求めていた俺
第二部 「四色の聖者編」
七話
【「月の都」。それは月面に存在する巨大都市。はるか古代より人類が目指した文明の極致。そこにたった一人、都を支配する為に君臨した者がいた。 彼の本名は誰も知らない。ただ一つの渾名で呼ばれ、人類に崇められていた。 『冥王』 と。
今から五千年前、『冥王』は地球に一度降り立ち、砂漠の大地に『杖』を突き立てた。 その瞬間、大地から巨大な複数の竜巻をおこし、世界中に散らばらせた。 そして、 人類は未曾有の危機に見舞われた・・ 彼が再びこの世に君臨することになれば、もはや人類に逃げ場は無いだろう。】
「はぇー、おっかねえ。」
桐生は暇つぶしがてら図書館で「終約聖書」を読んでいた。 「旧約」、「新約」に続く聖書で、そこには人類の最後の日などが綴られていた。こんな物騒なものが図書館にあるなんて。流石は聖川東学園である。しかも以前に誰かが借りたのか、神聖な書物は所々が破け、埃まみれで、カビが生えたり、麦茶で濡れていたりと酷い有様だった。 まあそうはいってもこれは原書をただまるまる書き写した写本、つまりダミーというわけなのだが。 ちなみに原書は現在大英図書館に保管されているとか。
桐生は本来、勉強するために図書館にやってきたのだが、一緒についてきた白石茜が「面白い本見つけたよ!」とか言い出したせいで全くはかどらなかった。
「ねえねえ桐生。今日さ、桐生の家に泊まってもいい?」
「ファッ!? いやあ、さすがにまずいよ、年頃の男女が一つ屋根の下なんて」
「一泊だけだからさあ」
「うーん」
「じゃあ二泊でいい!!」
「じゃあってなんだよ。増えてんじゃねえか」
「小さい頃は何回も泊まりにきてたのに?」
「あんなの幼稚園の時だろ。で?なんで急に俺の家なんかに泊まろうなんて言い出したんだ?」
「あ、知りたい?実は・・、」
「な、兄貴に会いたい!?」
他の生徒たちの視線が一斉にこちらに集中する。
ここは図書館の中である。
「い、いやいやいや、駄目だ!!あいつにだけは例えお前でも会わせられない!」
「何で?とってもイケメンだったような気がするなあ」
「それはもう昔の話だろう?」
(どうしよう、アニキは一週間前、タンスの角に足をぶつけて痛みのあまり記憶喪失になっただなんてとても言えない。そんなこと白石が知ったらさぞショックを・・)
「ね。瓜生さんは今も元気?」
「え?ああ、まあな。」
『瓜生』。それが兄貴の名前だ。
「兄貴になんか用でもあんのか?」
「いや、昔さ、あたしが桐生ん家に遊びに行った時さ、色んなことを教えてもらったんだ。折り鶴の折り方とか、風船の膨らまし方とか、クッキーの作り方とか、棒アイスの舐め方とか。」
「おい、何だよ棒アイスの舐め方って!いやらしいにもほどがあるだろーーー!!」
桐生は周りの目も気にせずに大声を出してしまった。
その声に反応して近くで静かに本を読んでいたガタイが大きく筋肉マッチョな怖い先輩三人組が指をパキポキ鳴らしながらのっしのっしとこちらに近ずいてきた。
「ちょっとやばいよ!あいつら肉体美追求会の部員じゃないの!!」
焦りを隠せない白石は桐生の両肩をガシッと掴みユサユサと揺さぶる。
すると肉体美追求会の三人の部員の一人が口を開いた。
「おい。お前らさっきっから図書館でべっちゃくっちゃうるせえんだよ。ここは本を読むところだ。そんぐらい弁えてもらわなくちゃ困るんだよなあ!!」
「お前こそ大声出してんじゃねえか」
「ああん?俺たちに楯突こうってのか?」
桐生はガクブル状態の白石をかばうようにして椅子から立ち上がりマッチョ三人組の前に立つ。
「いいぜ。売られた喧嘩は買おうってのが俺の信条だ。三人がかりでかかってきな。」
「な、なにぃぃ!?なめやがって!喰らえ!マッスルサンドー!!」
筋肉マッチョの一人が桐生の背後に回り、ムキムキの腕を首に回し硬く締める。」
「へへっ、窒息死しやがれ!」
桐生は少しの間もがくが、
「ぐぐぐ・・・ッ!す、隙あり!!」」
桐生の首をガッチリホールディングしているため両手がふさがってしまている相手の顔をパシンと、軽く叩く。するとマッチョの動きが封じられる。
「な、ななな、何だこれは、動かねえ!」
「フっ、どうだみたか!これが俺の能力だ!」
「く、くそ。今のは油断したが今度こそ・・」
その時、奥の方に座っていた「四人目」がこちらに向かってきた。
「おい森山ー!!あとお前らも、なーにやってるんだ?」
「ゲッ、減畑会長!?」
その男はどうやら肉体美追求会顧問らしい。
「人様に迷惑かけるためにお前らを鍛えてるんじゃないぞ。こいつに謝れ!」
すると三人組は会長に言われしぶしぶ桐生たちに頭を下げる。
「す、すいやせんした・・」
「ああいいって。元々うるさくしてたの白石だし」
「んなっ!? ・・ うう」
白石は顔を赤らめる。
「よしじゃあお前ら今日は解散だ!」
そう言うと減畑会長とやらは部員たちを連れて図書館から退出する。
桐生は腕時計を見る
「おっと。もうそろそろ閉館の時間だ。俺たちも帰ろう」
「ねえ、一緒に帰ってもいい?」
「あーもーわかったよ」
To be continued ..
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