モノクローム
『もう、五年ほど前からだろうか。世界は徐々に白い灰に埋め尽くされている。建物が街路が皆、脆く変わってゆくのだ。色が失せ、白い砂糖菓子のように変わり、やがて風が削る灰となる。廃墟。海沿いからじわじわと、街は崩れていった。理由も止める術も見つからないまま、世界はスローモーションで終わりへと向かう。』
藍様の小説(http://slib.net/80477)の2次創作です。
甘いシュークリーム
街が灰に変わり、溶けていく。
脆く、脆く、脆く、崩れていく。
木々は枯れ、道は無くなり、街は灰と化す。
生まれ育った街がどんどん風化していく。
そんな現場を前に、私達は何もできない。
そもそも上がお手上げしている。
私達はもう、滅ぶしかないのだ。
***
私は今、とても幸せだ。
たとえ誰が何を言おうと「幸せだ」と断言出来る。
「ほら。お姉ちゃん、シュークリーム買ってきたよ!!」
「……ありがとう。」
シュークリームと言っても、それは小さいプチシューだ。
小さなシューに、たっぷり詰め込まれたクリーム。
口の中に入れると、甘いクリームがとろけて、とても美味しい。
「……ねぇ、しずく。これいくらしたの……?」
「……いいよ、お姉ちゃんはそんなことは気にしないで。ほら食べて食べて!お姉ちゃんが食べないなら私が食べちゃうよ……!」
ーー実際、このシュークリームはとても高価だ。
滅びゆく世界。その中でも『既に滅んだ後のこの街』では甘味など簡単に手に入るものではない。
だけど、私は死に物狂いで手に入れた。
手に入れる必要があったのだ。
「……うん、美味しい。……ありがとう、しずく。」
「よかったー!!これ手に入れるの大変だったんだからねー!!」
「え……、やっぱり……。」
「でもお姉ちゃんが美味しいって言ってくれるならそれでいいの!!」
「…………ほんとに、ありがとう、しずく……。」
「どういたいたしまして!」
そう言って、私はお姉ちゃんに微笑んだ。
ーーお姉ちゃんはもうすぐ死ぬ。
だから、私は少しでも安らかに、幸せになってほしいんだ。
街が灰に変わる。滅んでいく。
原因不明のこの『世界の終わり』。
……そんなものに人が順応するわけがない。
五年前に始まったこの『風化』。
世界が滅びに一歩一歩進んでいった。
そして今、人も滅びの道を歩んでいるのだ。
原因不明の奇病。
世界規模で起こった『風化』と同じことが、人間の体に起こる。
そんな謎の病に私のお姉ちゃんは犯された。
そりゃあこんなボロボロの街に住んでいたらそうなる。
建物もほとんどが全て崩れていて、私たちの住んでいる家も壁が無いところがある。
白い何かがずっと舞っていて、とても人が住める環境ではない。
……だけど、私たちはここに住む。
何故なら、ここにしか、私たちの想い出がないから。
別に外の街に避難してもいい。
沢山苦労するだろうけど、そこそこ幸せに暮らせるだろう。
ーーでも、それじゃダメなんだ。
二人が一緒じゃないと、ダメなんだ。
そもそも『風化』していくお姉ちゃんを街から出すことは出来ないし、私もお姉ちゃんから離れることはない。
……ほっておけない。
「……ねぇ、しずく……。」
「ん?どうしたの、お姉ちゃん。」
「……ごめんなさい、なんでもないわ……。」
「……わかった!」
「……シュークリーム、美味しかった。」
「そうだね!」
私は誰に何を言われようと、幸せだ。
それは断言出来る。
滅びゆく世界の滅びゆく街。
私は、お姉ちゃんと甘いシュークリームを食べている。
モノクローム
こういう世界観好きです。
藍さん、すみません…。