求めていた俺
第四部 「摩天楼の決戦編」
十八話
ワァアアアアアア !!(迫真)
キャーーーーーー !! (迫真)
ヒューヒューーーーーッ!! (大迫真)
遂に待ちに待った皇楼祭が開催した。
間も無く芭部流の塔の一階層にて、開会式及び第一回戦が行われる。 円形の闘技場を囲むように配置された客席には戦士たちの熱い戦いを待ちに待った観客たちで埋まっていた。 客席の収容可能人数は十万人だが、もうすでに満席のため、 立ちながら観戦する羽目になった者も何人かいた。
「いくぞ。」
桐生が戦う第一回戦第一試合開始までまだ三十分ある。開会式の間桐生は控え室で待機しなければならないため早めに塔の中に入る。桐生は気を引き締め塔の入り口の門をくぐろうとしたそのとき、 後ろから声がかかってきた。聞き覚えがある声だ。
「やあ、まさか君がこの祭典に参加するとはね。」
声の主の方を振り返ると、そこには緑のコートに革靴のかつての宿敵がいた。
「い、一ノ瀬佑太郎!!てめえ生きてやがったのか!?あの時消えたはずじゃ・・。」
「忘れたのかーい?僕の能力はワープだ。あの時は消えたんじゃなくて一旦逃げただけだよ。
それよりこの一ノ瀬様が友を応援しに来てやったんだ。少しは喜んだらどーなんだい?」
「ああ、わざわざありがとな。 ん?お前は試合には出ない感じか?」
「ああ。僕はこの後バイトで忙しいからね。」
桐生の手によって能力者拡散計画が頓挫して以来、一ノ瀬は職を失っていたそうだ。そして脱ニートのため立ち上がり、紆余曲折を経て現在はファミマに雇われているそうだ。
「お、おおそうか。お前も大変なんだな頑張れよ」
「別に君に応援される筋合いはないけどね!!ハーハハハハハッ!!」
一ノ瀬はそのままスゥーと消えてしまった。
どうやらバイトに向かったらしい。
「便利な能力だよな、ほんと。・・てゆーか何しに来たんだアイツ!?」
そして改めて深呼吸をして塔の門をくぐって観客席の後ろ側の通路を通り、控え室に向かう。 控え室は男子トイレ室の向かいの部屋にあった。
控え室のドアの真横には「桐生選手様」と書かれた名札が立て掛けてある。 控え室の中は畳敷きの一Kの狭い部屋だった。隅っこには二十インチの小さなテレビが一個置いてあり、その隣にはゴミ箱、そして部屋の真ん中には楕円形のテーブルが置いてあった。テーブルの上には煎餅とお湯が入ったポットと茶葉とコップが並べてあった。
外から音楽が漏れて聞こえて来た。選手宣誓前の交響楽団が演奏しながら闘技場を行進中のようだ。どうやら開会式が始まったらしい。
「はあ、待ってる間は暇で暇でしょうがないぜ。」
第一回戦開始まで後二十分。
一方で一階層の闘技場では開会式が行われていた。
「開会宣言!!皇楼祭実行委員長、「尾中水太」さん、台へ!」
一人の老人が学校の朝礼などで使われる長方形の台に登り、適当にマイクの調整をすると、口を開き始めた。
「あー、あー。マイクテスマイクテス。
ウオッホン!!えーーーーー、皆さんお待たせしました。只今からーーーーーー、えーーーーーーー、皇楼祭をーーーーーー、始めようとーーーーーーー思いまーーす。まずはーーーーーえーーーーー。ゴッホン!!開会宣言をーーーーーー。なんだっけ? あーもうめんどくさいからいいや!適当にやっとけ!!」
実行委員長の老人は投げやり気味にマイクを放り捨ててそのまま帰宅した。 どうやら昨日奥さんにフラれたばっかりでイライラしていたようだ。
こいつのせいで重くなった会場の空気を実行委員会の一人の女性が取り繕う。
「あ、失礼しました。今のクソジジイの事は忘れてくださいねー。あはははは、じゃあ選手宣誓です! 選手代表の方、前へ。
選手代表の二人の男女が台の前に立って、大口を開けた。 中年の男の方の名前は『タイラノマチャカド』。武士のような甲冑を着て、先端が三つに枝分かれした巨大な槍を担いでいる。顎からは胸のあたりまで長い髭を生やしている。もう一人の中学生の女の方の名前は『遊馬雷奈』。ショートカットで特撮ヒーローみたいなピンク色のタイツを着て、両手には銀色の軍手と、誰から見ても目立つ格好をしている。 しかし実は彼女は昨年の皇楼祭の準決勝まで勝ち上がった超人である。
「僕達ー、私たちハー。この大会で決して悔いのない戦いをすることをここに誓いマース。」
二人の選手宣誓が見事にハモった。
そして開会式は終わり、闘技場の所々に設置してあるスピーカーから放送が流れる。
『間も無く、第一回戦第一試合の開始五分前です。選手二人は試合に備えてください。お手洗いに行きたいお客様は今のうちにいっとけばいいじゃん。』
この放送は桐生の控え室のスピーカーからも届いた。
「よっしゃ、いよいよだ。気合い入れていくぜ!! えーと、最初の相手は・・」
桐生は手元のトーナメント表を見る。第一回戦第一試合で戦う相手は『秋山清史』というう奴らしい。果たして、どんな戦いを見せるのだろうか。
「面白え!」
実況・解説席は、闘技場全体を見渡せるように、塔の天井にくっついてる箱状の小さな部屋の中にあった。上の全ての階層も同じ構造をしている。そこにそれぞれ実況者の女と解説者の若い男性が腰掛けていた。
一方、桐生が入場する東ゲート側の観客席には四十人くらいの制服を着た学生の集団が座っていた。 聖川東学園の桐生のクラスメート達だ。わざわざ学校を休んでこの闘技場に駆けつけたらしい。その中には敷島、マナト、そして一応生徒扱いのサファイもいた。」
担任はというと、風邪をひいて自宅で安静である。
敷島はこれから始まる試合の応援に備えて闘技場の売店で販売していたポップコーンを大量に確保していた。てゆうかもう食い始めていた。
「敷島!まだはえーよ!」
サファイがツッコミを入れる。
ウウ〜〜〜〜〜〜〜ン!!
そして闘技場にファンファーレが流れた。試合がもうすぐ始まる合図である。
『それではみなさん大変お待たせしました!!これより第一回戦第一試合の選手の入場です!! まずは西ゲート、『秋山清史』選手です!』
西ゲートから秋山が現れる。
ワァアアアアアア(迫真)
『そして対する東ゲートは、今年デビューの桐生選手です!』
そして東ゲートから桐生が現れる。
ワァアアアアアア(迫真)
桐生は緊張していた。今こんなにも多くの人々に試合を期待されている。 大勢の人間に見てもらうってこんなにも緊張するものなのかと思った。
闘技場の中央で桐生と秋山が向かい合うように立つ。そして一度、お互い礼をする。
「宜しく、秋山君。」
「ああ。悔いのない戦いにしよう!」
二人はガシィッと握手を交わしたあと、お互い距離を取り、構える。 二人の形相はもうすでにさっきまでとは別人のように豹変していた。
『それでは第一回戦第一試合、 開始!!』
ビーーーーーーーーーーーッ!!
ついに初戦のゴングが鳴り響く。
To be continued..
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