クリスト・ヘアーの夜

栗城はる

 森の生きものたちが、みんな寝静まった夜のことです。降っていた雪はやんで、空の星たちは、競うように光りかがやいておりました。その中で、ただひとりだけ目がさめていた、フクロウの大じいさんは、木々の上を飛ぶ赤いそりを、その大きな両目でしっかりと見つけました。
(ああ、今年もクリスト・ヘアーがやって来てくれた。これは、挨拶をしなけりゃならんな。)
 フクロウはこう考えて、それから、森でいちばん高くて目立つモミの木の上に飛んでゆき、そのてっぺんへ腰かけました。
 クリスト・ヘアーとは、クリスマスイブの晩に、森の生きものたちのところへやってきて、それぞれへプレゼントを配るおじいさんのことです。彼は、人間でいうところの、サンタクロースというものでしたが、森へ来るために、野うさぎの見た目をしているのでした。
 森に住む生きものたちの間では、彼は、ふつうの野うさぎよりもひとまわり大きく、雪のようにまっ白な毛で、長いひげをもつのだと言い伝えられていました。赤い上着を着て、さとう菓子でできたネズミ達――トナカイでは、あまりに大きすぎましたから――が引くそりに乗ってやってくるのです。森のなかの生きものたちは彼のことを、冬至のための、太陽の使いだと信じておりました。
 この森に住む生きものの中で、クリスト・ヘアーに直接会ったことがあるのは、このフクロウだけでした。というのも、彼は自分のことを、森でいちばんえらく、またいちばん長生きな動物だと思っていたからです。じっさいに、長生きだという点については、本当のことでしたし、夜遅くに空を飛ぶヘアーを見つけられるのは、フクロウくらいなものでしたから。
 そりに乗って、森へやって来たクリスト・ヘアーは、いちばん高いモミの木の上に、金色に光るフクロウの両目を見つけました。それから、そりの進む向きを変えてそこへ近づくと、ネズミにつないだ手綱をぐいと引いて、進むのを止めました。それから高い声で
「よい夜を、ミスター・オウル!」
 と言いました。フクロウのほうは、一度ゆっくりまばたきをして、おじぎをし、ホッホウ、と大きく鳴きました。これが二人の、毎年のよい挨拶だったのです。
 それからフクロウは、少しかしこまって、ヘアーにこう言いました。
「太陽の使いのクリスト・ヘアーよ。あなたは、今年生まれた私のひ孫にだって、プレゼントをくださるのかね。」
「ええ、ええ。用意してありますとも。あなたの孫は生まれてから今年じゅう、よい行いをしていたでしょう。私はしっかりと、見ておりましたからね。」
 フクロウはそれを聞いてありがたいと思い、からだの羽をしぼませて「ホッホウ」とまたひとつ鳴きました。ヘアーは嬉しそうにうなずくと、また手綱を引いて、そりを走らせてゆきました。ヘアーが飛んでゆくのを見おくって、彼は目を閉じました。さすがのフクロウでも、クリスマスの夜だけは、狩りをするのをつつしんでいたのです。

 そりに乗ったクリスト・ヘアーは、フクロウに挨拶をすませた後、森のなかをまっすぐに進んでいました。それから、ある小さな家の上で、ネズミの手綱をぐいと引きました。お菓子のネズミは、進むのをやめて、きょろきょろと、せわしなく辺りを見回しています。その、木でできた緑色の屋根は、アナグマの親子の家でした。
 ヘアーはプレゼントのふくろを持って、そりから屋根へひょいととび降りました。それから屋根の上を、雪ですべり落ちないよう、よく注意して歩き、煙突からその大きなからだを、すいとすべりこませました(彼が煙突につっかえる心配はありません。なにしろヘアーは野うさぎですので、せまい穴が得意でしたからね)。
 彼は、音を立てないようしのび足で、そっとアナグマたちの寝床へ入りこみました。それから、ふくろの口をほどいて、中からプレゼントを取り出しました。三びきの子どもたちの枕元には、木の実でできたおもちゃを、それからお父さんとお母さんのアナグマにも、てぶくろとマフラーのプレゼントを置いておきました。
 ヘアーは帰ろうとして、だんろの前の机の上に、カップに入ったミルクと小さなクッキー、それから手紙が置いてあるのに気がつきました。クリスト・ヘアーは、いくつかの家で用意された、こういったプレゼントを、たいそう喜びました。彼はミルクとクッキーをたいらげ、それから、そりを引くネズミたちにもあげるため、残したクッキーのかけらを、いくつかポケットに入れました。手紙は後で読むために、胸のポケットに大事にしまいました。
 クリスト・ヘアーは、また音をたてずに家を出て、そりに飛び乗り手綱を引きました。そうしてまた小さな声で、(心やさしきアナグマ達に、よいクリスマスを!)と言い、飛んでゆきました。
 クリスト・ヘアーは次に、レンガでできた、イタチの家へ着きました。彼は森の中でいちばんの嫌われものでした。というのも、彼はたいそういたずら好きで、よく小さな生きものをおどかしたり、森の木の実を、荒らし回ったりしていたからです。けれどクリスト・ヘアーは、彼がかくれてよい行いをしていたことも、よく知っておりました。道に迷ったモグラを家へ送りとどけたり、リスの子が川に落ちたのを助けたりしましたし、また一度、子ウサギとりの猟師を追いはらったこともありました。それでクリスト・ヘアーは、彼にはとびきりの贈りものをしようと思っていたのです。
 ヘアーはいったん屋根の上へそりをとめました。それから、えんとつから入って(ちょうど降りた所へ、イタチの仕掛けたインクのわながありましたが、それに引っかかりはしませんでした。ヘアーはこういったわなには、慣れっこだったのです。)イタチがベッドでぐっすりと眠っているのを見つけました。そして彼のそばへ、プレゼントの入った包みをそっと置いておき、家を出ました。
 包みの中には、木でできた小さなはた織り機が入っておりました。それは、イタチがずっと前に使っていた、ぼろのはた織り機の、まったく同じ新品のものでした。そりに乗ったクリスト・ヘアーは、また小さく(森の親切ないたずら者にも、よいクリスマスを!)とねがいました。
 クリスト・ヘアーが次にやってきたのは、モグラの家でした。モグラの家は地面の中にあるので、えんとつの代わりに、地面から細い空気入れのパイプが何本か突き出ているだけでした。それに、地面につけられたモグラの穴の入り口は、ヘアーにはあまりに小さすぎて、入るのも難しいほどでした。そこでヘアーは、さとう菓子のネズミをそりから外し、その二匹に、モグラへのプレゼントを渡しました。
 ネズミは入り口から入ってゆき、迷路のように細い家の中を歩きまわって(軽いからだなので、足音はひとつも立ちませんでした。)彼らの寝床を探しました。長いベッドには、六ぴきの兄弟が並んで、ぐっすりと眠っています。クリスト・ヘアーのネズミたちは、その一人ひとりへ、中身をまちがえないようよく注意して、全員の枕元にプレゼントの包みを置きました。もちろんモグラのお父さんとお母さん、それから先月生まれたばかりの、小さな末っ子にも、プレゼントを忘れませんでした。ネズミたちは家から出て――机の上に置いてあった手紙も、忘れず持ってゆきました――ヘアーのもとへ帰りました。仕事を済ませて出てきたネズミを、ヘアーはよくほめました。
「よくやったね、私の仲間たち。彼らモグラの兄弟は、来年も変わらず仲よくしているだろうかね?」
 ネズミたちはうなずいて、ちゅうとひとつ鳴きました。それを聞いてヘアーは、たいそう嬉しそうに、にっこりと笑いました。
「それは良かった。小さなすばらしい家族にも、よいクリスマスを!」

 クリスト・ヘアーはそうして、一晩中かけて、森じゅうの生きもののもとへ訪れました。プレゼントのふくろの中身は順調に減ってゆき、すべて配り終えるころには、空がぼんやりと明るくなりかけておりました。ヘアーは、すっかり空になったふくろを見て、幸せそうなため息をひとつ吐きました。
「今年の仕事は、どうやらこれで終わりのようだね。きっと来年も、すばらしい年になる。そう思うだろう?私の小さな仲間たちよ。」
 ヘアーはにこにこと嬉しそうに、ネズミたちに語りかけました。ネズミもそれを聞いて、ちゅうちゅう、ええその通りですと、喜んでこたえました。
「森に住む私の兄弟たちよ!君らによいクリスマスと、一年の幸せが訪れんことを願おう!」
 クリスト・ヘアーは高らかにそう言って、ネズミの手綱を引きました。
 夜の向こうへ飛んでゆくヘアーのそりの後には、小さな氷のつぶが尾をひいて、きらきらと光っておりました。あるいは、それは本物の、星々のかけらだったのかもしれません。
 次の日の朝、空が明るくなるころ、森は静かな雪につつまれておりました。もう少しで、生きものの子どもたちも起き出す頃でしょう。
 次の日クリスト・ヘアーは、どうしているのかですって?きっとそれはもう、暖かな暖炉のそばで、ゆっくりとお休みになっていることでしょう。温かいワインを手に、生きものたちのすてきな手紙を読みながら!

おしまい

クリスト・ヘアーの夜

クリスト・ヘアーの夜

とある森のクリスマスのお話です。

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