高城郁実の記憶操作

出会いは噂話から

都市伝説。
人が人へ伝えた、言葉の幻。
俺はそんな話に目が無い。
どうも、その類のものが実際にあるのか無いのか確かめるのが好きならしい。
そしてそれは、そんな簡単な話ではないということ。
俺はこの町に来てから、この町にあふれる都市伝説をあさりまくった。
中学の時から調べていた都市伝説はほとんどデマだったことが、自分で確かめてわかった。
その中にはまだ調べられていないのがいくつかある。
その中の一つに、こんな話がある。
「この町には、記憶を操作してそれを仕事としている学生がいる。」



束暮町(そくぼちょう)
この町は、都内の海を橋でかけた小さな町。
人口は800人程度。その殆どは中学生以上の学生で、別名「学生町」と呼ばれている。
そんでなんだかんだで、俺も高校2年生。
俺、阿佐ヶ谷湊(あさがやみなと)って人間は常に新しい情報を待っている。
だからこそ俺は、窓際の1番奥の席で、机の下に携帯を隠して授業という時間を過ごし…。
パン。
頭を教科書の側面で叩かれた。

「おい、阿佐ヶ谷。
俺の数学はそんな面白くないか?」

数学の郷田(ごうだ)先生。生徒指導の先生で体育会系の先生である。
1年生の時から数学の授業でお世話になっている。

「先生の授業が面白くないわけではなく、授業っていう名目が面白くないわけですよ」

「ほう。
じゃ、この携帯はその面白くない授業の妨げになるから放課後取りに来いよ」

俺の携帯をしっかり握りしめながら、教卓に向かい授業を再開する。
俺はシャーペンを持って、黒板ではなく窓の外を見た。
4月はじめの風を受けて、笑顔をこぼす。
この町は、俺が思っていることの面白いが溢れている。
俺は、この町の都市伝説を全て調べあげる。
今の俺の目標だ。

「ガッツポーズなんてしてどうした?阿佐ヶ谷」

自分の手を見ると椅子の上で小さく拳を握っていた。
そして、にこやかに笑っている郷田先生が見上げると見えた。
俺も笑った。

放課後、俺は生徒指導室に自分の携帯を取り返しに行った。
授業が最後でよかったと思った。

「2年2組の阿佐ヶ谷です。携帯を返してください」

取り返した。
生徒指導室から出て携帯を開くと、さっきまで見ていた画面を見た。

束暮町に存在する都市伝説集

1.存在しない道

2.箒に乗る少女

3.記憶操作の職業

4.人に見える太陽

・・・

この、存在しない道っていう項目。まだあったのか。
俺が1年生の時に実際見た。
ビルとビルの間に綺麗な光の線が出来て陰りも微妙に出来て道に見えるだけだった。
あの先に秘密組織のアジトがあるとかなんとかって言ってたな。懐かしー。
携帯を見て3のところで指を止めた。
1年の時から知ってる都市伝説のくせに、未だに尻尾すらつかめない。
これこそ、人間の生んだ幻の存在じゃないか?
そもそも、記憶を操作するなんてできないだろ。
再び指を動かした。
携帯に集中していていまだ生徒指導室の扉の前から1歩も歩いちゃいない。

「何してる?」

「うわ!?」

後ろから出てきた郷田先生にびっくりた。

「どうした?」

「いえ、何でも」

逃げるようにその場を笑って立ち去る自分。
どう見ても、なんかしでかした人。

はぁ。
疲れた。

「ねぇ、聞いた?」

ん?
たまたま通りかかった1年の教室。
新しく出来た友達と弾んだ会話をしていた途中に聞こえた。

「この学校ね幽霊がでるとかで、最近話題になってるて」

「うっわ、こわーい」

「デマじゃない?幽霊なんかでるわけないじゃない」

「まぁ、そうよねー。噂だもんねー」

幽霊ねー。
この学校にね。
携帯を見るとNEWと書かれた項目があった。

NEW 石山治(いしやまじ)高校に出る幽霊


詳細はこうだ。
俺が通っている石山冶高校にはここ数日、夜な夜な理科室に灯りが灯るという。その灯りというのも、青く光るらしく数分すると消えるという。
この学校に入った時、この学校に七不思議があるって言うのは知っていた。
勿論全部確かめた。

屋上にある階段は登る時と降りる時では段数が違う。
よくあるが、これは人間の数え間違い。実際に俺も数え間違いを一度起こした。

音楽室の勝手になるピアノ。
これは、誰かがピアノの曲をCDで流したってのが真相。落ちていたリモコンを足で踏みたまたま再生ボタンが押されたようだ。

窓から見える動く人体模型。
これも見間違い。すっげーごっつい警官の人が見回り巡回してただけ。

いや、まーそんなふうに調べるうちにくだらない落ちが待っていたわけだ。
その七不思議の中何は理科室のこともあった。

窓から見える青い光。
これはカーテンを締めていると、見えることが分かった。実験かなんかで太陽を見るとかで昼間にカーテンを締めて見れるようにしたとか。
夜、理科室の明かりをつけると外からは青く見えるってわけ。

ん?
ってことは夜な夜な理科室には誰かいるってことになる。
俺はその人物が知りたい。
見回りの人は懐中電灯を持ってるから部屋の明かりをつけたりなんかしない。もし、見回りの人の懐中電灯が一部当たってるなら辻褄も合うしつまらない。でも数分ってのがきになる。
見回りなんて数分もかかるか?
そもそも、見回りなら懐中電灯を自分の体に合わせて動かすからついたり消えたりが正解なんじゃ・・・。
やっぱ行くか。
俺の考えは正しいのかどうか不明なんだ。

寮に帰ってる途中そんなことを思いながら、寮についた。


俺は高校1年の時からここ、案冴寮(あんざりょう)に住んでいる。学校校まではここから5分少々でつく。
ここの寮長が、親父の知り合いの娘なんで入寮できた。

「あっ、湊くん」

これが寮長の西尾楓(にしおかえで)さん。
優しくて面倒見のいいお母さんみたいな人。
石山治高校3年生だ。つまり、先輩。

「ただいまです、楓さん」

「あっ、お風呂の順番。湊くんが最後だがら。20時15分からね」

「ういーす」

久しぶりに外出時間外に寮をでることになるな。
実行は21時ジャストってところか。
今の内に、準備でもすっか。
部屋に入って、時計を確認すると17時12分。
荷物を下ろして、机につく。
携帯を取り出して、充電器に繋いで机のうえにほかる。
鞄から教科書を取り出して、机の上に広げた。
カラになった鞄にあれやこれやと詰め込んで、出ていく準備をした。

コンコン

ノックが聞こえて声が聞こえた。

「おい、湊ー。」

ん?
この声・・・面倒だ。
無視無視。

「そんな無視すんなよ、湊くん」

俺の肩に手をあてて後ろにしゃがんでいるやつがいた。

「勝手に入ってくるなよ、久」

「気にしない気にしない。ってこの荷物なに?」

「気にしない気にしない」

そんなコントみたいな会話をしているこいつは、伊藤久(いとうひさし)。同じ2年生。
そして、友達?みたいなやつ。
この寮に入った時から、こいつは俺の隣の部屋に住んでいた。何かとちょっかいかけてきて、
愉快に過ごさせてもらっている。

「でっ、宿題見せて」

最終的にこれである。

「お前さ、ちょっとは自分でやらないの?1年の時にも言ったと思うけど?」

「いや〜、出来る奴がいたら頼りたくなるじゃん?」

「やべ、嬉しくね〜」

「聞こえてるぞ」

テンポがいい会話を、久が宿題を写ながら話していた。
俺は、授業中に宿題を終える人間なのだ。
といっても、あったらやるもんだ。
部屋に戻れば別のことがしたい。
宿題を家でするなんて、馬鹿らしいとは思わないか?
目の前の久を見て、思わないか、とがっかりした。
自分で言うのはなんだが、割と頭がいい。
あぁ、俺のことね。
といっても、上の中ぐらいだ。上には上がいる。

「湊くん、そろそろ」

楓さんの声がした。
時計を見ると、20時を示していた。
時間が経つのははやいもんだ。

「っていつまでここにいるんだ?」

「えっ?」

久は我が部屋にいるかのように、入り浸っていた。
わりぃわりぃ、と言いながら外に出ていく久。
あと、15分で風呂の時間か。
準備としてはあらかた済んだ。
さぁ、そろそろだ。


この案冴寮では、一階に風呂 食堂 寮長である楓さんの部屋がある。二階に、俺らが住んでいる部屋が4つ存在する。つまり、案冴寮には5人の学生が住んでいる。
そして寮では、風呂の時間や飯の時間が決まっている。
うちの寮だけかもしれないが。
現在は20時35分。
風呂からあがるとパジャマに着替えて、食堂へ集まる。

「おう、湊」

少し大きめの丸テーブルに久が座っていた。
もう既に飯は並んでいた。

「あぁ、お腹すきました」

久の隣に座っているのは、飯山直子(いいやまなおこ)。愛称ナオちゃん。1年生女子だ。まだ10日ほどしか顔を合わせていないが、元気があり笑顔が耐えないとってもいい子。そして、この空間にすごく馴染んでいる。

「たくさん食べてね」

俺の隣に楓さんが座る。
その隣にもう一人。

「楓ネェ、箸とって」

航縫幸来(わたぬいこうこ)。2年の女子。
楓さんとはどうゆう付き合いなのかわからないが、俺らと同じ年である。

「じゃ、いただきましょう」

「いただきまーす」

一斉に食い出す。
そう。飯の時間が決まってるって言うのは、全員が全員同じ飯を食べてなんぼという。楓さんが寮長になってからの考えなのだ。
飯を作るのと風呂掃除は、当番制となっており文句 逆らうことは出来ないのだ。
なんてったっても、楓さんが起こると怖いんだこれが。

「ひさくん。醤油とって」

「ん、ほぉぃ」

「ちょっと、口にもの入れて喋らないでよ」

今日のメニューは、白米 味噌汁 マグロの刺身。
ちなみに、作る人は自分で今日の献立を考える。
偏りがあろうが、不健康的だろうが出たものは食わなきゃならない。
幸いこのメンバーは、飯をまともに作れないやつはいないので、ある程度うまい飯が食えている。

「そういえば、今日学校で幽霊の話聞きましたよ。理科室にでるらしいですね」

ナオちゃんが話題を振った。

「1年の中じゃ、話題独占なんですよ」

「まぁ、そうなの?そんな話聞いたことないわ」

楓さんは、そうゆうのうといからな。

「私も、聞いたことない」

幸来は、学年の中でも意味ありげに人気のある生徒だ。そんな幸来が聞いたことない噂となると。

「おそらく、俺ら2、3年の知らない事なんだろう。一年の誰かが作った噂になるな」

そんなことを口走った俺はナオちゃんから話を聞き出そうと思ったが。

「あぁでも、その詳細をほとんど知らないんですよね。そうゆうの興味無くて」

ですよね。

「湊って、ほんとそうゆう話好きだよな」

「俺にとっては生きる糧だ」

言い過ぎではない。
そうゆう人間なのだ。

「みんな食べ終わったわね。じゃ、ごちそうさまでした」

「ごちそうさまでした」

皿を持ってったのが20時56分。
そろそろだな。

そして、部屋に戻る。
21時ジャスト。
部屋の電気を消した。
二階の部屋からロープを垂らして、準備した荷物と脱出用の靴を履いて部屋をでた。
21時は門限でもある。
これは町の門限だ。
出歩くことができない。
故に静か。故にパラダイス。
1年の時からよく破ってきたが、他の人を見たことがなかった。
そして、学校についた。
俺は校門から見える理科室を見た。灯りはついていなかった。
見回りの人が来る前にとっとと、学校に入ろう。
この町の学校すべてに当てはまるが、見回りの人が仕事できるように、職員下駄箱前の出入口を開けているのだ。ということで、ここから侵入。
手馴れたもんだろ?過去に2回ほど忍び込んだことがあったんだよね。

そして、まっすぐ理科室へと進んだ。
職員出入口からだと二回に上がって渡り廊下一本渡ってまっすぐ行くんだよね。
正門からだと、まっすぐ見れるけど反対に職員出入口があるからな。
そのルートで進んでいく。
見回りの人が、今どこで歩いているかわからないが。
この学校の渡り廊下は吹き抜けになっている。
扉やドアがついていない。
そのまま突破できる。
忍者ではないが警戒しながら進んでいく。
そして、理科室に近づくと灯りがついているのがわかった。さっき見た時はついてなかったのに。
もしかしたらこれは、本当にあるかも。
幽霊ではないと思うが、誰がいるのか。ワクワクする。
そして、理科室の前に立ち扉を開けた。

カーテンが締め切られて、奥の方の席で一人座っている女の子がいた。しかも、やたら可愛い私服で。
入った音に気づいて振り返った女子。
顔もスタイルもなかなかカワイイではないか。

「でっ、君誰?」

言葉に出していた。しかも、知らない女の子に指まで指していた。

「だっ・・・誰ですか?あなたこそ。何のようがあって・・・」

「あぁ、郁実ちゃん」

ゆうみ?

後ろから警官の服装をした、見回りの人が現れました。

「って君、もう門限は過ぎてるだろう。何をしているんだね?」

いきなり説教?

「って、待ってください。じゃ、あの子はどうなるんですか?」

俺は、あの子を指さしてそう言った。

「私は「あの子」じゃないです。
私は、高城郁実(たかしろゆうみ)です」

「じゃ、そこの高城さんはなんだっていうんですか?」

何言ってるのか、自分でもわからないくらい混乱していた。
そして、言い疲れた俺はその場の椅子に座り机に右の腕を乗せた。

「彼女はね、僕の記憶に関することを思い出させてくれようとしてくれていたんだ」

記憶?

「ここ数日、この理科室を借りて、中学からやりきれなかった依頼をこなしていたんです。そしたら、麻生さんに見つかって。聞けば思い出せないことがあるって聞いたんで。そのお手伝いを」

へっ・・・言ってることがさっぱりわからない。
頭真っ白なんだけど。


これが、俺の高城郁実との出会い。
そして、俺の面白いはさらに加速する。

再び出会うことで

ベットの上で目を覚ました。
辺りを見渡すと、いつもと変わらない部屋の風景が見えた。
時計をみると、7時2分。
そろそろ、朝食か。
パジャマを脱ぎ、制服に着替える。脱いだものはまとめて、下の洗濯カゴに入れなければならない。
パジャマと、鞄を手に部屋をでた。

あくびをかきながら部屋をでると、同時に隣の久も出てきた。

「ぅぃ、みにゃと。」

「ねむそうだな」

「おまぇもな」

お互いにあくびしながらの挨拶は良くする。
階段に向かって歩き出す。

「そういえば、湊。昨日はどうだった?」

「どうもねーよ」

「そうか」

「あっ、あんたらおはよう」

下から洗い場に向かって足を向けている、幸来が見上げていた。

「おはよう」

「顔でも洗ってきたら?」

「そうする」

そう言い返すと、洗い場に向かって歩き出した。
俺達もその後ろをついていくかのように歩いていく。
洗い場につくと、手に持っていた洗濯物を下ろした。3人分積み重なった洗濯物は、山になっていた。

「おはょぅごじゃいます」

後ろからナオちゃんが、あくびをしながら挨拶。

「おはよう」

かけるように声がかかった。

「みんなーご飯だよー」

楓さんの声がした。

「洗濯物の処理だけしていくわ」

洗濯の当番である幸来が残り、全員食堂へ向かった。
食堂へ入ると、楓さんが朝食を並べていた。
席につき、隣に座った久と話をした。
幸来が少し慌てて席に着くと、いつもの朝食風景だ。

「じゃ、みんな。いただきます」

「いただきます」

今日の朝食は、食パン イチゴジャム+マーガリン レタス ウインナー 目玉半熟焼き

「そういえぱ、湊くん。
昨日、外に出た?」

「いえ、出てませんけど」

「えっ、じゃー昨日準備してた荷物は?」

久がそう言うと、俺は首をかしげた。

「何の話だ?」

俺がそう言うと、久は驚いた顔をした。

「昨日俺は、飯を食い終わったあと寝たが?」

「そう、言いがかりしてごめんね」

「いえ」

「にしても、前科があるやつは大変よね」

幸来が煽るように言う。

「前科ってなんです?」

ナオちゃんも興味を持ってしまった。

「その話はいいだろ」

「ええー、聞きたいです」

「そんなにはしゃがないの」

楓さんの一言でその場がおさまった。
そして食べ終わると食器を片付ける。

部屋にもどって、学校に向かう準備をする。
鞄の中を確認すると、昨日のうちに用意した今日の準備ができていた。
服を脱ぎ、制服へと着替える。
いつもと変わらない、朝だ。
だが、久の言っていた準備ってなんだったのかわからない。
さぁ、学校にいかなきゃ。
8時20分


校門。
ここにたった時、ここから見える理科室を見た。
なんで、見たのかはわからない。
俺は、1歩歩き出す。
風が、吹く。
一人の女が、俺の横を横切った。
そして思った。
どっかで見たことあるような。
・・・。

昼休み。
携帯を眺める。
食堂か購買に行かなければ、飯はない。
腹が減ってるわけじゃない。
あの子が気になって。しょうがない。
どこかで会ったこと、ある気がしてならない。
そして、あの記事を目にした。

石山治高校に出る幽霊

俺は、何かを忘れている気がする。
昨日俺は、飯を食い終わったあと部屋に戻って明日の準備をして、そのまま寝たはずなんだ。
この行動の中に何か食い違いが起きている。
久の言う昨日。今朝にすれ違ったあの女生徒。
そして、俺の記憶。

記憶?

俺が知っていて、解明できてない都市伝説。
この中に記憶について関連を持つ内容は、「記憶を操作してそれを仕事としている学生がいる」というもの。
まさかとは思うけど、俺操作された?
そんな、わけ。
都市伝説と遭遇なんて、そんなあることじゃない。
ってことは、あの女性徒も・・・。
いや、会って確かめるべき。
てか、どのクラスだ。さっぱり分からん。

キーンコーンカーンコーン

チャイムがなる。
勝負は放課後か。

放課後、とっとと荷物をまとめて校門へ向かった。
校門で待っていると、多くの生徒が出てきた。
この中から、例の女生徒を探す。
特徴みたいのがあればいいけど、髪が長くて結んでないくらいしか。
そういえば、左頬あたりにほくろがあったような。
そう思いながら生徒を見ていると、歩いてる生徒の中から目が合った奴がいた。幸来だ。

「あんた、何してんの?」

近寄ってきた。

「面倒とか思ったでしょ」

幸来にそういわれると、苦笑いで顔をそらした。 単純に図星。

「で、何してんの?」

「人探し」

「誰?」

「わかんない」

「わからないのに探してるの?」

「あぁ」

「変なの」

そう言い残して帰っていった。
俺も人探しをしよう。
生徒の中を見ていると、気づけば生徒はいなくなっていた。
俺も帰るか。

って、収穫なしかよ。
誰かわからない以上、収穫もしようがないか。
くっそ。
昨日に関する情報が何一つないのが、全ての敗因につながってる気がしてならない。
俺は何を忘れている。
携帯を眺める。
そして、あの項目。
俺は、これについて何らかの事柄を忘れている。
そして、あの女子生徒。
寝転んで携帯を眺めていると21時になっていた。
飯を食い終わったあと、無気力が体を包む感覚。俺の好奇心が、何かに止められている。
頭を書きながら携帯をスクロールした。
俺は、携帯を見た。
あのサイトの更新はない。
何かないのか。
そして、今朝理科室を見たことを思い出した。
なんで見たんだ?
俺は、寮を脱出した。



学校についた。
今朝と同じように理科室を見た。
青い灯りがついていた。
誰かいる。
走った。
職員下駄箱の出入口から侵入し、階段を急いで駆け上がる。
そして、理科室についた時。
俺の息は上がっていた。
明かりがついている理科室の戸を開ける。
そこには、今朝すれ違った女生徒がいた。

「誰ですか?」

びっくりした女の子が椅子から立ち戦闘態勢のようなポーズをとっている。

「って、昨日の」

昨日?

「あっ、言っちゃった」

頭の底から記憶が蘇ってくる。
俺は昨日、21時に部屋を出た。
石山治高校の理科室の幽霊が何者なのかを知るために。学校についた時、理科室を覗いた。灯りはついていなかった。見回りがないことを確認した上で、職員下駄箱前の出入口から侵入して理科室へ向かった。理科室についた時、明かりはついていた。そして、この女生徒と遭遇した。その後見回りに見つかって事情を聞いた。ここまでは覚えているが、あとの記憶が完全に欠落している。どうやって部屋に戻った?

「はぁ、ドジりました。」

「誰だ?」

後ろから、見回りの人が現れた。
この人も昨日見たことがある。確か麻生とか言ったけ?

「あぁ、昨日の。早く帰りなさい」

昨日と同じ内容の話をされた気がする。
そして、女生徒の方を見て話を始めた。

「今日の仕事はもう終わりかい?」

「はい、明日の1人で依頼完遂です。その後でもいいですか?」

「あぁ」

何の会話をしているのかわからなかった。
見回りの麻生さんは理科室を立ち去っていった。

「私も、帰りますか」

いやいや。

「待て待て待て待て」

「はい?」

「俺への説明が全く出来てないだろ」

「あっ、そうでした」

椅子を立とうとしていたが、席に座り直してこちらを向いた。
俺も、近くの椅子を出して座った。

「私は、高城郁実です。この学校の1年です。江曽(えぞ)中学出身です」

「そこはどうでもいい。この欠落している俺の記憶について知りたい」

「そうですね、なんて説明したらいいんでしょうか?」



私は、高城郁実。
現在、石山治高校1年です。
小学生の頃です。
私は、人の記憶の一部を消去及び復旧することが出来ることに気づきました。それに関することで、そういう仕事に就きました。きっかけは、私の友達。忘れたことがあると言われて、それがどうしても思い出せないという。私はこっそりとその記憶を戻してあげました。友達は、気づかないままそのことを思い出しました。思い出せたと、話すその笑顔は私にとってはとても嬉しいものでした。私はその味を覚えてしまいました。自己満足という味を。
中学の時に掲示板を作りました。依頼掲示板だ。そこに集った人たちは、大人から子供まで様々。忘れたい過去や忘れてしまった過去。人の思いは様々でその理由も様々。
私が最初に受けた依頼主は、中学で見回りをしていた警官さんだった。その人の依頼は、忘れたい事があるとのこと。その内容は、人を殺してしまった事を忘れたいということだった。この町に来た理由だと言っていた。詳しいことは聞かなかったが、記憶を覗いた時にわかった。
この人は都会の警察官をやっている時、ある事件に巻き込まれその犯人を射殺してしまっていた。私はその記憶を消しました。その人から、自分からも。数多の人の記憶を覗いては消したり戻したりして私は、自己満足というものを味わいました。
私は依頼人から、私にあった記憶も消してきました。私の素性がバレると色んな意味で困るから。そうやっていくうちに、噂が立ちました。「この町には、記憶を操作してそれを仕事にしているやつがいる」、と 。


なるほど。

「でも俺、一部は思い出したぞ」

「忘れる方には、私がそれに関するワードを対象の人に言ってしまうと思い出してしまうんです。でも、本当に思い出したくないことは思い出されないみたいです。人って勝手に忘れたりするから」

じゃ俺は、あの後起きたことを思い出したくないと思っているのか。

「私は、これからもこうしていくつもりです。
じゃ、私帰りますね」

「待て待て待て待て、俺はお前の素性知ってるんだぞ?俺の記憶そのままか?」

「いやー、同じ人にやっても効果が薄いっぽいんですよ。でも、そう言われればそうですね。どうしましょう?」

めっちゃ笑顔。困ってる様子0。この子は一体俺をどうしよと。

「そうですね。私の助手になってくれませんか?」

「はぁ?」

「確か、あ・・・あさ・・・・・・」

「阿佐ヶ谷だ」

「すみません。漢字はすごく苦手で」

「でも俺、お前に名乗ってないよな」

「はい、記憶を消去する際覗きました。あと、私はお前じゃないです。高城郁実です」

「助手って何するんだ?」

「んー?とりあえず、私の秘密をまもることですかね」

「破った場合は?」

「あなたの存在を消します」

「ま・・・?!」

「正確にはあなたの、記憶全てを消します。生まれてきたことすらも忘れれば、存在自体が消えたのと同じですよね」

めっちゃ笑顔だ。本気でやりかねねー。

「わっ・・・わかった」

「あと、寮ってどこです?」


部屋にもどった。
かなり疲れた。
俺は明日の準備をして、ベットへ自分の体を沈めた。
携帯のアドレスも番号も知られてしまった。
はぁ。
俺は、ゆっくり目を閉じて眠に落ちる。


起床。
7時1分
部屋を出た。
あと、2日も学校がある。
1階へ降りていくとなんか騒がしい。

「あー、湊くん。おはよう」

楓さんが荷物を運んでいた。

「それ、何の荷物です?」

「これ?新しく入居者が増えたの」

入居者?

「あっ、おはようございます」

あぁーー?

「新しい入居者の」

「高城郁実です」

面白くなんかない。
面倒なことになりそうな。

それは涙と笑顔を

「よろしくお願いします」

マジか。なんでこんなことに。

「おはょう、湊」

後ろから、久が降りてきた。

「おはようございます」

「おはよう」

楓さんと高城が挨拶。

「・・・誰?」

「今日からここに入居する、高城郁実です」

「おー、可愛いじゃん」

「それ、ナオちゃんの時も言ってたよな」

「つっこんではいけないのだよーみなとくん」

クスクスと笑う高城。

「俺は、伊藤久。ひさしって読んでくれていいぜ」

「わかりました、ひさしさん」

「で、あちが湊って言うんだ」

勝手に紹介しやがって。

「よろしくお願いします、湊さん」

めっちゃ笑顔だ。この笑顔が恐怖に感じてしまっていた。

「おはようって、こんなとこで止まってないでよ」

後ろから幸来が来た。

「あれ、ゆうちゃん?」

その後にいたナオちゃんが、ひょっこり顔を出した。

「あれ?ナオちゃん。この寮だったんだ」

「ナオちゃん、知り合い?」

「はい。同じクラスで」

「じゃ、ご飯にしましょう。この荷物置いたら食堂に来て」

楓さんが食堂に行く。
2階から降りる俺らは洗濯物を出しに。

食堂に向かうと、円卓に椅子がひとつ増えていた。6つ椅子なの並んだ円卓は、いつもよりもせまく感じる。一人増えただけでこんなに恐怖を感じるとは。ってか、高城の笑顔が異常に怖く感じる。

「じゃ、いただきます」

「いただきます」

今日のメニューは、食パン マーガリン イチゴジャム スクランブルエッグとジャガイモの混ぜ物

「ごめんね、郁実ちゃんの荷物運んでいたからご飯が貧相に」

「いや、充分ですよ」

「ちょっと、急がないと学校間に合わないかも」

「今日、なんかあったけ?」

「聞いてないの?うちの学校に夜な夜な入り込んでる人がいるらしいから、その注意みたいな話。町のルールも破ってる時点でかなり重いわよ」

前から町のルール破ってたけど、そんな重そうな警を受けたことねーぞ。
高城の方を見るとめっちゃ笑ってた。まるで、人事みたいな。

「まぁ、前科があるやつを差し出して罰を受けてもらえば丸く収まるわよ」

幸来がこっちを見てニヤニヤ笑っていた。

「やっぱ聞かせてくださいよ、湊さんの前科」

「ナオちゃん、興味持ちすぎ」

「湊の話は面白いからな」

「こら久、てめぇ」

「いっつもこんな感じなの、ついていけそう?」

楓さんの隣に座っていた高城がその問に笑顔で頷く。
どんなふうになっても、俺達はこんな感じなのだ。
俺が、初めて脱走したあの日も。

あの日俺は、学校で聞いた「町の真ん中に血で書かれた魔法陣」というものに興味を持ち、それを確認しに向かった。
聞いたのが下校の時だったため、すぐさま確かめたいという意思の元、決行を夜にしようと決めた。もちろんこの町にルールがある事は知っていた。だが、俺の思いが行動へと移した。
21時に抜け出した町は静かで、町の街灯はついていたが人なんてひとりとしていなかった。自分しかこの世界にいない世界に感じた。
目標地点につくと、地面には魔法陣らしきものが描かれていた。だが、それに指を触れると拭き取れてしまった。それは血ではなく絵の具だった。その場所は日が当たらず日陰になっていたため乾かなかったのだろう。結局何のために書いたのか分からなかったため、その日は引き上げた。次の日、昼間にその場所に行ってみると、複数の中学生が遊んでいた。そこには例の魔法陣らしきものが書かれたものが再生されていた。「またくだらなかった」と思いながら寮に戻ると、楓さんが待ち構えていた。俺の脱走を見抜き処罰を与えた。あの時は、無条件で一ヶ月寮の当番をすべて俺がやるってことになってたが。
あの時もこんなふうに笑ってたっけか。

「まぁ、話すのは夜にしましょう」

楓さんが話を止めて、学校に行く支度を勧めた。食べ終わった食器を片付けて、それぞれ部屋に戻った。

7時38分

コンコン
部屋を戻った途端にノックが聞こえた。また久かと思ったが聞こえた声が違った。

「湊さん。高城です」

はぁ。
面倒な。
ドアを開け部屋へ入れた。
高城はまじまじと俺の部屋の風景を見回した。

「案外綺麗ですね。もっと汚いイメージだったんですけど」

「何のようだ」

手っ取り早く終わらせたい。

「おそらくですけど、もう学校では活動できないんですよ。ですから、ここを活動場所にしようかと思いまして。引っ越してきたんです」

「そんなことどうでもいい。用事無いなら出てってくれ」

「そんな怒んないでください」

「お前、何がしたいんだ?」

「何がです?」

「人の記憶なんか弄って、何がしたいって聞いたんだ」

「じゃ湊さんは、何のために都市伝説とかの確認をしているんですか?」

「質問を質問で返すんじゃない」

「湊さんがそうしてるのと同じなんです」

「つまり、自己満足」

「昨日話さなかったです?」

「おい、湊?時間」

外から聞こえた久の声。

「行きましょうか。また夜に」

その一言は、嫌な感じにしか聞こえなかった。
言い返す言葉もなく、俺は鞄を取り高城と共に部屋をでた。


全校集会で体育館に集められた生徒は、異様に落ち着きがない感じだった。そこら辺の人と話をして、夜な夜な現れるという、理科室の幽霊に関して話していた。この事実を知るのはおそらく俺だけだろう。他の人たちは、高城に関しての記憶を消されているのだから。俺は隣にいた男子に話しかけられ、その話に乗って話していた。まぁ、人嫌いってわけじゃないから話すくらいならな。ただ、この集会でこの都市伝説は都市伝説ではなくなってしまう。またくだらない落ちがついてしまう。

「えー、緊急集会を始める」

上段の上でマイクの前に立っていたのは、生徒指導の郷田先生だった。

「今回のは、学校に夜忍び込んでいる奴がいるという事なんだが。町の方で決定した意見を発表する。今回の騒動は実は他の学校にもあったということだ」

体育館にざわめきが走る。
うちの学校だけじゃないのか。
俺も、驚きを隠せない。

「そのことで今後、学校に警備員の増加を図るということだ。まぁ、うちの学校の生徒にそんなことするやつはいないと思うが。
十分気をつけるように」

再び起るざわめき。
退出する時も、それは収まることなく最終的にそんなことかと片付く始末。しかも、幽霊騒動をさらに大きくする形に。だいぶ膨れ上がってきた疑惑に生徒達も気づき始めていた。「これは、幽霊ではなく生徒の誰かではないか?」っと。俺と同じ疑問を持った人間が、学校に忍び込むことを予感しているのだろうか。これは、考えすぎか。

帰りのホームルームで朝の話を要約 注意を促していた。結局、あれは何だったのか?

「湊さん」

校門を考えながら歩いていると声をかけられる。声の主は、高城だった。

「・・・どうした?」

戸惑った返答をすると、表情で分かったかのように笑顔で近づいてきた。

「帰りましょ」

そういや、同じ寮だったな・・・。

「何考えてたんです?」

「お前からどう逃げようか、考えてた」

歩きながら投げられた質問は即答返球。
もちろんそんな事は考えちゃいない。こいつは今どうでも・・・。
いや、そんなことないか。
今、俺の考えてる真ん中には高城郁実がいるんだ。
そもそもだ。俺の目の前で都市伝説でなくなったこいつをなんで俺は気にかけているんだ?

「それ、本気でいってます?」

「いや、冗談」

会話しながら考える。
わからないまま寮についてしまう。



「ご飯食べたら、私の部屋にきてくださいね」

高城の部屋は、一階にあるこの寮唯一の空き部屋。楓さんの隣の部屋である。
階段を上がり自分の部屋へ向かう時に言われた。
自分の部屋にはいり、制服と鞄をそこら辺に投げ捨てベットに転がった。
気になることがいろいろ上がってきた。
携帯を開けてあのサイトを開く。

NEW 夜中に束暮町を徘徊する警官

・・・?
都市伝説でも何でもなさそうな。
項目をタップする。

夜になると警官の格好をした人が、束暮町を徘徊するという。その警官はその場で出くわした人間を食べるという。

食べる?
なんだよこれ。
なんたとも言えない記事に絶句する。
良く考えたら、この3日で体験したことを加味するとありそうなのではと思ってしまう。
俺の中の都市伝説思考が働き出す。
今すぐにでも動きたいという衝動に駆られる。

コンコン

「湊くーん。いる?」

楓さんか。

「はい」

「お風呂なんだけど、郁実ちゃんの後でいい?」

マジか。
でもま。

「別に構わないですよ」

「じゃ、20時30分で。ご飯は21時になったから」

「わかりました」

ドア前で話すのは楓さんだけ。勝手に入ってこないのはやはり大人って感じがする。
時計は19時を過ぎたところだった。
俺は携帯を見ながら寝転んでいた。
この記事に書いてあることがどうしても気になっていた。

未確認の生物の可能性あり

なんて文字があの続きに書かれていたりすると、UMAなのかとか思ってしまう。人間を食べるUMAなんて、聞いたことないけど。

20時28分。
俺は風呂に足を向け、部屋を出る。
風呂には使用中ノックと書かれた表示。

コンコン

「大丈夫ですよ」

高城の声がする。
扉を開いくと、パジャマ姿で髪を乾かす高城がいた。

「お前、どうゆうつもりだよ」

「なにがです?」

「とぼけんな」

「朝言いましたよね?多分もう学校は使えないって」

「見回り強化するぐらいなら使えるんじゃないのか?」

「わかりません」

ドライヤーの電源を切って、髪を櫛でといていた。
俺は、上半身を脱いで風呂に入る準備をしていた。

「だから今晩、最後の依頼だけ済ませます」

整え終わった長くも短くもない髪を下ろしてこちらを向いて言う。

「そのためについてきてくださいね」

俺は下半身丸出しだった。

「はいはい」

「素直ですね」

「お前、やたら怖いんだよ。あと、この状況で普通に話してられるお前ってすごいわ」

下半身丸出しだし。
てか俺も、マナーないよな。
この前まで、久が俺の前だったからな。

「いや、男の人の全裸って何回も見たことあって。もうなれちゃったんですよね」

慣れちゃダメな気がする。

「とにかく、ご飯食べたら私の部屋に来てくださいね」

そういうと、慌てたそぶりも見せずに出ていった。
やっぱあの笑顔、怖い。
本人に悪気はないんだろうけど、そう感じる。
俺の被害妄想か?考えすぎか?
体を洗って髪を洗ってヒゲ剃って、シャワーで流して風呂に入る。浸かりながら考える事は、サイトで見た人喰い警官。もし本当なら、死体だの骨だのが出てくると思うんだが。そんなの、聞いたこともない。まさか、骨ごと食うわけじゃあるまいし。だが、何でもありそうだ。現に記憶を操作するやつがいるわけだし。
そうこうと考えていると、時間は過ぎ去って行く。風呂の時間を見ると20時52分。そろそろ出るか。

並んでいたのは、肉じゃが 白ご飯 白の味噌汁。

「湊、お風呂はどうだった?」

食事中に、隣の久が話しかける?

「なにがだよ?」

だいたい予想がつく。

「何がって高」

「何もねーよ。」

だろうと思った。

「話ぐらいさせてくれよ」

「面倒な」

久あいてだと、素の言葉が出て来る。

「そういえば、来週の当番なんだけど。郁実ちゃんに教えながらやってくれる人いる?」

「私いいですよ」

ナオちゃんが、速攻立候補。

「そうね。同じクラスみたいだし。じゃ、来週からよろしくね」

「そういえば、朝の続き話してくださいよ」

はぁ、これか。
幸来がべらべらとしゃべり、久がゲラゲラ笑っていた。
楽しい食卓だ。いつもと変わらない。


で、食事が終わってきたわけだけど。
コンコン

「どうぞ」

21時38分
俺は言われたとおり、高城の部屋に来た。
ダンボールが積まれた部屋は、まだ何も置かれてはいなかった。
ベットに腰掛けていた高城はこっちを見ていた。

「ようこそ。ってもまだなんにもしてないんですけどね」

「でっ、要件は」

「今から学校に行きます」

「今から?」

「依頼はまだ全部終わってないんで」

「あの見回りか?」

「あの人のお願いの内容はまだなんにも聞いてないんですけど、頼まれたからにはやらなきゃいけないんで」

「でっ、俺はなんでいかなきゃいけないんだ?」

「記録してほしんです」

「記録?」

「私は記憶を操作できます。でも、その記憶操作もただでできるわけじゃないんです 」

「どうゆうことだ?」

黙ってうつむいた。

「私の記憶、順番になくなってるんです」

その一言は、重かった。
ってことは、自分の自己満足のために自分の記憶をなくしてるってのか。

「私は自分の記憶と引きかけえに、他人の記憶を操作しています。文字なら残せるはずなんで、みなとさんには・・・」

かすれていく声。顔はうつむいたまま、雫を垂らしていた。
俺は、そんな高城見て思った。

―――この、高城郁実って女は俺以上の自己満足を求めている。

「自己満足・・・ね」

俺はこの娘の、高城郁実についていけば。必ず面白いことに出会える。最初にあった時に感じたあの感覚に、また出会えると。そう思っていた。
泣き顔でこっちを見ていた高城に手を伸ばす。黙ってその手をとる高城。

「お前の自己満足に手伝ってやる。そんで、俺の自己満足も手伝ってくれ」

そういうと、涙を拭きながらこう言った。

「・・・はい」

その涙声は、俺の耳に 俺の脳に永遠に残る言葉となった。

そして俺達は、夜の町にくりだす。

苦い自己満足

俺達は静かな町にでた。
登校や下校のの時はうるさいほどの生徒の声が聞こえるこの町で、物音ひとつなりそうにない静寂の夜。

そんな中、男女人組が肩を並べて歩いてるって。

んなのは、どうでもいい。
俺達は学校に向かう。

「湊さん」

「ん?」

改まった声が聞こえたので、高城の方を見た。さっき見た時の、泣き顔が頭から離れない。あの涙の中に、俺を揺さぶる何があったんだ。何かが。

「さっきのは、忘れてくださいね」

さっきってのは多分あの涙だ。

「そりゃ、できねぇかもな」

「ダメです。忘れてください」

忘れられるわけない。

「俺はお前に、記録係と秘密を守る助手を頼まれたからな」

そういうと、高城は頬が赤くした。焦ったように顔をそらしてきた。
少ししか触れてないが、高城郁実ってのはただの女の子なんだと。

「俺はお前のために、お前は俺のためにだろ」

そう、さっき約束したのだ。

お前の自己満足に手伝ってやる。そんで、俺の自己満足も手伝ってくれ

「えっ、何の話です?」

当の本人は忘れているのか聞いてないのか。

「まぁ、いいか」

「えっ、なんです?約束って」

返事したことに対しても、忘れられてたら困るな。なんて、思ったらダメなんだろうな。高城はほぼ無条件で、俺にそれをくれるんだ。与えてもらってるからには、俺も与えなきゃならない。

「ね、聞いてます?」

「あぁ、わり」

全く聞いてなかった。何の話だったけ?
そうこういってるうちに学校についた。

「行きましょう」

理科室に向かう。

「いつ来ても怖いです。夜の学校」

「お前、いつもビクビクしてんのか?」

どうやって、理科室まで行ってるんだ?なんか、歩いてる足すんげービクついてんじゃん。結構あるよな理科室まで。

「麻生さんに見つかった以降は、麻生さんの隣であるいてました」

うわー、見回り大変だったんだろうな。
こんなベッタリ・・・。
いや、まて。
この状況。見回りの人に置き換えるんだ。
あの人結構歳いってる感じだったよな。
指輪は・・・今は、してない人も多いんだっけか。宛にならん。
でも、JKがこんなに密着してたら。

―――喜ばしいよな―――

まぁ、俺はどうでもいいんだけど。
気になってる女子より、気になってる都市伝説の方があるんだよな。
でも、忘れられない。あの涙が。頭から離れない。
気になってる女子。そうか、俺は気になってるんだな。
高城郁実が。

理科室の前。
理科室に入って電気をつけた。

「麻生さん、今日はいないのかな」

「その前に、一人いるんじゃないのか?」

「はい。・・・あっ、これ」

高城のポッケから出てきたのは、可愛らしい小さな手帳。

「これでいいんで、書いてくれます?」

多分200枚くらい挟まってる紙。中を覗いてみる。そこには、依頼者の名前依頼内容が書かれていた。

三山紗枝
卒業前に友達から「もの」を返すように言われた
その「もの」が思い出せなくて依頼された
卒業後の休み。私が思い出させたものを返せたようです

田代 翔太
見た目高校生
一昔いじめにあった記憶を消してほしいと依頼された
消した後はいい笑顔を見せていた
その後はどうなったのかわからない

それはしっかり書かれていた。
そして、7ページくらい過ぎたあたりからそれは曖昧に書かれ。
9ページ開いてからは、白紙だった。
次のページはペンの跡が残っていた。ひどく激しく書き殴った跡だ。恐らくそのページは破って捨てたのだろう。

自己満足

どっからどこまでがそれなのか。

理科室の扉が開いた。
パジャマ姿の女の子が入ってきた。

「えっと・・・」

高城が携帯を取り出して画面を見ながら確認を図る。

「エンポーさん。で、間違いないです?」

エンポー?

「はい 」

その女の子はエンポーと名乗った。
誰だよエンポーさん、とか思ってしまったじゃん。

「どうぞ、座ってください」

高城は自分の家にいるかのような対応をする。その指示に従って、席に座るエンポーさん。

「驚きました」

突然のエンポーの一言に、?を浮かべる俺。

「もっと、大人の人がやってると思ってました」

「よく言われます」

照れながら、話す高城。

「それじゃ、依頼の内容の確認をします」

携帯を机の上に置いて、書いてあることを読み上げる高城。依頼の内容はこうだった。

小学校の頃に受けた虐待の記憶の削除。

トラウマってもんは、忘れたくても忘れられないもんだ。それは、人を成長させるものでもあるけど人を立ち止まらせるものでもある。

「今は、ひとりで暮らしてますか?」

「いえ。今は、母と」

「その、暴力を奮っていたのは・・・?」

「・・・父です」

顔色を変えて話したエンポーさん。

「記憶削除後に、お父さんとお会いする時は気おつけてください。強く残っている記憶を削除する時、その人物の声や動作だけで思い出してしまあう事があるので」

「・・・わかりました」

息が荒い。
明らかに平常心を失っている。

「おい、大丈夫か?」

俺はエンポーさんの傍により、深呼吸させる。

「落ち着いたか?」

頷いた。
顔色が良くなっていく。

「湊さん、始めます」

真剣そのものの顔で高城がこっちを見ていた。

「俺は何すればいい?」

高城は立ち上がって、エンポーさんの後に立った。

「エンポーさん、楽にしててください。湊さんは私の肩に手を」

肩に手を置くのか?
言われるまま、肩に手を置いた。

「ちょっと痛いかもしれないですけど、我慢してください」

ん?
高城は、エンポーさんの頭に手をのせた。

「はじめますね」

目を閉じて。高城の肩の力が抜けていくのがわかる。
俺も目を閉じた

空間?真っ暗な空間。
目の前には高城の姿があった。
手招きされてそっちに向かう。
傍によると高城は口を開けた。
なんて言ってるのかわからない。
高城が指を指す。指す方向に無数の泡が舞っていた。
幻想的だ。
夢の中にいるみたいだ。
高城が一つの泡を指さして何か言っている。
俺の手を取ってその泡に潜る。
息が・・・。



おい、み・・・

声が聞こえる。
今まで聞こえなかった声が聞こえる。それも、知らない人の声だ。

み・・・。お前が・・・ぜん・・・・・・わ・・・

凄い痛みが走った。
周りを見ると、真っ暗な空間。
あれは、習字?
いた。
また痛み。
ぬいぐるみも見える。
うぅをぁ。
ひどく殴られている。

お前が・・・・・・



気がつけば俺は酷く荒い息と、顔中が汗まみれになったいた。
どうしてこんな事になっているのか。
目の前の高城を見る。
すごく顔色が悪い。
エンポーさんが机に向かって倒れていた。
高城は、エンポーさんの頭から手を離して俺の方に寄りかかって倒れた。

「大丈夫か?」

俺は高城を少し揺さりながら、声をかけた。

「・・・。水を。水道でいいです」

「お前学校の水なんか飲んで大丈夫か?」

かくいう俺もなんか飲みたい。
酷い喉の渇きよう。

「だいじょう・・・ぶで・・・」

高城から離れてビーカーに水をくんで高城に飲ませる。
呼吸が安定してきている。
俺も、別のビーカーを持って水を飲む。
エンポーさんが起き上がった。
ゾンビのような動きに恐怖を感じながら、見ている。

「じゃ、お帰りください」

死んだ人間のように頷いて、理科室を出ていくエンポーさん。

「麻生美華子さん」

高城が小さな声で、俺に聞こえるように言った。

「誰だ?」

俺が尋ねると、暗い顔で理科室の出入口を指さした。

「あの人の名前か」

って、エンポーどっから出てきたんだよ。

「湊さんは見えました?」

「ん?何をだ?」

「美華子さんを、殴ってた人です」

「その前に、説明しろ。
あれを見てる時、痛みが来た。実際に変わらないようなやつが」

「記憶をいじる時に出る不備みたいなものです。人間の記憶は、一つ一つファイリングされるんです。あの泡みたいなやつがそうですね」

「ってことは、あれは麻生美華子の脳内?」

「そう捉えてもらっていいです。忘れさせる場合は、その泡を潰せばいいんです。その時に、その記憶の映像に入らなければならない」

「思い出させるには?」

「人って忘れてるようで忘れてないんです。その記憶信号の奥の方に、その泡があるんです。それを、引っ張り出すんです」

「じゃ、忘れたやつ。泡を潰しても思い出すってのは?」

「これは私が思ってることですが、その泡は潰しても再度集合するんじゃないでしょうか。私には解らないですが・・・」

「最後に、存在自体消えるってのは?」

「記憶の全てを削除。正確には、生まれたという最初の泡を消すと、連鎖的にすべて消えるんです」

「それって、一部の記憶を消すとそれ以降の記憶が無くなるってことか?」

高城は話疲れたのか首をゆっくり横に振った。
そして、ビーカーに余った水を静かに飲み干した。

「記憶っていわば、知能レベルみたいなものなんです。つまり、うまく忘れられる人もいればそうでない人もいる。でも、生まれた時以前。存在しない所からは知能レベルも無いですから」

「お前、存在を消したことがあるんだな」

思ったことを口にしてしまった。
でも、止められなかった。
思い出すことに関しては曖昧なのに、完全に消えた事はスラスラと話す。
そうとしか思えない。
高城は首を縦に振る。
そして、その頬には涙が伝う。

「あの時は・・・うまく使えなかったんです」

「・・・」

何も言えなかった。
背負ってる重さがわからなかったから。
それでも、踏み込んだ。
知らなければならないと思ったから。
涙を拭いて俺の目を見た。

「それでも、生きていなきゃ。そのために・・・」

「もういい」

重い。苦しい。

「それより、さっきの続きだ」

俺は、強制的にこの話を切った。自分で振りながらそれは無いと思いつつ。

「・・・はい」

高城にも話したくないことを話させたくはない。俺が悪いのはわかってんだ。

「麻生美華子さんを殴ってた人、麻生さんじゃないでしょうか?」

まじか?

「いや、はっきり見えてないから分からない」

「やっぱり、薄かったですか。あの手帳に書いといてください」

言われるまま、その手帳に文字を書き入れていく。

「お前、これ携帯でいいんじゃないか?」

「インパクトが足りないんです」

即答どうも。
まぁ、引き受けた以上しょうがない。
あんな、怪奇現象みたいなのも見れたしな。

ガラガラ

「郁実ちゃん」

麻生さんだ。

「麻生さん。依頼内容は分かってます」

そう言えば、依頼内容は聞いてないって言ってたよな?

「あたの、娘さんの虐待の記憶の削除ですね?」

そう言うことか。
忘れたくても、忘れられないんだな。

「いや」

その一言で、俺も高城も麻生さんの方を見てビックリした。
理解した上で俺もそうだと思ったが、違うのか?

「私の依頼は、私自体の記憶削除だ」

えっ・・・
この人が何を言ったのか俺には分からなかったが。いや、聞こえたが聞こえないふりをした。さっきの話を聞いてる限りじゃ、高城はその言葉を受け止め否定するに決まってる。

「そんなことしたら、麻生さんが消えちゃいますよ」

「死にたい」と言っているようにも聞こえた。

「それでも、構わない」

「でも・・・」

俺は高城の肩に手をのせた。

「話だけでも聞いてやれよ」

その場で座り込んで、泣き出してしまった。
泣き止むのには少し時間がかった。
俺は高城のそばにいた。
泣き止んだところで、話を聞いた。

麻生さん一家は今は、麻生美華子虐待をきっかけに離婚して美華子の苗字は「円保」となっている。
別々に暮らすようになってから、毎晩夢に自分じゃない自分が出てくるらしくそれがおぞましいという。

「ある日その夢の途中で目が覚めたことがあったんだ。目の前には体と首が離された人がいて自分の手が真っ赤になってた」

「人喰いの警官って、麻生さんのことだったのか」

「なんですか?それ?」

高城が聞いてきた。

「私は、その夢の中で獣になっていた。人の肉を喰う獣に」

都市伝説じゃなくて人殺しになってる。
でも、この人は無意識のうちにやってしまっている。

「その記憶だけ消せばいいです。全部消す必要なんてありません」

高城はそう言いきった。
俺もそう思う。

「家族も、人としても地位を失っいる。もう、生きてなんかいけやしない」

言わんとしてることも分からないでもない。

おそらく、この人は向き合ったのだ。自分を受け入れようとしたんだろう。だが、現実にそんなことが起きた。自分が何なのか、分からなくなった。だから、消えたいと。全てを忘れたいと。

「それでも、私が嫌です。お受け出来ません」

高城が言っていることが正しいと思う。これからでも真っ当に生きるべきなのだ。
でも、このまま野放しにしても同じことをこの人は繰り返す。罪の意思もないのに、罪を重ねてしまう。

「お願いします」

麻生さんは、頭を下げた。
おっさんが16そこらの女の子に。
俺はそんな彼を見捨てては行けないと思った。

「受けてやれよ」

高城にかけたその言葉は、高城を深く悩ませた。

「本人の意見を尊重した方がいいのは、私も分かってるんです。でもそれは、自分から逃げてるだけに思います」

高城は自分の記憶が消えていくのが分かっている。逃げるなんて日本語は高城が嫌いそうな言葉に聞こえた。

「これは、自己満足なんだろ?」

俺と同じ自己満足。でもこれは、お前の問題じゃない。依頼者の問題だ。俺が思ってる事は口に出ない。あとは、高城郁実が答えを出すことだ。

これは始まりだろう

「・・・わかりました」

俺は頷いた。
それが、高城郁実の答えだと。

「・・・ありがとう」

涙を流して頭を下げる麻生さん。

「それじゃ、そこに座ってください」

麻生美華子と同じようなことをする高城。
俺は黙って高城の肩に手を乗せる。
伝わってくるのは高城の震えだ。

「・・・こわいです」

これから一人の人生を終わらせてしまうことを思うと、怖いことだ。
高城の肩の力は入ったままだった。
俺は目を閉じた。


あの幻想的世界が目の前には広がっていた。でも、先程のやつとは見え方が違った。なんていうか、薄黒い。
隣には少し震えている高城。

「・・・ちです」

少し聞こえたがなんて言ってるのか分からなかった。
指を指してあっちだと教えてくれていた。目の先には、黒く染まっていた泡が無数にあった。

「おそらく、この人は私と同じです」

今度ははっきりと聞こえた高城の声。
俺は口を開いて声をだそうとした。高城は手で俺の口を塞いだ。

「もう少し待っていてください。今吸うと危ないです。」

危ない?
俺は頷いた。
すぐ手を離した。

「とりあえず、半分位まで行ったら話します」

言われるまま先へ進むことになった。
薄黒い泡は避けるように動くよう指示された。
奥に行くにつれて、その色は濃くなっていた。
泡は上には上がらず、蓄積されるか呑まれるかのように降下しているように動いていた。

「ここら辺まできたら大丈夫です。話していいですよ」

「なんだ、あの黒・・・、、、おふぉ」

言われた瞬間に話したら咳き込んでしまった。

「まだ、この空気に慣れてないのかもしれないです」

確かに嫌な空気だ。

「それでも、おふぉ、麻生美華子のときと全く違うじゃないか」

呼吸が少ししにくい程度。
これくらいなら話せるが、新しい空気に咳き込む。

「これは、人が忘れようとしても永遠と再生して付きまとってきた記憶の成れの果てなんです」

「言ってることがよくわからないんだが?」

「嫌な記憶とか自分に都合が悪い記憶は、勝手に忘れたり書き換えたりしてるんです。それを繰り返すと、こんなふうになっちゃうんです」

「ってことは、おふぉ。麻生美華子は真っ直ぐな人間だったと?」

「真っ直ぐな人間なんていません。絶対に悪い記憶とか自分を誤魔化してきた記憶があるんです。ですが、その記憶を何回も書き換えたり忘れる数が多かったりするとこうなっちゃうんです」

俺の目線は自然と黒い空間の方へ向いていた。人間ってのは本当に都合の良いように造られている。
自分が成りたいように
自分が在りたいように
自分が自分であるように
そうやって生きている。
おふぉ。
この空気には慣れそうにない。

「行きましょう。
この先に生まれた記憶があるはずです」

上から降り注がれる黒い泡は深いところに行くに連れて、降下の速度を加速しているように感じた。高城は庭であるかのようにかわしながら進んでいく。俺はっていうと、交わしながらが精一杯。前に進むのは交わす動作を一々挟んでいた。

「着きました」

周り1面真っ暗な世界。
その中でも一際ハッキリ黒く映る泡が目の前にあった。それは、他の泡よりも大きなものだ。

「これに・・・入るのか?」

俺はこの泡に、怯えた。

「・・・入りません」

高城は大きく手を挙げた。

「こうします」

そして、振り下ろした。

泡ははじけ飛んだ。
黒から白へ周りが変色していく。
それは、麻生美華子の中 あの風景を見ているようだった。
俺の呼吸も戻っていく。
スーと自分が消えていくようだった。


目を開けると、目の前にただ立ち尽くす高城がいた。涙をその目に浮かべ、遠くを見る目でただ立ち尽くしていた。
麻生さんは机で伸びていた。息はある。寝ているようだ。

「これで・・・良かったんですよね」

高城がポロッとこぼした言葉は自分への後悔だろうか。俺はそっと高城の背中に手をあてる。「大丈夫だ」と言葉をかけることもなく。



あんな事があった翌日の朝は寝起きが悪かった。
休みの日の始まりなのに休みのあとの日の様になっていた。
うちの寮は学校が休みの日、各自自由に動く。
しっかりしているのは平日と楓さんぐらいだ。
時計は9時を示していた。俺の休みの起床はだいたい7時くらいだ。週刊になってしまっているのかその時間に起きる。そして、二度寝。
昨日の就寝が遅かったのもあるが、その後の寝付けも悪かったのも原因。
充電ケーブルに繋がれた携帯を手に取った。
久からメールが来ていた。

幸子とナオちゃんとで新しい喫茶店に行ったままでかける。
途中来れるなら来ていいんだぜ。
ゆうみちゃん連れてさ

受信が1時間前。

えんりょしとく

そう送り返して携帯を置いた。
疲れている。
俺は着替えることなく自分の部屋をでた。

食堂へ向かうと、楓さんがいた。

「おはよう。湊くん」

「おはようございます」

「コーヒーのむ?」

「いただきます」

俺は円卓に座ってぐったりした。

「はい」

マグカップに冷たいコーヒーが入ったものを俺の目の前に置いた。

「あざ」

マグカップを持って一口のんだ。

「珍しいね。遅い起床じゃない?」

「まぁ、色々ありまして・・・」

「そういえば、ゆうみちゃん。まだ起きてないんだよね」

「そうですか」

疲れてるのは俺だけではないってことか。いや、あいつは寝てないんじゃないのか?
昨日帰る時だってずっと泣きそうだったしな。
あれが、高城郁実の自己満足。
この町にある、一つの都市伝説。
俺はそれに手を貸す人間。

「さって、私はちょっと出かけるね。出かける時は鍵かけといて」

「わかりました」

食堂は俺一人になった。カップのコーヒーをまた一口飲み、またぐったり。
携帯を取り出して、あのサイトを開いた。
更新は無かったが、人喰いの警官の項目は消えていた。

こんなタイミングよく?
このサイト。偶然にしてはよく出来てる。
麻生さんの記憶を消す前あの項目を見た。あんなことをやった後で、あの項目は消えた。
これは、ただの偶然か?

まぁ、考えすぎか。
俺は、ずっとこのサイトを見てきた。
このサイトで発見した、まぁほとんどデマだったやつなんだけど。それでも、発見したやつは未だに残ってたり早くても数週間残っている。
でも今回初めて1日で消えた。
携帯を閉じて、コーヒーを一口。
俺の想像力は、大分レベルアップしたな。 昔は文字で読んだ都市伝説を、病のようにどこまでもどこまでも想像するだけだったのに。いまじゃ、裏の裏まで勝手な想像を出来るようになってしまった。

「おはようございます」

「うぁ!!」

「何驚いてるんですか?」

「驚くわ、湧いてでるな」

「湧いてないです」

後から声をかけてきた高城に気付かず、驚いてしまった。髪がボサボサで変な風になってる。目が赤くなってる。

「お前、寝れたか?」

高城は流しの方に向かって歩いていく。

「寝れたように、見えますか?」

くそ生意気な。

「可愛くないやつだ」

冷蔵庫を開ける音。
俺はコーヒーを飲みほした。

「あの後、麻生さんはどうなったんだ?置いてきてしまったが」

高城が円卓に座りマグカップを置いた。

「分からないです。でも、もうここにはいないと思います」

「無責任な」

「そうですね。でも、そうなってしまうんです。そう・・・なっちゃうんです」

俺は高城郁実を知らなさすぎるな。

「ですから、これからもよろしくお願いします」

「俺はいつまで手伝えばいいのか?」

「この学校にいる限りだと思いますよ」

この笑顔は慣れないな。
それでも、俺はこいつといれば面白いものに出会えると。そう信じている。

「そういや、ナオちゃん達が出かけてるらしい。合流してもいいらしいが、行くか?」

高城はカップの飲み物を飲み干して「はい」と答えた。
着替えに行くと行って食堂を飛び出していった高城は、やはりただの女の子だ。



人の記憶。
それを操作できるもの。
それを仕事にするもの。
都市伝説。
存在した都市伝説を見たのはこれが初めて。
俺は彼女のそばにいて、これからも都市伝説を探していこうと思う。
この町で。
2人で。

次への1歩


 なにかとあった。
 たった数日のことなのに、とても長く感じた。
 私は、子供の頃をよく憶えていない。いや、記憶が消えていると言った方がいいかもしれない。
 だからつい最近起きたことは、私の記憶にこべりついたかのように離れない。
 それは、どう考えても。
 私の隣にいてくれた人が原因なのだと思っている。
 彼といる時間は永遠に近いのかもしれない。
 そんな記憶の一部を切り取ったかのように目の前に映る夢を見ながら、眩しい朝日を浴びて目を覚ます。
 
 
 ※
 
 
 7時42分
 人から人へと伝えられる過程で、勝手にその内容に関することが変換されたり、一部の誤字で話そのものが変わってしまうなんてことはよくあることだ。
 人間は言葉を発している中で気付かないままその会話を続けてしまっている。
 それは、俺も例外ではない訳だが。
 ちゃんとした話を的確に相手に伝えるためにはまず、自分が正しい言葉を使っているかどうかだと思う。
 だからこそ、こんなところで話の行き違いが起きてしまっていることに関して、俺は何も言わないことにしているわけだ。
 
 「だからどうゆうこと?なんで、洗濯機回ってないわけ?昨日の当番はあんたでしょ?久」
 
 洗面の方で大きな声を上げていたのは幸来だ。
 休みの朝早く早起きをしてしまった俺「阿佐ヶ谷湊」は、洗面で顔を洗って飯でも食おうかと思っていたところだった。洗面の方に向かってもう既に起きていたことは、航縫幸来と伊藤久による「昨日の洗濯の当番」についての口論だった。
 
 「そこにいるやつが、証明してくれる」
 
 そう言うと、俺の方に人差し指を向ける久。
 
 「いや、知らねーよ。そんなことより、顔洗いたいんだけど」
 
 あくび書きながらそう答えると、久も幸来も怒ってきた。
 なぜ怒られなければと思いながら、昨日の回想が頭の中で流れてきた。
 
 
 ※
 
 
 「ごめんね。ひさくん寝ちゃって起きないの。先にお風呂入っちゃって」
 
 そう、楓さんに言われいつもより少し早い風呂に入った。あの事件以降特に目立った事件や出来事、噂が出回っていないことからするにこの町はやはり変なのだと。結局、麻生さんのことも大事にならず。失踪した麻生さんの行方も知らず。あのサイトの更新もなく。よく分からないが頭の上をくるくる回っているところだった。
 
 「ごめ~ん」
 
 外から楓さんの声が聞こえてびっくりした。
 
 「はい」
 
 「ひさくんやっぱり起きそうにないの。ひさくんが当番だけど、洗濯物お願いできない?できなかったらなおちゃんにお願いしてくるんだけど」
 
 「ごめんなさい。俺あいつの分までやるの嫌なんで」
 
 「あら、ひさくん可哀相」
 
 「寝てるやつが悪いんっすよ」
 
 「分かったわ。なおちゃんにお願いしてくるね」
 
 これが本音。まぁ、当番すっぽかして風呂も入らんやつには当たり前のことだろう。
 そろそろでるか。
 
 部屋に戻ると、俺はベッドに横たわった。
 あのサイトのトップページをスクロールしながら更新がないのを確認した。
 このサイトは束暮町に関するオカルトや都市伝説等の情報を公開するところなのだ。この町は小さいため、場所さえわかっていれば飛び出せるのだが。
 最近起きた、麻生さんの事は世間はもちろんこの町でも騒ぎになっていない。この町では不思議なことが目の前で起きても大事にはならない。
 
  コンコン
 
 部屋のノックがなって、また楓さんかと思ったが。
 
 「あの、湊さん」
 
 そう。こいつもまた、その不思議の1つ。
 
 「入っていいぞ」
 
 姿を現したのは高城郁実。
 対象の記憶を消したり元通りにしたりできる、いわえる記憶操作の出来るやつだ。
 そんなこと信用なるかと思っていたが、実際俺自身やられた事だから良くわかる。
 
 「今日は特にありません」
 
 「わかった」
 
 ほぼ毎日、学校か夜の部屋でこんな会話をしている訳だが。俺はこいつの秘密を知っている助手、主に記録係である。
 こいつは能力を使う代わりに、自分の記憶が無くなっていくらしい。
 
 「あと、洗濯は久さんがやるそうなので•••」
 
 「ん。そうか•••ん?」
 
 「それでは」
 
 「待て、洗濯は久がやるって誰が言ってた?」
 
 「久さん本人みたいです」
 
 「それは確かか?」
 
 「はい、ナオちゃんが言ってました」
 
 「•••」
 
 少し首をかしげていると、何も言わずに高城は出ていった。
 まぁいいかと思いながら、部屋の灯を消した。
 
 
 ※
 
 
 まぁ、犯人探しなんてどうでもいい事だ。だが、周りはそう行くわけにも行かないみたいで•••
 
 「分かりました、私がやるから」
 
 楓さんのその一言で2人が黙るのである。あーだこーだなるより、綺麗にまとまるのである。
 俺は何も言わず食堂に向かうのであった。
 
 「ねぇ、阿佐ヶ谷」
 
 後ろから声をかけたのは幸来だ。
 
 「なんか用か?」
 
 「なんか•••作って」
 
 何を?なんで顔赤らめてんのこいつ。
 
 「何を作ればいい?」
 
 そう言うとぼそっとなんか言われた。「聞こえん」とはっきり言った。
 
 「朝ごはん作ってよ!」
 
 「なんでだ?自分で作れ」
 
 「食材がないの•••」
 
 うちの寮のルールだが。
 休みの日は基本、自分たちで生活する。しかし、食事を除く家事当番は有効。食事に関しては、各自食べたい時に自分で作るというものである。
 俺はいつも朝はスルーなのだが、今日はやたら腹がすいているためなにか作ろうと食堂に向かう途中だった。
 
 「外で食ってこればいいだろ?」
 
 「•••お金もあんまりないのよ•••」
 
 「はぁ•••、何出しても文句言うなよ」
 
 「うん」
 
 冷蔵庫は二つ存在し、休日用と書かれているものがある。
 冷蔵庫の中を開く。
 冷蔵庫の中にチョロチョロ名前の書いてあるものがある。これが、各自で持っている食材である。幸来の言う「食材がない」というのは、こうゆうことである。
 
 「てか、金がないって。どうしたらそうなるんだ?」
 
 この町ではお金を貯める手段もお金を使う手段もほとんどない。毎月国から、生活出来るレベルでの金が振り込まれている。ちなみに、俺の通帳の中身は、そこらの学生とは桁が違うというのはここだけの話。この話はまた後ほど。
 
 「はいよ」
 
 出したのは、ベーコン+目玉焼き+焼きトースト×2
 
 「なんで普通に美味しそうなの?」
 
 「なんで怒られなきゃいけないの?」
 
 そう。航縫幸来というやつは、あまり料理ができない。というか、センスがない。
 当番制であるうちの寮に置いてはある意味致命傷。では、こいつが飯を作る週になると。何故か楓さんが常に隣にいる。でなければ、俺と久は今頃この世にいないだろう•••。大げさではない。それ以外は完璧超人。なんで世の中にこんなんがいるのかと思うほど。
 
 「そういえば」
 
 幸来が何かを思い出したかのように立ち上がり玄関先へ行って帰ってきた。
 
 「こんなんがきてたわよ」
 
 一通の手紙を渡されて手に取った。
 差出人不明。
 後ろには「阿佐ヶ谷 湊様」と書かれた文字のみ。
 
 「嫌がらせか?」
 
 そんなものに心当たりはないが•••。
 とりあえず中身を開いてみた。
 
 「なんて書かれてるの?」
 
 中身を見て固まっていた俺に幸来が声をかけた。
 
 「あ•••いや」
 
 咄嗟に背に隠して誤魔化した。
 目の前にある食べ物をぺろっと食べてその場を逃げた。
 

 自分の部屋でもう一度中身を確認した。
 紙が1枚だけ入っていて中身には何も書かれていない紙が入っていた。
 
 「なんなんだ•••」
 
 理由のわからなさに驚きを隠せない。そして、このかみに何があるのかを確かめるべく。
 まず、この紙を太陽の日に当てた。
 透かせばなにか文字が見えるのかと。
 •••
 見えず。
 光がダメなら水かと水滴を一滴たらす。
 •••
 見えず•••
 いや、この紙おかしい。水滴垂らせば跡がつくのにあとが着いていない。
 試しに燃やしてみるかと思い、火を得るために急いでコンロへ。
 
 「あぁ。ご馳走様•••ってあんた何してんの?」
 
 幸来が食べ終わって皿を下げていた。その隣でいきなりコンロに火をつけて紙をあてた。
 見事に燃えなかった。
 火は紙に移っているのに。
 着いた火から焦げあとすら残さない。
 息を吹きかけると火は消えた。
 紙を見ても何も書かれていない。
 火をつけた部分もなんてことない。
 
 「なんなのそれ?」
 
 「わからん」
 
 幸来と共に紙を見ていると文字が浮かび上がってきた。
 
 あっっっつ!!
 
 その文字は、現れて目に止まって一瞬で消えた。
 
 「なんだったの? 」
 
 「•••わからん」
 
 この紙を2人でしばらく見つめていると、またも文字が浮かぶ。
 
 阿佐ヶ谷 湊様へ
 
 文字はさらに出てくる
 
 言葉とは不思議なもので、話している文字は同じでも全く意味の違うものを指す時があります
 
 文字が消え、新たな文字。
 
 その言葉は、どう捉えるかで会話も変わってくると思います
 
 あなたは、この文をどう捉えるかは自由です
 
 そして、その文字が消えると赤文字が浮かび上がる。
 
 このまちは
 きけん
 
 文字から赤い液体が溶けだす。
 
 「嫌だ、臭い」
 
 幸来がいきなり紙から離れる。
 俺も嗅いだがおそらく、人の血だろう。
 その紙を火にかけると一瞬で燃え上がった。
 
 「なんだったの?」
 
 「•••わからない」
 
 不気味な出来事の始まりを目のあたりにした•••。

この現実を


 朝の1件で、案冴寮はパニックになっていた。幸来が無駄に変なことを言うからである。ただこの現象に関して言えば、俺も驚きを隠せない
 
 突然浮かび上がる文字 血で浮かんできた文字
 
 このまちはきけん
 
 手紙の先が俺だって言うのも、よく分からない。なんで俺なのか?
 楓さんの口から「このことは忘れること」って言われたのは、まぁ楓さん見てなかったからなんとも言えないのだろうで全員合点。
 
 「それでも、分からん」
 
 「なんで私の部屋にいるんです?」
 
 高城の部屋に平然と入ってさっきの現象を考えていた。
 
 「なぁ、記憶操作の能力ってお前以外に使える奴がいるのか?」
 
 「わかるわけありませんよ。そもそも、私がなんで使えるかもよくわかってないんですから•••」
 
 「だよな」
 
 もし、高城のようなデタラメなことが出来るようなやつが入れば、この現象に納得がいく。でも、自分で見てもいないものを納得するわけもなく•••
 
 「あの•••湊さん?着替えたいんで早く出てってもらえませんか?」
 
 「えっ、着替えればいいだろ?お前も俺の全裸見たろ?」
 
 まともに答えたつもりが、叩き出された。
 何故だ?他人のはいいのに自分はダメなのか。いや、常識的にダメか。
 俺にはまだ、高城郁実という人間が分からない。
 
 分からないといえば、今朝の出来事も。
 何故、俺宛なのか?
 何故、この街に関する忠告なのか?
 あの紙はなんだったのか?
 
 疑問は浮かぶばかりだが、騒いでもしょうがない。
 暇なので外に出ることに。
 ブーブー
 携帯がなる。朝のような手紙のような•••。
 
 おひさ
 元気してる?
 あの無駄な行動まだやってる?
 
 こいつは•••。
 中学。あのサイト以外に、情報や聞き込み等に参加していたやつがいた。
 名を「榎本 千博(えのもと ちひろ)」。
 言葉だけ聞くと女のようだが男。
 高校は別々になったが今でも親友と呼べるのかわからない仲。
 卒業してからも、少しは交流があり。
 
 無駄ではないし元気だ
 で、なんた?
 
 返信は一瞬。ちなみに、これは恒例。さらに、あちらからの返信も一瞬。これは当然。
 
 その無駄な行動のお助けになってやろうか?
 
 お前エスパーか?
 
 見透かされてるみたいで嫌なんだ、こいつと喋るの。
 
 まぁ、いいじゃん。
 で、いるの?いらないの?
 
 いる
 
 そうゆうことなんです。
 10時ジャストに屋敷谷中学前の喫茶店でと書かれたメッセージ。時計を見ると、9時45分。あの場所まで行くのに15分くらい。
 「くそが」と吐き捨てながら慌てて自分の部屋を出る。
 
 

 「やぁ」
 
 中に入ると、中学時代やつとよく座ったトイレに1番近い入口から1番遠い所に手を降って呼んでいた。
 席に行き椅子をどかして千博の対面に座る。
 
 「いつものでいいかい?」
 
 若い店員が声をかける
 
 「野茂さん、久しぶりです。そうっすね、お願いします」
 
 野茂 光(のも ひかる)は中学時代からこの店でお世話になっている店員である。
 そして、本題が始まる。
 
 「これ、何かわかる?」
 
 千博が机に出したのは、白紙の紙。
 
 「なに?とんち?」
 
 「素直にわからないと言ってくれればいいのに。相変わらずだな」
 
 「じゃ、それはなんだ?」
 
 「実のところわからない。一つ分かっているのは、この紙に文字が出ること」
 
 その話を聞いて唖然とする。
 
 「•••まじで、エスパーか?お前。1度俺に解剖されろよ」
 
 「荒っぽそうだな。で、この紙に君の名前がでてきた」
 
 「•••は?」
 
 「だから呼んだんだ。君の所有物じゃないのかい?」
 
 「なんで、んな一切れの紙が俺の所有物になんなきゃなんねーんだよ」
 
 「だよね。
 で、思って調べたんだけど」
 
 次は携帯の画面を見せた。
 それを覗くと、なにやら説明文が書いてある。
 
 ※
 
 神儀紙(しんぎし)
 術者に準えて文字を表す式紙
 紙に意思疎通を表す
 伝思紙 伝書紙••••••
 
  
 ※
 
 「なのではないか?」
 
 「それ誰が使ってるとか分からないのか?」
 
 「なぜ信じ込んだ」
 
 くすくすと笑いながら携帯をしまう。
 
 「てめぇー、またからかってるのか?」
 
 半ギレの俺に「まぁまぁ」なんて陽気にしているこいつがクソほど腹ただしくて、やり場のないのを適当に丸めて席に落ち着く。
 
 「でも、術者はいると思わないか?今君がここに来た理由が、それなんだろ?」
 
 「やっぱ、俺らのとこで何かあったの知ってて呼び出しやがったな?」
 
 「いやいや、何も知らないよ。残念ながらね。なんならその話しも聞こうか?」
 
 「お前に話したら碌でもないことになりそうだ」
 
 「毎度嫌われたもんだね。で、何があったの?」
 
 その会話で俺は詳らかに話してしまった。きゃつの言葉巧みな話の流れについていった俺が悪い。
 
 「んー•••調べてみよう。この街に興味が湧いた」
 
 「湧かんでええわ」
 
 「ちなみに君のあの無駄な行動の源であるそのさいとなんだが」
 
 「無駄じゃねーから」
 
 「僕もたまに見るよ」
 
 「見なくていい」
 
 「そう言われても見るけどね。
 その中の「記憶操作の職業」ってやつなんだが。君の学校にその噂があるらしいじゃないか?」
 
 「なんで知ってる?」
 
 驚いた表情と早口言葉のようになったこの言葉を、きゃつが気づかないわけもない。
 
 「あるんだね。わかりやすいな」
 
 少しつまらない表情をするものの、さすがに話せない内容なのでサラッと落ち着いてみせた。まぁ、食い下がるわけもない。しつこく聞かれるのも面倒だから「帰る」という言葉と代金を机に置いてその場を離れた。
 
 「もうそんなとこまでいってるのか」 
 
 部屋に帰ると1人そんなのとを口にした。ネット内を漁ったが、少しは浸透しているようだった。
 不確定なのは記憶操作を行っているのはどこの誰でどこでやっているのかという所だ。
 学校の特定は2つ3つ絞られていてもちろんうちの学校も書かれており、石山治に出る幽霊についても書かれていた。
  
 「ネットって怖いな」
 
 頭を抱えるべきは高城だろうが、何故か俺は頭を抱えていた。
 別に心配ではないのだが、手助けしてる奴が俺っという事実がまずい。
 最初に高城郁実と会ってここまで来るのに、相当フェイドアウトをかまそうとしていた俺がまた蘇る。だが、残念なことに俺の記憶を全消去されてしまうのでそれは出来ない。
 頭を抱える俺はその1日をすごく無駄だと感じながら眠りについた。

榎本千博という人物


 次の日。
 目を覚ますと、きゃつからメールが来ていた。
 
 高城侑実に会いたいんだが?
 
 しかも、深夜の3時に送られてきたメール。
 
 アホか
 
 学校が休みなことをいいことに夜更かしをするやつは、悪いやつなんてのはきゃつには効かない。そして、漕ぎ着けるのが早すぎる。
 
 そう。
 で、今案冴寮の前なんだけど
 
 「はっ?」
 
 思わず声に出してしまった。慌てて下に降りると玄関前で楓さんが対応していた。
 「おはよう、湊くん。お客さんだよ」
 
 「よっ」
 
 「よっじゃねーよ」
 
 慌てて部屋に引きずり込んで色々と避けさせようとした。
 
 「なるほど、そこまでして会わせたくないのか?」
 
 「当たり前だ。てめぇ、何考えてやがる」
 
 「久々にマジギレだね。
 でも。ほとんど情報が集まりつつあるこの状況では、君は何も出来ないんじゃないかな?」
 
 「どうゆう意味だ?」
 
 「「記憶操作の職業」っていうのは、実在するんだろ?」
 
 「知っているのか?」
 
 「オカルトを追いかけている振りは辞めなよ」
 
 演技なのはすぐバレた。
 
 「そうか。でも、君は関わっていないと思っていたんだが。オカルト絡みだと、すぐ首を突っ込むね」
 
 「決めつけは良くねーぞ」
 
 「言い分を聞こうか?」
 
 「俺はこの情報を必死に守ってる。もし漏れば、せっかく俺の楽しみが無くなるからだ。お前もよく知っているだろ?俺がそんなに情報を漏らさないことを」
 
 「確かに。君は表情や行動からは分かりやすすぎるくらいのやつだが、口からはあまり話さない。でも、この前のことはあっさり話したね。何故だい?」
 
 「情報の量が多すぎた。俺も迂闊だったよ」
 
 「なるほど。でも今回も情報量が多い」
 
 「それでは足りないな」
 
 「•••?」

 きゃつが口を止めた。今が攻め時。
 
 「俺はそれ以上の情報を持っている。そして、明かしていない」
 
 明かしたら存在がなくなるからな。
 
 「そして、それは俺だけが知っているからこそ意味を為している。見つけられない限り、お前は俺に勝てない」
 
 その言葉を叩きつけると、完全に沈黙する榎本千博。
 
 「あっ、お兄ちゃん」
 
 後ろから高城の声がして、その聞こえた言葉が背中を凍らせた•••。
 
 「あら、侑実ちゃんのお兄さんなの?」
 
 「おっ•••お前•••」
 
 「あぁ、すまん。そう言えば話してなかったな」
 
 「私の部屋に来て」
 
 俺達は高城の部屋に腰を下ろした。
 
 「でっ、何がどうなってやがる?」
 
 「隠すつもりはなかっが」
 
 「じゃ、あのメールはなんだ?そもそもお前、妹がいるなんて聞いてねぇ」
 
 「「そして、全部知ってたろ?」とでも言いたそうな顔だな」
 
 「全部演技だったのか?」
 
 「あの紙に関すること以外わね」
 
 「じゃ、高城と関わってるって分かったのは?」
 
 「それは、私が教えたから」
 
 「苗字が違うが本当に兄弟なのか?」
 
 「母親が違う」
 
 「じゃ、こいつの記憶操作に関する事は?」
 
 「出会った頃から知っている。原理はよくわからないが、僕もそれを手伝っていた」
 
 「知らないふりをしたのは?」
 
 「君はオカルトになるとすぐ首を突っ込むから。同じ学校の人に知られたってメールが来てね。まさか•••いや。案の定君だったって知った時は、いつも通りだと思ってね」
 
 「お兄ちゃんが湊さんの知り合いだって知らなくて」
 
 「もういい」
 
 頭の中で整理が付いて、もう話さなくていいといった。
 
 
 「で、この紙」
 
 「やはり、記憶操作以外にも色々あるみたいだ」
 
 榎本が携帯を見ながらそういう。
 
 「「ゆう」から聞いた、麻生という男なのだが」

 こいつ、呼び方が変わったな。
 
 「過去を調べた」
 
 「そういえば、存在を消された人っていうのは他の人の記憶に残り続けるのか?」
 
 「えっ、それは」
 
 「全く」
 
 榎本が胸ぐらを掴んできて怖い顔をする。
 
 「デリカシーがないな」
 
 「すっ•••すまん」
 
 「お兄ちゃん」
 
 高城の声で俺から離れる榎本はまるで別人。
 
 「そうゆう質問はね、場をわきまえた方がいいよ。親友」
 
 その言葉はいつもからかうような言葉で話す声ではなかった。記憶操作という、人間には遠く理解できないような事柄を理解する人間の言葉に聞こえた。
 
 「でっ、調べた過去ってのが?」
 
 「あぁ。獣化出来るそうだ」
 
 「はっ?」
 
 また訳の分からないことを。記憶操作ってのも、もう慣れたと思っていたが。今度は獣化だ?でも、それはあのサイトに書かれていたのと似ている。
 
 「まさか、人間を食ったことがある•••とか?」
 
 「あるそうだ」
 
 あのサイトに書かれていた「夜中に束暮町を徘徊する警官」の正体は恐らく麻生さんだ。
 
 「そして、この町は何かを隠している」
 
 「隠している?」
 
 「何かはわからないが、大人ですらこんなことを隠して生きている。実際、麻生という男だがこの町の住人何人かを食っている」
 
 「そんなのニュースにすら•••」
 
 「だから隠していると言っているんだ。オカルト以外が疎過ぎないかい?」
 
 「そんなこと•••」
 
 高城がみた麻生さんの記憶の中にそんなシーンがあっただろうか?
 だがあれは、記憶の泡に侵入しなければ見ることの出来ない映像。確かめようが無い。もう既に、記憶の根源を消されているのだから。
 
 「でも、お前。その情報とこで?」
 
 「詮索するな。おそらく、ゆうの能力ですらこの町の隠し事の可能性がある」
 
 「それって、もう俺は•••」
 
 黙り込んで部屋に沈黙が走る。
 俺はもしかして、高城侑実と関わった時点で巻き込まれているってことか?こんなでかい事に。
 俺の目には今、兄である榎本の言葉に不安そうな顔をしている高城の顔が映っていた。
 俺は、こいつの後ろでこいつを支えると誓ってしまった。自らの欲を満たすために。
 
 「まぁ、いいよ。僕はゆうが無事ならなんでもいいから」
 
 「•••お兄ちゃん」
 
 表情からは不安が。言葉からは安心が。そんなふうに読み取れた。
 だか、その言葉は俺のことはどうなってもいいということか•••。

高城郁実の記憶操作

高城郁実の記憶操作

  • 小説
  • 短編
  • ファンタジー
  • 青春
  • ミステリー
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2018-01-06

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted
  1. 出会いは噂話から
  2. 再び出会うことで
  3. それは涙と笑顔を
  4. 苦い自己満足
  5. これは始まりだろう
  6. 次への1歩
  7. この現実を
  8. 榎本千博という人物