手加減はしねぇぜ。」
桐生はパキポキと指を鳴らす。
「うっわぁ。らいなこっわーーい。 自信過剰な奴ってさーあ?そういうこと平気で言うよねー?らいなよりも弱っちいくせに♪」
突然の遊馬の上から目線にカチンとくる桐生。
「お、お前なかなか言ってくれるじゃねえか。」
「じゃあいっくよーー♫」
素早く桐生の懐に潜り込み拳を強く握りしめる遊馬。
同時。 彼女の全身からバチバチッっと、静電気のようなものが生成される。次第に静電気は肥大化していき、それが彼女の両手の銀のグローブに集約していき、固まっていく。それはまるで雷のグローブのようだ。
「な・・にィッ!?」
桐生はあまりの速度に反応が遅れ体がぐらつく。
雷電を帯びた遊馬のパンチが桐生の頰に直撃する。 カミナリを帯びてるため普通のパンチよりも三倍くらい威力は高い。
「グハッ!!」
桐生は三メートルほど殴り飛ばされる。
必死に起き上がろうとする桐生に対し遊馬は容赦しない。
「ホラ、立ってよ♪」
さらに追い討ちをかけるように自分より少し身長が上の桐生の胸ぐらをグイッと掴みその体勢のまま一万ボルトの電気を放電する。
バリバリバリバリ
「ぐがががががッ!!」
遊馬は丸焦げになった桐生の胸ぐらをパッと離した。 桐生はそのままうつ伏せに倒れこむ。視界が一瞬真っ白になった。
「そん・・な・・・。」
あっという間だった。 意識が遠のきそうになったがなんとか根性で耐え凌ぎ、目をゆっくりと開く。
目の前にはまるで迷子の子猫を見つめるような、心配そうな目でこちらを見つめながら身を屈めている遊馬がいた。 その表情は もはや"悪魔"だ。 遊馬は動けない桐生の頭をサワサワと優しく撫でる。その様子はまるで弟を慰める姉だ。 そして彼女は甘ったるい声で挑発する。
「おーい、聞こえてる? もうおしまいなの?そろそろ起きてくんないと間違って殺しちゃうけど。 」
「ググ・・」
桐生は鋭い目つきで遊馬の顔を睨みつける。
「そんな怖い顔して見つめないでよぅ。興奮して勃つものが勃っちゃうよ♬」
「・・・。」
「ほらほら、らいなが三つ数えるうちに立ち上がらないとさっきの『雷電の拳』をぶちかましちゃうよ?そしたらキミに安全の保証は約束できないけど・・いい? んじゃいくよ!
さーーーーーん、にーーーーーい、いーーーーーーーーーー・・」
ザッ!
桐生は残された力を振り絞って立ち上がる。
全身からひしひしと悲鳴が上がる。 この時もその目は遊馬を睨みつけたままだ。
「ほぉ〜、いいじゃん。そうこなくっちゃね! みんなぁーーー!勇気ある桐生くんに拍手ぅーーー!!パチパチパチー。なんてね。」
遊馬は眉を八の字にして、ゴミを見るような目で桐生を見つめる。
「でもまあ、凄い方だと思うよ。らいなの『雷電の拳』をまともに食らったら普通の人間じゃあ三日は起き上がれないはずなんだけどねー♪ だからキミが今起き上がってくれてちょっと安心したよっ。下手したら去年みたいに対戦相手をぶち殺す羽目になってたから・・」
「テ・・・テメェッッ・・!!」
目の前の少女は人の命のことなど微塵も大切に思っていない。 桐生の怒りは沸騰寸前だった。
「ねえ、殺す前にしっつもーん。どうしてキミはこの大会に出ようと思ったの?」
「テメェみてえなクズ美少女に話す義理は何処にもねぇよ・・!」
「ふーん。面白いねキミ。」
「じゃあ逆に聞くが、なんでテメェはこんなところで戦ってんだよ?」
「うーん・・・。そうだねぇ、」
遊馬雷奈は可愛らしい仕草で人差し指を自分の顎に当てながら言った。
「だってぇ・・、人を殺した時の快感以上に気持ちいい物ってないじゃない?」
「もういい・・」
「ん?何かな?」
「もういいよ。喋んなくていいよ。今すぐ黙らせてやるから。」
To be continued..
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