鎮守府Aのクリスマス - 鎮守府Aの物語
艦これ・戦艦少女Rの艦たちが登場する短編二次小説です。両方の艦(娘)が同じ鎮守府にいるということで統一的に扱っています。本編で説明していますが、同名艦の場合、艦これのほうをC~、戦艦少女RのほうをN~としています。
日本語以外の言語での発言は (英)「」 などとして表現しています。
設立から3年経過の鎮守府
検見川浜にある鎮守府A(千葉第二鎮守府=深海棲艦対策局千葉第二支局)。設立から3年も経つと初期に在籍していた艦娘達も頼もしい戦士になっていた。彼女らの活躍により評判が上々の同鎮守府には次世代型の艤装の試験配備および外国艦船ベースの艤装の配備が許可され、艦娘の着任が増えた結果すっかり大所帯になっていた。
人数が増え始めた当初、同名鑑の着任者も増えたことで担当者を呼ぶ際に紛らわしい局面が出始めた。今後を懸念した提督のアイデアで現行型の艤装装着者(艦娘)と次世代型の艤装装着者(艦娘)を部署を設けて配属させるという組織変更することになり、今日に至っている。つまり現行型艤装の艦娘達(初期艦である五月雨始めとする)はC部署(Current)になり、次世代型艤装の艦娘はN部署(Next Generation)の配属という具合である。
同名艦がいる担当者はC何某・N何某と称されるようになった。同名艦のいない艦娘はそのままだ。なお、その手の呼び方や影響など気にしない者達はその場の流れで同名艦の艦娘を呼ぶ。
おおよそ大きな問題なぞ起きておらず、実のところ提督の心配は意外と無用だった。
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鎮守府Aの初期鑑であり、ながらく秘書艦を務める五月雨は着任当初は中学2年生だったが、C部署・N部署すべてをまとめる総秘書艦となった現在は高校2年生の少女に成長していた。彼女と同級生だったC時雨達は五月雨と同じ高校に進学していたため、現在でも鎮守府Aに在籍している。
一方でN部署の最初の秘書艦はN白雪だ。五月雨の時の例通りならば、初期艦であるN吹雪が秘書艦になるはずだったが、秘書艦はN吹雪の同型艦かつリアルでも妹のN白雪に任命されることとなった。
(その理由はN吹雪は提督との最初の印象が最悪だったためなのだが、それは別の物語)
その後N部署にはC部署の人数に相当する艦娘達が配属されることになった。N部署に配属になった艦娘の顔ぶれたるや日本人だけではない。海外からの留学生や、外国の艤装装着者の関連団体からの派遣や普通に日本国内に移住して志願した外国人も艦娘となり所属している。
N部署ができて1年程経ち、配属になった艦娘達はすっかり今の生活に馴染んでいた。それは日本人だけでなく海外艦船担当の外国人たちも同様である。彼女らの中には家族引き連れて検見川浜のある美浜区に移住する者もおり、そんな一家が友人を誘って移住したりと、同町を絶妙に国際色豊かにしてしまうほどだ。
様々な人間が鎮守府を、町を生活の一舞台として過ごし地域に溶け込んでいく。周辺地域のイベント事に顔を出す艦娘の中に、海外出身の者が増えたことに市民も見慣れてきていた。
クリスマスパーティー前の鎮守府
鎮守府Aが設立されて以降、毎年年末に近隣の市民と鎮守府Aの合同でクリスマスパーティーが開催されている。
とある日、鎮守府内に近隣住民を招いてパーティーの実行委員会の打ち合わせが開かれた。それに鎮守府代表として参加したのは妙高と逸仙の二人だ。
二人は住民の帰り道を見送った後、本館に戻る道すがら打ち合わせ中に触れられた話題を口にし合った。
「では飾り付けの道具は○日に住民の方々が運んでくるのを受け取ればいいのですね?」
「えぇ。お願いできますか逸仙さん。私、ちょうどその日はどうしても外せない用事があって鎮守府に来られないので。」
「かしこまりました。それにしても……提督が参加できそうにないというだけであそこまで落胆されるなんて思いもよりませんでした。」
「昨年もその前も提督は必ず参加なさっていましたからね。区の方にイベントの開催を掛け合ったのも提督でしたし、なんだかんだでこれまでの様々な催し物には提督はほぼ顔を出して住民の皆さんと交流なさっていましたから。結構信頼は厚いかと。」
「フフ、さすが提督ですね。」
妙高が回想する提督の姿に、強く感心をする逸仙。口にした妙高も同意しかえして二人はほんわかとしたまるで主婦の井戸端会議のような雰囲気を作り出す。とはいえそう感心してのんびり思いにふけっている場合ではないことは二人とも現実問題として認識していた。
鎮守府の最高責任者、イベントの発起人が参加できないとなると地域への印象悪化や艦娘達のイベントにかける士気が下がりかねない。そう考えたのだ。
「でも提督が当日参加できないとなると、やはり問題でしょうね。」と妙高。
「私もそう思います。」
逸仙は、一部の艦娘が文句を言うかもと思い浮かべながら同意した。
C部署の秘書艦である妙高、そして現在N部署の秘書艦の一人であるである逸仙の二人は、パーティー開催の連絡を鎮守府内でするにあたりタイミングや言い方などが気がかりであった。
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翌日、提督が鎮守府に出勤してきた。妙高と逸仙は提督にパーティーの実行委員会での打ち合わせ内容を伝え、鎮守府内での連絡の仕方について確認しあった。
「そうか。二人ともご苦労様。鎮守府内での全体の告知ねぇ~。別にいつやってくれてもかまわないですよ。というか俺の口からみんなに言うつもりです。準備は出来る限り手伝うけど、俺当日参加できそうにないからせめて上司らしくキリッと言わないとね。皆に示しがつかないよ。」
「提督……それもそうでしょうが、多分皆は怒るか愚痴るかしてくると思いますよ。」
「そうです。あなたを身内のように慕っている娘もいるのですし、クリスマスパーティーという特別なイベントであなたが参加できないとなると……どうフォローしたらよいか検討もつきません。」
妙高と逸仙のW口撃に提督は咄嗟に慌てだした。
「え!? いや~前も俺参加できないイベント事ありましたけど、皆なんだかんだで仲良くやれて楽しく過ごせたって聞いてますよ? 俺いなくても大丈夫でしょ?」
提督の驚き様に妙高はため息をつきながら言った。
「それでは試しにご自身の口で連絡してください。私達の考え過ぎならそれはそれで良いと思いますが。」
「わ、わかりました……。」
二人とも考えすぎだよ、と提督は思ったが、同じ懸念は数日前に五月雨とN白雪との何気ない会話の中での反応でも有ったことをふと思い出した。
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その日のC部署の秘書艦は五月雨、N部署の秘書艦はN白雪だった。二人を伴って工廠への顔出しから本館に戻る途中、五月雨が話題を振ってきた。
「そういえば、今年もクリスマスパーティーするんですよね?」
「あぁ、やるつもりだよ。」
「うわぁ~今から楽しみです!」
提督の短い肯定を受けて五月雨は笑顔を120%発揮して喜びを表す。二人の会話にワンテンポ遅れて反応したN白雪が尋ねた。
「あの……クリスマスパーティーって?」
「あぁ白雪は知らないんだっけゴメンゴメン。うちが出来た初年度から毎年年末に鎮守府とこの辺りの住民の皆とでクリスマスパーティーを開いているんだ。」
「へぇ~、素敵ですねぇ~!」
「だろ?艦娘や周辺住民だけじゃもったいないから、白雪もぜひお友達を誘ってきてくれ。」
「はい!お姉ちゃんや初雪たちもきっと誰かしら誘ってくると思います。」
提督が説明すると、やっと白雪も笑顔を満開にさせる。
その後も続く説明や思い出語り。ふと五月雨が過去の話に触れた。
「そういえば、最初に提案したのって提督と、あの時の……那珂さんですよね。二人で美浜区役所に乗り込んでいったの覚えてますよ~。」
「那珂……あぁ。あいつはほんっとイベント事好きだし皆を引っ張っていったな。実はほとんどのイベントの提案ってあいつ発起なんだよ。俺はただハイハイって圧倒されてただけだわ。」
「フフッ、提督ってば那珂さんに頭上がらなかった感じでしたね~。」
提督と五月雨が思い出話に更け始めると、話題に乗れないN白雪はただ微笑を浮かべて二人を見つめるのみだった。その視線のよろしく無さに気づいた提督は咳払いをしてすぐに話題を戻す。
「んん! 過ぎた話は置いといて。ともかく近いうちに皆に話すよ。一応このあたりの住民との共同イベントだから、区のほうにきちんと情報載せてもらわないといけないし、いざやるとなると準備大変だ。」
「それじゃあ私準備の音頭は私にお任せください!」
「あぁ、よろしく頼むよ五月雨。他の秘書艦の皆と役割分担も任せるから。」
「あ、あの! それでしたら私も何かさせてください!」
提督に指示を受けた五月雨が意気込み、それに提督が頷いて意思疎通が見られると、N白雪が顔を上げて叫んだ。すると提督は微笑みながら言った。
「もちろん白雪にも手伝ってもらいたい。N部署は外国出身の人もいるから、日本語のできる逸仙さんやレナウンさん達とうまく相談しながらやってくれ。まぁ全体的な取り仕切りは五月雨がやってくれるから、このベテラン艦娘になんでも聞いて頼っちゃってくれていいぞ~。」
「ふぇっ!? も~提督ってばぁ~~! 私にだってキャパの限界ありますってば~!」
「ア、アハハ……五月雨さんは頼りになるので、私にとっては頼れるもう一人のお姉ちゃんって感じです。」
「も~~白雪ちゃんまで!」
五月雨を右から左から突っ込んでからかいまくる提督とN白雪。五月雨はアタフタオロオロするしかできなかった。
「あ、そうそう。俺23日から25日まで本業の方の仕事が大詰めで来られそうにないから、よろしく頼むよ。」
「え?」「え……?」
「まぁ君たち学生は学校が冬休みに入って時間があるだろうから、できれば俺の代わりにクリスマスパーティーの準備の指揮をとってくれるとありがたいな。」
にこやかにそう口にする提督だったが、五月雨とN白雪がまったく言葉を発さなくなり、互いに顔を見合わせているのに気づいた。
「あれ? どうしたのさ二人とも。」
そう提督が尋ねると、二人はまったく同じ返しをした。
「提督、参加してくれないんですかぁ……?」と五月雨。
「提督は参加してくださらないのですか……?」とN白雪。
提督は二人の雰囲気に戸惑いつつも頷いて返事をした。その後二人は提督が話題を切り替えて振っても曖昧な受け答えしかしなかった。提督としては準備や取り仕切りを任せ自分はやらないと捉えられて悄気てしまったのかと思い、何度か謝ったがそれでも両隣の少女は暗い雰囲気を拭い去ろうとしなかった。
逸仙達そして五月雨達それぞれの雰囲気をピースとして当てはめてみて、提督は嫌な予感を覚えた。自分がいないことはそんなまさか違う方向で艦娘達の士気に関わっていたのかとようやく実感が湧いてきた。しかし実際に反応を見るまでは信じられない。
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鎮守府創設初期の頃、提督はすべての艦娘に対して等しく接し交流できていたが、もともと鎮守府全体組織だったC部署も人数が30~40人程を超えたあたりから提督の社交性キャパシティに限界が生じ始め、ほとんど話したことがない艦娘も出始めた。その傾向はN部署にあたる次世代型艤装の艦娘達の着任が一気に増えてさらに顕著になっていった。
それでもどうにかして艦娘となった人らと交流を図ろうと努力し続ける提督の姿は、組織化されて久しい秘書艦達の心を打った。提督の社交性スキルの補完と交流の志を継ぎ、提督があまり話したことがない艦娘との対話は秘書艦達の仕事の一つとなり、提督を支えている。
そのような状況ゆえ、提督は自分がいなくても、あまり艦娘達は困らないだろうと高をくくっていた。その結果、会議室に集まった艦娘達、そしてSNSのメッセージ機能を使って在籍する艦娘全員にクリスマスパーティーと自分のスケジュールを告知した時、その反応に度肝を抜かれ圧倒されることとなった。
「えええええーーー!!? 提督クリパ出ないのーーー!?」
「提督参加されないんですか!? なんでなんで???」
「提督くん参加しないんじゃ誰を頼ればいいのさーーー!?」
「司令官……。」
「お兄ちゃんがいないと私ボッチだよぉう……。」
(伊)「あ、あんたがいなくたって別に問題ない……けど、いてくれたっていいのよ? ふん!」
(独)「ふむ、アドミラルは参加しないと。トップとはかくも大変なのだな……。私達だけで楽しむのはさすがにな。」
(独)「アドミラルもとい日本の大人も大変ね~。」
(仏)「よし、アミラルの会社に掛け合おう! 行くぞ、グラース、ファンタスク、ヴォークラン!」
非難や嘆きなど喜怒哀楽の怒哀だけが渦巻く、ちょっとした炎上状態になってしまった。会議室の場では秘書艦の妙高や逸仙、C高雄やN高雄らが聴者たる艦娘達をなだめ、チャット上ではC夕張とN夕張ら情報システム秘書艦やC青葉ら広報秘書艦らが火消しにてんやわんやしていた。
100%とはいえないがなんとかなだめ終わり、執務室に戻った提督と秘書艦一同。提督は荒げた呼吸を整えて吐露した。
「はぁ~~。まさかあんなに騒がれるなんて思わなかったよ。なんつうか……今までこんなにモテたことないからどうしたらいいかわからなかったよ。」
「モテてる、というのとはちょっと違うと思うけど。」とN夕張。それにC夕張もウンウンと頷く。
「皆提督を純粋に身内のように慕って頼っているのだと思いますよ。」と妙高。
「そう、ですね。たとえどんな形であれ、あなたがいてくれるというのは精神的支柱になるのでしょう。」
「んなマジな返しで俺を過大評価しなくても……。俺普通の会社員ですよ?」
提督が逸仙にツッコミを入れると、逸仙は頬をやや赤らめて顔を背けてしまった。その際、何か逸仙が言ったような気がしたが、小声であったことと中国語だったこともあり提督はそれを聞き取ることはできなかった。
「なんだかんだでその表現は合ってるかもしれませんねぇ~。ただま~一部はそれ以上に慕ってる人たちもいるようですけど。」
そう口にしたのはC青葉だ。この部屋にいるその一部の一部の人たる逸仙を暗にからかいつつ、本来の話題としては妙高の言葉に同意を示した。
「とりあえず青葉は密かにマイク有効にしてるのをやめておこうか。この部屋の会話まであんたのところの番組ネタにしないでくれよ。」
「アハハ~! 弊社のネタはこちらの鎮守府の密着リアルタイムドキュメンタリー型ですから。大目に見ましょうよ。」
C青葉の台詞に提督は大きくため息をついた。提督をやり込める彼女は社会人で、提督やC高雄、明石の会社とも違い、ネットテレビ局からの派遣社員だ。かれこれ2年以上も鎮守府Aの広報担当として活躍している彼女とそのネットテレビ局のおかげで、鎮守府Aの宣伝力・情報処理能力は飛躍的に高まり、周辺住民への知名度や評判向上に一役買っている。
C青葉の企みを冷静なツッコミで未然に防ぎ、艦娘達からの評価の気恥ずかしさをどうにか紛らわそうとする提督。周りの秘書艦達もいつまでもその話題を引っ張る気はないのか、目下現実問題の方に話題をシフトさせた。
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提督の本業の都合上、艦娘制度の仕事に時間を割けないのは仕方ない。提督の全体指揮がない分は、総秘書艦である五月雨に出張ってもらうことに満場一致で決まった。
クリスマスパーティー当日までは総秘書艦五月雨の下、秘書艦達は本来の担当分野の区別なく一丸となる決意をした。イベントに向けて準備の分担をし、それぞれの担当を指揮することになった。各秘書監の下にはC部署もN部署も関係ない。積極的に協力を名乗り出てきたり面倒臭がる艦娘もいたりと様々だが、ほぼすべての艦娘が集った。
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日中は五月雨が各秘書監と実作業担当の艦娘達の様子を見て回った。なお、鎮守府の通常業務もせねばならない分は妙高あるいは逸仙が提督代行として出撃する者達の管理をした。
五月雨が本館を歩いていると、本館2階の中央の間を巡洋戦艦艦娘のレナウンが掃除をしていた。彼女はイギリスの国立の深海棲艦対策組織から派遣されてきた女性だ。巡洋戦艦レナウンの資格と艤装を持って日本に派遣され、鎮守府Aに在籍している。
「レナウンさ~ん。いつもありがとうございます。」
「あ、お嬢様。いえ。艦娘として勤める前は本国でメイドの仕事をしていたこともあって、こうしている方が性に合っているのです。ですから鎮守府内のお手入れは私とレパルスにお任せください。」
「なんか申し訳ないですよ~。どうせなら私たちも使ってくれていいんですよ?」
「フフ、そのお言葉だけで結構です。それにたまにN部署だけでなくC部署の駆逐艦たちも手伝ってくれるので問題ありません。お嬢様は私たち艦娘の総代表として常にどっしり構えていてくだされば良いのです。」
「大丈夫ならいいんですけど。それにしてもレナウンさん……いい加減私を”お嬢様”って呼ぶの止めませんかぁ?なんか恥ずかしいです。」
「ご主人様であるMr.西脇に常に寄り添うあなたは、私から見れば女主人です。お歳を考慮して”お嬢様”とお呼びするのは当然です。」
「うぅ~~……未だに慣れませんよぅ。」
真面目で優しく優雅なレナウンのことは人間としても艦娘としても好みで理想の一つと感じているが、彼女の自分への応対に関しては未だに慣れず勘弁して欲しいと懇願したい部分なのであった。
レナウンは五月雨との会話をしとやかに終え、清掃に集中すべく一礼して方向転換をした。五月雨もそれ以上彼女を邪魔するのは気が引けたため、会釈をしてからその場を後にした。
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「あ、さみ!やっと来たっぽい!!」
「ゆうちゃん……とN部署の方の夕立ちゃんと綾波ちゃんと敷波ちゃんも。」
五月雨は階段を降りて1階ロビー手前の玄関の飾り付けをしているC夕立・N夕立、N綾波・N敷波にばったり会った。
「あ~、五月雨さぁん!来たっぽい!「うぅ~あたしの真似するなぁ~!」
N夕立がぴょんぴょん跳ねながらC夕立の口癖を真似るとC夕立はすかさずツッコむ。その頬や表情はやや恥ずかしげだ。
「五月雨先輩、お疲れ様です。」
「五月雨さん、こっちの準備は順調ですよ。」
N綾波そしてN敷波は丁度手が離せないのか、顔と上半身だけだけ五月雨の方に振り向けて挨拶をした。
四人は玄関の飾り付けの担当だ。四人だけでなく、他にもメンツはいるが鎮守府に出勤する時間が異なるため、今の時間帯では主に彼女らが担当だ。
「あれ、白雪ちゃんと時雨ちゃんは?」いないメンツに気づいて五月雨が尋ねる。
「はい、時雨さんは消耗品が切れたとかで買い出しに行かれました。白雪姉さんはサボろうと逃げかけてた初雪とC部署の初雪さん、それからティルピッツさんを従えて倉庫に。」
状況説明をするN綾波。それにN敷波は愚痴るように言った。
「三人ともサボることに関しては妙に気が合うんですよね……。初雪は白雪姉さんのリアル妹だから首根っこ掴まれても仕方ないとしても、C初雪さんやティルピッツさんまで叱りつけて首根っこ捕まえて連れていく白雪姉さんはさすがだなと感心しました。」
「あ、アハハ……さすが白雪ちゃん。やるときはやるね~。」
N敷波の台詞に苦笑しながら五月雨は今ここにいない、秘書艦の一人たるN白雪の意外な一面に感心するのだった。
「ま~、C初雪ちゃんは高校生でN初雪ちゃんは中学生だし仕方ないとしても、ティルピッツさんは大人なのにだいじょーぶっぽい?」とC夕立。
「あの人文句言いながらも白雪姉さんに本気では逆らおうとしないあたり、根っからの妹資質なんでしょうね。それにビスマルクさんっていうリアルお姉さんもそばにいますし。」
N敷波の言葉の的確さに全員同時に相槌を打った。
「あたし姉妹いないからわからないけど、姉とか妹ってそんなもんなの?」とC夕立。
「うーん、家庭によるんじゃない? ビスマルクさんとティルピッツさんはドイツ人だし、ドイツの家庭のことはわからないけど、きっとどこも妹は姉に逆らえないのかもね。」
「さすがさみ。頼りないけどれっきとした姉やってるだけあるっぽい~~!」
「も~~ゆうちゃん! からかわないでよぉ~!」
同級生で気の置けない間柄のC夕立の問いかけに漠然とした回答をする五月雨。C夕立のツッコミには弱々しくもプリプリと怒ってみせるのだった。
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別の日の夕方、モミの木が鎮守府に到着した。普通に運ばれるのであれば物が巨大ゆえ大変な作業になるが、艦娘がその作業場にいると、さほど大した労力にはならない。
全体の艤装とコアユニットが格納されるパーツが分離して装備しやすいタイプの艦娘勢が地上で同調し腕力アップさせた後、トラックの荷台からモミの木を運び出していた。
現場の直接的な監督役はアトランタ。彼女の前でモミの木を持ち上げているのは、ジュノー・サンディエゴ・サンファンと彼女の姉妹+メリーランドだ。
各現場を見回っているのは五月雨と逸仙だ。
(英)「アトランタさん~!作業の方はいかがですかー?」
(英)「あ、サミダレ~!、逸仙~!」
五月雨が英語で問いかけると、それにアトランタが返してきた。しかし五月雨はそれ以上の英会話はできないため、後の通訳は日本語も英語もできる逸仙が行って会話を補助した。
(英)「モミの木はどこに持っていけばいいの?」とアトランタ。
「立てるのはあそこです。本館の第一会議室の前にあたる広場にツリースタンドを設置しているので。」
(英)「OK、わかった。後は任せて。」
五月雨がイルミネーションの設置資料を確認しながら実際の場所を指差して指示すると、アトランタはそれを受けて只今運搬中の姉妹達+メリーランドに合図する。
(英)「ねぇ!あそこだって! サンディエゴは先に三脚を立てておいて。起き上がらせるのはメリーランドさんを中心にお願いします!」
(英)「はーい!」とサンディエゴは元気よく返事してモミの木から手を離し、指し示された芝生の場所まで小走りで行った。
(英)「任せなさい。ビッグセブンが一人メリーランドを担当する名誉に預かった私が先陣を切って見せるわ! 続きなさい、妹たちよ!」
アトランタの指示に鼻息荒く決意を表明するメリーランド。一緒に持っているジュノーとサンファンに強く発破をかける。
(英)「私たち、メリーランドさんの妹じゃないんだけど……。」
(英)「しっ!聞こえるわよジュノー姉さん。メリーランドさんって、自分より年下はみんな妹呼ばわりらしいから。」
一緒に運んでいるジュノーとサンファンはメリーランドのテンションの高さに辟易気味だったが、仮にも同じ国出身でおなおかつ姉妹が通うインターナショナルスクールの講師としても顔見知りであるため、黙って従うしかなかった。
とはいえそんな様々な思いを含んだ作業現場の真意など、当人達以外にはおよそ関係ない事情なのであった。
妹達の作業を見ながらアトランタが五月雨に尋ねた。
(英)「司令官いないとなんか変な感じですね。サミダレも寂しいでしょ?」
「ふえっ!? うー……まぁ、はい。」
(英)「アハハ! サミダレってば正直だね。私だって司令官いないと寂しいよ。同じ同じ。」
アトランタがクスクス笑う。しかしその指摘がまったくの的外れでないことを感じていた五月雨は彼女の言葉に対し、コクンと頷いた。
(英)「きっと司令官もさ、私達に会えなくて寂しいと思うよ。」
「え? それって……。」
(英)「私の艤装のレーダーがビビビッと察知したのです。それにきっともうすぐ司令官帰ってきますね~。それで私に泣きついて来るんです。」
「アハハ……相変わらずの自信だね~アトランタさん。」
アトランタの妙な自信に五月雨は呆れつつも感服してみせた。ただ若干皮肉めいていた表現は逸仙の翻訳により無難な表現で伝えられた。
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一通り見回り終わり、夜の帳が降りて暗くなってきた。五月雨と逸仙が本館外をグルリと周りながら表玄関へと向かうと、正門から見知った姿の人物が歩いてくるのに気がついた。
「あ、提督!」
「あなた様!」
「やぁ~二人とも。ご苦労様。」
提督はやや重そうな声で二人に挨拶をする。五月雨と逸仙は駆け寄って提督に挨拶し返した。
「今日はもうコンピュータのお仕事いいんですか?」
「あぁ、今日は俺の担当分の作業は終わったから、もう帰っていいと言われたからね。」
「……それじゃあもう明日からは!?」
そう五月雨が期待を込めて問いかける。しかし提督の言葉は彼女の期待に沿わない。
「ゴメンな。明日は明日のタスクとスケジュールがあるんだ。それらまで前詰めで終わらせられるよう頑張ってるんだけど。」
「そ、そうですかぁ……。」
素直に悄気げる五月雨の肩を撫でながら、逸仙が言った。
「五月雨さん、会社員である西脇さんにもそれなりの都合がございます。鎮守府という家で待つ私たちは彼の頑張りに期待するしかありません。」
「は、はい……。提督、頑張って欲しいけど無理だけはしないでくださいね。私たち、提督のこと待ってますから。」
「お、おぅ……。」
「ホラ、もうちょっと言葉をかけてあげてください。あなたと五月雨さんの仲でしょう?」
「い、いや~~、まぁ。寒いからと、とりあえず中に入らせてくれ。君たちから報告も聞かなくちゃいけないし皆の様子も見ておきたいからさ。」
「……かしこまりました。お茶淹れてあげますから、一息ついてください。」
「わ、私皆に提督が出勤してきたの知らせてきますね!」
五月雨は見るからに浮足立ってパタパタと駆けていった。
提督は一足早く本館に入っていく五月雨の姿を見て、ふぅ……と一息つく。その頬は二人に優しさのためか緩んでいた。
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その夜、未成年である艦娘達はすでに帰り、本館内の作業の続きおよび夜間の哨戒には成人しているメンツのみが残って行っていた。
執務室には提督の他、逸仙そしてC高雄がいた。五月雨とほぼ同格の総秘書艦である妙高は家事のためすでに帰宅している。
「……これで終わりっと。提督、一昨日から今日にかけての哨戒任務のレポートを添削して整理しておきましたので、後で確認しておいてください。」
「あぁ、わかった。それじゃあ高雄さんはもう帰っていいよ。」
「はい。お疲れ様でした。……それじゃあここからは同じ会社の人間として言わせてもらいます。西脇先輩、あまり根を詰めないでくださいね。」
「ん、あぁわかってるよ。大丈夫。」
「先輩の出勤先の○○株式会社からこの鎮守府までかなり距離ありますし、在宅勤務申請なさってもいいんじゃないですか? それ使ってここで仕事すれば、私や足柄さんもこっそり仕事手伝えますし。同じ会社から来てる足柄さんや私をもっと使ってくれてもいいんですよ?」
「あ、あぁわかってるんだけどね。現場でしかできないこともあるし、あまりこっちの仕事場に本業のこと持ち込むのもどうかと思ってさ。本業や本分から離れてまで体張って戦ってくれてる皆に失礼だろ。」
「その気持ちわかりますけど……。先輩だって身体張ってるじゃないですか。あっちにこっちに。それに上に立つ人間なんですからきっと精神面でも気を張り詰めてるはずです。先輩相当疲れてますよね?」
「う……それは。でもそんな弱音を吐く資格は。」
「先輩が変に責任感あるのはもう大体わかってますけど、私が言いたいのはもっと周りを上手く使ってくださいってこと。子供達は働いてる大人の事を本当の意味で理解できてないとはよく言われてますから、こっちの未成年組の艦娘達の反応なんか、実のところあまり気にしないでいいんです。先輩の代わりに艦娘皆を見て回って気遣ってくれる秘書艦がいるんですし、彼女達に安心して任せっきりでもいいんです。」
C高雄の叱りに言葉なく頷く提督。傍で口をつぐんで聞くだけにしていた逸仙はC高雄の言葉が数秒治まったタイミングで口を開いた。
「お二人の会社の事情については私はわかりかねますが、心配の点については私も同意見です。高雄さんの言うとおりです。あなたが自分の代わりにと役割をあてた私たち秘書艦がいるのです。本業の方でお忙しいのであればこちらは一切気にせず任せてください。日本のことわざにもあるでしょ。二兎を追う者は一兎をも得ずと。私たちのこと、信じていただけないのですか?」
「う……いやそんなわけじゃない、です。」
「クリスマスパーティーは私たちが必ず成功させて、住民の方々にも喜んでもらえるようにします。艦娘達へのフォローもきちんと行います。あなた様が参加できない埋め合わせは必ずして差し上げます。ですから、本業の方に専念なさってください。」
「は、はい。わかりました。」
逸仙の真面目で献身深さは提督もわかっていた。そして逸仙自身は隠しているつもりなのだが、その行動の原動力たる気持ちに秘書艦達は全員気づいていた。(気づいていないのは提督、五月雨とN白雪の学生艦娘だけであった)
C高雄も気づいている一人である。その手の感情を茶化すことは一切なく、そうっと応援するようにC高雄は逸仙に微笑んでそうっと言葉をかけ、続く流れで提督へ最後の忠言をした。
「逸仙さんの言葉が私たち秘書艦の思いのすべてを代弁してくださってます。なので私からは、あくまで会社の後輩として言わせていただきます。先輩、どうか客先での開発の仕事に専念なさってください。終わるまで鎮守府に来るなんて許しませんから。」
C高雄の気迫、提督の身を案じているがゆえの逸仙の泣きそうな顔に提督はただただ頷いて返事をして素直に従うしかなかった。鎮守府に来ないことも艦娘達の思いを尊重することと察した提督は、翌日から25日クリスマスの日まで提督は鎮守府に姿を見せなかった。提督が毎日行ったことといえば、全秘書艦にメールあるいはメッセンジャーアプリでねぎらいの言葉を送ったことと、鎮守府にある配送を手配したことである。その物の受取は口が硬く大人の対応を完遂できると提督が信頼を置いた妙高と逸仙、C高雄の三人にのみ知らされた。
提督のいないクリスマスパーティー
25日クリスマスパーティー当日、鎮守府の正門は艦娘以外の人たちの立ち入りを全面的に許可した。本館の正面玄関前に設置された屋台は、周辺住民の手によるものである。普段はほとんど使われないロータリーではあるが、この日だけはその姿と雰囲気を一変させた。鎮守府本館内と裏口広場は艦娘達の手によりお手製ながら豪華な会場と化していた。
クリスマスパーティーの第一部は夕方開かれた。夜に開かれる第二部に参加できない艦娘らが集まり、ミニゲームや軽食を参加者全員に振る舞われた。他には周辺住民によるアートコーナーやクリスマス用のリースやアクセサリーなどの制作体験会などが、鎮守府本館の空き部屋で開かれ、住民だけでなく艦娘達をも楽しませていた。
パーティーを日中から楽しむ艦娘達もいるが、クリスマス前後とはいえ定例の哨戒任務もある。そのメンツは楽しんでいる面々を若干恨めしそうに見ながら、出撃用水路のある工廠へと足取り重く歩いていった。C部署から6人、N部署から6人の計12人の2艦隊が鎮守府Aの担当海域を二分して哨戒することになっていた。
合計12人の中で一番しつこく愚痴を言っていたのはティルピッツだ。一緒にいたNビスマルクに静かながらも頑として強くなだめられていた。
(独)「パーティー、ただで食事~羨ましい。にゃん姉ちゃんなんであたしもなのさ?」
(独)「くじで決まったんだ仕方ないだろう。その代わり夜のメインのパーティーには参加できるんだ。我慢しろ。」
ただ、そう諭しながらもNビスマルクの拳が若干プルプルと震えていたのを、僚艦になったN大淀そしてC部署の艦隊のC大淀が横目で見て心の中をなんとなく察した。
「N大淀さん、そちらの艦隊の統率お任せしましたよ。」
「はい先輩。でも……あのお二人とどーやって意思疎通図ればいいんですかぁ? 私ドイツ語なんてわかりませんよぉ~!」
「うち独自の指示方法あるんだから困らないはずよ。それにNビスマルクさんは日本語多少できたはずよ。ティルピッツさんだって喋れはしないけどヒアリングだけはある程度できるらしいから問題ないわ。しっかりなさい、同じ大淀担当でしょ?」
「うぅ……なんとかやってみますけどぉ~、でもさっきからティルピッツさんの語気が強くて怖くて~。こんなことなら仲良いC初雪ちゃんとティルピッツさん組ませればよかったんじゃ……。」
「それやったら共闘して反乱起こされかねないからって、秘書艦勢の間ではタブーとのお達しなの忘れたの?」
真面目で責任感が強い二人の大淀は冷静で辛抱強い。そんな彼女らの頭を悩ますのは僚艦の不満の危険水域をいかにして超えさせないで済むかの一点だった。
他の寮監もまた、パーティー当日の哨戒任務を嫌がっていた口である。
「はぁ~~~なんであたしクリスマスに艦娘の仕事してんだろー。先輩そう思わない!?」
「ほんっとだよね~~!そっちの熊野ちゃんとうちのくまのんなんか、平海ちゃん連れて早々にどっか別のクリパに遊びに行ったし。鎮守府のクリパですらないってどーいうことよ!」
深く大きくため息を吐くN鈴谷にC鈴谷が不満で愚痴を爆発させていた。完全に二人の気持ちは通じ合っていた。
もう一組不満を吐く組み合わせがいる。陽炎だ。
「主人公のあたしがパーティーに出ないってどー言うことなのさ!」
「はいはい。主人公は基本無口なものよ。黙ってなさい。」
「うーおぃ!先輩! パーティー出たくないの!?楽しみたくないのぉ!?」
「あたしだってパーティー出たいし楽しみたいわよ! けどクジ引いて決まっちゃったんだからグチグチ言ったって仕方ないでしょ! 同じ陽炎担当なんだからいつまでも文句言ってみっともない姿晒さないでよね!」
荒れるN陽炎をC陽炎が強くピシャリと叱る光景が続く。叱りながらC陽炎は、中学生時代だったら自分もきっとこうやって周囲に不満をだだ漏らししていただろうなと心の中で遠い目をしていた。
二人の陽炎の後ろをついていくC不知火とN不知火は互いに無言で顔を見合わせ、前方の10人の人間模様を観察して密かに楽しんでいるのだった。
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パーティーの第一部が終わり、撤収する屋台・これから入る屋台の準備、第一部の片付けなどが慌ただしく行われる。
艦娘達の顔ぶれも若干変わる。クリスマスは家族と過ごすことが多い外国出身の艦娘達は片付けを手伝った後着替えて名実ともに普通の少女・女性に戻り、帰路に着いていった。代わりに出勤してきた少女・女性達は着替えて艦娘になり、第二部の準備を引き継いで作業を始めた。
第二部がクリスマスパーティーのメインということもあり、入れ替えの時間帯になると鎮守府の敷地内に入ってくる周辺住民の数が一気に増えた。身内に艦娘がいなければ普段関わりなく、内情を一般市民が知ることができない艦娘制度・国の関連組織の施設・敷地内なだけに、奥まで見学を望む人々もいる。もちろん勝手に鎮守府敷地内を歩くことは禁止されているがこの日だけは別だ。本館敷地の一部、工廠内部だけは立ち入られないように立入禁止のベルトポールとパーティションが設置され、それ以外は自由に入っていいことにしてある。
艦娘の一部には、入れ替えの時間帯のミニイベントとして、周辺住民に艦娘のアクションを見て楽しんでもらうための企画を設ける者達もいた。彼女らは見学希望者を案内して堤防沿いに集め、自分達はその先の海に姿を見せて住民を楽しませた。
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第二部が始まる前、五月雨は各秘書艦とともに執務室にいた。第二部には本来であれば提督の挨拶が最初にあり、それからメインのパーティーの開始という手順が第一回目からの伝統になっている。しかしこの場に提督の姿はないためその手順が行えない。
五月雨は秘書艦達の前に立ち、意気込みを述べた後相談した。
「みなさん、これからクリスマスパーティーの本番、メインです!参加する人みんなに楽しんでもらえるように頑張りましょ! それから提督は残念ながら今年は間に合いそうにないです……いつも最初に提督が始まりの言葉を言うんですけど、今年はどうしましょう?」
五月雨の始めこそ元気一杯ではあったが次第にトーンが落ちていく声色の言葉を聞き、顔を見合わせる秘書艦達。程なくして全員五月雨の顔を見る。口に出して知らせたのは妙高だった。
「五月雨さんでいいのではないかしら。もう3回もイベントやっているし、参加してくださる住民の方々の中で五月雨さんのこと知らない人はもういないと思いますし、誰も文句や冷やかしは言いませんよ。」
「え、えぇ? でも……私大勢の人前で喋ったことないんですよぅ。」
「自信を持ってください。五月雨さんならきっと出来ます。」と逸仙。
「そうですよ。この数日間、五月雨ちゃんは立派に鎮守府のトップを務めましたし、いまさら人前での演説なんて楽勝でしょ。」
C高雄が鼓舞すると他の秘書艦達も強く相槌を打った。
こんな時初代那珂がいてくれたら、と五月雨はないものねだりをして現実逃避を試みるが、引きずっても虚しいだけなのですぐに思考を切り替えた。慌てた表情からすぅっと考え込む表情になりそして数秒後、顔を上げて目の前の(ほぼ全員自身より遥かに年上の)秘書艦達に向かって宣言した。
「わ、わかりました! なんだかんだで一番経験長いのだけがとりえですし、私頑張っちゃいます! けど、せめてどなたか一緒に傍にいてほしいです。」
決意した五月雨の唯一の要望。その台詞に皆しばらく沈黙する。程なくしてして妙高が口を開いた。
「そうですね。それでは白雪さん、いかがでしょう?」
「ふぇっ!? わ、私ですか!?」
妙高が率先して推薦したのはN白雪だった。大人達の間に隠れるように立って目の前のやりとりを他人事のように聞いていたN白雪だったが、急に会話の主役に近い位置に立たされたことで体温が急上昇した感覚を覚え、顔を真赤にしてうつむいてしまう。
「私も白雪ちゃんがいいと思いますよ。こういうときは若い子が務めたほうがいいんですよ~。経験にもなりますし、住民の人達の反応も違うと思います。」
そうフォローしたのはC青葉だ。カラカラと笑いながら明るく言った。概ね同意を得られたが、一つだけ妙高が釘を差した。
「そうですね。私もそれがいいかと。ところで青葉さんは五月雨さんと白雪さんのスピーチをまさか録音録画して自分のテレビ局に持ち込んだりはしないですよね……?」
「え!? あ~、アハハ~。アハハハ~……」
乾いた笑いをするC青葉。その反応だけですぐに察した妙高は額を抑えて小さくため息を吐いて小声でC青葉に返した。
「放送を考えてるなら後で二人に顔出しの許可くらいはもらっておいてくださいね。」
「は、はい……。」
相変わらず提督以上に侮れねぇ、そう反省するC青葉であった。
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「どうかしら? やってみる気はない?」
N白雪の背中にそっと手を添えて優しく尋ねるC高雄。N白雪はうつむくが、すぐに顔を上げて視線を五月雨に向ける。五月雨は彼女に視線を合わせて、ニッコリと笑顔を返す。
その笑顔を見てN白雪は決心した。
「は、はい。こんな私で良ければ、五月雨さんと一緒にやらせてください。」
「ありがと~~! よろしくね白雪ちゃん!」
こうして、パーティー第二部のはじまりの言葉・挨拶は五月雨とN白雪が務めることになった。
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あっという間に時間になった。
挨拶は本館裏口から出た広場で行うことになっている。裏口を出ると右手側にクリスマスツリーがそびえ立っている。その手前に小さな壇上が設置されている。そして向かいは立食用のテーブルが幾つか並べられ、挨拶を聞く住民や艦娘達でごった返していた。
12月も末に近く吹きすさぶ風がチクリチクリと突き刺さるように冷たい。そんな中でも会場の熱気はたっぷりで、寒い外が意外とそれほどでもなくちょうどよい体感気温の空間になっていた。
五月雨とN白雪がツリーの前の壇上に立った。少し離れて音楽演奏担当の英駆逐艦リージョン、軽巡エディンバラとベルファストが自分達の出番を待ち構えている。彼女らに演奏開始の合図をするのはC五十鈴の役目だ。
(英)「五月雨と白雪のスピーチが終わって、私が合図したら演奏をはじめて頂戴。いいわね?」
(英)「りょーかいしましたわイスズ!軍歌でも賛美歌でもなんでもOKなんだから!」と手を挙げながら元気いっぱいに叫ぶリージョン。
(英)「今日は頑張るっすよ~。ベルファストになんか負けてられないんだから。それに空の星の影から見守ってくれてる指揮官のためにも始まりの演奏を成功させて皆に喜んでもらうっす!」
(英)「姉さん……指揮官は別に死んでないから。まぁ、皆に喜んでもらえる演奏という点は同意しますけどね。ところでイスズ、あなたは本当に演奏参加しなくていいのですか?」
姉エディンバラにツッコミつつ、ある種演奏指揮者の立場である五十鈴に確認するベルファスト。彼女の問いかけに五十鈴はサラリと答えた。
(英)「あなた達の本場のクリスマス曲の演奏に水を差す気はないわ。今回は聴者側に立たせてもらうわ。」
鎮守府A草創期からいるC五十鈴は、着任当時高校生だったが今や大学生だ。彼女は大学で英米文学を学んでいる。N部署ができて鎮守府に外国人が増えた今は身近な勉強場所として積極的に通訳を担当したり彼ら彼女らから文化を聞き大学の課題に活かすなどしている。
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五月雨がマイクの電源をONにする。一瞬キーンという音が響き渡り、そのおかげで会場のお喋りは途切れて静かになる。自然と視線がマイクの持ち主である五月雨に集中する。
((うぅ……緊張でお腹が……。でも、提督の代わりきちんと務めなくちゃ))
「お集まりの皆さん、お待たせしました! これより……
五月雨のスピーチが始まった。五月雨の同級生であるC時雨達は彼女の性格の一端を昔から痛いほど知っているため、いつ大ポカをやらかさないかヒヤヒヤしながら見守っていた。しかし危なげな様子は最初の水準のままでスピーチが終始したことに、次第に安堵し笑顔を取り戻した。
五月雨のスピーチの内容に追加するようにN白雪がこの後の時間割を説明し始めた。五月雨よりも安定した口調で終始するも、細かい説明を気にしすぎて概要としてまとめる能力にまだ欠けるきらいがある彼女に危機感を覚えたのか、パーティーの空気の雰囲気が気になったのか、五月雨がやんわりと口を挟み軌道修正をかけてあげた。その様子はまるで3年前の那珂と五月雨のようであるとは、草創期からいる艦娘達の誰もが思い浮かべたことだった。
恥ずかしそうに一歩下がるN白雪の行動と五月雨の口挟みというやり取りをボケとツッコミと捉えた会場はドッと笑い、二人の少女を励ます声援を送った。
そしてタイミングを見計らったC五十鈴がベルファスト達に合図をして演奏を始めさせた。するとにこやかな笑いでほんのり温まった屋外会場が、英艦の艦娘達の本場仕込みの演奏でノった参加者の熱気でさらに温まりを見せた。これから始まるパーティーの予熱は万全といったところである。
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開始してしばらく経った頃、五月雨は各テーブルやコーナーへN白雪を連れて歩き回った。目的は住民に挨拶をして回るためだ。
「お~五月雨ちゃん! こんばんは!」
「あ、○○さん! それに✕✕さん達も! いらっしゃってくださったんですね!」
「あぁ、毎年楽しませてもらってるぜ~! 美人ぞろいの艦娘の花園に来られるとあっちゃあクリスマスもいいもんだぁ~」
「もー、○○さんったら……そんな目で見たらメッ、ですよ?」
「ハハハハハ! すまんすまん!」
「五月雨さん、今日はお招きありがとうね。うちの子たちもあそこで同い年くらいの艦娘の娘たちと仲良く遊んでるわ。」
「△△さんもぜひ楽しんでいってくださいね!」
「フフッ、ありがとうね。」
「五月雨ちゃん、今日は西脇さん来られないんだって? かわいそうねぇ。」
「そうなんです……。でも、提督の分まで私達頑張って皆さんをもてなしてあげますね!」
「うんうん、その意気その意気。五月雨ちゃんはやっぱそうやって明るくしてるほうが似合ってるわよ。」
「エヘヘ。ありがとうございます。」
「おー五月雨ちゃん。そういや西脇くんは来られないんだっけ。」
「はい、そうなんです。☆☆さんは確か……毎年提督と飲み比べしてますよね~。」
「西脇くんの酒飲みっぷりを鍛えてあげてるのがおじさん達の楽しみでねぇ~。」
「も~~。クリスマスってガンガン飲む場じゃありませんよぉ。それに提督そんなにお酒強くないんですからぁ~。」
「ガハハ! すまんなぁ。でも今回は残念だわ~。」
「ウフフ。でもお酒に強い人は戦艦艦娘の人には大勢いますから、ぜひいかがですかぁ?」
「ハハッ!そりゃいいや。それじゃあ今年は外人の姉ちゃんたちと飲み比べでもしてみようかねぇ~。」
「ふぅ……後はあの人とあの人……あ、あの人もまだ会ってないや。」
五月雨が指を宙で動かして人数を数えていると、隣にいたN白雪がそうっと話しかけた。
「あの……五月雨さん。」
「ん? なぁに?」
「色んな方に話しかけられるなんて、すごいですね。私にはとても無理です。」
「そーお? 私だって、昔はこうして話しかけるなんて無理だったよ。」
「とてもそうは見えません。私なんてお姉ちゃんや妹達、それから交流のある艦娘くらいにしか話しかけられません。」
「なんていうのかなー。経験だと思うなぁ。後は単純に一度お話したことある人たちばかりだったから私も話しかけられるの。最初は大体提督についていってお話聞いて、それから紹介してもらってって感じ。」
軽く語る五月雨にN白雪は感嘆のため息を吐いて絞り込むような声で言った。
「それでも、すごいです。」
年下に褒められて五月雨は照れくさくなり、横髪の先をくるくる指で回して気を紛らわせながら言葉を返した。
「そーかなぁ~。私あまり実感ないんだけどなぁ。それじゃあ白雪ちゃんにもこういう風に町の人にお話する機会作ってあげるね。あ~!そっかぁ。今紹介しとけばよかったんだぁ~……ゴメン! 私白雪ちゃんのこと皆に紹介するの忘れてた! ちょっと戻るよ?」
「え、あ? あのー……。」
五月雨は挨拶にばかりかまけていてN白雪を紹介することを忘れていたため、彼女の手を引き慌てて今まで挨拶した住民らの下へと戻っていった。
クリスマスパーティーのワンシーンにある、秘書艦の少女たちの光景である。
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パーティーは各場所で異なる盛り上がりを見せた。クリスマスツリーのある屋外では立食用のテーブルでは大人達が酒とつまみを時々口に運びながら歓談に更ける。ツリーの傍では子供達が写真を撮ったり、飾り付けを弄りながらおしゃべりしている。その中には艦娘とくに駆逐艦達も混じっていた。海外艦担当の艦娘達には日本語ができない娘が多かったが、言葉がわからなくても子供同士フィーリングで仲良くし合う光景がそこにあった。
通訳と子供達の見守りのためにそばにいたレナウンとレパルスそしてネルソン・ロドニー姉妹らはその光景を酒の肴にパーティーを楽しんでいた。
(英)「フフッ、私たちの助けはどうやら要らないみたいですね。」とレナウン。
(英)「日本の人たちとこうして楽しむクリスマスもなかなか良いものですね。姉さん、ネルソンさんにロドニーちゃん。私たちも飲みましょう。」
(英)「そうね。ただ……本業の仕事で来られない閣下や夜間哨戒担当になってしまったフッドやアリシューザたちの事を思うと素直に飲めないわね。」としんみりとした雰囲気を作って口にするネルソンの手にはワイングラスが存在する。
(英)「お姉ちゃん……そう言いながらさっきからワイン進みすぎよ。指揮官もしかしたら来られるかもって秘書艦の皆さんがおっしゃってたじゃない。指揮官がもし間に合った時に酔っ払っていたら英国淑女としてはしたないわ。」
英国戦艦担当の艦娘達にも様々なやり取りが存在するが、他の者が知る由もない。
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本館1階ロビーでは暖房の効いた空間でゆったり落ち着いて食事や歓談ができるよう、テーブルと椅子が増設されていた。食事が進むテーブルもあれば、艦娘達がミニイベントを開いて住民の子供達を集めて盛り上がっているテーブルもあった。
日中に哨戒任務で出撃していたNビスマルクとティルピッツらは、やっと本格的に休んで楽しめるとあって、酒と食事が進んでいた。同じテーブルを囲むのは、同じドイツ艦担当のCビスマルクやアドミラル・ヒッパーらだ。
当然ティルピッツもいるが、彼女は一口二口飲食した後さっさと食事の席を離れてしまった。彼女が向かったのはとある一室である。
(独)「お、お待たせ。うぉ!?」
「ん。みんな待ってた、よ。」
そう”日本語で”言ったのはC初雪だ。彼女の周りには数人の艦娘と住民の子供達がいる。そしてその部屋には2台のテレビといくつかのテレビゲーム機が設置されていた。
(独)「なんでこの辺の子供達がいるのさ……あたし大勢は嫌なのに……。」
ティルピッツは自分だけ大人で周りが子供という状況のため険しい顔をして露骨に嫌がる。
「……だそうで。」
「私が鎮守府に来た時によく遊ぶこの辺の子供達。みんな優秀なゲーマーだよ。クリパにゲーム大会やるって話したらやりたいってせがまれたから……今日くらい一般の子いたっていいでしょ?」
(独)「……。……?」
(独)「うー、わかった。けど最初にプレイするのはあたしだからね。それだけは譲れないから。」
「……だそうで。」
「オッケィ。……皆、このティルピッツお姉ちゃんに最初は譲ってあげて。」
「いいよー!」「うわー、この外人のお姉ちゃんもゲームするんだーすげー!」
「日本語わかんのこの人?」「すっごい美人さん……私憧れちゃうー。」
子供達の反応は様々だったが、このメンツでのゲーム大会の進行は概ね好意的に受け入れられた。
「はぁ……私ゲームとか興味ないんですけど、そろそろ食事しにいっていいですか?」
そうため息混じりに愚痴ったのは、伊8だ。C部署の艦娘の中でドイツ語が堪能なので、ドイツ艦担当の艦娘達との通訳に引っ張りだこな彼女は、今このクリスマスパーティーの場ではパーティーの中心地ではなく本館のとある一室になぜかいさせられていた。
帰る意思を示す伊8の上着の裾を引っ張ってC初雪が引き止めた。
「待って。行かないで! 私ドイツ語話せないから、はっちゃんいなかったらティルピッツさんと意思疎通図れないよ。子供達も困っちゃう。」
「初雪……あなたよくティルピッツさんと仲良くなれたね……。」
「それは……ふ、普段は翻訳アプリ使ってる、から。」
やや反り返って自慢げに口にするC初雪。それに対し伊8は額を抑えそして顔をC初雪に向けて強くピシャリと言った。
「じゃあそれでいいじゃないの!」
「き、今日は携帯忘れたから……。」
そう言ってバッグを見せるC初雪。彼女のバッグの中には、たんまりとゲームソフトや携帯ゲーム機、攻略本やカードゲームが入っていた。伊8はチラッと彼女のバッグを覗くいなや大きくため息を吐いて色々な物事を諦めた。
「……。」
クリスマスパーティーが開かれている鎮守府本館の一室では、閉幕のその時間を過ぎてもゲームで遊び続ける艦娘と住民の子供達の姿があった。その後子供達は親に引っ張られ、初雪とティルピッツはNビスマルクに引っ張られて外に放り出される光景があった。
この光景もまた、クリスマスパーティーのワンシーンなのである。
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そんな1階ではなく、2・3階の広間で食事とおしゃべりに更ける者達もいる。さすがに2階から先は一般人の立ち入りを禁じているため、その場には艦娘の姿しかない。
3階の広場に設置されたテーブルとソファーでは、五月雨達とN白雪たちがガールズトークを楽しんでいた。
「ふぅ……ちょっと休もうっと。」と五月雨。
「お疲れ様、さみ。色んなところに顔出ししてさすが総秘書艦様は違うね。」
「そりゃー、提督の代わりに皆にご挨拶しておかなきゃだも~ん。」
C時雨がやや茶化すような口調で労う。その労いに乗ったのはN吹雪、相手は妹のN白雪だ。
「白雪もご苦労様。五月雨さんについていったのはいいけど、いろんな人と会うの疲れるでしょ? あんたはちょっと人見知りなところあるからお姉ちゃん心配だったんだよ?」
「アハハ……ありがとお姉ちゃん。でも基本的には五月雨さんがやってくれたから、私はただ愛想笑いしてただけ、かな。積極的に動けるところ、見習いたいです。」
そう力無さげに口にするN白雪。感心された五月雨は照れながら言った。
「白雪ちゃんだって経験積めばすぐこういう立場になれると思うよ? 私、最初の頃はただ慌ててばっか。私がこうしていろんな人と話したり、人の話をちゃんと聞いて自分で考えまとめて動けるようになったのって、提督のおかげでもあるけれど、一番身近で教わったのは那珂さんのおかげ。あの人がいなかったら、きっと私はこうして皆の前に立ててなかったかも。」
「うん……そうだね。あの人は本当に強かったし皆の前に立って色々できる人だったから、さみはあの人の傍で学べて変わったって、友人の僕から見てもよく分かるよ。ただまぁ今でもドジ踏むときはあるけどね。それがまぁさみらしいといえばらしいけどさ。」
「も~~時雨ちゃん!」
「アハハ、からかってるんじゃないよ。むしろ褒めてるんだからね。」
C時雨の台詞に恥ずかしさとほんの少しの憤りを感じて五月雨はプイッとそっぽを向いた。その仕草にその場の一同はクスクスと笑いを漏らす。
「へぇ~~、その那珂って人、そんなにすごい人だったんですか?」とN吹雪。
「あぁ。N部署ができた今じゃむしろ彼女の存在を知らない人のほうが増えてしまったから、もう誰も話題に触れることはないけどね。」
「あの……その那珂さんは今どこに?」
N白雪が尋ねると、五月雨もC時雨も一瞬表情に影を落とす。しかしすぐに笑顔に戻ってその質問に答えた。
「今は……遠いところ、かな。」と五月雨。
「隠しても仕方ないから言うけど、もうこの世にはいないはず。この鎮守府最初の殉職者だって言われてるんだ。」
「「え……?」」
突然のワードにN吹雪とN白雪はその事情を理解することができずほとんど同時に言葉に詰まって表情を暗くした。
二人とは対照的に五月雨とC時雨は明るく振る舞う。
「もう3年も前の話だからそんなに暗くならないでよ~二人とも。もう私達だって気持ちに整理つけたからこうして普通に話せるんだよ。」
「そうそう。」五月雨のセリフにウンウンと頷くC時雨。
「あの……いない”はず”って? 亡くなったということでいいんですよね?」
「白雪さん鋭いね。」とC時雨。
「実はね、那珂さんのはまだ見つかってないの。だから私達にとっては、まだ行方不明……かな。」
「気持ちに整理つけたとか言いながら未だに信じていないとか未練がましいってことになるけど……そこは知り合いだからどうしてもね。」
五月雨が困り笑いで事情を明かすと、C時雨は肩をすくめ、代わりに自身らの気持ちの状態を明かした。
N吹雪とN白雪は二人の語る話に対しうまく反応できなかった。
自分たちが知らぬ鎮守府の顔、艦娘の姿。
しかしこういう特別な雰囲気の時でしか聞くことが許されない気がして、二人とも意を決し失礼を承知でさらにいろいろ尋ねることにした。
待つ者達のいる鎮守府
話題は真面目な内容からプライベートで学校の話題、そして年頃のファッションや流行モノの内容と様々に移り変わっていった。それらの話題に花が咲いた少女達のおしゃべりはなかなか止まらない。
そんな少女たちの会話を終了させたのは妙高だった。本館中央の階段を上がって来た彼女は小走りで五月雨達に近づきながら言った。
「あ、五月雨さんに白雪さん。ちょうどよかったです。今提督から連絡がありましたよ。お仕事もうそろそろ終わるそうです。」
「えっ、本当ですかぁ!?」
「本当、ですか? よかった……。」
五月雨は素直な喜、N白雪は憂いを含んだ喜でもって提督の状況に安堵した。
「お仕事が本当に終わったらまた連絡をいただくことになっています。それまではよろしく頼むとおっしゃっていました。」
「それじゃあ最後まできちんとパーティーを成功させないといけませんね!」
「そ、そうですね。」五月雨の意気込みにN白雪が続く。
「フフ。パーティーもあと少しですし、時間までは皆と楽しんでいて結構ですよ。細かい雑用は私や逸仙さんで行っておきますから。」
そう妙高が優しく諭すと、C時雨とN吹雪は二人の肩に手をかけてソファーに再び腰掛けるよう促した。五月雨とN白雪は妙高に返事をした後座り、もうしばらくはガールズトークに興じるのだった。
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そしてしばらく経ち、クリスマスパーティーの終わりの時間が迫ってきた。逸仙が二人を呼びに3階に姿を見せ、屋外会場へと行くよう指示した。
「それじゃあ白雪ちゃん、終わりの挨拶しにいこっか。」
「はい。」
「最後まで頑張ってね、さみ、白雪さん。」
「話すことないからって気を抜かないでよ白雪!」
五月雨とN白雪は親友および姉に見送られながらその場を後にした。
屋外会場ではすでにこれからの挨拶を聞くために住民や艦娘らが集まっていた。そのため1階のロビーに人は少なくなっていた。終わりの挨拶のため演奏はなく、開始の時に演じてその場を楽しませてくれたベルファスト達も聴衆側に回っていた。
「ホラこちらよ。挨拶お願いしますね。」
「はい!」
「(コクリ)」
二人は妙高に促されて壇上に上がった。そして五月雨は軽く息を吸ってからスピーチを始めた。
「えんもたけなわ?ではございますが、そろそろお時間となってしまいました。皆さんお楽しみいただけましたでしょうか? この度はていと……支局長の西脇が不在の中での開催でしたが、皆様のご協力のおかげで無事にやってこられました。西脇に代わって感謝を述べさせていただきます! それから……」
五月雨のスピーチはパーティーの締めにふさわしく声のトーンは普段より抑え気味で社交辞令的な言い回しを含んでいた。スピーチの原案はC青葉の作だ。さすがテレビ局の社員だけあってスピーチの台詞の言い回しには安定感がある。安定感に欠けると一部の艦娘達をヒヤヒヤさせたのは五月雨の喋りの抑揚だ。高校生が普段使わないような言葉が多く、実感を伴わない抑揚だったのだ。とはいえパーティーで気分が上がりに上がって高まっていた参加者は多少の違和感などもはや気にする者はいなかった。
盛大な拍手が鳴り響き、五月雨とN白雪は壇上を降りた。一端弱まった拍手は再び強く鳴り響き、締めの挨拶をした五月雨、五月雨の傍に立って彼女の緊張をほぐす役割を果たしたN白雪に賞賛と労いの言葉が投げかけられた。二人は顔を見合わせ照れながらも手を振って返し続けるのだった。
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挨拶が終わり数分も経つと、屋外会場や本館1階ロビーには住民達はほどんどおらず、正面玄関を出て鎮守府の正門へと歩みを進めていた。五月雨を始めとして秘書艦達は正門前で住民に帰路の無事を願う言葉を投げかけ、彼ら彼女らの背中が暗闇に溶けて見えなくなるまで見守っていた。
「ふぅ……やっと終わりましたぁ。」
「最後まで提督の代わりご苦労様でした。五月雨さん。」と妙高。
「スピーチ素晴らしかったですよ。きっと提督も褒めてくださいます。白雪さんもご苦労様でした。」
逸仙の言葉が続き、それに他の秘書艦たちも相槌を打った。
「いえ……私はずっと五月雨さんの傍で見てることしか出来ませんでしたし……まだまだ力不足です。」
「それでいいのだと思いますよ。まだまだお若いですし、一番歳の近い五月雨さんの傍で彼女の一挙一動を学ぶことはとても大事です。」
そう言ってN白雪を励ましたのは逸仙だ。彼女の言葉にN白雪はゆっくりと頷いて笑顔を取り戻し、そして五月雨に視線を向けた。五月雨は全員の視線が集中したのを受けて、これからすべきことを口にした。
「後は……提督が早く帰ってきてくださればいいんですけど。妙高さん、提督から何か連絡ありました?」
「あ、ちょっと待っててくださいね。……あら、ゴメンなさい。十数分前にメッセージ来てました。」
「「えぇー!?」」
全員が同じようにのけぞって驚いた。
「おやおや~? 妙高さんってば、五月雨ちゃんのドジっ子がもしかして移っちゃったんじゃないですかぁ?」
「「んもぅ! 青葉さんからかわないでください~!」」
C青葉の茶化しに妙高と五月雨が同時にツッコミを入れ、その場に笑いを誘うのだった。
「では改めて。読みますね? ……今終わったから、急いで向かいます。今の状況教えてください。」
「あ、それじゃあせめて私に返信させてください。」
そう名乗り出たのはN白雪だ。
「白雪ちゃん?」隣にいた五月雨はキョトンとした目で見る。それに対しN白雪は軽く唾を飲み込んで言った。
「今日は五月雨さんに任せっきり頼りっぱなりで何か申し訳ないので、せめてこれくらいはして皆と提督のお役に立ちたいです。」
N白雪の思いの硬さを察した一同は彼女に返信を任せることにした。
N白雪はどのように伝えるかを皆に相談し、その内容を踏まえて提督にメッセンジャーで返信をした。ほどなくしてN白雪の返信に対する返信が届いた。
「あ、提督から来ました。読みます。……わかりました。参加できなかったのは残念だけどつつがなく済んで安心しました。それでは急いで向かいます。とのことです。」
秘書艦達が本館に入ると、余韻に浸って静かな歓談を楽しんでいた艦娘達が集まってきた。妙高は先頭に立ち彼女たちに伝えた。
「皆さん今日は本当にご苦労様でした。片付けは明日で結構です。それから提督ですが、ようやく仕事が終わって今電車でこちらに向かってきているそうです。ここで提案なのですけど、鎮守府のメンバーだけで、提督を囲んで後夜祭といいますか、二次会的な場を楽しみませんか?」
妙高の一案。それはクリスマスパーティーに間に合わなかった提督との、鎮守府メンバーだけでのパーティーの開催だった。
「いいねー!」
「賛成です!」
(英)「OK。いいんじゃないかしら。」
(英)「我らの指揮官にもせめてクリスマスパーティーの余韻を味わって楽しんでもらいたいは確かですね。」
(独)「うむ、異論はない。」
(仏)「遅くまでお仕事なさっていたアミラルを労ってあげたいですね。」
(中)「さんせーい!」
艦娘達の口から飛び出したのは、100%賛成の意見だった。彼女らはすでに気分は二次会万全の状態である。とはいえ時間はすでに遅く、未成年組の中にはコクリコクリと頭がふらついていたり、そもそもソファーで熟睡中の娘もいる。寮住まいの少女達や近くに住む娘は付添の者や彼女らの親を呼んで帰宅させることにした。
大半の駆逐艦と半数の軽巡・重巡艦娘は帰宅し、残ることになったのは所属艦娘の3分の一にも満たない人数だ。その中には秘書艦の五月雨やN白雪のため、彼女らの親友のC時雨や姉のN吹雪らも残っていた。
--
二次会の準備を始める艦娘らの一方で五月雨たち秘書艦は集まってこの後の予定を確認しあった。
「提督が帰ってくるまでの間のことですけど……
「あ、あの!」
妙高が音頭を取って話を進めようとすると、突然N白雪が思い立って声を上げた。その行為に全員の視線がN白雪に集中する。彼女は一瞬ビクッとするも、小さく息を吐いて思いを吐露し始めた。
「私、提督を……駅まで迎えに行きたいです。ダメ、でしょうか?」
その内容に顔を見合わせる秘書艦達だがすぐに賛同を示した。特に強く賛同したのは五月雨だ。
「私も白雪ちゃんと同じこと思っていました。提督を迎えに行ってあげたいなぁ~って。白雪ちゃん一人に行かせたじゃ夜道危ないですし、私も一緒に行きますから、いいですか?」
五月雨からも懇願され、大人勢の秘書艦は苦笑をみせた。それは決して却下などの意味がこもっているわけではない。
「誰も、ダメだなんていいませんよ。準備は私たちに任せて、二人は行ってあげるといいでしょう。」
「そうですね。私達は鎮守府にいて後の作業をやっておきますから行ってあげてください。きっと喜びますよ。」
妙高に続いて逸仙が優しく促す。
賛同してみせる秘書艦の中で、C青葉は現実的に考えて指摘する。
「でもこんな夜に中高生二人を歩かせるのはまずいんじゃないですかねぇ~。私ついていってあげたいですけど、編集作業やら会社への報告やらしないといけないので。」
その言葉には五月雨たちの身の案じがこもっているものの、自分が付き添いになるのが面倒くさいのか台詞の最後の方が言い訳じみている。
「それでしたら私が参りましょうか?車運転しますよ。」
そう言って名乗り出たのはレナウンだ。彼女は秘書艦ではないが、たまたまロビーの片付け・準備のため通りかかったところ、秘書艦達の会話を耳にして提案を申し出てきたのだ。
「あらレナウンさん。よろしいのですか?」と妙高。
「えぇ、ご主人様やお嬢様の送り迎えをすることもメイドの技を学んだ者として当然の奉仕です。」
レナウンは上着のポケットから車のキーを出しチラッと見せてそう言った。日本語もできて日本での生活に慣れているレナウンなら、二人を任せても問題ないだろうと踏んだ妙高達は安心して頼むことにした。
「それではお願いできますか。」
「お任せください。」
レナウンは一礼して受け入れた。五月雨とN白雪はレナウンに促され駐車場へ、妙高達残りの秘書艦は内輪のクリスマスパーティーを開くための準備のため散らばっていた。
「少々お待ちください。レパルスにこの事を伝えておきますので。」そう言ってレナウンは軽く会釈してキビキビと歩いて離れていった。
「五月雨さん、私たちもコートとか身の回りの物取ってきましょう。」
「あ、うん。そうだね~。」
ほどなくしてレナウンが戻ってきた。その身にコートを羽織っている。五月雨とN白雪も自身のコートやバッグを身につけて準備万端だ。レナウンの運転する車で最寄り駅である検見川浜駅へと向かった。
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駅の改札前に到着した五月雨達が周囲を見渡すと、人はまばらだった。さすがに午後9時をとうに過ぎるとその人気の無さと静けさは納得のいくものだ。数分経ち、高架からゴウンゴウンと電車が通る音が響き渡った。そしてキキーッとブレーキ音とともに再び静寂が戻る。その静けさはまたすぐに破られた。少ないものの降車客がホームから改札へと向かってきたのだ。
その中に五月雨達は見知った風貌の人物を発見した。提督である。
「あ、ていt……西脇さ~ん!」
「(ペコリ)」
さすがに独特の呼び名を鎮守府外で大声で発する気まずさを覚えた五月雨は途中で提督の名字に言い直し、自身らの存在を知らしめた。五月雨の行為に続くN白雪は言葉は発さず会釈のみだ。そしてレナウンは動きはせず、提督が近づいてくるのを少女二人の後ろでただ待っている。
「や~、三人で迎えに来てくれたのか。おまたせして本当に申し訳ない。」
「提督、ほんとーに遅いですよぉ~~待ちくたびれました!」
「ハハッ。本当にゴメン。妙高さん達からメッセージで簡単な報告もらったよ。俺の代わりにスピーチや顔出ししてくれてマジありがとう。」
「エヘヘ……。」
提督が褒めると五月雨はフニャッという表現がピッタリ似合うようにはにかんだ。
「それから白雪もご苦労様。五月雨に付き従ってサポートしてくれたんだって?」
「いえ……私、あまり五月雨さんの助けになれてなかったかもしれないです。」
「いいよ気にしないで。五月雨の傍にいて彼女の緊張を和らげるのも大事な助けだ。君はこれからなんだから。」
「(コクリ)ありがとうございます。」
「レナウンさんが二人を連れてきてくれたんですか? ありがとう。ご苦労様です。」
「いえ。これも私の役目ですから。お疲れでしょう。車で来ていますから、さぁこちらへ。」
「あぁ。助かるよ。」
レナウンは三人を先導して歩き、車を停めている場所まで案内する。テクテクと歩く提督の右隣では五月雨が止まらぬおしゃべりをして提督に情報共有し、左隣では提督からなかば無理やり奪い取ったビジネスバッグを両手で抱えて二人の会話を静かに聞いているN白雪の姿があった。そんな後ろの様子を時々チラっと視界に入れてレナウンは微笑むのだった。
駅から鎮守府へ車で5分程度かかり四人は戻ってきた。本館前のロータリーでレナウンが車を停めると、車の音に気づいた数人の艦娘たちがすでに近くに寄ってきていた。ドアを開けて提督が外に姿を現すと、複数の声が提督に向かって飛び込んできた。
「提督お疲れ様~~!」
「司令官、お疲れ様でした。」
(英)「指揮官お疲れ様でした。待ちわびましたよ。」
(独)「待っていたぞアドミラル。一緒に飲もう! ぜひ疲れを癒やしてくれ。」
(英)「フフッ、私も哨戒任務からの帰投間に合って良かったです。やっとアドミラルと一緒にパーティー楽しめます。」
「あぁ、あぁ。ありがと皆。寒いから早く中に入ろうぜ。」
提督の後に車を降りた五月雨そしてN白雪が先に本館に入っていった。それを見て提督も歩き始めるとぞろぞろと他の艦娘達も歩きだす。車を置いてきたレナウンも本館に戻ってきて、ようやく鎮守府Aの艦娘達(ごく一部だが)と提督がクリスマスの夜に揃った。
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「いや~もう時間遅いのに、これだけの人数が残ってくれてるなんて。皆ご苦労様。明日早い人もいるだろうし俺も明日また仕事だから、今日は少しだけ俺の飲み食いに付き合ってくれると嬉しいな。ガツリした食事会みたいなのは今週末か年末にでも開こうと思う。どうかな?」
提督がロビーのど真ん中で言うと、艦娘達は沸き立った。すでにグラスを手に持っている者もいる。
「それじゃあ皆、カンパーイ!」
「「かんぱーい!」」
僅かな人数と残り物の料理と飲み物ではあるが、その場にいた艦娘達にとっては問題なく盛り上がれる要素である。
ようやくクリスマスの食事を口にしながら、提督は思い出したことがあり妙高と逸仙に近づいて言った。
「そうそう妙高さんに逸仙さん。俺が指示したあれ、もう皆に配ってくれた?」
尋ね確認することがあったのだ。すると妙高が返事をし、続いて逸仙が説明を加えた。
「いえ、まだです。」
「本当は配ろうと思ったのですけど、あなた様がどうやら間に合うと連絡を受けたので、どうせならあなた様の手で皆に配ってはいかがかと。」
「「ですからちょっとこちらへ。」」
妙高と逸仙が提督を手招きして中央階段へと促す。階段横の収納棚には数日前に妙高たちが密かに受け取っていたダンボール箱数個が置かれていた。
提督は二人の配慮に納得した。
「そうか、うん。さすがにこれまで秘書艦の皆に任せるのはダメだよなぁ。よし、それじゃあ……。」
提督はダンボールの一つを運び出し、ロビーにいる艦娘達の前に持っていった。突然提督が持ってきた謎の箱に、飲食を楽しんでしていた艦娘達は頭上にクエスチョンマークを浮かべたようなキョトンとした顔をする。
「皆聞いてくれ。」
提督の言葉にその場にいた全員が色めき立つ。
「皆、普段戦ってくれてご苦労様。そして今日のクリスマスパーティーを無事に成功に導いてくれてありがとう。これは俺からのクリスマスプレゼントだ。ちゃーんと全員分あるからぜひ受け取ってくれ! 夜遅くて帰宅した娘もいるけれど、まずはここにいる皆に渡しておこうと思う。」
「えー!?なになに!?」
「なんでしょう?」
(英)「なになに?指揮官ってばどうしちゃったの?」
(伊)「なんなのよ一体。日本の男性も粋なことをするわね!」
(独)「ほう。プレゼントとな。全員分とはまた太っ腹だな。」
(独)「全員っていうことは今在籍してる艦娘が***人だから……ざっと……うわぁ~~本当に太っ腹ですね~!」
そして特に喜びを表したのは五月雨とN白雪だった。
「「提督……!」」
「アハハ。五月雨や白雪にまで黙っててゴメン。結局準備期間にも満足に協力できなかったから、せめてサプライズで皆を喜ばせてあげたくてね。」
照れながら提督は慌ただしくダンボール箱を開封し、小箱を出した。それらをまず五月雨とN白雪に手渡す。
「俺の代わりにトップを務めてくれてありがとう二人とも。はい、メリークリスマス!」
「あ、ありがとうございます! ホラ、白雪ちゃんも……!」
「は、はい。提督、ありがとうございます……!」
少女二人が受け取って恥ずかしそうに身悶えているのを見て提督始め周りの艦娘は微笑む。そして提督はこの場にいる全員一人ひとりにプレゼントを一言メッセージ付きで手渡していく。
全員受け取り終わると、誰が音頭を取ったかもわからず、自然と艦娘達は動きと声を揃え始め、そして提督に向かって感謝の言葉を口にした。
「メリークリスマス! ありがとう提督(司令官)(アドミラル)(アミラル)! 」
この日受け取れなかった艦娘には後日出勤してきた時に提督あるいは秘書艦達から手渡され、お礼のメッセージやメールが提督の携帯電話を当分は静かにさせなかった。
こうして、鎮守府Aの4年目のクリスマスパーティーは成功裏に過ぎ去っていった。
鎮守府Aのクリスマス - 鎮守府Aの物語
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