水色ドロップス
切磋琢磨。だけどすり切れてしまいそうで、どうしようもなく虚しい時ってあるよね。
生きるってのは、大変だ。
空を映す水たまりをひょいと飛び退く。
それだけで、偉大な気持ちになれたころ、なんにでも臆せずにいられた気がする。
今更のように、瑞帆はしみじみ来た道を振り返る。
まったく嫌になることばかり。
肩を竦め、雑踏に紛れて行く。
いつからだろう、夢を見なくなってしまったのは。
人を愛するのが怖くなってしまったのは。
地下鉄の階段を小走りで降りて行く。
何かに急かされるようにここまで生きてきた。
仲睦まじくしている二人連れとすれ違う。
あんな頃が、自分にもあった。
年寄り臭いことをついつい思ってしまう水木だって、まだまだ青二才の部類に属している。
成りたい自分があった。
大好きで手放したくない人がいた。
素直に、自分の気持ちを表すことが苦手になったのは、誰のせいだろ?
正しいことも曲げなくてはならない、それが社会人。それが大人。それがルール。
ついて行けない、と思っても、生きていかなければならない。
不便だ。
悲鳴を上げたくなる。
固いシートに身を任せ、軽く目を閉じる。
パッと広がる景色。
「大丈夫?」
誰かの問う声が聞こえてきて、瑞帆は眉を顰める。
「飴ちゃん、食べる?」
昔、祖母がそう言って、落ち込む瑞帆に、雨が詰まった袋を見せ微笑んで励ましてくれた。
大好きで大好きで、でも、大きくなるにつれて、それが煩わしくなっていった。
仲たがい。そして永遠の別れ。
カバンの中、揺れる携帯。
今は誰とも話したくない気分の瑞帆である。
その優しさに触れたら、ボロボロと零れてしまうものがある。
「悲しいの? 怒っているの? 寂しいの? 疲れているんでしょ」
誰かが問う。
浮かんでくる顔、顔、顔。
「泣いたっていいじゃない。一緒にわたしが泣いてあげるよ」
言ってくれる人がいる。
頑張ることは悪いことじゃない。でも頑張りすぎるのは、毒になる。
見えない向こう側、本気で心配してくれる人の顔が浮かび、瑞帆は目頭が熱くなる。
「今日、ちょっと嫌なことがあってさ」
「今、一人?」
「うん」
「一人でいるなよ。今から会おうよ」
「良いよ」
「私が会いたいの。彼氏の愚痴とか聞いて欲しいし」
嘘だ。
元日。
きっと彼女の隣には彼氏がいる。
「そんな顔をしなくても大丈夫。ほらこれを食べて、元気出しなさい」
口いっぱいに広がった甘さと、優しさと、涙の味。
頑張れ自分。頑張れみんな。くじけても立ちあがれる。
ほろ苦く酸っぱいでも甘い甘い水色のドロップス、口に放り込んで。
見えない景色の向こう側で待っているものを探しに……。
水色ドロップス
勝つことばかりが良いことじゃない。負けても、泣いてもそれを包むものが、あなたにもあるはず。