アングラバンドと。
真っ赤な天井の下を歩く女子高生がいた。
彼女は一人だった。
他の高校生がカップルなり友達なり作っている中で彼女はとても浮いていた。
彼女は孤独が大好きだ。
一人で電車の窓から見える景色を見るのが好きだ。
「伊波さん」
後ろから声をかけられて彼女は振り向いた。
「あ、川口さんじゃん」
好きなことをしている時間を邪魔されたにも関わらず彼女は明るく受け答えしていた。
川口から投げ掛けられる質問や世間話に相づちをとても楽しそうに打つ彼女、伊波薫は別人のようだった。
しばらく笑顔で手を降ったあと、伊波の顔のしわは一瞬ですべて消えてしまった。
地面を見つめ過ぎて冷めた瞳、浅いため息を吐き出す口。ヘッドフォンでアングラバンドを聴いている。
いつもは外の世界でアングラバンドを聴かない。
本当はアングラバンドがとても大好きな伊波。
それはなぜだろう。
特別教室5でギターやベースを持った高校生がいた。その中に伊波はベースを持って顔をしわくちゃにして笑っていた。
「えっ、それさ、それやばくね!?」
「でっしょ!やばいよねー」
バンドメンバーとおもしろい友達の話をする伊波がいた。
「眠い。睡眠時間少ないのかなぁ」
伊波が言った。
「ねーむーるーまえにー♪」
「歌うな」
有名なバンド、bの曲を余すところなく歌えるバンドメンバーの雛森が、伊波は羨ましかった。
バンドの中に3人bが好きな人がいた。
伊波は悲しかった。
5人のバンドで、伊波はいつも1人だ。
bが好きな雛森あみはボーカル&ギター。しっかり者だ。
同じくbが好きな橋本と前川。この二人だけ男だ。
ギターの佐藤なつみはいつも静かだ。bが好きではない。
アングラバンドのことをみんなに告白しても、だれも聴いてくれなかった。
伊波は孤独が大嫌いだ。
息といっしょに喉を通る寂しさと切なさが嫌いだからだ。
伊波はベットでアングラバンドを聴いている。
外の世界に疲れたのだろう。
まわりに合わせるので疲れた。
そして外の世界で孤独に耐えるのに疲れた。
その日の夜はまくらにたくさん涙をつけていた。
「部活をやめる?」
雛森は驚いていた。
「うん」
「え、なんで?」
「疲れちゃった。ごめんね」
「あたしね、薫に会ったのは運命だとおもってる」
「は?」
「薫としか話せないの。だって橋本は前川としか話さないし、なつみは全然しゃべらないし…。だから薫がいないと困る」
伊波は帰りたかった。
「帰らして。疲れた」
しかし手首を握って雛森はひきとめた。
手は汗ばんでいて、後ろからはすすり泣く声が聞こえた。
少しいらつきながら伊波は言った。
「あのさぁ、帰らしてよ」
「今回はやめないで。そしたら手を離す」
彼女の握力は40あるので血が止まってうまく振りほどけない。
伊波は悟った。
「わかったから離せ」
手のじわじわを感じながら伊波は全速力で逃げた。
外の世界が怖かった。
「昨日はごめん」
「やめるの?あたしね、あれから考えたの。今回は止めないよ。あたしの都合でしばりつけるのはどうかと思うの」
「やめねーよ。ベース続けたいからな」
雛森は驚いていた。
伊波は少し後悔もしていた。
アングラバンドと。
初投稿です。
なぜ伊波は最後に後悔したんでしょうか。
それはきちんと納得しなくてもなんとなく相手に合わせてしまったからではないでしょうか。
今まで伊波はバンドメンバーとうまくやってるつもりでした。
でも途中で違和感を感じて自分が損していることに気がついたんです。
※伊波はツンデレではありません。