堂々巡り
泥沼に嵌る。どうしようもないくらいの深さで、もがくことが無意味に思えた。聴衆の嘲笑う声が聞こえた。誰も助けようともしない癖に、やけに見物しようと寄ってくる。笑う奴、写真を撮る奴、ひそひそ話をしながらこちらを指さす奴。全部邪魔だ。でも、沼は深くて、出て行こうにも足がとられていて抜け出せない。その様子が気に入ったのかまたあいつらは笑い始めた。なにがそんなにおかしい。人が困っているのが楽しいのか。ああ、僕はこんなにも糞ったれな世界に生きていたのか。毎日つまらないと嘆いて、見ず知らずの人間の不幸を事件と称して遊び話して、自分の世界に入ってこない害悪ならば関係ないと振り切れるような、そんな人間になってしまっていたのか。とうとうおかしくなりだした。頭から泥をかぶって、運よく頭が抜けたら全身泥だらけで、それがまたおかしかったようで、あいつらはまた笑い始めた。もうどうでもいい。こんなにも悲しいのに顔からは笑みがこぼれてきた。笑いが止まらない。声に出して笑い始めると、あいつらは変な物を見るような眼でこちらを見てきた。楽しいのではなかったのか?笑えよ。もっと笑ってくれ。
「ずいぶんバカな奴がいるな。泥かぶって上がってこようともしないぜ。バーカ!」
眼を凝らさずとも見える距離で、男が叫んでいた。なにか引っ掛かった。
「おい、返事もできないみたいだ!あいつはあたまがおかしいんじゃないか?あはは。」
やめろ、そんな風に笑うな。
「おい!悔しくないのか?上がってこいよ、ああ。耳も聞こえないのか!」
やめろ。
「ほらほら、逃げないぞ俺は!」
やめろ
「こっちだこっちだ!」
やめろ
「ここだここだ!」
やめろ!
「なんか言ってみろよ馬鹿野郎!」
「やめろ!」
目の前にそいつが立っていた。いつのまにかこいつに近づいて行っていて、沼からはすでに出てこれていた。男の胸倉をつかむ。殺してやるような眼で睨みつけた
「なんだ、耳聞こえてんじゃん。」
ニッと笑ってそいつは消えた。本当に、風が吹いたら消えていたみたいに、いつのまにか消えていた。
まわりのやつらは気まずそうにちらほらと消えて行った。
残った僕は一人でたったまま。おかしいくらいに込み上げてきた涙をただただ流すばかりで、怒ってるのかもわからなくなった。
ただ、あいつにありがとうって言いたかった。
堂々巡り
ぐるぐる回るのも一つの手ですけど、キッパリ断ち切って、なんて言う人の事はあまり信用したことないです。
断ち切れないからこうして引きずってるのに、それを無理にやって残るのってきっと後悔だけですから。
えらそうに意見すんなよって思います。だって自分の事は自分しかわからないじゃないですか。
嫌ってても、毎日付き合うことになる相手ですし、なによりそいつの事一番知ってるの自分ですし。
やりたいようにやってダメでも、こちとら大満足なんです。ええ。そういう物なんです。私はね。