催眠

 これは眠くなるお話です。眠くて眠くてどうしようもなく眠くて瞼を開けていられなくなる。

 目の前に誰のでもいい、伸ばした右手を想像して。そう、右手は人差し指と親指でL字を作っている。

 始めは左に。止まったと思ったら右に振れていく。そう、ゆーくり、ゆーくり、とね。

 どうでしょう?瞼が重く重く下がってくるでしょう。

 いかがです?閉じた瞼の裏側に見えるでしょう、白く咲き誇るお花畑が。

 さあ、きれいに咲くお花を摘んでみよう。花びらは何枚付いているかな?1枚、2枚、3枚──分からない?

 慌てないで、もう一度花を摘んでみよう。どう、摘めた?花びらは、そうだね、何枚付いているだろう、数えてみよう。

「・・・・・・すみません、お花が浮かばないですけど」

 大丈夫ですよ。ちょっと固いのかな?いいんですよ、力を抜いて。横たわったソファーを意識しないで。浮いている、そう、緩やかに波打つ水面に浮いている姿を感じて。

 だんだんと心地よい揺れが体を包みこんでこないかな?そうです、プカプカ、プカプカ、あなたは海原を漂う流木なのです。広い、それは広い海の中をポツリとさ迷うただの流木。

 落ち着いた?
 改めて、目の前にお花畑を浮かべてみて。

「・・・・・・すみません、浮かべているの流木、なんですよね」

 OK、OKだよ。一旦、お花畑から離れよう。
 流木は、暗い、それは暗い雨風打ちつける嵐の夜が明けた、朝日輝く穏やかな地平線に浮いている。

「・・・・・・いつの間に嵐来てたんですか?」

 おや?島が見える。激しい嵐に流され、無人島だろうか、このまま波が風に乗ればたどり着けそうですよ。助かるのです。

「・・・・・・いや、だから流木はどこ行ったんですか?」

 想像してみて。絶望と孤独の漂流を乗り越え、再び足で地を踏める喜びを。そうでしょ、例えここは無人島でも、生きてさえいれば救いの船が現れる。

「・・・・・・あの、お花畑に戻ってもいいですか?」

 無人島は小さいんだ、とても小さい。お花畑ほどの余裕はない。それでも幸いに、とても幸運にもヤシの木だけが生えている、見えないかい?
 想い描いてみて、ヤシの木の花を。

「余計に思い浮かばんわ」

 困りました、どうしよう?

「ちょっと黙ってもらえれば」

 分かった・・・・・・・・・・・・ぐーぐー。

「・・・・・・もしもし?寝てるんですか、もしもーし」

 ぐーぐー・・・・・・ふがっ!

「よっぽど、眠かったんですね」

催眠

催眠

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2018-01-06

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