求めていた俺
第四部 「摩天楼の決戦編」
二十六話
ビーーーーーーーッ!!
『それでは六回戦、はじめッ!!』
"ベスト一"桐生と、『塔の番人』二人目、『あばれない君』との戦いがはじまった。
開幕速攻仕掛けて来たのはあばれない君だった。 その見た目は丸坊主の和尚さんそのものである。(ちなみに本職は八百屋の店長)
あばれない君にはある特殊能力が宿っていた。
「アバレーーーーヌ。」
あばれない君が桐生に向かって呪文のようなものを唱えた。
「なんだ?そのヘンテコな呪文は・・て、あれ? おかしいな・・・。」
桐生は自分の体に起きている異変に気付く。
『いきなり出ました!!あばれないくん君の能力、"アバレーヌ"!!この呪術をかけられた者は・・、』
「体が・・、全く動かない・・!?」
「驚きましたか?わたくしの能力、"アバレーヌ"の呪いにかけられた者は、ワタシがそれを解除するまで"対象の一切の動きを封じることができる"んです。 しかも、敵がどこに潜んでいようが関係ありません。呪いをかける任意の対象の姿をイメージし、"アバレーヌ"と一声唱えるだけで能力は発動します。 」
「そりゃつまり・・!」
「そう。わたくしの"アバレーヌ"は貴方の能力の上位互換、といったところでしょうかねぇ。 ただ、能力の発動条件として相手に触れ無ければいけない貴方のものと、触れる必要がないワタクシのものでは、その性能差は一目瞭然ですが。ホホホホホホホホ!」
あばれない君はどっかの一流貴族みたいに高笑いする。
桐生にとっては最も相性の悪い相手が現れた。これまで以上に厄介な戦いになりそうだ。
「クッソ、よりによってこんな奴と当たっちまうなんて・・。」
「ホホホ。"塔の番人"を甘くみないでください。今回はあの『魔獣先輩』みたいに一筋縄ではいきませんよ。」
「まあ、あいつはただ汚くてくさいだけの奴だったし・・。ていうか、皇楼祭運営側の人選ミスだろアレ。」
「そればかりは否めませんね。わたくしだってあいつと同類呼ばわりされるのはお断りですね。死んだ方がマシですよ。」
「お前今の事本人に言ってみ?多分泣くぞ。」
「まあ、雑談はこの辺までにして・・。さあどうする?貴方はこのまま死ぬまで硬直していますか?」
桐生は喋っている間もずっと動きを封じられていた。
(まずいな・・。このまま立っていれば足に負担が・・)
このまま終わってしまうのか・・?そう思っていた桐生に対してあばれない君は・・、
「うーん、ワタクシとしてもこのまま終わるってのは面白くないですねー。 」
あばれない君が十秒程度の間考える。そして何かを思いついた。
「・・そうだ、貴方に最後のチャンスをあげましょう。今から一旦貴方にかけているワタクシの能力を解除します。 そして二秒だけ時間をあげましょう。その間なら何をしようが構いません。二秒経ったら再び術をかけます。」
あばれない君は一瞬で勝敗が決してしまう戦いは好まないようだ。
「たったの二秒だと!?」
「そうです。たったの二秒です。その間で悪あがきでもしてみて下さい。まあ、何をしたところでワタクシと貴方の距離は十m離れている。無駄に決まってますが。」
実は桐生にとって二秒もあれば十分だった。
この時ある作戦を思いついていた。
人間追い詰められるほど知恵が働くものなのか。
「・・二秒か。本当にいいのか?」
「ええ。貴方だって見せ場もなく終わってしまっては不本意だろう?ま、二秒与えたところで何もできまい。」
(一か八かだ・・あいつは油断している。)
桐生はすでに頭の中で作戦を思い描いていた。
そんなことをあばれない君は気付く由もない。ただ自らの勝利を確信していただけだった。
「"アバレーヌ解除"。」
その瞬間。桐生は、めんこを叩くような仕草であばれない君に向かって素早く"何か小さな物を投げつけた"。 この間約O.五秒。
そしてあばれない君は約束通り二秒経った後にアバレーヌの呪いを再びかける。桐生の体は再び完全硬直する。
あばれない君は困惑した表情を見せる。
「・・ん?今貴方は私に何を投げたんですか?何か投げつけましたよね?"目に見えないくらい小さな何か"を。」
「ああ、投げたさ。『豆粒より小さいサイズの超小型チップ型時限爆弾』をな。たった二秒間の間に起こせる行動なんて、"物を投げる"ぐらいだろ。いやむしろ二秒ありゃ十分か?」
「なっ!?」
あばれない君は一瞬動揺したように見えた。
しかし何かの間違いだと自分に言い聞かせる。
「・・いやいや、そんなのわたくしを脅すために考えたハッタリに決まっておる!!」
あばれない君の額から汗が垂れる。
「ほぉ〜〜。お前はそう思うんだ。別に良いんだぜ信じなくても。嘘かもしんねーし。でも俺は責任持たんぞ。」
「そうだ!嘘に決まって・・る?」
あばれない君はある物を目撃してしまい、目を丸くする。 ある物とは、桐生のズボンのポケットの中にある"膨らみ"だった。
その様子に気付いた桐生は、しめた!と思いさらに敵を煽る。
「ん?ああ、これか?良いとこに気がついたな。これはさっき投げた超小型爆弾の起爆解除ボタンだ。 さっきお前に取り付けたのは時限爆弾だ。一度相手に取り付けるとカウントが始まる仕組みになっていて、一分たったらドッカーンってことになってる。でも安心しろ。その爆弾、周囲は巻き込まねーから。ただ取り付けた相手の体が粉々になっちまうから、手が滑って誰かに付けたりでもしたら大変だろ?だからもしもの時のために解除ボタンを用意しておいたってわけ。」
「・・・ば、ばば、バカな。嘘に決まっておろう・・。」
今桐生が長々と話したことを要約すると、
『1分以内に呪いを解除して俺に起爆解除ボタンを押させないとお前即死だよ?』 ということを意味していた。
「事前にお前の能力は調べ済みだったんだよ。対策を講じるのは当たり前だろ?」
「・・し、仕方ない。悔しいがここは一度呪いを解除するしか・・」
桐生の作戦はどうやら成功したようだ。先程桐生が時限爆弾のことをバラした時、あばれない君の額から間違いなく汗が出てた。動揺してる証拠だ。 その時桐生は確信した。相手は反則級の力を持つが故にメンタルの強さが並の人間以下なのだ、と。 強い力を持つ人間は普段から周囲を警戒する必要がないため、少しでもイレギュラーが発生すれば簡単にパニックに陥る。 桐生はその法則に気付いていた。
「アバレーヌ解除・・。」
あばれない君は自分の命の方が心配なので、仕方なく呪いを解除した。
桐生の体が自由に動くようになった。
「・・さあ、約束通り呪いを解除したぞ。早く爆弾を止めてくれ。」
「ああわかってる。俺もこんな姑息な手は出来れば使いたくなかったんだ」
そう言って桐生は早速ポケットに手を突っ込み中の物を取り出した。
だがあばれない君の目に映った『ポケットの中の物』とは、さっきまでイメージしていたものとは全く違うものだった。
「・・なんだそれは、『けん玉』!?」
「引っかかったなバーカ!!」
そう。ポケットの中にあったのは起爆解除ボタンなんかじゃなかった。桐生は目にも留まらぬ速さで『鋼鉄の紅玉』の玉をあばれない君めがけて放出する。 鋼鉄の赤い玉は空気を突っ切っていき、そのままあばれない君の股間にある『玉』に直撃する。
「はうッッッ!!??」
あばれない君は両手で股間を抑えて必死にもがく。
「あばれない君のくせにあばれてんじゃねーか」
桐生はすかさず敵の顔面にパンチをかます。
「オボォッッ!??」
ぶっとばされたあばれない君は一度地面をバウンドし、やがて地面に倒れ気絶する。
両手で股間を押さえたまま。
「ま、姑息な手を使ってるって意味じゃお互い様か。因みに言うと超小型時限爆弾を投げつけたってのもウソ。ただ投げるフリをしていただけだ。」
桐生は安堵のため息をつく。
ビーーーーーーーッ
『試合終了!!六回戦の勝者はまたもや桐生選手!!』
あばれない君の敗因はただひとつだった。
『桐生に二秒間の猶予を与えてしまったこと』。 コレぐらい大丈夫だろうという油断が裏目に出たのだ。 (今回の場合は逆にこの油断がなかったら桐生は負けてたかもしれないが)
"一秒でも敵に隙を与える事は許されない" 。 勝負の世界とはそれほど厳しいものなのだ。
桐生はそのことを胸によく刻んでおくことにした。これからぶち当たるであろう未知なる敵と戦うに当たって。
優勝まであと・・四戦!!
To be continued..
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