碧い花、 2

いいじゃないか!

坊ちゃんの先生にはいろいろ世話なってる、んーっと食べな。足りなきゃ持ってくるからな。

「子供が、女房が、極道に居るとしがらみを残す、迷いも生じる。こんなこと能書き垂れるやつは(四代目山口組組長・竹中正久が云ったことを念頭に云ったか定かではない、後にヒットマンに殺されるがその者のうちに源さんの組が送った者が含まれていたかも定かではない)、ほんとは弱いんや勇気がなんやアホなんや。わしは女房子供に普通な生活をあげたいんや」

組同士の抗争で命のやり取りを目の当たりにし、殺されて残された女房達の涙を見るにつけ、当時、若手武闘派組長であった源さんは組を突然解散してしまう。その時の舎弟が同じ線の戸越銀座にいてやはり真面目な稼業に付いている。

源さんは本名ではない、みなが付けた愛称名です。牛若丸を守ろうと命を張った弁慶の話になると泣くからでした。
この商店街のトリ吉に見込まれ生計を立てやがて今の奥さんと結夏さんにも恵まれるようになったこの者もこの地に根を下ろす。


真の父は、水曜と金曜は近くの昭和医科大学で講師を務める町医者でした。

カナちゃん好きなのかい?
でっかい声!強そうな眼光、五十近くにはとても見えない源さん。

お父さん!
止めようとさえぎった娘ユカさんもでっかい目。

いいじゃないか。俺にも覚えがある。あちらは、お父さんがお偉いさんだからなぁ・・・・・・。
威張ってるんですか?ヤバいな、怖いのかぁ・・・・・・・。
いや、政府系の日本政策投資銀行の部長さんでな、月に三・四百万は下らないだろう。
ワオすげ!そんなリッチなんですか。
給料は二百万円とか云ってたな、審査部長さんだから他に色々入って来るし・・・・・・・。
政府のですか、いいな。幕府じゃ金持ちになるわけだ。
今は株式会社化されてるけど、元々は政府直属の金融機関だ。それにそこの親は実親じゃ・・・・・・・・。
お父さん!
店!店―!
後を追うあっちゃん、歩調が二人三脚のようにスタスタ同じ、店裏扉に二人とも消えてしまった。

怖いお父さんなの?実親じゃないってどういうこと?
後から来たお父さんだって。私が云ったなんて云っちゃダメだよ。普通に優しいよ、チョコとか菓子パンもくれるし・・・・・。
そうですか。はい、云いません。
敬語やめろ、タメ語でいいから。
はい、あ、うん!
カナちゃん小3のとき来たお父さんね。その新しいお父さんの話になるとあまり話したがらないんだよね。だから、詳しくは知らないんだ。
シンくん、その時どこ小学校?
雪が谷小。ゆなさんたちは?
小池小だよ。
そっか、谷を一つ越えた所同士だ。でもゆなさんもカナさんも頭良いよな、双葉高なんて。
見掛けはね、“一人一人を大切にし,他者と共に生きる”、つー校是があって、シスター先生の宗教の時間も週一であるけど、どうだろう?結構バトルかな。

あ、お祖父ちゃんが云ってた、「攻撃性は本能か?あふれ過ぎれば暴力となって噴き出す。その危ういバランスをとるために、法律や規範が作られた」。毎日だったか?夕刊2003年6月22日付記事だって。

へー、よく覚えてるね。そうかもね・・・・・・。

うん!その日付はママの誕生と同じだったし、内容が印象的な話で。毎日、暴力、恐喝、イジメあり過ぎるじゃん、なんでそうなるんかなって考えてところに聞いたからハッキリ覚えてるんだぁ。

シスター先生たちも云ってた。法を守るのが法治国家。法秩序に反するものは動物以下の以下、人間の証じゃないって。
ほぉー、ムズィね。そうかもね。
六中だっけ?
うん、洗足池の隣の。
シンくん、彼女は?もうした?
してないよ!彼女居ないの。ゆなさんは?
ノーコメント。並みにみんなしてけどね。
ヤバ、塾だ!じゃねー!御馳走さん!ありがとー、源さんによろしくー!ホンジャー!
バイバーイ。

春休み明けは、中3だ!いよいよおれの天下だ!
前年の夏終わりに三年生引退に伴い真がバスケ部キャプテンの指名を顧問から受けていました。

春は、寒暖とのせめぎ合い、夏の太陽を呼び込むプレリュード。
お空は辺りをピンク色に染め上げ、その許では、ごった返すお花見の人たち、ここ洗足池に位置する小高い桜山。
朱色な桜の照り光が跳ね上がり、地上に近い天を朱へと染め映る、春本番となっていました。

きもちいー!
さっと頬を撫でゆく風くん、草木も息吹き、鳥さん達も舞い踊り、みなが力みなぎる、空気感。

ドッボーン!舞い踊ったか?
池に飛び込みました。
上がって来た姿はブリーフ一枚の裸姿、さむそー!
酔っ払いでした。この予期せぬイベントに一斉に人達の輪が出来る。
そそくさと裸紳士は足早に、同僚と思われる者と共に、フラフラと何かブツブツ云いながらスタコラ行ってしまう。

あのドボーンさんから垂れた水でぬかるんだ土が所々に。踏まないように、二股、三股、と跳び跳び歩くと。

あら!シンくん!
あ、カナさん!

偶然、天が導いたイベント。
ラッキーにしなくちゃ!とっさに心に決める真。

背高くなったー!ダンディ卵くん!
とっさにそう印象を受けた佳菜。

随分伸びてない!いくつ?
184。コメ縦に食べてるから。
デカ。じゃ、横に食べたら横長デブになるの?
胃袋が縦に修正してくれるから。
負けず嫌いだね。
正直なだけ。
もお! 
アハハハハハハハハハ・・・・・。
思わず顔を見合わせ笑うふたり。

肩に乗っかた花弁を取る真。
それを手に受け取る佳菜。

私を忘れないで、と云うフランスの花言葉あるんだって。うちの学校のシスターが云ってたんけど、確かに、咲いたと思ったら直ぐ散る命を惜しんで。
そうなんだぁ。もう一つ!ポジティブな話もあるんだよ。
どんな?
桜の樹はブッ太いだろ。他の木よりもいち早く花を咲かすことによって身を守ってるんだって。
花が?身を守る・・・・?

碧い花、 2

碧い花、 2

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2018-01-05

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