求めていた俺

第四部 「摩天楼の決戦編」

二十七話


『さあーて、桐生選手! "塔の番人"も残すところ一人になりましたよ!!もしこの七回戦で勝利することができれば、準々決勝進出となります!』


ワァアアアアアア!


「"塔の番人"もこれでラストかー。これまで厄介な相手ばっかりだったから今回も気ィ引き締めていかんとな。」

桐生はパチンッと両手で頰を叩いて喝を入れる。


『七回戦で桐生選手と戦うのは、重量級の槍使いで、戦乱の世を生き抜いてきたっぽい武士中の武士!!三十五歳独身!!!(ただのおじちゃまコスプレイヤーだってことはひ・み・つ!) "タイラのマチャカド" !』


「フンッ!!」

ガシャコ。

全身を武士の鎧で覆い、頭には兜をつけている長いあごひげが自慢のおっさんが闘技場に登場した。 防御に特化しすぎて思い鎧を着込んでいるせいでその動きは鈍そうだ。後ガシャガシャ五月蝿い。一見ただのバカに見えるが、鎧のせいで体にはパンチは効かなそうだ。

(狙うとしたら唯一むき出しになってる顔だろうな。)

まあそこまでは許容範囲として、問題は相手が右手に持っている箒ぐらいの長さの槍だ。先端の刃は三つに枝分かれしている。桐生はただの私服だ。あんな物を直に受けたらどうなるかは自明だ。

「やっばいな。死にたくないなぁ。」


「拙者は戦乱の世を生き抜いてきたもののふじゃ。拙者には敵の顔を見れば分かるでござる。貴様、余裕であるな?」

三十五歳独身のおじさん武士がようやく口を開いた。

「余裕ってこたぁねーけどな。これまでだって何とかうまく切り抜けてきたんだ。だからこの試合も通常運転でいかせてもらうぜ。
あとさ、戦乱の世を生き抜いてきたって言ってるけどお前バリバリの現代人じゃねーか。戦乱の世って、どうせ二次元のネトゲの中の話とかだろ? ・・いや、すまん。流石に馬鹿にしすぎたわ。」

しかし桐生の予想はドンピシャだった。

「あ、バレた?」

「マジだったのかよ!!」

はたから見れば年頃のおっさんがコスプレしているようにしか見えない。だが、実際にはあの鎧と兜と槍はマジモンである。


『それでは両者とも準備はいいですか?試合を始めますよ!! 』


「フンヌッ!!」

ブンブンブンッ

タイラのマチャカドは頭上で槍を振り回して自らの強さを誇示する。

『七回戦、はじめ!!』

ビーーーーーーーッ


やっと試合が始まった。

マチャカドは槍を肩に担いだまま全くその場を動く様子を見せない。明らかに桐生が突っ込んでくるのを待っている。

「・・なあ、お前のその槍は何のためにあんだよ?とっととそれで俺の身体を突き刺せば終わりだろ?」

「ん?ああこれか?」

マチャカドは一度槍を鑑定士のようにじっくりと見つめてニヤリと笑った。すると、

「実を言うとだな。拙者のこの槍は武器ではないのだ。 」

「へ? それじゃあ、」

「気になるだろう?教えてやる。この槍はなあ・・、こーやって使うのだ!!」

するとマチャカドは桐生に背中を見せては、
驚いたことに槍の刃の先端で背中をぽりぽりと掻き始めたのだ。

桐生は思わず目を丸くしてしまった。

「だってほら、鎧の上からだと背中掻きにくいじゃん?こう言う時便利なんだよな。」

彼が槍を持っていた理由は単純明快で同時に馬鹿馬鹿しかった。


「・・あ、そうですか・・・。」

桐生はそれ以外に返す言葉が見つからなかった。


「それじゃあ背中も掻いたことだし、戦いを始めますか!!でござる。」

てゆーか、戦闘中に背中のかゆみを気にするって、それはそれでナメてるような気もするが、やはりどうでもいい。
むしろあれが武器じゃなくて一安心した。

マチャカドは用済みの槍の刃の部分を地面にザクッと音を立てて突き立てた。 そして丸腰になりそのまま格ゲーの如く戦闘の構えを取る。

やっぱりこいつはただのゲーマーだったのか、と。 桐生は "この時は"思っていた。

「んじゃあ、先攻は貴様でござるよ。」

「え?先攻とか後攻とかあんの?」

「武士の決闘においてこれは古くからの習わしである。」

「あーハイハイ、そーかよ。じゃあお言葉に甘えて。」

桐生は足早にマチャカドの元へ突っ込んでいく。
このまま顔面を殴れば終わり・・・・・・
・・にはならなかった。

ゴンッ!!

何故かマチャカドを囲むような透明なバリアのようなものに拳が当たった。 拳は敵まで届かなかった。

「いってえー!いつの間にこんなバリアを!? 」

バリアは思いの外硬かったらしく、拳が見事に腫れた。 桐生はフーフーと拳に息を吹きかける。

「どうした?拙者のこの"対人用斥力バリア"がどうかしたのでござるか?」

「斥力・・バリア? 対人用の・・?」

「その通り。拙者のこのバリアは人間相手ならどんな奴も引きつけない!!破る方法はたった1つ!!人間であることを捨てることでござる!はーはっはっはっ!!」

「クッソ、卑怯だぞ・・。」

「あのなあ、戦いに卑怯もクソもないのでござる。勝てば終わりだし、負けたら文句は言えないのでござる!!」

マチャカドの言ってることは正論である。でもやっぱり気にくわない。そんな複雑な気持ちが桐生の中で入り混じっていた。

「・・だがな、貴様の攻撃が届かなくても、 拙者の攻撃は届くのであるッ!!」

ビシュビシュッ

そう言うと、タイラのマチャカドは左手に装着したボーガンを桐生に向けて放った。


「おいちょっと待て!」

桐生は慌てて回避行動を取るも、放たれた矢の中の一本が右太腿にヒットしてしまう。

「グァァァァァァ!!」

桐生の苦悶の悲鳴が闘技場に響き渡る。

「分かったでござるか?貴様に勝ち目は無いのでござる!!さっさと諦めて帰るがいいでござる!」


桐生は太腿に刺さった矢を掴み、引き抜く。あまり深くは刺さっていなかったため致命傷には至らなかった。

「いっててて・・。 お前のバリアってさ、どんな人間も寄せ付けないんだよな。」

「ん?ああそうだ。拙者のバリアはカンペキだからな。今更何をいってやがる。」

「そうだよな・・。」


『おっと桐生選手!!流石にマチャカドのバリアには打つ手なしか?』


「いや、そうじゃねえよ。」

「なに?」


桐生は戦いながら疑問に思っていた。

(なぜアイツはあそこから一歩も動かないんだ?) と。

そして気付いた。

動かないんじゃない。 "動けない"んだ。

奴の斥力バリアは対人用と言っていた。 そしてそのバリアは人間の素手で破壊できるものではない。 生身の人間が近づくことすらできない。 だがそれは外側からだけでなく、

「 内側の人間も然り・・か。」

「なぬぬぬぬ!?」

どうやら推理はドンピシャだったようだ。マチャカドは弱点を迫られて驚き、よろめく。


「お前の斥力バリアはどんな人間も寄せ付けないんだよな? "どんな人間も"」

「ああそうだ!拙者のバリアはカンペキだからな!何回も言わせるな。自分でも照れてしまうであろう。」



ではバリアはいつどうやって発動した?
まず考えらるのは、試合の開始前まではバリアは発動していなかった。これは確実だ。なぜそう言えるのか。
この大会にはルールがある。 試合を始める前には必ず対戦相手と握手を交わす。これは古くからの伝統らしい。さっきは普通に奴と握手ができた。 ということは、あの時点ではまだ斥力バリアは発動していない。

・・ならば"その後"だ。
バリアを発動するために奴は何かアクションを起こしていたはずだ。
何かあっただろうか。奴が起こした不自然な動作は?

(あった・・! )

・・それは持ち前の槍で背中を掻いていたことだ。 誰が見ても不自然だ。おそらくこれが能力のトリガーだろう。
本人は背中が痒くなるからと言っていた。
だが人間とは嘘をつく生き物だ。特に、タイラのマチャカドのような人間は。

"あのなあ、戦いに卑怯もクソもないのでござる。勝てば終わりだし、負けたら文句は言えないのでござる "

そんな事を平気で喋る人間が敵に対して全く嘘を付かない正直者だとはとても思えない。

そして疑問点はもう一つある。

一度バリアを発動したら外側から人間を寄せ付けないだけではなく、内側の、つまり能力を発動した本人すらバリアの外に出ることは出来ない。これはさっき気付いたばかりだが。

ではなぜ奴のボーガンは俺の所まで飛んできた?

その答えは常にマチャカド本人が言及していた。

「"どんな人間も寄せ付けない"・・か!」

そう。確かに奴のバリアは外側から近づく人間の侵入を許さない。 内側からも出ることが出来ない。
だがバリアの中にいる奴はボーガンを放つことができた。
つまり、 あのバリアは人間に対してしか効力を持たない。そう、『人間に対して』しか。


「・・なんだ。どうしてこんな簡単なことに気付かなかったんだろうな。」


「どうした?何か策でも思いついたか?」


「まあな!」


バリアの弱点が分かった桐生はポケットの中からけん玉型のデバイス、『鋼鉄の紅玉』を取り出した。

(まさか、またコイツに頼ることになるとはな。)


そしてマチャカドの顔面を目がけて鉄球を発射する。

「このけん玉は敵に当たるまで追尾を続ける。逃げても無駄だァ!!」

「なぬぬぬぬぬぬぅーーー!?」


まさか弱点が見破られるとは思はなかった。タイラのマチャカドは迫り来る鉄球に対処しようがなかった。 バリアは人間以外には効力が発揮できないからだ。

「こんな所で、武士たる私が負けるのかーーーーーーーッッッ 」


パッカーーーーン!!

鋼鉄のけん玉はそのままマチャカドの顔面にクリティカルヒットした。 ホームランを打った時のような音がした。


「ぢ・・ぐ・・しょう・・。」


顔面を潰されたマチャカドはそのまま地面に倒れ伏す。


ビーーーーーーーッ!!

『試合終了!!桐生選手が勝利しました!
これで準々決勝進出決定です!!!』


「ヨッシャ!!ナイスけん玉!」

桐生はガッツポーズを取る。一時はどうなるかと思ったが桐生の迅速な判断により窮地は免れた。



優勝まであと・・・三戦!!


To be continued..

求めていた俺

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  • 小説
  • 短編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2018-01-12

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