ラブ&ヘイト 見習い天使と見習い堕天使の物語(1)

第一章 天使の部屋

 この俺は、見習い天使。まだ、名はない。見習いだからと言って他の天使と違う所はない。全く見た目は同じだ。白い布と頭には金色のわっか。それに、背中の羽。一目了然で、天使とわかる。だが、姿、形が、天使だからといって、人に、幸せを与えられるわけじゃない。それは、年に一度の、サンタクロースにまかしておけばいい。俺の仕事は、いたずらをすること。それも、椅子の下に画鋲を置いたり、立っている人に指で浣腸したり、ひざの裏に膝を押しあててがくんとさせるようなことではない。また、大人に芽生える中学生に、誰誰さんが誰誰さんを好きなんだと噂をまき散らし、面白くはやし立てることでもない。いやに、リアルなことを言っているって。そりゃそうだ。今、言ったことは、全部、これまで俺がしてきたことだからな。確かに、俺はたいしたことはしていない。
 今回は、こんな低俗(どうだ、自分で自分を卑下しているぞ。たいした者だ。天使だろうが、天使の見習いだろうが、人間だろうが、何事に対しても謙虚じゃなきゃいけない)ないたずらじゃない。今まで、天使のくせに遊び呆けてきた(天使だからこそ遊び呆けられたのだが)この俺に、大天使様が、過去を悔い改めて、まっとうな天使になるよう、仕事・指令を命じてきたわけだ。この、仕事の内容は、四組の人を助けてやること。そして、その四組が、心から、天使、この俺に、感謝するようになること、を求めてきたわけだ。このいきさつはこうだ。
 ある日のことだ。ある日はいつだって?天使ってのは、永遠の生き物(?)だから、人間のように、年月日や曜日、時間に対して関心はない。つまり、どうでもいいのだ。今が勝負であり、今が休息の時間である。だから、ある日はある日であって、この日でもあり、その日でもあり、どの日でもある。とりあえず「あいうえお」順で、ある日にしておこう。
 俺は、大天使様に呼ばれた。天使は、ふわふわ漂っているわけだから、家なんかいらないけれど、大天使様になると、ちゃんと自分の部屋を持つようになる。俺はその部屋に呼ばれた。部屋をノックする。
「入れ」
 いつ聞いても威厳のある声だ。羽根の重さに耐えかねて、やや丸まった背中も鉄筋コンクリートが流し込まれたように背筋が伸びる。もちろん、生コンをかきまわす音はしていない。俺は二つ返事で、「はい」と答える。俺の前には、大天使様が特製の椅子に深々と座っている。壁は真っ白、床も真っ白、ついで見上げると、天井も真っ白。真っ白な六面体の部屋に、真っ白な服を着た大天使様が座っている。その中に、少し心が灰色に染まっている見習い天使の俺がいる。大天使様が発する光があまりにもまぶし過ぎて姿がわからない。だが、俺も、いつかは、あの椅子に座れるんだろうか。あの大天使様のように神々しくなれるのだろうか。淡い期待は、空気のように透明だ。
「よく来たな、見習い」
 そう、冒頭でも説明したように、俺にはまだ名前がない。だから、他の天使からは、見習いと呼ばれている。俺以外にだって、見習いはたくさんいる。だから、他の天使が「おーい、見習い」と呼べば、一斉に「はい」と答えなければならない。それだけ、見習いには一人としての天使各がないわけだ。十把、百把、千把ひとかけらの一つでしかない。黙ったままの俺に対し、 大天使様はグラスを口にしている。何を飲んでいるのだろうか?
 話は変わるが、天使の喰い物って知っているかい?人間のように、牛や豚、鶏、そして、魚などの動物や、キャベツに、ニンジン、レタスに、カボチャなど野菜を食べるわけじゃない。人間の、俺たち天使に対する感謝の気持ちが、栄養素になるわけだ。人間の笑顔が、ほころんだ顔が、握りしめる手が、天使の生きるパワーになるんだ。なんて肯定的、前向きな食い物だ。能力開発セミナーの主催者が聞いたら、必ず、天使を講師として採用するだろう。でも、一体、誰がそんなことを思いついたんだ。俺なら、反対に、人間の困った顔や、どうすることもできない怒り、失望のあまり泣き崩れた体、そんな人間の姿を見て楽しむ方が、いくらでも元気になれるし、明日からも、いたずらをするために、生きて行こうという気になるはずだが。
 まあ、いくらここで、俺が不平不満を言おうとも、神様と天使との契約で、こうなったわけだから、仕方がない。だが、神様って誰だ?生まれてこの方、他の天使や天使を束ねる大天使様にはお会いしたことがあるが、神様なんて影さえ拝んだことがない。俺たち天使も、空高く飛べるが、神様は、それこそ雲の上の存在で、俺のような下っ端の見習い天使なんか相手にもしてもらえない。やっぱり、背中に羽があるのかな?俺の羽よりも大きいのかな。大天使様の羽は触ったことがある。翅の大きさは、俺の二倍以上ある。それに、つやつやして、光輝いている。並みの人間なら、怖れ多くて、顔をあげられないだろう。この俺だって、同じ天使(まだ見習い中)だけれど、大天使様の前では、思わず膝まづいてしまう。以前、お叱りを受けた時には、
「もういいだろう、少しは、反省したか」
と諭されて、大天使様の肩をもんだことがある。
「大天使様も、大変お疲れですね」
 大天使様の肩は怒り肩であったため、俺はそれこそ一生懸命揉んだ。俺を叱って、気持が高ぶっていた大天使様だったが、俺の骨身を惜しむ献身的な行為に、心を打たれたのか、次第に、落着きを取り戻し、それにつれてなで肩になっていく。
「ありがとう。お前のお陰で、肩こりも大分増しになってきたようだ」
「いえいえ、大天使様のお役に立てさせていただきまして、私としても、嬉しい限りです」
なんて、お世辞をかます。大天使様といっても、所詮、感情の生き物。こちらが、下手に出れば、単純に、考え方を変えてくれる。元がいい人だけに、こちらとしては、御しやすい。それだからこそ、大天使様なのだ。
「とは、言うものの、この肩コリだって、元はと言えば、お前が私を怒らせたからだ。肩も怒って硬直してしまったのだ。最後まで責任をとるのが、当たり前だろう。もっと強く揉まんか」
 ギュー。
 痛い。両手で頭を押さえる。俺の頭の金色のリングが閉まったのだ。このリングは、不埒な俺に、言っても直らなければ行動あるのみと、大天使様が俺の頭にとりつけやがった、いや、取り付けていただいたものだ。どこかの国の、暴れん坊も同様なリングを付けられていたらしい。どこの集団でも、母体が大きくなればなるほど、枠をはみ出す中途半端な者が出てくる。全世界、全宇宙の共通の事実であり、真実である。
と、なると、俺は、真実一号か、二号か?どうせなら、若い番号の方が箔がつく。
 俺は、しばしの間、頭の中で空想の世界に遊んでいた。目覚ましてくれたのが大天使様の声だった。
「さて、見習いよ」
「はい、大天使様」
 躊躇なく天使の世界に戻った俺。
「お前も、そろそろ、一人前の天使にならなければならない。わしの側で、一生、小間使いばかりではいかんだろう?」
「はい、わかっています」
と、言いながらも、口の中では舌を出す。
 いた、た、た、た。金輪が閉まる。
「お前がそういう態度だから、いつまでたってもアシスタントから一人前に卒業できないのだ」
「すいません」
 今度は、心から謝る。大天使様の前では、俺の心なんて全て見通せるらしい。
「このままだと、お前がなりたいという、天使どころか、堕天使になり下がってしまうぞ」
「そ、そ、それだけは、御勘弁を」
 ここは、天使の国。その反対側に、堕天使の国がある。世の中、必ず、正義があれば、悪がある。地獄があれば、天国がある。右があれば、左がある。上があれば下がある。ババナがあればリンゴがある。あっ、これは関係ないか。まあ、そんなところだ。天使にも二つの世界が分かれており、聖天使の国と堕天使の国があるわけだ。生まれてからこの方、聖天使の国にいるから、堕天使の国がどんなところかは知らないけれど、伝え聞くところによると、早い話が、島流しならぬ、天使の追放の場所らしい。聖天使の国には誰も近づかない、近づこうとしない井戸があって、そこの鍵は大天使様が持っているらしい。天使にふさわしくないと烙印を押された者が、その井戸に放り込まれて、堕天使の国に落っこちてしまうらしい。その井戸に落ちる途中で、天使の羽は、純白から真っ黒く汚されてしまい、また、羽の一枚一枚が、ぼろぼろに引き裂かれて、もう、二度と飛べなくなるらしい。後は、一生、堕天使の国を這いずり回るしかできなくなる。
 そうなれば大変だ。俺が、これまで築きあげてきた人生が全て台無しになる。これから頑張れば(何に頑張るかはわからないが)大天使とはいかないまでも、中天使、小天使ぐらいにはなれるんじゃないか。人間社会で言えば、中間管理職ってことかな、ここは、俺の人生で一番の踏ん張りどころだ。
「そうだ、ここが、お前の踏ん張りどころだ」
 全くもって、嫌になる。大天使様は、俺が口から言葉を発しなくても、ただ、俺が思うだけで会話になってしまう。ただし、大天使様が何をお考えになっているのかは、こちらにわからない。これじゃあ、会話じゃなくて、俺が、ただ単に、自白を強要されているだけだ。個人情報の違法なる取得だ。
「お前は、何か勘違いをしているな」
 そら、来た。
「勘違いといいますと・・・」
「私は、別に、他人の心を読める能力があるわけではない」
「でも、私が思っていること全てが、大天使様の口から発せられています」
「それは、私が、お前と同じ経験をしてきたから、お前の気持ちが分かるだけで、決して、心を読んでいるわけではない」
「と、言いますと・・・」
「私も、昔、天使界では、落ちこぼれの見習い天使であった。当時の、大天使様から、このままだと堕天使になってしまうぞと注意を受け、そこから這い上がったわけだ。お前を見ていると、昔の私にそっくりだ」
へえ、大天使様も、昔、俺と同じように、落ちこぼれの見習い天使だったとは初耳だ。あまりに遠すぎて、こんなに近づいて、打ち解けた会話をするのは初めてだからな。
「はい、わかりました。今日から、心を入れ替え、見習い天使から、真の天使になるよう、頑張ります」
 左胸に付けた黄色と緑色の天使の初心者マークを自信たっぷりに右手のグーで叩く。
「そうだ、その意気込みだ。ただ、その初心者マークを外すためには、試験があるぞ」
「試験ですか?」
 最近、物覚えが極端に悪くなっている。天使憲法、天使民法、天使商法、どの問題がでるのだろうか。
「なあに、何にも、難しいことはない。天使憲法の前段を答えろとか、天使憲法の第九条の改正について論議しろと言っているわけではない。たった四つの課題をこなすだけだ」
 やはり、俺の心は読まれている。落ちこぼれの見習い天使から、大天使に出世したのは、この能力のお陰だろうか。
「たった四つですか」
「そうだ、ほんの四つだ。正確には、四組だ。人間界に降りて行って、四組の人間を救えばいいだけだ」
「救うとは、海や川、池で溺れている子どもたちや、大きなビル火災で、逃げ遅れてビルに取り残されているお年寄りや女性たちを救出するということですか?俺、いや、私は、夏祭りの、金魚掬いは得意なんですが」
「別に、お前にスーパーマンやスパイダーマンになれと言っているわけではない。見習い天使のお前にも、自分の持ち分がある。その得意技をいかして、人を助ければよい」
 俺の持ち分?落ちこぼれの、見習いの天使に何が出来ると言うのだ。だが、ここで、何もできませんとは言えない。とりあえず、従順になる。どうせ、俺の心は読まれている。
「はい、わかりました。それで、何をどうすればいいんでしょうか?」
「これだ」
 大天使から渡されたのは、一冊のノート。中身をめくるが白紙だ。何も書かれていない。新品だ。近所の天使の文房具で売っている普通の天使大学ノートだ。大学ノート、なんて、懐かしい響きだ。天使中学生、天使高校生の頃、大学という響きだけで、そのノートを使うことで、何か、大人になったような気がしたものだ。実際、自分が大学生になってしまうと、天使の社会人に比べて自分がまだまだ子供だ、幼いと痛感したものだ。じゃあ、天使の見習いとして、今の自分は?やっぱり、大天使様と比較すると、子供、ガキのような気がする。それじゃあ、俺は、永遠に、子供のままなのか?子供であり続けたいのか?成長するって、何?
「大天使様、この小学、いや、中学、いや、大学ノートをどうするんでしょうか?」
「これはな、普通のノートじゃない。このノートに二人の名前を書くと、どんなにいがみ合っていても、喧嘩していても、仲良くなってしまう不思議なノートだ」
「それは、本当ですか?」
「天使が嘘をつくわけはない。通称、ラブ・ノートと呼ばれている」
「ラブ・ノート?」
まさか、まーくんのことが大好き、ゆかりは俺の命だ、なんて、ファッションホテルで、書かれるなど、生の感情が排出されたノートじゃないだろうな。俺は、もう一度、大天使に尋ねた。
「ラブ・ノートですか?」
「そうだ、ラブ・ノート」
 確か、俺たち天使と仲が悪い死神も、なんとかノートを持っていると聞いたことがある。そのノートに、何時何分に、どのように死ぬかを具体的に書かれると、書かれたとおり、死んでしまうらしい。恐るべき、死のノート。その点、天使のノートは幸せだ。書かれた二人が、仲良くなるのだから、こんなに素晴らしいことはない。「仲よきことは、善きことかな」だが、それは真実か?
「そのノートには、二人の名前を書かなければならないのですか?」
「そうだ、二人の名前が必要だ」
「ひとりだと?」
「片思いになる」
 うまい。大天使様、座布団十枚。いや、椅子十脚。
「それで、このラブ・ノート(自分で言いながら、少し、照れくさい)を使って何をすればいいんですか?」
「お前も知ってのとおり、この天使界から人間界を俯瞰すると、あまりにも人間関係が酷くなっている。親が、まだ、年端もいかない自分の子どもを殺したり、反対に、いい高校、いい大学、いい会社を目指せと、親が子に発破をかけるあまり、子が親を殺したり、ボケた妻を夫が殺したり、反対に、暴力的な夫に対し、妻やその子どもたちが夫殺しを図ったりと、陰惨極まりない事件があまりにも多発している」
「はい、おっしゃるとおりです」
 いくら、のほほんと天使の見習いをしている俺でも、昨今の、人間たちの行動は理解しがたいものがある。モグラたたき的行動パターンだ。ゲーム機の眼の前にモグラが穴から飛び出してくるとトンカチで頭を叩く。ゲームは敏捷性を競うものだが、人間関係も同様に応用・活用しているのか、相手が馬鹿と言えばこちらもアホとやり返す。こちらが右頬を叩けば、相手は左足の向こうずねを蹴る。思考することなく、その場の瞬間的な感情だけで動いているとしか思えない。もちろん、百パーセント、他人を理解できる行為なんて、ありえないのだろうが。
「そこで、このラブ・ノートを使えばよい」
「世界中の人の名をこのノートに記すのですか」
「それでは、単に落書き帳になってしまう。それに、このラブ・ノートだが、私が開発したもので、まだ、試作段階だ。実際に、その効き目があるかどうかは、私にもわからない」
 そんな物を、俺に試させる気か。
「それに、もう一冊、別の目的のノートを作って、その効果も試験の予定だ。お前が協力してくれれば、ありがたいんだがな。見習いのマークも取れるいいチャンスだと思うが」
 大天使様が俺にカマを掛けてきた。ここで、大天使様に協力しないと、一生、見習いのままだ。
「それでしたら、喜んでやらせていただきます。いいえ、天使界のため、人間どものため、是非、やらしてください」
 俺は、二つ返事で快諾した。躊躇する暇はない。失敗したところで、見習いのままだ。このまま見習いのままよりもいい。どうだ、前向きだろう。それに、一度、人間世界ってものを見てみたいという気持ちも起きた。だけど、もう一冊あるという試作品のラブ・ノートは、一体、誰に使わすのだろうか?他の見習い天使なのか?興味があるところだ。ふと、俺は思った。ラブ・ノートに、わざわざ、人間の名前を書くよりも、大天使様と俺の名前を書けば好いじゃないか。そうすれば、ラブ・ノートの力で、大天使様と俺はダチとなり、ため口をはたきながら、試験なんも受けずに、見習いから正規の天使になれる。ぐっと、胸につけた初心者マークをもう一度握りしめる。
「なお、このラブ・ノートは、あくまでも人間にしか効き目がないからな」
 大天使様は平然と答えられた。やはり、俺の心は読まれている。
「はい、わかりました」
「また、このノートの使い方だが、一ページに二人の名前しか書けない。三角関係や多人数の関係については、まだ、研究中だ。将来的には、民族間や宗教間の争いも、自爆テロなんていう愚かな行為も防ぐことができるはずだ。それと、まだ、このノートは試作品ということもあり、ページ数は四までだ。表紙には「ラブ・ノート」と銘打っているだろう?そこには何も書けない。白紙の四ページに四組の名前を書き、最悪な関係から脱却させ、良好な関係にまで築きなさい。最後は裏表紙だ。「終わり」と書いてあるだろう。そのページも使うな。表表紙や裏表紙を使うと、お前は聖天使どころか、堕天使行きだぞ」
 大天使様の最後の言葉はきつかった。これは、必ず、守らなければならない。
「さあ、わかったのなら、早速、人間界へ行きなさい。自らの感情で苦しむ人を、このラブ・ノートで、救うのじゃ」
「はい、わかりました」
自分でも言うのもなんだが、返事だけは、大天使だ。だが、疑問が一つ浮かぶ。
「このラブ・ノートに書く四組、すなわち、助ける基準は何でしょうか。どういった人を、ラブ・ノートに書けばいいんでしょうか?」
大天使様は、にっこりと笑うと、
「それを選択するのも、試験のうちのひとつだ。さあ、試験開始だ。期限は、今日中だ。それまでに、四組を助けて、天使界まで返って来い。人間世界では、今は、朝の七時だ。夜の六時まだぞ。ほら、人間界の時計を貸してやる。頑張れよ」
大天使様は、懐から時計を摂りだすと放り投げた。それを両手でキャッチする俺。確かに、時計の針は、長針が十二を指し、短針が七を指している。天使界で住んでいると、時間の感覚なんてない。人間は、こんな便利なものを持っているかと感心すると同時に、時間に追い回されてしまうじゃないのかとも思う。大天使様に振り回される今の俺のように。
「何か、言ったか」
「いえ、いえ、何も」
 大天使様の前では、何も考えてはいけない。ひたすら従順にしないと。俺は、その時計を左手首に付ける。
「六時を過ぎても帰って来られない場合はどうなるんでしょうか?」
「いつまでもお前を待っていてもいいが、私は時間外勤務となる。大天使の時間外単価は高いぞ。お前にそれが払えるか」
 大天使様も、サラリーマンか。部下の熱い仕事に応えてくれないのか。
「さあ、わかったら、さっさっと行け」
「ははは、はーい」
 俺は平伏する。
「ちょっと待て。言い忘れたことがあった。お前が一組ずつ成功する度に、東の空に文字が浮かび上がるようになっている。私はそれを見て、 お前の仕事の進捗具合がわかるわけだ。仕事が遅ければこうだ」
「い、た、たたたたたたあっ」
 俺は頭を押さえた。金のリングが閉まった。俺は、働かなければ尻や背中を叩かれる牛や馬並みだ。やはり、早く、見習いから脱出しないといけない。
「そうだ、そうだ、その意気だ。その意気込みが萎えないうちに、やってしまえ」
 大天使様の大声の勢いに突き飛ばされるかのように、俺は、天使界を後にした。でも、大天使様がおっしゃった文字とは何だろう?

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ラブ&ヘイト 見習い天使と見習い堕天使の物語(1)

見習い天使と見習い堕天使が、天使と堕天使になるための修行の物語。第1章 天使の部屋

  • 小説
  • 短編
  • ファンタジー
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2012-09-07

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