そこで
夕食を食べて、何事も起こらず、離れ離れに。手を握りしめ続けるのに時間がかかって、何度も手を
振った、しばらく遠ざかっていくふりをしながら、もう一度ふりかえって、雑踏に消え入る背中を盗み見る。
精一杯寂しさを押し殺した背中。背中のひとと再び会うことはないとこれほど知っていても、たとえ再び
会えなくても、一度も会えなったかもしれない生涯を思い、これは決して哀切ではなく、その尊い交錯の
優しく帯びたあどけなさ、ふとすべてを希望できる人生が、そこに、いた。
きっと、必ず、そこで、いて。
そこで
何年も前に書いた。
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