求めていた俺
第四部 「摩天楼の決戦編」
二十三話
『さーて皆さん!やってきました四回戦!この戦いで勝った方の選手が〈トーナメントの部〉を突破することができますので頑張ってください!!』
四階層の観客席。真ん中のマナトを挟むように右に敷島、左にサファイ、後ろの席に聖川東学園の生徒たちの応援団がいる。
「〈トーナメントの部〉?その後にもまだまだなんかの部があるのかもー?」
敷島は栗山マナトに問う。
「・・ああ。どうやらこの大会、一〜四回戦の前半戦まではトーナメント制の試合で、それを見事勝ち上がったものだけが『後半戦』に進める仕組みになっているらしい。」
マナトがノートパソコンをカタカタいじって、分析する。分析するってゆーかただインターネットに書いてあることを丸読みしてるだけだが。
「後半戦?一体どんな仕組みなのかもー?」
「皇楼祭ではまず十六人の選手がエントリーされる。まずはその十六人の中から一回戦でベスト八を決める。次に二回戦でベスト四を、三回戦でベスト二を決めて、四回戦を突破したものを『ベスト一』としている。ここまでがトーナメントの部だ。ベスト一は、五回戦〜七回戦の三人の『塔の番人』及び、準々決勝の『右大臣』、準決勝の『左大臣』と戦わされることになる。これらは、大会側が予め用意した戦士だ。こいつらを全員倒して初めて決勝戦までたどり着くことができる。因みに決勝戦で戦う相手は『先代のチャンピオン』だ。 これを倒してやっと優勝ってところだな。」
「長々と説明ありがともー。それにしても桐生が心配だもー。これから更に強敵が増えていくと思うと・・。」
「・・ 僕たちはただあいつを信じるのみだ。」
サファイが言う。
『さあ、四回戦の選手入場です!前半戦を制するのは果たしてどちらの選手なのでしょうか!? まずは東ゲート、今年デビューの特殊能力者、桐生選手!』
桐生がゲートから登場する。
『そして対する西ゲートは、これまで圧倒的な力で苛烈な戦いを見せてくれた、これまた今年デビューの期待の新星!
黒崎龍弥選手!』
「!?」
西ゲートから登場した人物を見たとき、桐生はその姿に驚いた。 『黒崎龍弥』。 事前にトーナメント表で名前は確認していた。ソイツは過去に路地裏で戦ったあの男に違いなかった。だがあの時と比べて目の前の男が放つオーラと殺気は以前とは比べ物にならないほどだった。 まるでその形相は猛獣のようだった。
もはや人間の域を超越している。
「ガルルルル・・。コロス・・。キリュウコロスキリュウコロスキリュウコロスキリュウコロスキリュウコロス・・」
桐生は変わり果てた黒崎をみてゾッとした。
路地裏の時の戦いで桐生に敗北した時、黒崎は一ノ瀬の呪いで死んだはずだった。だが実際には死ぬまでには至らず、そのまま能力の過剰な使用によって暴走状態に陥ったのだ。
理性も、思考力も、言語能力も、その大半を失い、今残っているのは殺意のみ。
豹変した黒崎は今でもこちらを充血させた鋭い目でこちらを睨みつけている。
『黒崎選手!!すごい殺気です!!戦う気満々なのはいいですが、暴れすぎには注意してくださいね!!観客たちに被害が及ばないように気をつけてくださいね!
それでは四回戦を始めます!』
『試合開始ッ!!』
ビーーーーーーッ!!
桐生vs黒崎 。
規格外の再戦の火蓋が切られた!!
先に襲いかかってきたのは黒崎だった。
「グォォォォォォッ!!」
黒崎はおたけびをあげて、よだれを撒き散らしながら闘技場を駆ける。
「来るッ!」
桐生は一瞬黒崎の威圧感に圧倒されそうになったが・・
「俺は負けるわけにはいかねーーんだ!!」
桐生は拳を強く握りしめて、無防備に突進して来た黒崎の顔面にぶち当てた。
黒崎は能力の暴走により、まともな判断力が無かったため、回避行動を取らなかった。
いや、取れなかった。 だが、黒崎は倒れなかった。 おそらく感覚神経が麻痺してしまっているんだろう。
「並みの攻撃はおそらく効果がねぇか・・」
黒崎は一瞬グラついたが、即座に体勢を立て直し、パワーアップした『伸縮の能力』で、反撃する。 黒崎の伸びた拳が桐生の腹に突き刺さり、 桐生はそのまま二十m以上吹っ飛ばされる。
桐生の体は三回大きくバウンドした。
「ぐががががががが!!キリュウコロスキリュウコロスキリュウコロスキリュウコロスキリュウコロスキリュウコロスキリュウコロスキリュウコロスッ!!!」
黒崎が二十m遠くから殺気を放つ。ここまでそれが伝わって来る。
桐生は体を起こし、黒崎に向かって突っ走る。
対して、黒崎は伸びた足を使った踵落としで迎撃する。 桐生は左に飛んで回避する。
ボコッ!!と、踵落としがそのまま地面を強く叩きつける。その衝撃で地面に亀裂が入った。
(当たったらひとたまりも無かったぜ・・。)
『黒崎選手!すごいパワーだ!!桐生選手、間一髪でしたねー!』
さっきあいつを殴った時、能力は効かなかった。 強い。今の黒崎は相当強い。下手したら、あの一ノ瀬ですら手に負えないかもしれない。
桐生が黒崎に反撃を仕掛けようとしたその時だった。
パァンッ!!
どこからか発砲音がした。
「助けてーーー!」
観客席の方からだ。
桐生が発砲音と悲鳴があった場所を目で辿ると、西ゲート側の観客席で小さな子供を人質に取り、その頭に拳銃を突きつけている覆面の男がいた。 さっきのはどうやら空砲だったらしい。
「全員動くな!!」
『何者なんですかあなたは!!試合中ですよ! 』
実況者が言う。会場はすでにパニック状態だ。
「へへへっ。観客全員の命を助けたかったら賞金の一千万を今すぐ出せ!!」
「・・テロリストか!厄介な奴が観客に紛れ込んでいたな。」
桐生が言った。
「大胆なことをするな・・。」
マナトが言った。
実況者は慌てて観客たちに呼びかける。
『みなさん、伏せてください!!今は指示に従いましょう!試合は一時中断です。』
観客達は全員その場で伏せる。
「いいか?この大会の賞金が一千万あることは知ってんだ!大人しく出さねーと、このガキの頭を打ち抜くぞ!!」
「いやー!!やめてーーっ!!その子に手を出さないで!」
人質の子供の母親の声だ。母親は必死にテロリストのうでにしがみつく。
「うるせーババァだな!!」
テロリストが銃口を人質の母親に向ける。
「お母さん!!お母さん!お願いやめて!!お母さんだけは、お母さんだけは・・ッ!」
人質の子供は泣きながらテロリストに懇願する。だがその思いは男には届かない。
「へっ。だったらテメーが代わりに逝っちまえ!!」
テロリストが再び子供に銃口を向け引き金を引こうとしたその時だった。
バゴッッ!!
怖くて目を瞑っていた子供がゆっくりと目を開ける。
「え?」
そこに見えた光景は、どこからか飛んできた凄まじい速さの"長い腕のパンチ"がテロリストの頰をぶっとばした瞬間だった。テロリストの体はそのままボールのように吹き飛ばされ、芭部流の塔の壁を突き破り、上空に放り出された。ここは塔の四階層である。 高さ的には高層ビル二十階ぐらい。 テロリストの生死は問うまでもなかろう。
桐生は信じられない光景を見た。ぶっ飛ばされたテロリスト・・ではなく、そのテロリストをぶん殴り、『人質の親子を助けた方』だ。
『く、黒崎選手!? ななななんと、黒崎選手が伸びる腕でテロリストをやっつけました!!』
パチパチパチパチパチパチと、会場は拍手喝采の嵐に包まれる。
危機を救った救世主はその口から一言が漏れる。
「ガルルルル・・・、ヨカッタ・・・」
その目は誰よりも優しく、誰よりも強かった。さっきまで殺意に溢れていた戦士とはまるで思えないくらいに。
「黒崎・・お前・・、」
桐生は黒崎の意外な行動が今でも信じられなかった。でも目の前で起きてることは現実だ。いくら頰をつねっても痛いだけだった。
「根はいい奴だったんだな・・・」
桐生は人間らしい感情が黒崎にまだ残っているのだと確信した。アイツはただでさえ能力による暴走に蝕まれているのに。
そう、黒崎は自分自身と戦っているのだ。
さっきテロリストを殴った時も能力を使った。今の黒崎にとって能力を一度でも使うことは寿命を削ることに等しいのに。それでも能力を使って人質を、観客全員の命を助けた。『黒崎龍弥』自らの意思で!
桐生は思い知った。目の前にいる相手がどれだけ『強い』人間か。桐生は嬉しかった。そんな『強い』相手と渡り合えるのが、桐生にとっては光栄だった。
そして黒崎は今でも自分の心身の中に巣食う能力(やまい)と闘っている。
「ガルルルル・・キリュウ・・ショウブハ・・・マダ・・・・、 コレカラ・・ダ!」
桐生は思った。根っから悪い人間などいない、と。だからこそ、そんな黒崎を助けたいと思った。能力(やまい)の呪縛から解き放ってやりたかった。そんな思いで一杯だった。
・・でもそれより遥かに、桐生の勝負心が勝っていた。
「面白え、そうこなくっちゃな!こいよ黒崎(ライバル)!! 決着をつけようぜ!! 」
桐生は構えを取る。
それに対し本気で飛びかかる黒崎。
二人の戦士は再び拳を交える。
To be continued..
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