求めていた俺
第二部 「四色の聖者編」
九話
「おーい、白石どこだー、おーい!! 俺を一人だけにしないでくれよー。迷子になっちゃったよー。こわいよー」
桐生は少々涙目である。いくら叫んでも白石茜が現れない。
白石とはぐれたのはわずか三分前。記憶にあるのは公園にあった何か怪しい井戸に二人で突っ込んだこと。そして出口の穴を抜けた途端、ケツから水の中にドボンと着水したこと。よーく全体像を見回して見たらそれは公園の地下とは到底思えない広大な海だったこと。空は普段見ているものと全く変わらないってこと。「この空は立体映像か?にしてはよくできてんなー」と思ったこと。でも空の間にぽっかりと、さっき自分らが落ちてきたと思われる井戸の黒い穴が開いていたので「やっぱ不自然だよなあ」と呟いたことまでである。
海の深さ的には腰のあたりまでで、余裕で地に足がつく程度。本物の海と違って周りには砂浜も海の家もピッチピチのギャルもサーフィンをしているイケメンも無い。こんなの海などと呼べるだろうか?ただ静寂に包まれた寂しい巨大な水たまりである。 その上、ついさっきまで一緒にいた筈のガールフレンドもどこかに消えてしまったので、寂しさ百倍!アンパンマン!! である。
「やっべえなあ。早いとこあいつを見つけなくっちゃ。こんな時に敵とか現れたりしたらたまんねえなオイ!!」
『出るんだよなあ、これが。』
いきなり目の前に全身の服装と髪色が青い中学生くらいの少年がザパッと、白い光を放ちながら海の中から現れた。その様子はまるで童話に出てくる『きこりの湖』のようだ。 そんな神々しい少年を桐生はぽっかりと口を開けてただ恍惚と見入ってたが、やがて正気を取り戻し、
「うわわわわ!誰だお前!いきなり出てくんな!」
「びっくりさせてごめん!許してねっ!ね?」
桐生と青髪の少年との距離は六メートルとやや離れているとはいえ足場は不安定な水の中である。もし相手が追いかけてきたりでもしたら、逃げ切る自信なんてない。 すると少年は口を開く。
「あのね。僕はね、『四刹団』の一人なんだね。」
「しせつだん?何かの新興宗教か?」
「違うね。世界の理を乱すものを残らずお掃除する聖者の集団だよ。で、僕は水を司る聖者、『サファイ』。宜しくね。」
「四刹団って言うからにはお前みたいのがあと三人いるってか」
「うん。そだね。 」
「なあ、質問いいか?この井戸を作って公園の地下にこんな世界を作ったのはお前ってことでいいんだよな?」
「ご名答」
「じゃあ俺と一緒に落ちてきたもう一人の女の子はどこに行ったんだ?」
サファイは何言っているんだこの人、と言うような表情を浮かべて、
「何言ってるの?落ちてきたのは君一人でしょ?」
「え?」
サファイは嘘をついているような顔にはどうしても見えなかった。でも桐生としてはそんな顔は見せないで欲しかった。これだけは嘘であると信じたいから。否定して欲しかったから。
(ここに落ちてきた時、確かに白石は一緒にいたような・・ いつの間にか消えたのか?)
そして何か深いことを考え込んでる桐生にサファイは構わず話を進める。
「その娘については知らないけど、どうせ今頃誰かに殺されてんでしょ。」
「テメ・・」
桐生が反論しようとしたその時!
「もしその仮定が事実なら今僕が君を殺せばその女の子にも会えるんじゃない?」
瞬間。サファイが両手を広げると背後に巨大な魔法陣が形成され、そこから無数の水鉄砲が桐生めがけて射出された。それらはまるで暴れ狂う蛇のようにも見えた。
「ちょっ、てめえいきなり!」
ジャジャッ!
慌ててしゃがんで回避する。無数の水鉄砲の蛇が頭上を通過し髪の毛が擦れる音がした。
「見た?今のが僕の技、『蛇水刃』。見た目とは相反して、その水圧は消防車のホースから放たれる水圧の七十倍程。当たったら君の肉はバラバラになっちゃうかもね。」
「くそっ。何でだよ。何でそんな力を行使してまでして俺の命を狙うんだよ!」
サファイは一秒も考える間も無く、即答する。
「何でって。簡単に言えば君が《この世界の敵》だから・・かな。」
To be continued..
求めていた俺